表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/113

7-2

 長く伸ばした艶やかな茶色の髪をサイドテールにし、金茶色のくりっとした大きな瞳がこちらを呆れたように映している。エリスと呼ばれた少女は腰に巻いたエプロンに手を当てて、その愛らしい柔らかな頬を膨らませた。


「マティアお姉ちゃんは相変わらず泣き虫ね……そんなんだとまたマダムに怒られるよ!」


「うっ……へへ、ごめんね」


 涙を拭い、申し訳なさそうな曖昧な笑みを浮かべて彼女に謝罪する。エリスの前だと学園みたいに緊張しなくてもいいから落ち着く…そう思うと自然と笑みが溢れた。

 

 それにしても…私より五歳も年下なのに、しっかりしてるなー…。


 九歳児とは思えないしっかりした様子を見て、自分の不甲斐なさに目尻に涙がたまる。


 そんな私の姿をエリスは片眉を上げて訝しげに見つめると、大きなため息をつき始めた。


「もー、今度はなんで泣いてたの? もしかして誰かに泣かされた?」


「へぅあっ!?」


 エリスの言葉に反射的に変な声が出て、体がビクッと反応する。嫌な汗が全身に吹き出て、視線があちこちに彷徨った。


「な、な、な……なんでも、ないよっ?」


「嘘!だってマティアお姉ちゃん、いつも嘘つく時に顔が不審者みたいになるもんっ!」


「はぅっ!!」


 さらに図星をつかれて心臓が抉られる。


 詰め寄るエリスにたじたじになりながら、一歩、また一歩と逃げるように身を引いた。


 い、言えないっ……会長をストーキングしてるのがバレて半ば脅されるような形で彼を生徒会に誘うことになったら、いきなり告白されて逆に追い回されてるなんて……口が裂けても言えないっ!!


 特にこんな純粋無垢な少女に言えるわけなんてない。


 なんの穢れもない純真無垢な瞳を見て、うっと喉が詰まる。罪悪感に苛まれると、自然とまた涙がポロポロとこぼれ落ちた。


「うっ……うわ〜ん! 汚れててごめんなさ〜いっ」


「……また自分の世界に入っちゃった……」


 まるでいつもの光景のように呆れながら遠い目をするエリス。すると、彼女は呆れたようにまたため息をついて肩を落とした。


「はぁ……学園で聞いたよ。お姉ちゃん、なんかすごい人に告白されたんだって?」


「ぐすっ………え?」


 こぼした涙が一瞬で引っ込む。エリスの言葉を聞いて目を見開いたまま固まると、体から体温が消えていく感覚を覚えた。


「え、エリス? な、なんで知ってるの!?」


「なんでって……学園中の噂になってるよ。なんでも『カプシリアン』のロード代理が泣いてる女子生徒を追いかけ回してるって……」


 その言葉を聞いてさらに顔が青ざめる。顔の表情が崩れる感覚を覚えながら、口からあわ…あわわわっと言葉を漏らすと体が震え出した。


「…その感じだと、やっぱりマティアお姉ちゃんなのね」


「ひぅっ!」


 確信をついたようなエリスのため息混じりの声に、ビクッと体を震わせる。自分の挙動を激しく恨んだ。


「お、お、お……お願いっ。このことは絶対アメリア姐さんに秘密で……」


「えー、何々? マティア告白されたのー?」


「ひぎゃぁっ!」


 今度は頭上から聞き慣れた声がして、また奇妙な悲鳴を上げる。


 ギギギッと音を立てて恐る恐る頭上を見上げると、見慣れた美しい顔の面々たちが階段の踊り場で面白いものを見つけたように目を細めてニンマリと笑っていた。


 ま、まずい……っ。


「そっか〜、マティアにもついに春が来たか〜」


「しかも『カプシリアン』のロード代理? 玉の輿じゃん!」


「お祝いにケーキを作らないとね」


 矢継ぎ早に言葉を並べ立てて、優雅に階段を降りてくる美しい女性たち——この高級娼館『クイーンズ・ヘイブン』の娼婦たちが、煌びやかなドレスを身につけてこちらに寄ってきた。


「い、イザベル姐さん、セリーナ姐さん、エミリー姐さん……よ、よ、用事思い出したから私はこれで……」


「こらこら、待ちなさい」


「ひぎゃっ!」


 首根っこをあっけなく掴まれて引き寄せられる。


 姐さんたちの豊満な胸に埋もれると、みんな慣れた様子で私の体に密着した。


「ふふ……言いなさ〜い。どうやってそんなすごい人と仲良くなれたの? このこの!」


「どこまで進んだ〜?」


「もうキスしちゃった?」


 姐さんたちの甘い香りが鼻腔をくすぐり、柔らかな肌に揉まれて窒息しそうになる。


 おそらく男性客からしたら羨ましい光景だろうが、私からしたらこれ以上話が広まって欲しくないのでやめて欲しかった。


「ひぃんっ……や、やめてよ〜!」


 涙目になりながら言ってもやめてくれない。むしろ楽しそうに頬まで突っついてくる。きゃっきゃっ、うふふと可憐に笑いながら戯れる姐さんたちに、魂が抜け落ちそうになった。

 

 恋バナになるといつもこうなる……。


 ああ、いやだ〜……告白された話が広まったりして、あの人の耳に入ったら……。


「——あら、なんの話?」


 すると、今度は後ろから声がして、はっと息を呑んだ。ドクンと心臓が大きく脈打つ。恐る恐る後ろを振り返ると——その姿を見て目を見開かせた。


 美しい金色の滑らかな髪を靡かせ、金茶色の垂れ目の瞳を不思議そうに瞬かせながら、ヒールの音をコツ……コツ……と鳴らして奥の部屋から姿を現す。


 誰もが息を呑む美しい顔立ちで穏やかに微笑み、優雅に小さく首を傾げる。その一つ一つの動作に、甘い香りが漂うような錯覚を覚えた。


 思わず感嘆の息を漏らす。けどそれと同時に緊張を覚えたように体が自然と強張って変な汗がじんわりと溢れるような感覚を覚えた。


「……アメリア姐さんっ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ