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二周目の武闘大会

 イーサファルトは、一年前と、何も変わっていなかった。


 石畳の大通りを、剣や槍を提げた者が、当たり前みたいに歩いている。

 英雄の国。武芸者の国。魔法使いは、相変わらず、ほとんどいない。

 広場の真ん中に、あの石像が、立っていた。


 ゲールハーツ王。紀元ゼロ年の名君。剣を掲げ、足元に、大きな竜を、組み伏せている。

 一年前、僕はこの像を、ただ見上げた。

 立派な王だな、とウェルバが言って、それきりだった。

 立派な王だ。竜を狩り、その上に、平和を築いた。本に、そう書いてあった。


 ――竜を、狩った。

 いまはその言葉が、前とはちがう重さで、胸に落ちる。


 ウェルバは、この像を、何を考えて、見上げていたんだろう。

 あのとき、横顔は、読めなかった。

 いまも、読めない。

 ただ、わかることが、ひとつ増えただけだ。


 ミユンが、僕の隣で、像を、ちらりと見た。

 それから、すぐ、目をそらした。

 彼女も、何も、言わなかった。


 ※※※


 武道大会の会場は、去年と様子がちがった。


 入口に立て札が増えている。

 〈甲冑・覆面・面体を隠しての出場、固くお断りいたします〉

 その下に小さく。〈昨年の件を受け〉


「……去年の件」と、僕はつぶやいた。

 去年の件だ。

 どこの誰とも知れない甲冑の剣士が、大会を丸ごとぶち壊した。

 場外も客席も、ぜんぶ戦場になって、最後は王女さまがノーコンテストを言い渡した。


 あれの犯人と、僕は旅をしていた。

 申し訳ない気持ちと、探している相手だという気持ちが、半分ずつこみあげた。


 受付に聞いてみた。

 今年、女の剣士は出場していないか。

 背の高くて強そうな。甲冑を着た――いや、甲冑は禁止だけど。

 受付の人は、嫌な顔をした。


「甲冑の話は、しないでください」

 声が少し震えていた。「今年は、平和に、やりたいんです」


 いない、ということだった。

 ウェルバは、ここにはいない。

 わかっていた。

 でも、来てみるまではわからなかった。


 彼女がいちばん好きそうな場所に、彼女がいない。

 それをひとつ、確かめた。


「行きましょう」と、ミユンが、そっと言った。「べつの、心当たりを」


 僕は頷いて、踵を返した。

 そのときだった。


 行く手を、いきなりふさがれた。


 ひとり、ふたり、みたり。

 いつのまにか、剣を提げた男たちに、囲まれていた。

 全員、見覚えがある。

 去年この会場にいた、出場者たちだ。


「待てよ」と、ひとりが言った。戦士A、とでも呼ぶしかない、いかつい顔。

「お前の素性は、調べさせてもらった。バゲットドラゴン団――Aランクの、冒険者パーティだな」


「……は、はい」

 Aランク。

 うちのパーティが、いつのまにか、そんなに上がっていたのは、知っている。

 ぜんぶ、ウェルバのおかげだ。

 僕のタグは、いまだに、いちばん下の色のまま。

 中身は、何ひとつ、Aランクじゃ、ない。

 でも、彼らはそんなこと知らない。


「相棒の剣士は、どこにいる!」と、別のひとりが、詰め寄った。戦士B。「あの、甲冑の。去年、おれたちを、虫けらみたいに、蹴散らした」

「決着を、つけていない! あんなもの、認められるか!」

「呼んでこい。お前の、相棒を」


 ああ。

 そういうことか。

 彼らは気づいたのだ。あの甲冑の剣士が、僕の仲間だと。

 それで決着を求めている。一年ずっと。


 ミユンが、そっと、弓に手をかけた。

 でも、これだけの人数を、街なかでどうこうできる相手じゃない。

 彼女の手が、ためらって止まる。

 囲みが、じり、と狭まった。


「呼べよ」と、戦士A。「呼べないなら――」


「――まちな」


 低い声が、人垣の、外から、響いた。


 男たちが、ぴたりと、止まる。

 ふり返らずに、道を、あけはじめた。

 まるで、そうしないと、いけない相手みたいに。


 あいた道の、向こうから。

 ゆっくりと、ひとりの巨漢が、歩いてきた。

 全身、傷だらけ。腕が、僕の胴くらいある。にやりと笑うと、歯が、何本か、欠けていた。

 ――知っている、顔だ。

 去年、最初に僕に当てられた、シード選手。


 彼は、囲みの戦士たちを、ぐるりと見まわした。

 それから、欠けた歯を見せて笑った。


「あの剣士への、挑戦権なら――」

 彼は、太い親指で、自分の胸を、どん、と突いた。

「俺に、買わせろ」


 戦士たちが、たじろいだ。

 誰も、何も言い返さなかった。

 言い返せる相手では、ないらしかった。


 僕は、ぽかんとその大男を、見上げていた。

 助けに入ってくれたのだろうか。

 なんで、と思う前に、彼の目が、僕の隣に止まった。

 ミユンを、見て。


 その傷だらけの顔が、ぱっと、ほころんだ。

 まるで、長く会っていない、身内でも、見つけたみたいに。

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