俺のフラグ回収能力
期末も終わり、いよいよ一学期も終了に近づいてきた。夏休みも間近に迫った俺のクラスは朝から大いに活気づいていた。誰と、どこに行くかそんな話題がそこかしこから聞こえてくる。
まあ、俺達もそんな喧騒の一部だったんだけどな。
慎平の座る机に集まって陣取った俺、七海、遠藤は、夏休みの予定というものを立てる為の会議みたいな事をやっていた。
「海、私海行きたーい」
勢い良く言い放ったのは七海だった。
「小波は本当に海が好きだよな」
慎平がそんな七海に笑いかける。
「まあね、なんかもう波音を聞くだけでテンション上がるよ。」
こいつの海好きは俺も知っている。名は体を表すとはこういうことだろうか。
「じゃあ、海は決定でいいんじゃねえの?」
とりあえず、一つは纏まったな。
「何仕切ってんだよフランケン」
「なんだよ。一々突っかかってくるなよな」
俺になんか恨みでもあるのかこいつ。
「ほらお前ら、喧嘩すんな」
そう言ってその場をとりなす遠藤。気配りのできる男って素敵。こちらを流し見た遠藤は白い歯を見せて笑った。こっち見んな。しかし、俺は感謝の気持ちはしっかり伝える男だ。それは対象が多少生理的に警戒してしまう男であろうと変わらない。
「助かったぜ遠藤、別に喧嘩なんてするつもりは無かったが、近くない将来そうなってたと断言できるからな」
「まあ、俺とお前の仲だからな。もっと頼ってくれてもいいんだぜ」
すっと、俺の肩に置かれる手。遠藤だった。調子に乗るな。俺はその手を優しく払い落とした。
「だけど、このメンバーで行くのも華がないよな」
言ったのは俺だ、言いたくて言ったのではない。この台詞、原作の俺が言っていた言葉である。この台詞が、後々のヒロインたちの参加フラグにつながるのだ。
「珍しいな、鉄心がそんな事言うなんて」
慎平が目を丸くしている。うん、確かに普段の俺ってこんなに女の子と絡みたがらないもんね。
「なんだよ華ならここにあるじゃないか。ほら、華だ喜べよ。ムッツリ」
得意気に無い胸を張った七海を見て居るとなんかこう、こみ上げてくるものがある。
「はぁ……」
溜息だった。どんまい七海。
「んだよ。失礼な奴だな。そこは私の可愛さに頬を染めて身をくねらせるところだろ」
「やって欲しいか?」
「いや、いいや」
そうでしょ七海さん。これに懲りたら思ったことを直ぐに口にだすのは止めましょう。
「いやあ、小波は黙ってれば可愛いと思うぞ」
慎平、それは遠回しに貶しているだろ。
「んじゃ、黙る」
お前もあっさり言うこと聞いてんじゃねえよ。まあ、多分そう長くは持たないだろう。
しかし、七海が余計な横槍入れたせいで話題がそれ掛かってんじゃねえかよ。
たしか、このタイミングであいつは都合よく教室にいるはずだ。
周りを見渡し、女子グループで談笑しているそいつを発見した俺は、原作の俺の台詞をなぞって言った。
「あ、あんな所に杉崎が、あいつも誘ってみようぜ」
たしか、こんな感じだったと思う。
「鉄心、なんで棒読みなんだ?」
「つーかあんた。なんで今日は、女に対してそんなに貪欲なのさ?」
黙ってるんじゃなかったのか?
「そうか鋼。お前も男だったんだな……」
「ちょっと、行ってくるわ」
揃いも揃って好き勝手言っている幼なじみプラスαを無視した俺は、単身杉崎の元へと突撃していった。
「え?ちょっ……」
馬鹿が何かを言いかけていたが気にしない。
こういう時、真っ先に女子を誘うのは弄られ役の三枚目の役割だ。いや、俺は弄られ役じゃないけどね。しかし、どうやって声をかければいいんだ。俺って女子には嫌われてるからな。……ん?
元々大多数の女子には嫌われ気味である俺だ。更に嫌われたからと言ってそれは今更気にするような事か?否!もうこれ以上落ちようが無い所まで落ちたんだ。これ以上何を恐れるというのだ。そうだ何も気にする必要は無いじゃないか。嫌われたら泣きたくなる?傷つくだと?ははは、ご冗談を……。そんな段階はとうに終わったんだよ。何故今まで気が付かなかったんだ。そうだ。今の俺は無敵だ。開き直った瞬間、俺の中で決定的に何かが変わった。身体が軽い。こんな気持で女子に声かけるなんて初めて!もう何も怖くない!
あ、もしかしたら原作での俺もそんな心境だったのではないだろうか。なんかシンパシーを感じてしまう。
「おう杉崎、元気か?」
朗らかな笑顔で杉崎に声をかけた瞬間、彼女とにこやかに談笑していた女子達の顔が強張った。
ははは、こいつらめ。普段の俺ならここで怖気づいているところだが、今日の俺は気分がいい。その可愛い反応だって笑って許してやろうではないか。
朗らかな笑いを一層濃くした俺は敵意と警戒心を剥き出しにしているその女子生徒達に安心させる様に笑いかける。
「ヒッ!!」
おやおや、どうやら怖がらせてしまったようだ。自分の顔の構造を考慮にいれるのを忘れてしまったよ。俺ってばおっちょこちょい。
「は、鋼!?なんか今日様子がおかしくない!?」
そんな俺の様子を唖然と眺めていた杉崎が、俺にようやく俺に声を掛けてきた。どうやら少しはしゃぎ過ぎたようだ。若干引いているご様子だ。まあ、別にいいだろう。
「一皮剥けたと言ってくれ。それで、今ちょっと大丈夫か?」
そうだ、肝心な要件を忘れてはならない。何のために俺はこんな女子の固まる魔窟に突撃したというのだ
「今、ここで済む話しなら聞くけど」
生憎、お前と二人きりでしたい話など持ち合わせていない。
「別に構わん。夏休み。あいつらと海に行くんだけど、一緒に来ないか?」
俺は、後ろで口を開いた状態で固まってる幼なじみプラスαを指さして言った。てかお前らまでなんでそんな目で俺を見る。
「それは、別にいいけど……鋼も来るの?」
当然だろう。俺が誘ってんだから。もしや、俺が来るなら行かないとか言い出さないだろうなこいつ。
「一応そのつもりだが、お前が嫌なら。俺は辞退する」
まあ、正直、海では俺、空気みたいなもんだしな。勝手に楽しんでこいよという思いもある。
別に、寂しくなんか無いんだからね!
「いやいやいや、それはおかしいでしょ。なんで私が嫌だとあんたが来ないのよ。それよりなに?私があんたのこと嫌ってるって言いたいわけ?」
「違うのか?」
「別に嫌いじゃないし友達程度には考えてるわよ。ああ、でも今ので少し嫌いになった。つーか鋼さぁ、自分と接する人間が全員自分を嫌ってるっていう前提でもの考える癖、直した方がいいわよ」
「うーん。そんな気は無かったんだが……」
自分が嫌われてるって前提ね。でも、君の近くの女子生徒を見てみなさい。少し視線があっただけでメチャクチャ怯えてますよ。これで嫌われてるって思わないほうがどうかしてると思うんだが。
「はぁ、あんたって意外とアレだよね」
アレってなんだよ。馬鹿なのか?アホなのか?頓珍漢なのか?肝心なところをぼかすんじゃありません!
「ああ、なんか心配になってきたわ」
そんな俺の様子を見た杉崎がこめかみを抑える。出来の悪い子ですんません。
「いいわ。海、私も行くわよ。その代わりあんたもちゃんと来なさいよ。私が来る代わりにあんたが来ないなんて絶対おかしいから」
「マジ?おお、サンキュウ!これでミッションコンプリートだぜ」
「は?ミッション?」
「いやいや、こっちの話だ。それじゃあ。いろいろ詳しく決まったら連絡するから。そんじゃあな」
杉崎にそう告げると、俺は女子の巣食う魔窟からの生還を果たした。
「杉崎来るってさ」
慎平の待つ席へと帰還した俺は先程の結果を伝えた。
「弥生がよくあんたの誘いを受けたわね。どんな魔法つかったのさ」
そんな一報を失礼な言葉で打ち返してきたのはやはりと言うか七海だった。なんだい君は、俺に喧嘩売らなくちゃ死んじゃう病でも発症してるんですか?
「なに、嫌われる事を恐れず体当たりでぶつかっていっただけだ」
「意味分かんないんだけど。本当、さっきから変だよあんた。妙に行動的だし。弥生のグループに躊躇いなく入っていくし。まあ、別に良いけどさあ」
そう言って、俺を訝しげに見つめる七海。いや、こんな俺これっきりだから。もう絶対やらねえよ。つーか頼まれたってやるか。だから、その目をやめろ。
「いやあ、本当にビックリしたぞ。誘うって口に出した瞬間本当に行くんだもんな。普段のお前からは想像できない姿だった」
お前の為に一肌脱いだんだよ主人公。それよりお前、普段俺をどんな目で見てるんだよ。後でその辺じっくり聞かせてもらうからな。
「まあ、見事なお手前だったぜ、鋼」
こいつ、目が笑ってないんだけど。ヤキモチか?ヤキモチなのか!?そんな君に俺はどう反応すればいいんだよ。……スルーが得策だな。
杉崎も来ることになったし。とりあえずは一安心なのかな。まあ、慎平は大切な幼馴染みだしな。これからのことは知ったこっちゃないが、原作の舞台位は整えてやるよ。つっても、まだほんのプロローグだがな。テコ入れが必要になったらまた動いてやるよ。俺のやり方でだけどな。
それから一応あのバカも俺の幼馴染なわけだし、大切なことには変わりないからな。具体的に何ができるってわけじゃないが、他の奴らより一馬身ぐらい余計に応援してやるよ。
頑張れよ慎平。ついでに七海もな。




