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女子寮の廊下は、昼下がりの光の中でしんとしていた。
秋の斜光が窓から差し込んで、埃っぽい廊下を淡く照らしている。普段は姐さんたちの行き来で賑わっているこの時間帯に人の気配がないのは——今日はほとんど全員、店に出ているからだ。
寮母も外出中だと、マダムに追い出される前に確認していた。
「はぁ……うぅっ、疲れた……」
力の抜けた声が、静かな廊下に溶けた。
廊下の端を、マティアはとぼとぼと歩く。背中が丸い。足が重い。仕事を終えて戻ってきたというよりは——追い出されて戻ってきた、というのが正しかった。
今日の自分を思い返すだけで、涙が滲んでくる。
ヘンリーさんの言葉が頭から離れず、ずっと上の空だった。エリスのことも気になって、手元がまるで定まらない。転んで廊下を磨き直すはめになり、気を取り直した途端に食器を割り、叱られるたびに奇声を上げながら泣く——その繰り返し。最終的には「今日もう一度顔を見せたら本当に首にする」というマダムの一言で、午前のうちに寮へ追い返されたのだった。
「ひーん……ぐすっ……エリスよりひどいよぉ」
嗚咽が漏れる。袖で目元を拭っても、涙がまた滲んだ。
壊した食器の弁償代が給料から引かれると思うと、また新たな涙が湧いてくる。底なしだった。
自分の不甲斐なさに、胸の奥がじわりと痛む。迷惑をかけた罪悪感が全身にのしかかって、このまま廊下の木目に吸い込まれてしまいたかった。
——いや、まだそんなことをしている場合ではない。
思い直すように頭を振る。
事件は、まだ解決していない。チャールズ・クロウが死んでいた——その事実が、頭の奥で静かに澱んでいた。なぜ見つかったのか。なぜ今になって。答えの形をした問いが、ぐるぐると回るだけで、どこにも着地しない。
物憂げに目を細めたまま廊下を歩いていると、ふと別の顔が頭をよぎった。
くすんだ金色の髪。深緑色の、観察するような瞳。
——そういえば、最近来ていない。
あれだけ執拗に追いかけ回していたのに、あの夜の巡回を境にぱったりと姿を消した。諦めたのか、それとも——まさか怪我が思ったより重かったのか。
そう考えた瞬間、胸の奥がざわりと揺れた。
……何を心配しているのだろう。
首を振って考えを振り払おうとしたが、うまくいかなかった。今まで彼がしてきたことの数々が脳裏を流れて、自分でも把握できていない感情が体の奥でぐずつく。引きつった笑みが、自然とこぼれ出た。
「は……ははっ。まさかまた、部屋にいたりして……」
独り言が廊下の静けさに消えた。乾いた笑い声が、自分の耳に妙に空虚に響く。
——なーんてことは、ないよね。
苦笑しながら、自室の扉の前に立つ。古びたドアノブを掴んで、押し開けた。
その瞬間、視界に人影が映った。
扉のすぐ真横にある人形棚の前に、誰かが立っている。
深緑色の瞳と、目が合った。
「遅い。何をしていた」
「ぎゃあああああああっ‼︎」




