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——『ホーソーン地区』。
かつての学園都市『ハートヴェール』のロード『グロリア』が、建国当初に作り上げた色街。まだ女性の社会的地位が低かった時代、彼女は行き場のない女性たちの保護を目的として、この場所を設立した。
ここに立ち並ぶ高級娼館で女性たちは生活の糧を得ながら、社会復帰を目指すことができる。その理念は今もなお受け継がれ、この色街は多くの女性たちの希望の場所として機能していた。
特にここ——高級娼館が軒を連ねるホーソーン地区の中でも最高級と謳われる『クイーンズ・ヘイブン』は、建国時に初めて女性の保護を目的として作られた歴史ある娼館だ。由緒正しき老舗中の老舗。その格式は、他の追随を許さない。
それだけあって、娼館の待合室はまさに高級感そのものだった。
年月を経た高級家具が重厚な存在感を放ち、天井から吊り下げられたシャンデリアが柔らかな光を室内に降り注いでいる。時代を感じさせる調度品の数々は、確かに古びてはいたが——それでもなお、この『クイーンズ・ヘイブン』というブランドの威厳を損なうことなく、むしろその歴史の深さを物語っていた。
「ねぇ、あの子? 身請けしに来たっていう未成年の男の子って」
「まだ子供じゃない! 可愛い〜」
「けど、結構かっこいいかも……誰を身請けしに来たのかしら?」
「それが……まさかのマティアなんだって!」
「え〜! 嘘〜!」
「………」
——うるさい娼婦どもを除けば、の話だが。
待合室だというのに、ドアの隙間から漏れ聞こえる女たちのさえずりが不愉快でたまらない。質のいい高級レザーのソファに座りながら足を組み、苛立ちに任せて足首を左右に揺れ動かした。無意識に始まった貧乏ゆすりが、僕の苛立ちを如実に物語っている。
次第にこめかみに小さな青筋が浮かんだ。
腕を組んでいた手の指が、秒針を刻むようにタップし始める。そして——一人の娼婦が待合室に入ってきて、僕の目の前にある細やかな彫刻が施されたローテーブルに、紅茶の入ったカップを置いた。
「ねぇ、あなた。『身請け』をしに来たって本当?」
「……だったらなんだ」
美しいドレスを身に纏った娼婦が、不意に声をかけてくる。
好奇心に目を細め、面白いおもちゃを見つけたように口角を上げると、猫撫で声を上げた。その声色だけで、僕は彼女の意図を察した。
「そうなのね。けど、なんでマティアなの?」
顔を近づけて甘く囁く。香水の甘ったるい匂いが鼻腔を掠めて、わずかに眉間に皺が寄った。
「同い年だから? もし、そうなら……お姉さんたちの方が、あなたを満足させてあげられるわよ」
妖艶に微笑み、これみよがしに豊満な胸の谷間を見せびらかすように寄せてくる。
「……あんなことやこんなこと、全部教えてあげる」
砂糖のような甘ったるい声が耳元で囁かれる。
僕はその姿を横目に、静かに見つめた。
待合室のドアの隙間から、娼婦たちの鼻につくようなくすくす笑いが耳を掠める。その音を聞いて——僕は目の前の女を見つめ、鼻で笑ってやった。
「……そうだな。マティア・ピンプティと比べて、お前は綺麗に着飾って美しい……まさにこの歴史ある高級娼館にふさわしい花だ」
「でしょ? だったら……」
「——だが、その心はドブ以下だな。お前も、そこで噂話をしている娼婦どもも」




