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わたしとシャチの異世界ペアダイブ  作者: 月光壁虎
ルーナ、再び王都へ
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王都再訪

 アルスにご褒美を与えたところで、ルーナはナミから声をかけられた。


「お嬢様、やはりワイバーンにもこれが」


 ナミが差し出したのは、ヒドロクラーケンにも装着されていたものと同じ――金色の枷だった。


「……嫌な予感がするわね。忌々しい黒牙商会を思い出すわ」


 ルーナは眉をひそめる。


 三年前、王都を震撼させた魔物密売組織。

 そしてその壊滅の裏には、魔物を操る禁じられた研究があった。


「今後も注意を払うべきでしょう」

「ええ、そうね」


 迫り来る不穏な気配に、ルーナはナミとともに曇天を見上げた。



 時を同じくして――王都近郊、地下深く。


 石造りの研究室で、白衣の女が無数の器具を操作していた。


「……まだ改良の余地がありますねぇ」



 女はぼそりと呟く。


 シグナ・レミリア。

 かつて魔物の闇取引を行っていた組織――黒牙商会の研究員である。


 三年前、黒牙商会は表向き壊滅した。

 しかしシグナだけは生き延び、今なお地下で研究を続けていた。


 魔物を操る術。それを完成させるために。


 その時、研究室の扉が開いた。


「報告いたします!」


 部下の男が駆け込んでくる。


「管理下のワイバーンが王国の馬車を襲撃しましたが、名誉騎士ルーナによって討伐されました!」


 その報告に、シグナは小さく舌打ちをした。


「ヒドロクラーケンに続き、ワイバーンも……ですか」


 白衣の袖を整えながら、彼女は低く呟く。


「あの銀髪の娘、まだ私の研究を邪魔するつもりですか……」


 三年前。

 黒牙商会壊滅の引き金となった少女――ルーナ。

 その名を聞くだけで、シグナの瞳には露骨な苛立ちが浮かぶ。


「それだけではございません」


 部下が続ける。


「どうやらルーナは王都へ向かっている模様です」


「――そう、ですか」


 その瞬間だった。シグナの表情が、ふっと緩む。


「ふふ……」


 器具を机に置き、彼女は薄く笑った。


「もしや彼女も、私との決着を望んでいるのですかねぇ?」


 その声音は楽しげですらある。


「ここまで来ると、かえって面白いものです」

「……シグナ様?」


 怪訝そうに部下が声をかける。


「いえ、なんでもありません。ルーナの監視は引き続きお願いします」

「はっ!」


 部下が退室すると、入れ替わるように黒髪の女が研究室へ入ってきた。


 その横顔はどこかナミとよく似ている。


 しかし身体に密着する暗紫の装束は、暗殺者の装いである。


「シグナ様」


 女は膝をつき、静かに言った。


「そのルーナという娘……ボクが始末いたしましょうか」

「いえ」


 シグナは首を横に振る。


「今はまだ、その時ではございません」


 そして意味ありげに笑った。


「彼女はしばらく泳がせておきましょう」

「承知しました」

「――ですが」


 シグナは眼鏡を指で押し上げる。


「時が来たら、頼みますよ。……クゥ」

「御意」


 短く答えると、クゥは音もなく研究室を後にした。


 短く切り揃えた黒髪。

 野獣のように鋭い碧眼。


 その姿を見送ったシグナは、ふと首をかしげる。


「……しかし。どこかで見た顔立ちですねぇ」


 しばし考え込む。

 やがて首を振った。


「……まさか、ね」


 そして再び研究台へ向き直る。

 シグナの研究は、まだ始まったばかりだった。



 それからというもの、ルーナたちは道中で何度も現れる魔物や猛獣を退治しながら、ゆっくりと王都への道を進んでいた。


『それにしても、馬車ってのろまなんだね~。ぼくだったらもっと速く進めるのに』


 退屈そうに宙を漂うアルスに、ルーナはくすりと笑って答える。


「アルスはシャチだもの。でも、これだけの人を一度に運ぶなんて、あなたにできるかしら?」

『無理!』


 あまりにも即答だった。

 そのあっけらかんとした返事に、ルーナは思わず吹き出す。


「そうでしょ。この世には得手不得手があるのよ。アルスの力が本当に役に立つのは、きっと別の時だわ」

『そうだね~』


 そんな他愛ない会話を交わしながら進むこと数日。


 やがて、ルーナたちの前に巨大な石造りの城壁が姿を現した。


 白灰色の壁は空に届くかのように高く、幾つもの塔がそびえ立っている。


「あれが王都……三年ぶりね」


 懐かしさを含んだ声でルーナが呟く。


『ニッケとベルも元気にしてるかなあ?』


 アルスの言葉に、ルーナはふっと微笑んだ。


 礼儀正しく快活な武闘家のニッケ。

 穏やかで慈愛に満ちた魔術師ベル。


 三年前の冒険を共にした仲間たちだ。


「そうね……あの二人、どうしてるかしら」

「ニッケ様とベル様のことでしょうか? あのお二人なら、きっとお元気でしょう」


 ナミも静かに頷く。


 そうして思い出話を交わしながら王都の入場列に並ぶと、早くも周囲がざわつき始めた。


「あれが名誉騎士ルーナ様……!」

「本当にシャチを連れているぞ!」

「ルーナ様がお戻りになったんだ!」


 口々に向けられる尊敬と驚きの声。


 ルーナは頬に両手を添えて照れた。


「ここまで注目されると、さすがに照れ臭いわね」

「それだけ、お嬢様の功績が王都に知れ渡っているということです」

『ぼくたち有名人だね!』

「ええ、そうみたいね」


 軽く笑ってごまかすルーナ。


 やがて、入城の順番が回ってきた。


 城門前には騎士団が整然と並んでいる。

 その中心。

 ひときわ堂々とした人物が立っていた。


 白地に金の装飾を施した軍服。

 肩から翻る深紅のマント。

 堂々と仁王立ちするその男を見て、ルーナは思わず足を止める。


「あのお方は……?」


 初めて見る人物だった。


 年の頃は二十代前半。

 やや長めに伸ばした蜂蜜色の金髪が陽光を受けて輝き、黄金の瞳が鋭く周囲を見渡している。

 体つきも鍛え上げられており、鎧を着ていなくとも武人だと分かる。


 その青年は、ルーナの姿を認めると――口元を大きく歪め、豪快に笑った。


「よくぞ来た、名誉騎士ルーナ!」

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