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守護獣アルスと第一王子の連携

(アウリス殿下、もしかして……)


 ルーナは思い出していた。


 前世で触れた物語――強敵を前に、恐怖ではなく高揚を滲ませる主人公たち。


 そして今、目の前の男は――まさにそれだった。


(この人、強い敵ほど燃えるタイプ……!)

「なんにしても心強いわ。――わたしたちも負けてられないわよ、アルス!」

『うん! ……でも急にどうしたの?』

「こっちの話よ、気にしないでちょうだい」


 アルスが一歩、前へ出る。

 その巨体に、ルーナの魔力が静かに流れ込んでいく。


 ――水が、集まる。


「どうやら守護獣もまだやれるようだな!」


 アウリスが口元を歪める。

 戦いの気配を楽しむように。


「当然よ。だってアルスは、海で最強のシャチなんですもの!」

「いいだろう……見せてもらおう!」


 剣を構え、アウリスは踏み込む。


「ルーナ! 共にブルーオーガを討つぞ!」

「ええ!」


 視線が交差する。


 次の瞬間――動いた。


「わたしとアルスが抑えるわ! アウリス殿下は急所を!」

「ああ、任せろ!」


 アルスとアウリスが、左右へ弾けるように散開する。


「アルス! 全力で行くわよ!」

『もちろん!』


 尾びれが振り下ろされる。

 空気が弾ける。


 次の瞬間、アルスの巨体が一直線に滑るように加速した。


『ウェーブ・タックル!』


 水流をまとった体当たり。


 衝突の瞬間――


 轟音。


 地面が沈み、周囲の草がなぎ倒される。


「ゴオオオオウウウ!!」


 ブルーオーガが真正面から受け止める。


 だが、その足がわずかに後退する。


『こいつ、重い……! でも押せる!』

「いいわ、そのまま押さえつけて!」


 ルーナの声に応じ、アルスがさらに体重をかける。


 ――その一瞬の固定。


 それを逃さず、ルーナが笛を吹いた。


 高く鋭い音。

 合図。


『了解!』


 アルスの巨体が――跳ねた。


 地面が爆ぜる。

 信じられない高さへと浮かび上がる青い影。


「あの巨体が……飛んだだと……!?」


 アウリスの目が見開かれる。

 だが次の瞬間には、その表情が笑みに変わっていた。


「面白い!」


 空中。

 落下。


『それっ、食らえぇ!』


 アルスの巨体が、真上から叩きつけられる。


「ゴオオオ!?」


 ブルーオーガの反応が遅れる。

 踏み込みが間に合わない。


 ――直撃。


 地面が陥没し、オーガの足が沈み込む。


 その拘束。


 待っていたのは――


「この瞬間を逃すかぁ!!」


 アウリスの踏み込み。

 地面が砕け、白馬が吠える。

 剣に、灼熱の光が宿る。


「ソーラ・セイバー!!」


 一閃。

 光が走る。


 ブルーオーガの足首を、正確に断ち切る。


「ゴガアアアア!!」


 膝が崩れる。

 巨体が傾ぐ。

 完全に体勢を失った。


「今だ、ルーナ!」

「ええ!」


 間髪入れず、ルーナが叫ぶ。


「これで決めるわよ、アルス!」

『オーケー!』


 至近距離。

 逃げ場なし。


 アルスが頭を振り下ろし――叩き込む。


 ――衝撃。


 骨が砕ける鈍い音。

 肉が潰れる感触。


 ブルーオーガの顔面が、内側へと陥没した。


「…………」


 巨体が、ゆっくりと崩れ落ちる。

 地面が揺れる。

 静寂。


「……なんとか、倒したみたいね」


 肩で息をしながら、ルーナは額の汗を拭った。


 視線の先では、ブルーオーガの巨体がぴくりとも動かず横たわっている。


 ――だが、完全に気を抜くには、まだ早い。


『ルーナ、ぼくすごかったよね!』


 期待に満ちた眼差し。

 その無邪気さに、ルーナの表情もふっと緩む。


「ええ、さすがアルスだわ。よくやったわね、――ナミっ」


 呼びかけと同時に、ナミがすっと前に出る。


 掌に淡い光が宿り、次の瞬間、空間から魚の入ったバケツが現れた。


「アルス、ごほうびよ」

『わーい! お魚だぁ~!』


 大きく口を開けるアルスへ、ルーナが魚を放り込む。


『ごっくん!』

「いい食べっぷりね」

『えへへっ』


 頭をわしゃわしゃと撫でられ、アルスは満足げに目を細めて舌をペロッと出した。


 張り詰めていた戦場の空気が、わずかに緩む。


 ――その様子を、少し離れた場所から見ていたアウリスが、楽しげに笑った。


「なるほど……ただの主従ではないな。人と獣の関係を超えた絆か。面白い!」

「アウリス殿下も、見事なお手並みでしたわ」

「ははっ、鍛錬の賜物さ!」


 言葉を交わし、笑い合う二人。


 そのとき――


「お嬢様、こちらを」


 低く、しかしはっきりとした声。


 ナミが、地面に膝をついて何かを拾い上げていた。


「……それは?」


 差し出されたのは、金属製の指輪。


 だが――ただの装飾品ではない。


 黒ずんだ金属に、脈打つような紫の紋様が刻まれている。


「……!」


 ルーナの表情が変わる。


「この指輪……」

「ええ。大きさは異なりますが、ヒドロクラーケンやワイバーンに装着されていたものと、同型と思われます」


 ナミの声は冷静だった。


 だがその瞳には、確かな警戒が宿っている。


「……つまり」


 ルーナが静かに呟く。


「この魔物たちも――何者かに操られていた可能性が高いわね」


「なんだと……!?」


 アウリスの表情が引き締まる。


 戦いの熱が、一瞬で冷めた。


「ルーナ、何か心当たりがあるのか?」

「確証はないのだけれど……少なくとも、自然発生の異常ではないわ」


 ゆっくりと顔を上げるルーナ。

 その瞳には、先ほどまでとは違う鋭さが宿っていた。


「誰かが意図的に、魔物を動かしている」


 静かに告げられたその言葉。


 それは――この騒動が、ただの魔物討伐では終わらないことを意味していた。


 アウリスは、その重みをはっきりと理解する。


(……裏があるな)


 王都のすぐ近くで起きた異常。


 統率された魔物。

 そして、この不気味な指輪。

 すべてが繋がる予感。


「面白い……いや、厄介な話になってきたな」


 アウリスは剣を肩に担ぎ、低く呟いた。


 その口元には――わずかに笑みが浮かんでいた。

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