表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/113

60-1

遠くで、咆哮が轟いた。


 石畳が揺れる。建物の角が崩れる音がして、また炎が夜空を赤く染める。オズと私は瓦礫の影に身を潜めながら、比較的被害の薄い路地の奥に辿り着いていた。


 崩れかけた石壁が風除けになっている。その陰に背をつけて、私は息を殺した。煙が低く漂って、目の奥がじりじりと痛む。遠くでまた轟音が響いて、地面がかすかに揺れた。


 オズは既に手帳を開いて、ペンを走らせていた。


 こんな状況でも、その手が揺れていない。嘘みたいに落ち着いた横顔が、炎の赤に照らされている。私はお兄ちゃんとお姉ちゃんを胸に抱き直しながら、その横顔をおそるおそる見守った。


「よし、作戦はこうだ」


 手帳から顔を上げて、オズが口を開く。声は低く、しかし迷いがない。


「今、アメリアは憲兵隊と交戦中だ。おそらくそちらに集中して、こちらには気づかないだろう……その隙に、弱点を狙う」


「弱……点?」


 思わず声が上擦った。彼の言葉を繰り返しながら目を瞬くと、オズは無言で人差し指を立てて、自分の喉にそっと当てた。


「竜の文献は少ないから確証はないが——爬虫類の弱点は、古来から喉と決まっている」


 トントンと指先が喉を叩く。私はその動作をじっと見つめながら、不安げに眉を下げた。


「……そこを、狙うってこと?」


「ああ、その通りだ」


 オズはページを開いて、さらさらと竜の簡単な絵を描き込む。ざっくりとしているのに妙に特徴を捉えていて、それがかえって不思議だった。


 竜の肩の部分にペンで丸をつけながら、彼は続ける。


「最後にアメリアを見た時、肩にお前の短剣が刺さっていた。おそらくそのまま巨大化したんだろう」


 手帳を持ち上げて、丸をつけた箇所を私に見えやすいよう傾ける。ペンがその部分をトントンと叩いた。


「その短剣のせいで羽があるのに、うまく飛べないと見ている」


「え……あんな小さな短剣が、それだけで?」


 あの細い刃が、あの巨大な体にどれほどの影響を与えられるというのか。信じられなくて、思わず口から声が漏れた。オズは手帳を下ろして、少し考えるように顎を撫でる。


「推測だが、変身前に受けた激痛を体が覚えてしまった可能性が高い。飛べるはずなのに、先入観で飛べないと脳が判断したんだろう」


「そ、そっか……なるほど」


 頷きながらも、胸の奥が静かに痛んだ。


 あの時、結果的にアメリア姐さんを傷つけた自分の短剣。それが、今になって姐さんをホーソーン地区に繋ぎ止める鍵になっているなんて……。


 複雑な感情が、言葉にならないまま胸の奥で渦を巻いた。


「私は……どうすればいい?」


 我に返って、かすれた声で尋ねた。オズは手帳を閉じて、まっすぐこちらを見据える。


「憲兵隊だけでは全滅する。だから、彼らに協力を求めて砲弾で鱗を剥がす——その隙に、剥がれた箇所をお前が切りつけて錯乱させろ。そのまま、突き刺さっている短剣まで到達してさらに突き刺すんだ」


「……ほ、砲弾?」


 聞き慣れない単語が耳に引っかかった。


「な、なんで砲弾が……そんなもの、どこで調達するの」


「作る」


 一言だった。涼しい顔で、当たり前のことのように。


 固まった。


「…………え、え? 作る?」


「そうだ」


 聞き返しても、意味は変わらなかった。愕然としたまま彼を見つめていると、オズは構わずに話を続ける。


「二方向からの攻撃に、アメリアは必ず戸惑う。もしお前に攻撃しようとしてきたとしてもそのまま避けて、体で攻撃を受けさせろ。そうすれば、向こうが疲弊していく」


「さ、避けてって⁉︎」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ