6-1
——放課後になった。
西日が校舎を赤く染め始め、もうすぐ夕暮れを告げる時刻。生徒たちはざわめきながら廊下を歩き、各自の寮や家への帰路につくか、部活動に勤しんでいた。
そんな中、一人の青年が古びた旧校舎の前で誰かを待っていた。老朽化が進み、事故につながりかねないとして立ち入り禁止になっている建物。本来なら誰もいないはずの場所だ。
それでも青年は、誰かを待つかのように外壁にもたれかかって小さな手帳を確認していた。手のひらと同じ大きさの手帳を開き、何かのリストを見つめている。
深緑色の瞳が静かに細められ、ある項目を確認していると——遠くから誰かが近づいてくる物音がして、彼は顔を上げた。
濁った紅色のパーカーのフードを深く被り、人の形を模した二体の人形を大事そうに抱えた女子生徒が、挙動不審にこちらへ近づいてくる。
おさげにした薄桃色の髪がフードの中からのぞき、長い前髪の隙間から見える真紅色の瞳があちこちに彷徨っている。その様子は、明らかに不審者そのものだった。
だが、彼は彼女の姿を見つけると満足そうに一瞬口角を上げた。
手帳を制服のポケットにしまう。
自分の存在にまだ気づいていない彼女に向かって歩き出した。
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「うぅっ……ぐすっ……怖いよ〜」
手紙で指定された旧校舎に向かう道中。アーノルドお兄ちゃんとルミアお姉ちゃんを強く抱きしめながら、目尻に涙を溜めて嗚咽を漏らした。
どうしてこうなったの? ……いや、そんなこと考えなくてもわかってる。
震える手でパーカーのポケットに手を伸ばし、お昼休みにネルからもらった青い便箋を取り出す。
そう、全てはこの一通の手紙から始まった。間違いがないか確認するように……いや、何かの間違いであって欲しいと願いながら、もう一度手紙の内容を確認する。
けれど、案の定。相変わらずの内容で、私は白目を向いて気絶しそうになった。
『マティア・ピンプティ嬢へ
今日の放課後。旧校舎で待ってる。
オズワルド・ウィズダム』
たった数行。けれどどこか有無を言わさぬ雰囲気を醸し出すその達筆な文字に、私はただただ緊張したように喉を鳴らして体を強張らせた。
なんで彼が私を……? そもそも私という存在を知っていたことに驚きを隠せなかった。だって、元から彼と面識なんてなかったし、もちろん話したこともない。
……もしかして……私がこっそり彼について色々調べていたのがバレた!?
最悪の展開を予想して、体の体温が消えていく感覚を覚える。
ま、まさか……会長みたいに私を脅すために呼び出したんじゃ……!
いつもの癖で被害妄想を拗らせ、頭を抱えて変なうめき声を漏らした。
胃……胃が痛いっ……。
「ぬあぁっ……や、やっぱりいないだろうし……か、帰ろう……かな」
そんな考えが頭をよぎる。
そう、きっとこれは何か手違いだ。きっと彼は別のマティア・ピンプティに手紙を出して、ネルが間違えて自分に渡したんだ……うん。きっとそうに違いない。
そう自分に言い聞かせて何度も頷く。
正直、自分以外のマティア・ピンプティに会ったことがないし聞いたこともなかったけれど、その事実に蓋をして、なんとか自分を納得させた。
だが、そこでまた頭を抱える。
あぁ、けどなー……帰ると学園を退学に……っ。そしたら路頭に迷って娼館のみんなに幻滅されて……姐さんにも……あー!!
今度はしゃがみ込んで激しく頭を掻きむしる。一体どうすれば……けど、いくら考えても答えなんて出てこなかった。
「遅い」
「ひゃいっ!!」
——すると、頭上から男の人の声が聞こえた。
体が反射的に飛び跳ねる。重心が崩れて転びそうになるも、しゃがんでいた体が緊張したようにピンッと背筋を伸ばして立ち上がった。
驚きで見開かれた私の瞳が、目の前の青年の深緑色の瞳を捉える。
くすんだ金色の髪に、彫刻のように端正に整えられた綺麗な顔立ち。その見覚えのある顔を認識した瞬間、呼吸することを忘れた。
『カプシリアン』のロード代理。オズワルド・ウィズダムが、確かにそこにいたからだ。




