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わたしとシャチの異世界ペアダイブ  作者: 月光壁虎
ルーナ、再び王都へ
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二人の王子


 王都ノールセント、評議院議場。


 大理石で築かれた円形の空間に、高窓から射す白光が冷たく落ちている。


 本日の議題は「南方海域の魔物増加」。


 議場は荒れていた。


「地方の漁港など放置でよい!」


「軍を出すほどではない!」


「財政を圧迫するだけだ!」


 机を叩き、声を荒げ、責任を押しつけ合う貴族たち。


 その喧騒の中心――玉座代行席に座る若き王子は、一言も発していない。


 エリク・グランヴァイス・ノール。

 ノール王国第二王子。


 濃紺の軍服に白いマント。

 背筋は寸分の狂いもなく伸び、視線は静かに議場全体を射抜いている。


 やがて――彼の指先が机を叩いた。


 コツ。


 もう一度。


 コツ。


 それだけで、ざわめきが止まる。


 誰もが、無意識に言葉を飲み込んでいた。


 王子はゆっくりと口を開く。


「海は、王国の血流だ」


 低く、澄みきった声が石壁に反響する。


「血流を軽んじた国は、内部から腐る」


 それは感情ではなく、事実を告げる声だった。


 反論する者はいない。


 否、できない。


 エリクは一枚の書簡を掲げる。


「名誉騎士ルーナ・ダックリバー。ポルタ沖にてヒドロクラーケンを単独討伐」


 議場がざわめく。


「……偶然ではない」


 アイスブルーの瞳が、わずかに鋭く光る。


「魔物は増えているだけではない。統率されている」


 空気が変わる。


「これは漁村の問題ではない。国家の問題だ」


 断定。


 議論は、そこで終わった。


 やがて人が引き、議場は静寂に包まれる。


 残ったのは王子ひとり。


 窓の外には、曇天の王都。


 エリクは小さく息を吐いた。


「……正しいだけでは、国は救えない」


 ほんの一瞬だけ、若き少年の表情が覗く。


 だが次の瞬間には、王子の顔へ戻る。


 背後から足音。


 側近カレンが一礼する。


 やや短い金髪、黒のパンツスーツ。


 鋭い目を持つ、静かな影。


「殿下。ダックリバー家の公女を召集なさいますか」


 沈黙。


 エリクは窓の外を見たまま答える。


「召集状を発行しろ。父上の名で」


 そして続ける。


「彼女は海に選ばれた存在だ」


 わずかな間。


「王都へ」


 決断。

 少女ルーナと王子エリクの運命が、静かに動き出す。



 ノールセント王城外郭――近衛騎士団の訓練場。


 鋼と鋼がぶつかる甲高い音が、澄んだ空気を震わせていた。


「踏み込みが浅い!」


 豪快な一声と同時に、重い鉄剣が振り下ろされる。

 受けた騎士が体勢を崩し、砂地に膝をついた。


「ぐっ……!」


 勝者は一歩退き、剣を肩に担いで笑う。


「悪くない。だが実戦なら今ので首が飛んでいるぞ」


 蜂蜜色の金髪が陽光を受けて煌めく。


 鍛え抜かれた体躯に、白と金を基調とした軽装甲冑。


 その胸元には王家の紋章――跳ねる魚。


 第一王子アウリス・グランヴァイス・ノール。

 王位第一継承者にして、王国軍の象徴。


 彼は兜を外し、汗を払う。


「殿下、見事な太刀筋にございます」


 側近の騎士が恭しく頭を垂れる。


「見事も何もあるか。俺が鈍ってどうする」


 アウリスは豪快に笑い、倒れた騎士の腕を掴んで引き起こした。


「立て。お前はまだ伸びる」


 その一言で、周囲の兵士たちの背筋が伸びる。


 慕われているのが一目で分かる。


 そこへ、軍務官が慌てて駆け込んできた。


「殿下。南方海域の件でご報告が」

「ほう」


 アウリスは剣を受け渡しながら片眉を上げる。


「例の魔物増加か?」

「は。ポルタ沖にてヒドロクラーケンが出現。しかし――」


 軍務官は一枚の報告書を差し出す。


「名誉騎士ルーナ・ダックリバーが単独討伐。守護獣と共に」


 アウリスの瞳が僅かに細められた。


「守護獣……かつて王都を救ったあのシャチの公女か」


 彼は報告書を受け取り、ざっと目を通す。


「単独撃破、か。若いな」


 だがその声には侮りはない。


「殿下、第二王子殿下は慎重な調査を進言なさっております」


 その言葉に、アウリスはふっと笑った。


「エリクらしいな」


 空を見上げる。

 雲ひとつない青空。


「だがな、国は時に決断を迫られる」


 黄金色の瞳が、真っ直ぐ前を向く。


「魔物が増えるなら斬る。脅威があるなら叩く。それが王の務めだ」


 軍務官が息を呑む。


 アウリスは歩き出した。


「その名誉騎士、王都に来るのだろう?」

「は。勅命により」

「ならば会おう」


 その声音は明るく、力強い。


「海の英雄が、どれほどの覚悟を持つか――この目で確かめてやる」


 太陽を背に、深紅のマントが翻る。


 訓練場に立つその姿は、まるで王国そのものの象徴のようだった。


 ――だが、その光が強いほど、影もまた濃くなる。


 王都の地下で、別の思惑が静かに動き始めていることを、彼はまだ知らない。

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