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異界事変 ~狂いし妄者は殺戮の日々を味わう~  作者: 結城 からく


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第72話 異界事変①

 その日、俺は薄暗い一室にいた。

 腹の裂けた死体に腰かけて天井を見上げている。


 哭いた身体は影のような物体に変換されていた。

 スーツの柄は縞模様で、あちこちに穴が開いている。


 周囲には無数の死体が散乱していた。

 天井にへばり付いていたり、床に刺さっている者もいた。

 至る所から血が滴って凄惨な光景を作っている。


 すべて俺が殺したのだ。

 こいつらは、よその地域からこの街に参入してきた犯罪組織である。

 妄者の用心棒を連れてやって来た上、ロド商会に喧嘩を売ってきたので皆殺しにした。


 主戦力であった妄者だが、下位の強さしかなかったので物足りなかった。

 常人からすれば違いなど無いのだと思う。

 しかし、実際は埋めがたい差がある。

 俺からすれば、下位の妄者など赤子同然だった。


(もっと良い殺し合いがしてぇな……)


 血みどろの部屋で考え込んでいると、入口から足音が聞こえた。

 姿を現したのは医者だ。


 現在は極東の大王の死体に憑依しているが、乗っ取った当初よりも若々しい姿である。

 死亡時は哭いていた肉体も見かけ上は人間に戻っている。

 魔術で調整したのだろう。


 そんな医者は、俺の前まで来て部屋を見渡す。


「こんな所にいたのか。相変わらず"虐殺"の名に恥じない様だね」


「仕事はいいのか」


「今日の分は終わらせたよ。君と違ってオーナーの役割を全うしている。この点に関しては僕の圧勝だ。店長も嬉しそうだったね」


「黙っとけ」


 俺は悪態を吐くも、医者は平然と受け流す。


 極東での一件を経て、俺はロド商会のトップを医者に譲った。

 単純に権力を振りかざすのに飽きたのだ。

 もっとも、今でも俺の影響力は甚大であり、商会からすれば後ろ盾のままだが。

 最近は以前のように自由に活動することが多かった。


 医者は商会の運営を楽しんでいる。

 騎士と共に上手く繁盛させているらしい。

 転移門は未だ研究段階だが、いずれ各地に門を繋げて世界一の事業へと発展させると豪語している。


 医者は俺の隣に立つと、明るい口調で話を切り出した。


「ところで、この後の予定は決まっているかな?」


「特に何もない。どうした」


「一緒に食事にでも行こうかと思ってね。たまには親睦を深めようじゃないか」


 医者は胡散臭い笑みを湛えている。

 立ち上がった俺は、胸倉を掴みたいのを我慢して尋ねる。


「……何を企んでいる?」


「親睦を深めるついでに、少し相談したいことがあるだけさ。別に悪い話ではないとも」


「嘘は言っていないだろうな」


「もちろん。僕は正直者で有名だからね。信頼してくれていい」


 俺の肩を叩いた医者は、踵を返して部屋の出口へと向かった。

 舌打ちした俺はその後ろをついていく。


「死霊術師の言葉なんて信じたくねぇが、まあ従ってやるよ」


「ありがとう。君は何気に律儀な面があるね」


「殺すぞ」


 そんな応酬を繰り広げつつ、俺達は惨殺現場を後にするのだった。

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