23-1
「チャールズが……婦女暴行をしたって、さっき言ってたでしょ」
「ああ」
先ほどの強引な態度とは打って変わって、目の前の青年——オズは神妙な顔で耳を傾けている。その静けさに少しだけ肩の荷が下りて、私はゆっくりと続けた。
「姐さんが、その事件の被害者なの。九年前に保護されて、ホーソーン地区に来て……」
「……ということは、あの娘は」
「………」
それ以上は、言葉にならなかった。
自分に暴行した男との間に生まれた命を——それでも産んで、育てると決めた時のアメリア姐さんの葛藤を想像すると、胸が苦しくて喉が詰まる。
無意識にフードの縁を引き寄せて深く被る。懐からサイモンお兄ちゃんとロビンお姉ちゃんの人形を取り出して、自分を落ち着かせるようにぎゅっと胸に抱いた。
オズはというと、その言葉をどう受け取ったのか黙ったまま顎を撫でて、深緑色の瞳をしばらく伏せていた。秋の夜風が窓の隙間からそっと入り込んで、カーテンの端を揺らす。
「……なるほど。大体の事情は把握した。だから、あの女は紹介状を——」
そこで言葉が止まった。腑に落ちないように眉を寄せて、また黙り込む。
「……オズ?」
「……なんでもない」
首を振って話を逸らされた。それ以上は踏み込めなかった。
何を察したのか気になって仕方ないのに、彼の閉じた表情の前では声が引っ込んでしまう。恐る恐る口を開きかけると、オズがそれを見透かしたように先に口を開いた。
「なぜその情報を知っている。あの女がお前にそんな話をするとは思えないが」
「え、えっと……それは……その」
その一言で、さっき言おうとしたことが瞬時に吹き飛んだ。
ビクッと肩が震えて、視線がせわしなく宙を彷徨う。彼の怪しむ目に射貫かれていると、自然と体が縮こまっていく。やがて観念したように俯いて、小さな声で白状した。
「……実は、姐さんを好きになってから色々と調べていたら、そういう記事が出てきて」
「……僕も大概だが、お前も中々だぞ」
「はぅっ」
返す言葉もない。呆れたように顔を顰めるオズを見て、目尻に涙が滲んだ。腑に落ちない気持ちになるのは私だけだろうか——そもそも彼にストーキングの自覚があったことの方が、この際ずっと驚きだと思う。
「……あの、報告ってそれだけ? そろそろ戻らないと寮母さんの見回りの時間で」
ちらっと部屋の扉に目をやって、恐る恐る伝える。夕刻を過ぎたこの時間、女子寮の寮母が点呼のために廊下を回り始める。しかも彼女の勘は恐ろしく鋭くて——女性以外の気配を感じると、ノックもなく扉を開けてくるのだ。
以前、男性を連れ込んだ娼婦がそれで見つかって追い出されたことを思い出すと、顔が白くなってきた。プルプルと指先が震え出す。このままでは、次は自分の番になりかねない。
だが、オズは腕を組んで鼻を鳴らした。帰るつもりは、まるでないらしい。
「ふん。それだけのために来たと思うか」
「——え?」
「ヘンリー率いる憲兵たちが今夜、前に被害のあった西の路地に加えて北の区画も巡回するらしい」
「あ……そうなんだ。けど、それだけなら——」
「それだけじゃない」
彼は短く遮って、こちらをまっすぐ見据えた。
「今夜、僕はその巡回に同行する」
「え……ど、同行?」
固まった。
彼が憲兵たちと夜の色街を回る姿を想像して、先ほどから青くなっていた顔がさらに血の気を失っていく。今日の聞き取りで娼婦たちから物を投げられ続けた経緯が、嫌でも頭をよぎった。
「だ、大丈夫? ちゃんとおとなしくできる……?」
「僕を子供扱いするな」
不貞腐れたような目で睨まれて、また萎縮する。
「……それにしても、ヘンリーさんがよく同行を許可してくれたね」
話を逸らすようにそう言って、冷たい視線から逃れるように目をさまよわせた。すると彼は、不思議そうに小首を傾げて答えた。
「許可するわけないだろ。だから勝手に参加する」
「へ、へぇ……勝手に……勝手に⁉︎」
また声が上がってしまって、咄嗟に両手で口を塞ぐ。廊下に気配がないことをすばやく確認してから、震える声で続けた。
「そ、それって絶対ダメなんじゃ……」
「ダメと言われたら、やるしかないだろ」
「ダメなものはダメだと思うよっ」
戦慄のあまり声が震えた。どこからその行動力が出てくるのか、底が知れなさすぎて口が塞がらない。それでも彼を止めようと懸命に言葉を選んだ。
「い、いや……憲兵がそばにいるといっても、一人で参加するのは危ないし、そもそも許可なしで動くのは……」
「だからお前を誘っている」
「……ん?」




