60-1
遠くで、咆哮が轟いた。
石畳が揺れる。建物の角が崩れる音がして、また炎が夜空を赤く染める。オズと私は瓦礫の影に身を潜めながら、比較的被害の薄い路地の奥に辿り着いていた。
崩れかけた石壁が風除けになっている。その陰に背をつけて、私は息を殺した。煙が低く漂って、目の奥がじりじりと痛む。遠くでまた轟音が響いて、地面がかすかに揺れた。
オズは既に手帳を開いて、ペンを走らせていた。
こんな状況でも、その手が揺れていない。嘘みたいに落ち着いた横顔が、炎の赤に照らされている。私はお兄ちゃんとお姉ちゃんを胸に抱き直しながら、その横顔をおそるおそる見守った。
「よし、作戦はこうだ」
手帳から顔を上げて、オズが口を開く。声は低く、しかし迷いがない。
「今、アメリアは憲兵隊と交戦中だ。おそらくそちらに集中して、こちらには気づかないだろう……その隙に、弱点を狙う」
「弱……点?」
思わず声が上擦った。彼の言葉を繰り返しながら目を瞬くと、オズは無言で人差し指を立てて、自分の喉にそっと当てた。
「竜の文献は少ないから確証はないが——爬虫類の弱点は、古来から喉と決まっている」
トントンと指先が喉を叩く。私はその動作をじっと見つめながら、不安げに眉を下げた。
「……そこを、狙うってこと?」
「ああ、その通りだ」
オズはページを開いて、さらさらと竜の簡単な絵を描き込む。ざっくりとしているのに妙に特徴を捉えていて、それがかえって不思議だった。
竜の肩の部分にペンで丸をつけながら、彼は続ける。
「最後にアメリアを見た時、肩にお前の短剣が刺さっていた。おそらくそのまま巨大化したんだろう」
手帳を持ち上げて、丸をつけた箇所を私に見えやすいよう傾ける。ペンがその部分をトントンと叩いた。
「その短剣のせいで羽があるのに、うまく飛べないと見ている」
「え……あんな小さな短剣が、それだけで?」
あの細い刃が、あの巨大な体にどれほどの影響を与えられるというのか。信じられなくて、思わず口から声が漏れた。オズは手帳を下ろして、少し考えるように顎を撫でる。
「推測だが、変身前に受けた激痛を体が覚えてしまった可能性が高い。飛べるはずなのに、先入観で飛べないと脳が判断したんだろう」
「そ、そっか……なるほど」
頷きながらも、胸の奥が静かに痛んだ。
あの時、結果的にアメリア姐さんを傷つけた自分の短剣。それが、今になって姐さんをホーソーン地区に繋ぎ止める鍵になっているなんて……。
複雑な感情が、言葉にならないまま胸の奥で渦を巻いた。
「私は……どうすればいい?」
我に返って、かすれた声で尋ねた。オズは手帳を閉じて、まっすぐこちらを見据える。
「憲兵隊だけでは全滅する。だから、彼らに協力を求めて砲弾で鱗を剥がす——その隙に、剥がれた箇所をお前が切りつけて錯乱させろ。そのまま、突き刺さっている短剣まで到達してさらに突き刺すんだ」
「……ほ、砲弾?」
聞き慣れない単語が耳に引っかかった。
「な、なんで砲弾が……そんなもの、どこで調達するの」
「作る」
一言だった。涼しい顔で、当たり前のことのように。
固まった。
「…………え、え? 作る?」
「そうだ」
聞き返しても、意味は変わらなかった。愕然としたまま彼を見つめていると、オズは構わずに話を続ける。
「二方向からの攻撃に、アメリアは必ず戸惑う。もしお前に攻撃しようとしてきたとしてもそのまま避けて、体で攻撃を受けさせろ。そうすれば、向こうが疲弊していく」
「さ、避けてって⁉︎」




