第71話 強引な誘い⑱
道化師が再生しないように見張っていると、医者と騎士がやってきた。
百足姿の医者は、瓦礫の上を這い進みながら話しかけてくる。
「また随分と派手に暴れたね。誰も近寄れなくなっているよ」
「こいつが舐めたことを言いやがったからだ」
俺は血肉のスープと化した道化師を踏み付ける。
この女は俺を格下と見なした。
いつでも殺せるとでも言いたげな態度は我慢ならなかった。
さらには意味不明な求婚をした挙げ句、殺し合いそのものを侮辱した。
向こうにも言い分はあるのだろうが、こうして今も立っているのは俺だった。
死人に発言権はない。
医者は俺の足元まで近寄ってくると、道化師の残骸を吸収していく。
こいつのことだから能力でも解析しているのだろう。
元々、複数の妄者の死体を改造して操るような奴だ。
この血肉のスープでも利用価値はあるらしい。
道化師の痕跡を残らず取り込んだ医者は、俺を見上げてくる。
「彼女は強かったのかね」
「まあまあだな。間違いなく上位の妄者だった」
「それを一方的に惨殺する君には呆れてしまうな」
医者は騎士のもとへ戻ると、背中を器用に這い上がっていく。
不気味な光景だが、当の騎士が気にする様子はなかった。
医者は彼女の肩から顔を覗かせながら尋ねる。
「さて、これからどうする? 極東でもう少し暴れるのかな。それなら付き合うが」
「帰る。残っているのは退屈な連中ばかりだ」
そう答えた直後、頭上から殺気を感じた。
俺は目視せずに指の刃を動かす。
縦半分に割れた妄者が地面に激突して、臓腑をぶちまけた。
不意打ちを試みたらしいが、あまりにも露骨だ。
俺は死体を蹴り転がしながら話を振る。
「お前らこそ、国王は殺したんだよな?」
「当然だよ。我々を誰だと思っているのだね」
そう言って医者が背後を見やる。
視線の先から歩いてきたのは、古風な鎧を着る一人の妄者だ。
それは標的である極東の国王であった。
兜から除く顔は昆虫のような異形で、目は虹色の光を帯びている。
他の妄者を洗脳する力が宿っているが、今は機能していないようだ。
仮に発動中だったとしても、俺にはまず通用しないだろう。
両手にはそれぞれ刀を持っているが、どちらも折れていた。
歩いてくる国王からは生気を感じられない。
既に死体になっているのだ。
それを医者が死霊魔術で遠隔操作している。
医者は国王の口の中にその身をねじ込んでいった。
死体の喉が異様に膨らみ、何度か収縮して元の太さになる。
すると国王――いや、乗っ取りを終えた医者は、腰に手を当てて流暢に喋り出した。
「せっかくなので肉体を貰ったよ。心身が衰えているので簡単だった。ちなみに君はこの男を国王と称したが、正確には大王だそうだ。それなりのこだわりがあったらしいね」
「知るか。国王でも大王でも同じことだ」
俺は医者の指摘を一蹴すると、二人を促して歩き始めた。
「行くぞ。転移門から帰還する」
「了解」
「いやはや、短い旅行だったな。今度は二泊三日くらいを想定して来ようではないか」
楽しげに語る医者を無視して、俺達は帰路に着くのであった。




