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異界事変 ~狂いし妄者は殺戮の日々を味わう~  作者: 結城 からく


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第73話 異界事変②

 俺と医者は徒歩で移動して、街中にあるレストランに入った。

 いかにも高級そうな雰囲気だ。

 個室で仕切られたテーブルにつくと、顔面蒼白の給仕に注文を頼む。


 その後ろ姿を見送ったところで、医者が本題を切り出した。


「君に依頼したいことがある」


「珍しいな」


「それほど悩ましい事態なのだよ。非常に厄介な問題が発生してしまった。このままだと世界全土に影響が及ぶかもしれない」


「前置きはいい。さっさと話せ」


 先を促しながらも、俺は期待を膨らませていた。

 総合的に優秀である医者が手に負えない事態とは、よほどのトラブルなのだろう。

 俺に頼むのだから、何かを殺す仕事に決まっている。


 最近は物足りない標的が多かった。

 極東の道化師くらいの強さの相手と殺り合いたいものだ。

 今回の医者の反応を見るに、その望みは叶いそうであった。


 医者はわざとらしく咳払いをすると、声を落として俺に尋ねる。


「"終焉"の妄者を知っているかね」


「当然だ。知らねぇ奴を見つける方が難しいだろ」


 その名は御伽噺としてあまりにも有名だった。

 神話の時代に実在した妄者である。

 破滅的な力ですべてを殺し尽くす怪物で、有史の中でも最古の妄者らしい。


 神々と悪魔が殺し合う環境で避けられていたというのだから、災厄そのものだろう。

 いくつもの大陸を粉砕して海に沈めた挙句、神も悪魔も無差別に虐殺したという逸話が残っているほどに凶暴だそうだ。


 その正体は発狂した聖職者だという。

 最終的には結託した神と悪魔に殺されたという話だが、とにかく馬鹿げた能力を持つ妄者だった。


「それで"終焉"がどうかしたのか?」


「蘇りかけているらしい」


「何……」


 一瞬、言葉を失う。

 鼓動が速まるのを自覚した。


 医者は愉快そうに笑みを深める。


「興味をそそられたかね?」


「早く続きだ。何度も言わせるな」


 俺が殺気を見せると、医者は肩をすくめて苦笑した。

 それから話を続行させる。


「復活寸前であるのは極秘事項だ。信頼できる情報源なので、おそらく間違いないだろう。君には復活を阻止するか、復活直後を狙って抹殺してほしい」


「なるほどな。依頼内容は分かった」


 俺は椅子に座り直した。

 煙草をくわえて火を点けると、紫煙をくゆらせながら呟く。


「ちょうど退屈していたところだ。依頼を受けてやる」


「ありがとう。普通の人間なら真っ先に断る案件だが、君ならそう言ってくれると思ったよ」


「逃げるわけねぇだろ。最強の妄者を殺せる機会だ。誰にも譲るつもりはない」


 これは俺の意地だ。

 存在意義を懸けてでも立ち向かわねばならない。


 そもそも、もし本当に"終焉"の妄者が復活するのなら、どこにも逃げ場など存在しない。

 滅びたくなければ殺すしかないのだ。

 どのみち俺は挑むことになる。


 間を置いて給仕が料理と酒を運んできた。

 医者はワインの香りを楽しみながら優雅に述べる。


「依頼の詳細について説明したい。後で商会に来てくれるかな」


「別に構わないが……なぜこの店に来たんだ。最初から商会に向かえばよかっただろ」


 俺が指摘すると、医者はとても爽やかな笑顔を作った。

 彼はウインクをしながら答える。


「――君と仲良く食事をしたかったのだよ」


「へぇ、そうかい」


 俺は一つ息を吐くと、医者の顔面を殴り飛ばした。

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[良い点] 今話もありがとうございます! [気になる点] >「――君と仲良く食事をしたかったのだよ」 >「へぇ、そうかい」 >俺は一つ息を吐くと、医者の顔面を殴り飛ばした。 もしかして、ダイナミック…
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