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門前払いだった。
当然といえば当然だ。白骨遺体が発見された現場を、何の権限もない一般人が見学できるわけがない。倉庫の入り口に立った憲兵は、私たちの顔を一瞥して無言で首を振った。
よかった。これで帰れる……!
——そう思ったのは、本当に一瞬だった。
「よし、侵入するぞ」
「ひぇっ」
踵を返したオズの足に、思わずしがみついた。だが彼はそのまま私ごと歩き出す。倉庫の外壁に沿って裏手へ回り込みながら、どこか楽しそうに目を輝かせていた。
まずい、まずいまずい——帰ろう、今すぐ帰ろうっ!
……そう思いながらも、気づいた時には崩れた窓枠に体をねじ込んでいた。
本当に、自分の意志の弱さが心底嫌になる。
倉庫の内部は薄暗く、秋の午後の光が高窓からわずかに差し込んでいるだけだった。荷物を運ぶための広い土間に、天井まで届きそうな木箱の山がいくつも並んでいる。その隙間に忍び込んで、私たちは息を潜めた。
埃と木材の匂いが、鼻の奥を刺す。
この匂いを、知っている。
少し前にここに隠れて泣いていた時と、何も変わらない匂いだった。あの時はオズに見つけられて、引きずり出された。
……まさかその同じ場所に、二人で隠れることになるとは。
「か、帰ろうよぉ……見つかったら今度こそ私、首だよぉ……」
なるべく声を絞りながら、オズの袖を引っ張った。彼は帰るつもりが微塵もない顔で、憲兵の動きを目で追いながら口の端だけで返す。
「うるさい。なら一緒に来なければよかっただろう」
「だ、だって……」
言葉が詰まった。反論できない。現場が気になったのは本当だし、一人で放置したらどんな無茶をするかわからないという不安もあった。どちらも本当のことだから、余計に言い返せない。
「それに——お前も気になったから侵入経路を教えたんだろう。共犯だぞ」
「ぐっ……ひーんっ」
図星だった。涙が滲む。声を出せないから、ただしくしくと肩を震わせた。
オズは私の嗚咽を聞き流しながら、ふと周囲を見渡して低い声を漏らした。
「……それにしても、よく窓の鍵が壊れているのを知っていたな。よくここに来るのか」
問われて、少し迷った。
「……うん。エリスと、よく来ていたから」
それだけ言って、口を閉じた。
頭の片隅に、幼いころアメリア姐さんに内緒でエリスとここで遊んだ記憶が過ぎる。エリスと私だけが知っていた秘密基地——そのはずだったのに、今では白骨遺体が見つかって憲兵たちが寄りつく場所になるなんて、誰が予想できただろうか。
(——エリス……)
先ほどのエリスの背中が、また脳裏をよぎる。私の手が近づいた瞬間に、ビクッと体を強張らせたあの反応が。
オズは何も言わなかった。ただ、こちらをちらりと見て、すぐに視線を前へ戻した。追及しないのがかえって、少しだけ息をつかせてくれた。
「……あそこが発見現場のようだな」
オズが物陰から顔をわずかに出して、視線を向けた。
釣られて目を向けると、倉庫の奥に憲兵と鑑識が集まっているのが見えた。彼らが囲む木箱は、先日私が隠れていたものとよく似た形をしていた。
——気のせい?
不安げに眉を寄せながら見つめていると、鑑識たちが作業を終えたのか、台ごと骨を持ち上げて運び始めた。
白骨遺体を直視できなくて、思わず目を逸らす。
けれど、隣のオズはまったく躊躇う様子がなかった。じっと遺体を見つめたまま、ぽつりと呟く。
「……やけに、綺麗だな」
「……え?」
思わず彼を振り返った。
「見ろ。腐敗の痕跡がほとんどない。肉片も、血の染みも……まるで模型みたいに白い」
言われて、目を逸らしかけた視線をもう一度遺体に向ける。確かに——素人目に見ても、その白さは異様だった。黄ばみも変色もなく、ただ均一に白い。
「だ、誰かが……洗った?」
「だろうな。証拠隠滅か、あるいは——」
オズは続きを口にしないまま、顎に手を当てて黙り込んだ。深緑色の瞳が静かに光を帯びて、何かを組み立てるように細められている。
考え込む彼の横顔を見ながら、私は自分の指先が冷えていることに気づいた。倉庫の中は外より温度が低い。それだけじゃない気もしたけれど、考えないようにした。
やがてオズが顔を上げた。
「とりあえず、憲兵たちが帰るまで待機しよう。もっと現場を見たい」
「え」
一縷の望みが断たれた瞬間だった。外を確認すると、いつの間にか憲兵の数が増えている。帰りたくても、もう帰れない。
(帰りたいよぉ……っ!)
天を仰いで、声を殺しながら泣いた。




