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わたしとシャチの異世界ペアダイブ  作者: 月光壁虎
ルーナ、再び王都へ
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改めて旅立ち

 宿屋で着替えを済ませて部屋を出ると、食堂で女将とティノが待っていた。


「おはよう、ルーナちゃん。今日から王都なんだろう? これを持っていきな」


 女将が差し出したバスケットには、具だくさんのサンドイッチがぎっしりと詰まっている。


「ありがとう、女将さん!」

「礼ならティノにも言ってやんな。具材を選んだのはこの子だよ」

「……ルーナさんが好きそうなのを選んだんだ。美味しく食べてくれたら嬉しいな」


 ティノに言われてサンドイッチを覗くと、卵サンドにイワシサンドと、ルーナの好物ばかりが並んでいた。


「ええ、本当にわたしの大好物ばかりだわ! ありがとう、ティノくんっ。大好きよ」


 感激したルーナは、ティノの頬にそっと唇を触れさせる。


「……っ!」


 ティノは頬に手を当て、みるみる顔を真っ赤に染めた。


「それじゃあ行ってきます!」

「いってらっしゃい! 無事に帰ってくるんだよ!」

「分かってる!」


 意気揚々と宿屋を出ていくルーナたちを見送りながら、ティノは赤い顔のまま俯いた。


「……ルーナさん、いつもズルいよ……」


 ――それは少年の胸にひっそりと芽生えた、淡い初恋だった。


 その頃、港町ポルタの出入口では、昨日と同じ迎えの馬車が待っていた。


 傍らには近衛隊長フリードの姿もある。


「――お待ちしておりました、名誉騎士ルーナ様。ご準備はお済みでしょうか?」

「ええ、問題ないわ。それじゃあよろしく頼むわね、近衛隊長様」

「仰せのままに」


 フリードにエスコートされ、ルーナは馬車へ乗り込む。

 お付きのナミも続いて乗車した。


 その時だった。

 ルーナは隣でアルスが不安そうにしているのに気付く。


「心配いらないわ、アルス。わたしは平気よ」

『うん……でも今日はぼくの背中に乗ってくれないんだね』

「アルス……」


 そこへ御者の鞭が鳴り、馬車がゆっくりと動き出した。


『待ってよルーナ~!』


 アルスも慌てて宙を泳ぎ出し、馬車を追いかける。


 こうして一行は、王都への道を進み始めた。


 馬車の中で、フリードは落ち着かない様子でルーナを見ていた。

 ルーナが窓から何度もアルスの様子を確認しているからだ。


「ルーナ様、ずいぶん気にかけておられるのですね」

「あら、ごめんなさい。アルスは寂しがりやだから、時々見てあげないといけないの」

「……大変なのですね」

「でも、アルスとの日々は毎日が宝物なの。だってアルスは、わたしの家族なんだもの」


 慈愛に満ちた微笑みを浮かべるルーナに、フリードは思わず見入った。


(なんと美しいお方だ……)


「……?」

「い、いえ。なんでもございません」


 フリードは慌てて姿勢を正した。


「そうだわ! 近衛隊長様にもアルスのことをもっと知ってほしいの」

「はい、お聞かせください」


 それからルーナは楽しそうに、アルスとの冒険を語り始めた。


「……アルス様は、本当にルーナ様の宝なのですね」

「そうなの! アルスには毎日感謝しかないわ」

「キュイ!(えっへん!)」


 その時、窓の外からぬっと巨大な顔が覗いた。


「わっ!」

「アルス、驚かせちゃダメでしょ」

「キュウ……」


 叱られたアルスはしょんぼりと鼻を鳴らした。


 そんな穏やかな時間を切り裂くように、馬車が急停止した。


「きゃあっ!」

「お嬢様!」


 バランスを崩したルーナを、ナミがすかさず抱き止める。


 外では兵士たちが騒然としていた。


「何事!?」


 ルーナが馬車を飛び出すと、上空に巨大な影が旋回していた。


 空飛ぶトカゲのような魔物――ワイバーンである。


「ワイバーンだ!」

「だがこの辺りに生息しているはずがない!」


 兵士たちが慌てて剣を抜く。



「ヒュゴオオオオオ!」


 空を切り裂く咆哮とともに、ワイバーンが急降下した。


 地面すれすれを掠め、尻尾を振るう。

 近衛兵が吹き飛ばされた。


「うわあああ!」

「怯むな! 魔法兵、弓兵、構えろ!」


 フリードの号令で攻撃が一斉に放たれる。

 炎と矢がワイバーンを包み込んだ。


「――やったか!」


 だが。煙が晴れると、そこには無傷のワイバーンが立っていた。


「馬鹿な……!」


 その口に炎が灯る。


「火炎ブレスだ!」


「いけない――アルス!」

『オーケー!』


「お待ちください、ルーナ様!」


 フリードの制止を振り切り、ルーナはアルスの背に飛び乗った。


『させないっ!』


 アルスが弾丸のように突進する。

 次の瞬間。


 ドゴォッ!!


 凄まじい衝撃音とともに、アルスの体当たりがワイバーンの顔面に炸裂した。


「ヒュゴォ!?」


 ワイバーンの標的が、ルーナへと変わる。


「頼んだわよ、アルス!」

『任せて!』


 ルーナの魔法が水のベールとなってアルスを包む。


 アルスが旋回し、再び加速。


 正面衝突。

 ドンッ!!


 ワイバーンが地面に叩きつけられた。


「今よ!」


ルーナは魔法陣を展開。


「スプラッシュ・ボンバー!」


 巨大な水球が空に浮かぶ。

 アルスが跳躍。

 尾びれで水球を叩き落とす。


「ヒュゴオオオ――!」


 爆発する水流。

 蒸気が噴き上がる。

 やがて霧が晴れると、ワイバーンは地面に倒れていた。


「よくやったわ、アルス!」

『えっへん! ルーナ、お魚ちょうだい!』

「はいはい。ナミ、お魚をお願い」

「かしこまりました」


 いつの間にかそばについていたナミが、収納魔法から魚の入ったバケツを取り出す。


『わーい!』


 魚を頬張るアルス。


 その光景を見て近衛兵たちは呆然としていた。


「……今のが、守護獣」

「さっきまであんなに獰猛だったのに……」


 勇猛さと愛嬌の両面を見せるアルスに、兵士たちはただ唖然とするしかなかった。

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