ギルドでの思わぬ再会
王都へ足を踏み入れたルーナは、三年ぶりの光景に目を輝かせた。
「やっぱり王都は賑やかね……。なんだか前よりも、ずっと輝いて見えるわ!」
見渡せば、人の流れは絶えず、店先には色とりどりの商品が並び、通りには活気が満ちている。
三年前よりも、確かにこの都は生き生きとしている。
「左様でございますね、お嬢様」
『ぼくたち、また戻ってきたんだね』
「ええ、そうねアルス」
馬車を降りたルーナは、アルスの頭を優しく撫でた。
その時だった。
「名誉騎士様」
フリードが一歩前に出る。
「王都ではご自由に振る舞っていただいて構いません」
「え、いいの?」
「もちろんでございます」
だが――わずかな間を置いて、フリードは言葉を続けた。
「ただし、王都はすべてを見ています」
その一言は静かだったが、妙に重く響いた。
「――国王陛下との謁見が近づきましたら、改めてお迎えに上がります」
それだけ告げると、フリードは近衛兵たちを率いてその場を去っていく。
その背を見送りながら、ルーナは小さく息を吐いた。
「てっきり滞在中は窮屈に過ごすものだと思っていたから、自由にしていいなんて意外ね」
「ええ。しかしお忘れなく」
ナミは静かに視線を巡らせる。
「王都滞在中は、我々の動きは常に誰かに見られていると考えるべきでしょう。羽目を外しすぎないように」
「分かってるわ、ナミ。わたしだって子供じゃないのよ?」
「もちろん承知しております」
口を尖らせるルーナに、ナミは口元に手を添えて穏やかに笑った。
「それじゃあまずはハンターギルドね。情報収集が先決だわ」
「賢明なご判断です。――さすがお嬢様」
その言葉の直後だった。
ナミの動きが、ぴたりと止まる。
「……おや」
「どうしたの、ナミ?」
ナミはわずかに目を細めた。
「今……並々ならぬ殺気を感じたのですが」
「え?」
ルーナは周囲を見回す。
だが、目に映るのは行き交う人々と、賑やかな街並みだけだった。
「……気のせいじゃないかしら?」
「――そう、かもしれませんね」
そう答えながらも、ナミの視線はわずかに上を向いていた。
拭いきれない違和感が、胸の奥に残る。
やがてルーナたちは、そのまま王都のハンターギルドへと歩き出す。
――その様子を。少し離れた建物の屋根の上から、静かに見下ろす影があった。
音もなく、気配もなく。
ただ一対の鋭い瞳だけが、ルーナたちを捉えている。
その存在に、まだ誰一人として気付いてはいなかった。
歩くことしばし、ルーナたちは王都のハンターギルドへとたどり着いた。
「いつ見ても立派なギルドね……!」
『やっぱりおっきい!』
白亜の荘厳な建物を見上げ、ルーナとアルスは揃って目を見張る。
「参りましょう」
「ええ、行きましょう、ナミ」
ナミに促され、ルーナはアルスを伴ってギルドの扉を開けた。
中は変わらず整然とした空気に満ちている。
磨き上げられた床に、ブーツの音が乾いた反響を響かせた。
受付嬢たちは一様に黒の制服に身を包み、淡々と業務をこなしている。
「ここのギルドも相変わらずね」
『なんかちょっと固い感じするな~』
「我慢してちょうだい、アルス」
『はーい』
窮屈そうに身をくねらせるアルスをなだめながら、ルーナは受付へ向かう。
その背中に、周囲のハンターたちの視線が集まっていた。
「なあ、あの人……名誉騎士じゃないか?」
「本当に戻ってきたのか……!」
「国王に呼ばれたって話だぞ」
「あの従魔……でかすぎだろ……」
ざわめきの中、アルスが胸びれを振って応える。
「キュイー!(やっほー!)」
――戸惑いながらも、ハンターたちが手を振り返した。
『ぼくたちここでも人気者だね!』
「そうね。これもあなたのおかげよ、アルス」
そう言って、ルーナはそっとアルスの頭に口づける。
『えへっ』
そして受付へ向かったその時だった。
ルーナの視界に、見覚えのある二人の姿が飛び込んできた。
「あの二人……もしかして!」
ルーナは思わず駆け出し、手を振る。
「おーい! ニッケ、ベルー!」
「――この声、まさか!?」
「えっ、ウソでしょ!?」
振り向いたのは――青い髪をショートに切り揃えた軽装の少女と、桃色の長い髪を背に流したローブ姿の少女。
髪型こそ違えど間違いない。ニッケとベルだった。
「二人とも、会いたかったわ!」
ルーナは勢いのまま、二人に抱きついた。
「本当にルーナちゃんだー!」
「ルーナさん!? すごい……見違えました!」
「三年ぶりだもの。そう言う二人だって、ずいぶん変わったじゃない!」
ひとしきり喜び合ったあと、ルーナはふっと顔を上げる。
――その瞬間だった。
(……あれ?)
ニッケとベルの顔が、すぐ目の前にある。
ほんの少し前まで、少し見上げていたはずなのに。
今は――同じ高さ。
いや、ほんのわずかに、自分の方が上から見ている。
「……ねえ」
ルーナがぽつりと呟く。
「二人とも、背……縮んだ?」
「縮んでません!!」
即座にニッケがツッコんだ。
「っていうかルーナさんが伸びたんです! 絶対そうですよ!」
「え、そうかしら……?」
『あ、ほんとだ』
アルスがあっさり言う。
『ルーナのほうがちょっと大きいよ』
「えっ」
ルーナは思わず目を丸くした。
「ほら!」
「いつの間にこんなに……」
ニッケとベルがまじまじとルーナを見る。
その視線に、ルーナは少しだけ照れたように笑った。
「三年も経ったんだもの。わたしだって成長するわ」
そう言いながらも、胸の奥がじんわりと温かくなる。
(ああ……わたし、本当にここまで来たんだ)
「それとニッケ、その髪……」
ルーナが目を細める。
「あー。戦うのに邪魔だったから、切ったんです」
ニッケはあっさりと言い切る。
「軽い方が速いですよね?」
「……なるほどね」
ルーナはくすりと笑った。
「ベルも……すごく伸びたわね」
「え、あ、うん……」
ベルは少し照れたように、自分の髪先に触れる。
「なんとなく……伸ばしてみたの」
その仕草は、三年前よりずっと大人びて見えた。
そして――ベルがふわりと微笑む。
「……ルーナちゃんも、大きくなったね」
その一言は、とても優しかった。
「ええ、でも――」
ルーナは二人の手をぎゅっと握る。
「またこうして会えて、本当に嬉しいわ」
「はい! それと、ウチらもあれからちゃんと強くなったんですよ!」
「ルーナちゃんがいるってことは……!」
再会の熱がまだ残る中――
「キュイ~!(久しぶり!)」
アルスが大きな顔を割り込ませる。
「あっ、アルスくん!」
ベルがぱっと笑顔になり、そのまま勢いよく抱きついた。
「やっぱりアルスくんだ~! 前より大きくなってない!?」
「キュウ!(なったよ!)」
『――ねえルーナ』
アルスがぽつりと呟く。
『ベルも前より、すごく大きくなってるよ』
「っ!?」
その瞬間。アルスの顔が、ベルの胸にしっかり埋まっていた。
「こらっ! それは言っちゃダメなの!!」
『そうなの?』
きょとんとするアルス。
ベルは一瞬きょとんとしたあと、自分の胸元を見て――
「……あ」
ほんのり頬を赤らめる。
「ちょっと……あんまり言わないでよ。少し気にしてるんだから……」
照れくさそうにそう言って、そっとアルスの顔を押し返した。
その一方で。ルーナは無言で、自分の胸に手を当てていた。
「わたしだって……ちゃんと大きくなったはずなのに……」
ぽつりと漏れる本音。
「いやいや、ルーナさんは十分じゃないですか!?」
すかさずニッケがツッコむ。
「そうだよ~、ルーナちゃんはその……バランスがいいっていうか!」
ベルも慌ててフォローに入る。
「バランス……?」
ルーナはじとっとした目で二人を見る。
「なんだかそれ、慰められてるみたいで微妙なんだけど……」
「違いますって! ちゃんと褒めてますから!」
「本当だよ!?」
必死に取り繕う二人。
その様子に、ルーナはふいっと顔を逸らした。
「……もういいわ」
だがその頬は、ほんの少しだけ緩んでいた。




