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わたしとシャチの異世界ペアダイブ  作者: 月光壁虎
ルーナ、再び王都へ
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第一王子アウリス

 その一声で馬車が停まり、近衛隊長フリードが素早く降りて跪く。


「これはアウリス殿下。わざわざおいでになったのですか」

「御託はいい!」


 アウリスは手をひらりと振った。


「そこの娘が名誉騎士なんだろう?」


 黄金の瞳がルーナをまっすぐ射抜く。


 その視線を受け、ナミがそっと耳打ちした。


「――どうやらあの殿方、お嬢様にご用のようです」

「分かっているわ、ナミ」


 促されるままルーナは馬車を降りると、チュニックの裾を軽くつまんで優雅に一礼した。


「ごきげんよう。わたくしはルーナ、名誉騎士にございます。こちらは専属メイドのナミ」

「ナミにございます」


 ナミも同じように礼をする。

 それを見た瞬間、アウリスは豪快に笑った。


「やっぱりそうか! 俺はアウリス、ノール王国第一王子だ!」


 そう言うなり、ルーナの手をがしっと掴んで握手する。


「お会いできて光栄ですわ、アウリス殿下」

「そんな堅苦しいのはいらねぇ!」


 アウリスは豪快に笑いながら言った。


「親父から聞いてるぜ。三年前、王都を救ってくれたのはあんただってな」


 そしてルーナの肩をバシバシと叩く。


「だから俺とあんたは対等だ!」

「そ、そういうものですの……?」


 押しの強さに、ルーナは思わず乾いた笑いを漏らした。


 やがてアウリスの視線が、アルスへと向く。


「しかしルーナ、でっかい魚を連れているんだな!」

「魚ではないわ!」


 ルーナはぷくっと頬を膨らませる。


「アルスはシャチ。この世でもっとも強く、美しい海獣よ!」

「ははは! そうかそうか!」


 アウリスは腹を抱えて笑った。


『なんかこの人、ものすごく暑苦しいよ……』


 アルスがぼそっと呟く。


「こら、そんなこと言っちゃダメ!」


 ルーナが慌ててたしなめる。

 そのやり取りを見て、アウリスの目が輝いた。


「待て待て。もしかしてあんた――そのシャチと会話できるのか?」

「ええ!」


 ルーナは胸を張る。


「わたくしとアルスは心で繋がり合っているの!」

「それは面白い!」


 アウリスは大声で笑った。


「俺も全国民とそうありたいもんだ! わはは!」


 そう言いながら、アウリスがアルスに近づこうとすると、そばの騎士が慌てて制止した。


「殿下、危険です!」


 しかしアウリスは、軽く手を上げてそれを制する。


「心配するな」


 騎士たちをなだめるように言うと、アウリスはゆっくりとアルスの前に歩み寄った。


 そして――アルスの瞳をまっすぐ見つめる。


 一瞬、辺りの空気が静まり返った。


「……いい目をしている」


 低く呟く。

 次の瞬間。アウリスは何のためらいもなく、その手をアルスの額に置いた。


『え?』


 アルスは思わずきょとんと目を瞬かせた。


「王の前でも逃げない目だ」


 小さく呟いたのち、アウリスはアルスの額を軽く叩いた。

 そしてルーナへ振り向く。


「ルーナ、こいつはあんたの相棒か?」

「ええ!」


 ルーナは迷いなく答える。


「いい相棒だな」


 アウリスは白い歯を見せて豪快に笑った。


 その率直な言葉に、ルーナの胸がじんと熱くなる。


 三年間、アルスと共に歩んできた日々。

 そのすべてを肯定されたような気がしたのだ。


 だが次の瞬間、アウリスはふっと意味ありげに口元を歪めた。


「――だが、弟はもっと面白がるぞ」

「弟……?」


 その言葉が、ルーナの胸に小さく引っ掛かった。


(アウリス殿下の弟ということは……その方も王子なのよね?)


「エリクは城だ。あいつはこういう出迎えはしない」

「あら、そうなの? 彼にもそのうち会えるのかしら?」


 ルーナが尋ねると、アウリスは少し困ったように肩をすくめた。


「近いうちに必ず会えるさ。何せルーナを王都に呼んだのも実は――」


 その言葉の途中だった。


「――アウリス様」


 近くに控えていた騎士が、静かに耳打ちする。


「あまり立ち話をなさると、周囲の通行の妨げになります」

「ああ、そうだったな」


 アウリスは頭をかきながら笑った。


「すまんすまん。また後でゆっくり話そうじゃないか」


 そう言い残すと、第一王子は豪快な足取りでその場を後にした。


 残されたルーナは、ぽつりと呟く。


「アウリス第一王子……豪快で、熱いお方なのね」


 そして何気なく振り向く。


「――ナミ?」


 だがナミは返事をしない。

 彼女は一点を、鋭く見据えていた。


「ナミ?」


 ルーナがもう一度呼ぶ。


「……はっ」


 ナミは我に返ったように頭を下げた。


「失礼いたしました」

「もう。あなたが話を聞き逃すなんて、珍しいじゃない」

「申し訳ございません」


 ナミは一瞬だけ、城壁の上を見た。


「……実は、先ほどから何者かの殺気のようなものを感じた気がしたのです」

「え?」


 ルーナは周囲を見回す。


 だが人の往来は多く、怪しい人物は見当たらない。


「……わたしには何も感じないわ」

「どうやら、気のせいのようです」


 そう言いつつも、ナミの表情はどこか晴れない。


 わずかに胸の奥に残る、嫌な予感。


 しかしそれ以上は何も起こらなかった。


 こうしてルーナたち一行は――三年ぶりの王都へと、足を踏み入れたのである。

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