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「はぁ……はぁ……」


 教室の前——まだ誰もいない廊下で、壁にもたれかかりながら乱れた息を整える。深くフードを被り直し、大切な人形を抱き直してから、私は頭を抱えた。


(あー……ぶつかっちゃったのに、ごめんなさいって言えなかった……うぅっ、ごめんなさい〜)


 ぶつかってしまった男子生徒に、心の中で泣きながら謝罪する。すると先ほどの会話が脳内でフラッシュバックして、顔が青ざめていくのがわかった。


(すみません、すみません、違うんです! 対人演習はやらないと成績に響くって言われたから参加しただけで、相手の体調が悪かったからすぐに終わっただけなんです! こんな私が上位に食い込んで本当にごめんなさいっ!)


 誰への謝罪かも自分でわからないまま、頭の中で懺悔を繰り返すように何度も強く首を振る。


 しばらく頭を抱えながらうめいていると、やっと発作が収まったようにゆっくりと立ち上がった。


(はぁ……こういう時は早く帰って引きこもるに限るなぁ……セドリック会長の写真を拝んで、早く寝よ……)


「あ、いた」


「ひぎゃっ!」


 急に教室の扉が開いて、思わず体が飛び上がった。ギギギと音を立てながらぎこちなく振り返ると、そこには橙色の髪をした糸目の少女が立っていた。


「ご、ご、ご、ごめんなさいっ!」


「え、いや、待って! 会長から伝言預かってるから!」


 足早にその場を去ろうとした。けれど、彼女の言葉に思わず立ち止まると、ゆっくりと振り返った。


「……へ? せ、セドリック会長から……私に?」


「うん、なんでも放課後に生徒会に顔を出せだって……なんの話かは聞いてないけど……」


 その言葉に、深く被ったフードの奥で瞳が輝くのを感じる。頬が高揚するように熱くなった。


「あ、けど急に言われると困るよね? また明日でもいいって言ってたから、その時に……」


「行きます」


「え」


 食い気味に声を上げて、大きく片手を上げる。だが、その衝動的な反応に咄嗟に我に返ると、頬を赤らめて視線を彷徨わせた。


「えっと……わかりました……でしゅ」


 震える吃った声でもう一度返事をする。


 で、でしゅってなに……⁉︎


 自分の醜態に顔がさらに熱くなるのを感じると、咄嗟にフードを両手で摘んで深く被り、みっともない顔を隠した。


 話しかけてきた女子生徒がこちらの様子にポカンと口を半開きにさせるも、小さく笑みを浮かべて頷いて見せた。


「わかった、じゃあついてきて」


 そう言って彼女は私の横を通り過ぎ、生徒会室に向かって歩き出す。慌ててその小さな背中を追いかけた。


 放課後を告げる日差しが、二人を柔らかく照らしている。


 彼に……呼び出された。


 その事実が胸を高鳴らせる。自分の心臓を落ち着かせるように胸元を握りしめると、頬がさらに熱くなった。


 胸の心音を心地よく鼓膜に響かせながら、軽い足取りで床を蹴る。


 廊下に差し込む夕日が、フードの影に隠れた私の表情を優しく照らしているような気がした。


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