第70話 強引な誘い⑰
俺は至近距離から飛び蹴りを放つ。
道化師は変形させた壁に掴まって宙返りして躱した。
動きを先読みしていなければ間に合わないタイミングだった。
(やりやがる)
勢い余った蹴りは城を貫通し、軌道上の壁や人間を粉砕する。
俺は空中を蹴って方向転換すると、再び突進しようとして止める。
爆弾と化した瓦礫が次々と迫ってくるところだった。
「それそれー」
道化師は気の抜けた声で投擲するが、実際は砲弾のような速度だ。
俺は指の刃で切り裂きながら接近していく。
途中で何度も爆発を受けるが、やはり死ぬことはない。
無視して突っ込むのが先決だった。
道化師の得意な間合いは、間違いなく遠距離だ。
負傷を覚悟して近付かなければ話にならない。
「よいせっ」
道化師は壁を走りながら死体を投げる。
ぶちまけられた鮮血と臓腑が極彩色に蝕まれて、そのまま爆ぜた。
俺は爆風を突っ切りながら跳びかかる。
指の刃で強襲するも、道化師は肩を切られながら飛び退いた。
さらに瓦礫を蹴り飛ばして爆破する。
「すごくいいよ! もう結婚しよ! 結婚!」
「あ? 何言ってんだ」
突然の叫びを訝しむ。
道化師は気にせず爆弾を投擲してきた。
衝撃で城の一部が倒壊するが、道化師が気にすることはない。
「楽しく殺し合えればいいと思ったけど、好きになっちゃった! これだけ互角の戦いは初めてだもん。そりゃ惚れるのも仕方ないよねっ」
凄まじい速度で爆弾が叩き込まれる。
家具や瓦礫や書物や死体が、連鎖的に炸裂していった。
城に飛び込んだ道化師は、追跡する俺を執拗に爆殺しようとする。
俺は指の刃を発射した。
素早く察知した道化師はこちらを見もせずに回避する。
「ねぇ、いいでしょ! あたしと結婚しようよーッ!」
血だまりを踏んだ瞬間、そこが大爆発を起こした。
影の片脚が粉々に消し飛んで俺は転倒する。
そこに雪崩れのように爆弾が投げ込まれた。
「チッ」
俺は両手で床を破壊し、階下に落下することで追撃から免れる。
再生していく片脚を確認していると、頭上から道化師が降ってきた。
その手には刀が握られている。
どこからか拾ってきたのだろう。
斬られた瞬間に爆発するはずだ。
「ここは特別に見逃してあげるから! 二人で極東を支配するってどう? そしたらどこでも殺し放題じゃん! 最高だと思わない?」
「……ッ」
その提案を聞いた俺は動きを止める。
叩き込まれた斬撃を躱すと、道化師の腹を狙って指の刃を突き込んだ。
道化師は空中を蹴って回避して壁に張り付く。
「……俺がお前に勝てないと思っているのか?」
「だってそうでしょ! あなたの攻撃は当たらなくて、あたしの爆発は当たっている。いずれ強がりもできなくなるよ」
道化師はそう主張しながら爆弾を投げる。
俺は無言で切り裂きながら歩み寄った。
爆弾で何度か吹き飛ばされながらも近付いていく。
道化師はその場から動かずに提案を続ける。
「だからね! 負けを認めて夫婦になってほしいの! あたし達なら最強の妄者に――」
「願い下げだ」
遮るようにして答えた俺は、今までの数十倍の速度で床を這う。
指の刃を振り上げて、道化師の胴体を一閃した。
道化師は呆けた顔で血を吐く。
「……えっ」
俺はそこからさらに数倍まで加速し、縦横無尽に両手を動かして道化師を切り刻んでいく。
道化師は自らの血肉を爆弾にして反撃してきた。
吹き飛んだ俺の身体は一瞬にして再生する。
何万発と受けようが無意味だった。
「早く死ね」
俺は呪詛を垂れながら道化師を粉微塵に切り裂く。
断続的な爆発は次第に規模が小さくなっていった。
それでも俺は容赦なく攻撃を繰り返す。
最後の力を振り絞ったのか、城が丸ごと爆発したが、俺の死に至らしめるほどではない。
そうして出来上がったのは、元は城だった瓦礫の山と、肉のスープと化した道化師だった。




