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「とりあえず、身を隠しながら今後の計画を立てるぞ。憲兵たちに捕まったら面倒だ」
「う、うん……そうだね」
おずおずと返す間もなく、彼に手を引かれてあとをついていく。薄暗い路地裏を、石畳を踏む足音を殺しながら歩く。憲兵の影を警戒して前を行くその背中を眺めていると、不意に彼が振り返った。眉間に皺が寄っている。
「不細工だな」
「突然の悪口⁉︎」
「声を抑えろ」
低い声で一蹴されて、咄嗟に口を片手で覆う。なぜ急に悪口を言われたのかさっぱりわからないまま固まっていると、彼は何事もなかったように前を向いて歩き続けた。
しばらくして。
「……まだあいつらのことを気にしているのか」
棘のある言葉だった。けれどその声には、どこか静かなものが混じっていた。
(あ……心配、してくれているんだ)
じわりとそう気づいて、胸の奥が少しだけほどける。気まずさを誤魔化すように、私は視線を落とした。
「あ、う、うん……エリスとか、色々考えちゃって」
あの時のエリスの言葉が、まだ頭から離れない。なぜ自分を犯人に仕立てようとしたのか——その理由は、なんとなくわかる。わかるけれど。
(あれは、エリスが一人でやったの——?)
あんな緻密な計画を、一人で。あの小さな体で白骨遺体を運んで。そんなこと、できるわけがない。なら——誰が?
考えれば考えるほど、答えが出ない。黙り込んだ私を横目に、オズは深緑色の瞳を細めた。それから、ゆっくりと足を止めた。
「……お前は何も疑問を持たないのか?」
「——え?」
思わず立ち止まって、彼を振り返る。
「なぜあのチビがお前を犯人に仕立てようとしたかより、大事なことがあるだろう」
「大事な……こと?」
彼が頷く。
「彼女が白骨遺体を見つけ、お前が犯人になるよう第三者に倉庫のことを伝えて、証拠を隠して嘘をついた——だが、エリスはお前のあの黒い衣装のことを知らなかったはずだ」
そこで、言葉を失った。
確かに。私はエリスに話したことなんてない。なのにあの子は、私が作ったあの衣装のことを知っていた。
(じゃあ、誰が——)
片手で口を覆う。最悪の可能性が、頭の端を掠めた。誰にも言っていない。リッパーのフリをしていることも、あの衣装のことも——誰にも。そのはずなのに。
脳裏に、一つの顔が浮かんだ瞬間。心臓が、凍りついた。
「……お前の寮の出入りを唯一知り、かつ寮の部屋を自由に出入りできる人物。そいつが『真犯人』にお前の衣装のことを伝えた」
オズの静かな声が、やけに遠くに聞こえる。
「——それって」
寮母に命令できる人物。そんなの——一人しかいない。
ある名前が脳裏をよぎった、その瞬間。彼は構わず歩き始めた。
「……何をしている。行くぞ」
「! ど、どこに?」
「さっきいい隠れ家を見つけた。そこで手立てを練る」
慌てて彼のあとを追いかける。恐る恐るその横顔を覗き込むと——数日前に見た、あの邪悪な笑みが浮かんでいた。思わず顔が引き攣る。
「——真犯人に泡を吹かせるぞ」
低く、楽しそうな声だった。
「覚悟しろ」




