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——事件から、数週間が過ぎた。
アメリア姐さんの遺体は特殊部隊によって回収された。のちに処分されたと、看守たちが廊下の向こうで小声で話しているのを聞いた。聞きたくなかった。でも、耳は勝手に拾ってしまった。
ホーソーン地区は国の補助で建て直しが決まったらしい。けれど、いつ復旧の目処が立つかはわからないと誰かが言っていた。あの色街で暮らしていた娼婦たちは行き場を失ったが、ハートヴェールの住民たちの声もあって、娼婦としてではない形で保護先が用意されることになったそうだ。
事件に加担した私たちは、犯罪を隠蔽した罪で逮捕された。けれど、その犯罪に加担するに至った経緯も考慮されて、マダム以外の全員は減刑。罪は消えないものの、国の監視下の元で釈放された。
——私を、除いて。
「はぁ……」
白い息が、唇の先で生まれて消えた。
悴んだ左手に縫い針を持って、焼けてしまったお兄ちゃんとお姉ちゃんを新しく縫い直していた。右腕は包帯でぐるぐるに巻かれて胸の前に固定されている。動かせない。だからベッドの上であぐらをかいて、膝と太腿で布地を押さえながら、左手一本でちくちくと針を進めるしかなかった。
空中監獄——『ドージャー』。
私たち亜人が罪を犯した時に入れられる、『赤の最果て』。
文字通り空中に浮かんでいる監獄だった。空気が薄くて、息を吸うたびに肺の奥が冷たい。壁も床も鉄と石でできていて、どこに触れても指先の体温を奪っていく。窓のない独房の中は薄暗くて、天井の隅に嵌め込まれた小さな灯りだけが、青白い光を落としていた。
並大抵の亜人でなければ動くことすらままならない、この国で最も地獄に近い場所。
——今の私には、ぴったりだった。
「……ぁ」
針が指先に刺さった。小さな血の珠が滲む。寒さのせいか、痛みはほとんどなかった。
けど——もう、どうでもいい。
そのまま、お兄ちゃんを縫い続けた。
(このまま、凍えて死ねたらいいのに)
心の中で、ぽつりとそう呟いた。
死にたかった。死を望んで、頑なにこの牢から出ようとしない私に、看守たちは温かなコートを着せた。帽子を被せた。いらないと何度言っても、毛布を何枚も持ってきた。手をつけられないとわかっていても、温かなご飯を毎日運んできた。
本当にここが監獄なのか、疑いたくなるような待遇だった。最初は困惑した。でも、すぐにそれもどうでもよくなった。
アメリア姐さんを、死なせた。
エリスも、もう戻ってこない。
いっそ——この針で、自分の首を掻っ切ろうか。
ぼんやりとそんなことを考えながら、虚ろな目で針先を見つめていた。光の加減で鈍く光る金属の先端が、揺れもせずにそこにある。
——コンコン。
鉄の鈍い音が、牢屋の格子を叩いた。
ゆっくりと、音のした方を振り向く。
琥珀色の瞳と、目が合った。
「おーい。生きてるかー?」
軽い声。軽い笑顔。私とは対照的な温度を纏った男が、格子の向こうに立っていた。
わずかに——目を見張った。
「セドリック……会長?」




