14−2
困惑した様子で言葉をつまらせると、腕を組んで訝しげに眉を寄せていた彼が深いため息を漏らした。
「はぁ……なぜ敬語で話す。僕は身請け以外の件を除けばお前に何もしない」
「え、いや、その……ろ、ロード代理って聞いたからっ」
「それ以前に僕は十四歳で同い年だ」
「はぅっ!」
じとりと睨まれ、萎縮する。正論ゆえに何も言えない。
「お…おっ…」
言葉が出ない。しばらく気まずい沈黙が続く。
ぷるぷる震えながら指をもじもじさせて視線を彷徨わせた——もう、どうにでもなれっ!
意を決したように固く瞼を瞑って、思い切り声を発した。
「お……オズっ!」
震える声で、彼の名前を呼ぶ。
その瞬間——彼の深緑色の瞳がわずかに揺れた気がした。
「ああ」
こ、これでいいのだろうか?
怒られるんじゃないかと身構えていたけれど、返ってきたのは予想外に穏やかな返事だった。
恐る恐るわずかに瞼を開けると——彼の表情を見て、残りの瞼が自然と上がった。
いつもの不敵な笑みとは違う。その端正な顔立ちにふさわしい、柔らかな笑みを浮かべていた。まるで、何か嬉しいことがあった時の子供のような——そんな無邪気な表情。
「……」
その笑みを見て呆然として言葉を失う。
——あ、こんな顔も浮かべられるんだ。
彼は怖い人だと思っていた。傲慢で、皮肉屋で、いつも人を見下すような態度を取る——そんな人間だと。
けれど、今の笑顔は……なんだか、普通の男の子みたいだった。
胸の奥で、何かがほんの少しだけ緩んだ気がする。
そんなことを呆然と思っていると、彼はまた無表情に戻って私の横を通り過ぎた。夕暮れの光が、彼の背中を赤く染めている。
けれど——さっきまで感じていた恐怖が、ほんの少しだけ和らいでいた。
もしかして、この人……本当はそんなに悪い人じゃないのかも。
「ほら、何をしている。もう一件いくぞ」
「え、え!? いや、あの! もうやめたほうが!」
いつもの調子で慌てて返す。けれど、心のどこかで——彼のことを少しだけ見直していた。
「何が不安なんだ。物を投げられたぐらいで……」
「あれ当たりどころが悪かったら死ぬやつ!」
そう言ってまた衝動的に彼の足にしがみつくも、またザザーっとそのまま足を引きずられる。
「うわーん! やめてよぉ〜!」
ついに私の泣き声が辺りに響いた——その瞬間。
「——あれ? マティアちゃん?」
——ビクッ!
聞き覚えのある声に、体が石のように固まった。
心臓が、ドクン、ドクンと嫌な音を立てて脈打つ。全身の血が一気に凍りついたような感覚を覚えて、呼吸が浅くなった。
い、嫌だ……この声……。
ギギギとゆっくり振り返る——見知った顔の男性がこちらを心配そうに見下ろしていた。
「どうしたんだい? 足になんかしがみついて……」
——その瞬間、世界から色が失せた気がした。
そのサラサラな青い髪が秋の風で揺れ、その優しげな青い瞳を下げて首を傾げる。腰に憲兵特有の支給された剣をぶら下げたその男性——。
目を見開いたまま、口をわなわなさせる。喉が渇いて、声が出ない。
ああ、どうやって彼の顔を忘れることができようか。
アメリア姐さんの心を射止め、あの超難関な身請け制度を突破した男性。
姐さんが……あんなにも嬉しそうに名前を呼ぶ相手。
姐さんが……私じゃなく、彼を選んだ。
——『ヘンリー・カルヴァート』。
胸の奥が、ギリギリと音を立てて軋んだ。
嫉妬と羨望と、それから——言葉にできない複雑な感情が、胸の中で渦を巻く。
「マティアちゃん? 顔色悪いけど、大丈夫……?」
彼の優しい声が耳に届く。
——ああ、やめて。
そんな優しい声で話しかけないで。
その優しさが、アメリア姐さんを奪った優しさが——胸を抉る。
「……っ」
気づいたら、オズの足から手を離していた。
一歩、また一歩と後ずさる。
ヘンリーから、逃げるように。
けれど——彼の優しい青い瞳が、まっすぐ私を見つめていた。




