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俺と表情筋

 西岡達ナンパしてきた運のない集団を首尾よく撃退した俺達は加勢した分の報酬をいただく為に急遽近所の大衆向けのバーガー屋へ足を運んでいた。

「ハンバーガーセット4つ下さい」

 レジでハンバーガセットを頼む西岡。

 この場にいるのは俺、慎平、西岡、それと彼女の友人の女子生徒だった。つまり西岡はこの場にいる全員分のセットを一気に頼むという離れ業をやってのけたのである。勿論、俺達はビタ一文払っていない。

 先ほどのナンパ集団を相手取るよりよほど胆力の居る所業を平然とやってのけた彼女には尊敬の念を禁じ得ない。

「菊ちゃん、私は自分で払うよ」

 謙虚なことを言ったのは一緒にいる女子生徒だ。慎平は後ろで沈黙を貫き等している。さり気なく美味しい所はしっかり持って行こうとしている辺りはやはり慎平というべきだ。

「いいわよ。これくらい。全員分一緒に頼んじゃったほうが楽でしょ」

 気前のいいやつだ。ここは俺も乗っかっておこう。俺は決まり悪そうにしている女子生徒に声を掛ける。勿論、気の弱そうな彼女を怯えさせない為に今俺が出来る最上の笑みを浮かべてだ。俺は、顔の筋肉を総動員して笑顔の形を作り上げる。行くぞ!100%中の100%ーーーーーー。

 よし完璧。これぞ、魅惑の筋肉スマイル。限界まで鍛え上げられた表情筋を持つもののみが浮かべる事を許される筋肉の笑いだ。

「西岡がいいと言っているんだ、遠慮することないぞ。東西さん」

「と、東条です」

「東条さん」

 何故だ、何故たじろぐ。何故、西岡に助けを求めるように縋りつく。そして名前を間違えたことだけはしっかりと指摘する辺り。意外に芯は強いのかもしれない。

 東条さんに縋りつかれた西岡と目があった。なんで睨む。どうでもいいが怖い。

「まず、その名状し難い笑顔の様な何かを引っ込めてくれないかしら。友人が怯えているから」

 失礼な。それにこれは俺の最大筋力を込めて作った笑顔だ。出したら最後、顔面の筋肉が緊張して暫くは引っ込まん。

「ごめん後、5分待って」

「五分もそのままで居るつもり?顔面の筋肉おかしくなるわよ」

「心配するな。そんな軟な鍛え方はしてねえ」

「顔面の筋肉を鍛える必要性が何処にあるのか疑問なんだけど」

「豊かな表情を創りだすのに大いに貢献するだろうが」

「その試み、大いに失敗してるわ。まあ、いいわ。そのままの顔でいられるとこっちも迷惑だから。じっとしててくれない」

 そう言った西岡は俺の横面に拳を何度が叩き込んできた。なに?殴られる程ひどい顔してたの俺。どうでもいいが痛い。つーかこれ拳じゃねえ、貫手じゃねえか。通りで痛いわけだよ。

「痛えな!殴ることねえじゃんかよ!」

「どうやら、戻ったみたいね」

「へ?」

 言われて気がついた。筋肉を総動員して作った俺の極上スマイル(西岡曰く名状し難い笑顔の様な何か)が解除されていた。

「筋肉の緊張を取るツボを押したの」

 何のことも無いように言った西岡の意外な特技に、俺は素直に感心する。

「お前すげえな」

「……別に、大した事じゃないわよ。家で教えられたツボを、教えられた通りに突いただけだし」

 西岡は目を泳がせながらそんな事を言っている。何故、頑なに俺を見ない。西岡さん、そこには誰も居ませんよ。俺はここですよ。俺って見るのも嫌になるくらい醜いですか?

「いや、でもこれは誇っていい特技だと思うぞ。心なしか殴られる前より調子良くなった気がするし。お前医者とかになれんじゃないの?」

「ほ、本当に大したことしてないから。私はただ……」

 なんだ?何をもじもじしているんだい君は。そんなキャラじゃないでしょ君は、さあ、いつもの様にズバッと。言いたいことがあるならハッキリ言いなさい!

 そして慎平、お前何ニヤついてるんだ気色悪い。俺を見て意味深な笑いを浮かべる奴は遠藤だけで間に合ってるんだよ。ああ、やばいムズムズしてきた。どことは言わないけど。

 しかし、西岡のこの反応。もしかしてこの照れてるのか?いやいやいやいや、ないないない。麻酔なしで去勢するとか言っただよ。自分の親のハッスルっぷりを平然と語った娘だよ。それがちょっと褒められたぐらいで照れるなんて可愛い反応するわけ無いじゃん。

「いや、本当に意外だった。お前に人を治す事が出来たなんて、俺はてっきり壊す方に才能が偏った奴だと思ってたんだけどな。そういう特技があるなら……」

「あん!?」

 あ、戻った。うん、それでこそ西岡さんだよ。本来の君が戻ってくれて嬉しいん気持ちはあるんだけど、眉間に皺寄ってるよ。可愛い顔が台無しだよ。般若みたいになってるから。そんな顔、ばかりしてると本当にそんな顔になっちゃいますよ。……お願い、許して。怖い。

「どうも、すいませんでした」

 俺は、彼女に向かって誠意を込めた謝罪とともに、その事を態度で示す為に、腰から上を90度程地面に傾ける羽目になった。

「……お前って無自覚に建てたフラグを無自覚にへし折っ行くやつだよな」

 うるせえよ主人公。なんで頭抱えてやれやれみたいな感じで首振ってんだよ。腹立つわこいつ。

 そして、お前の言ったことが本当なら、俺が無自覚に建てた般若フラグが一向にへし折れないのはなぜだ。

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