14−1
——一件目。
「リッパー事件について? 凶悪犯っていうことしか知らないわ」
「ふん、情報弱者め」
高級ワインのボトルが投げられた。
——二件目。
「リッパー? えーこわーい。坊や、なんでそんなこと調べてるの?」
「知らないなら話しかけるな」
次はピンヒールが飛んできた。
——三件目。
「え、あの切り裂き魔のこと? そうね……残虐な性格ぐらいしか知らないわ」
「そんな誰でも知っている情報……もっとその足りない頭を絞ったらどうだ?」
最後は相手が強化系の能力者だったせいか、客室で使われる重厚なソファが宙を舞った。私は咄嗟にオズの腕を掴んで、娼館の廊下を全速力で駆け抜ける。
「二度とくるなっ!!」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
背後から響く怒声に、謝罪の言葉を連呼しながら逃げ続けた。
アメリア姐さんから紹介状を受け取ってから、私たちは色街の娼館を周り続けている。けれど、彼の傲慢な性格のせいか——いや、性格のせいだけではない。純粋に聞き取りの手法が下手すぎるのだ。
これなら、まだ私が聞き取りをしたほうがマシかもしれない。そう思えてくるほど、毎回激怒されて物が投げられる。
「おい、なんで逃げる。まだ半分も聞き取りができなかったぞ」
「い、いや……ぜー……あの状態でいたら……はー……死んでた……ぜー……」
物が投げられる恐怖の中、彼を連れて全速力で走ったせいで呼吸がままならない。プルプル震える膝を押さえながら酸素を大きく吸い込んで呼吸を整えると、彼は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「ふん、ここの娼婦どもは危機管理が足りないんじゃないか? 誰も事件に興味を持っていないぞ」
「ぜー……た、多分。みんなここのセキュリティに信頼を寄せているからかと……」
息を整えながら彼の言葉にそう返す。視線を上げると、街灯に設置されているカメラが目に入った。
「えっと……ほら、あそこにカメラがあり……ますよね?」
少しためらいながらカメラに指を指すと、彼は素直に指差す方向に視線を向けた。そのくすんだ金色の髪が、街灯の光を僅かに反射する。
「この地区にいる女の人ってだいたい訳ありだから……その……こうやって複数箇所にカメラを設置して、そこから客に犯罪歴がないか判別するの」
——そう。ここ、ホーソーン地区は女性を守るために作られた色街。
様々な事情でここで働き、国から支援をもらっている女性たちは、これのおかげで安定した暮らしが望める……はずだった。
「そうか。それなのに、犯罪が起きた……はっ。皮肉だな」
嘲笑交じりに吐き出された言葉。けれど、何も言えずにうつむいたまま、押し黙った。事実だからだ。
秋の冷たい風が、私の頬を撫でて通り過ぎていく。
「……確か、犯罪者が強制的につけられる『色付きジェム』を誰かが操作して不正に入ったらしいな。詰所で聞いた」
「……う、うん。そう……だから外部の人が犯人の可能性……高いです」
視線をさまよわせながらそう答え、自分を落ち着かせるために指の先を合わせる。
憲兵が言っていた情報を記憶から手繰り寄せる。まさか彼もそこまで調べているなんて思わず、うつむきながらチラチラっと彼に視線を向けた。
「……なんだ?」
「あ、あの……お、オズワルドくんは」
「オズ」
「え……えっと……オズくんは」
「オズ」
まるで自分をそう呼べと言わんばかりに語気を強めてそう言われる。
な、なんで?




