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わたしとシャチの異世界ペアダイブ  作者: 月光壁虎
冒険の終わりと、新たな始まり
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港への帰還


 港町ポルタの漁港にて、独りの老人が海の彼方を見つめていた。


 日に焼けた皺だらけの顔。

 片目を覆う古い眼帯。


 伝説の漁師ザップドスである。


「あの娘たち……辿り着けたかのう、セレーネブルーに」


 葉巻の煙が、ゆるりと海風に溶けていく。


 四ヶ月前、若き名誉騎士ルーナと仲間たちは、この港を旅立った。


 かつて自分も目指し、そして届かなかった伝説の海を目指して。


(わしは行けなんだ……だが、あの娘は)


 物思いに沈むザップドスの視界に、やがて一つの影が現れる。


「あれは……!」


 黒と白の流線が美しい船体。

 船首には跳ね上がるシャチの木像。

 舷側には波と星の意匠。


 ――アルーナ号。

 疑いようもない。


「ほっほ……やりおったか」


 その目に、わずかに涙が滲む。


「これは港に知らせねばなるまい」


 ザップドスは杖を鳴らし、酒場酔いどれの青き鯨へ向かった。


 噂は瞬く間に広がる。


 やがてポルタの港は、人で埋め尽くされた。



 同じ頃、アルーナ号はポルタへと向かっていた。


「港が見えてきたのさ!」


 双眼鏡を掲げるエルザの声に、ルーナの胸が跳ねる。


「……戻ってきたのね、ポルタに」

「長いようで、短い旅でしたね」


 ナミがそっと肩に触れる。


 ティノは船尾に立ち、後方を見ていた。


「……こんな派手な魚群を連れて帰ったら、驚くよね」

「ひっくり返るのさ、間違いなく!」


 アルーナ号の後ろを、金色の魚群が続いている。


 まるで、海そのものが祝福しているかのように。


「まさかお魚たちまでついてくるなんて」

「お嬢様への返礼でしょう」

『このお魚おいしーよね!』


 アルスがつまみ食いをしながら言う。

 それでも魚群は離れない。


 そして――


「あれって……!」


 ティノが指差す。


 港は、人、人、人。


「名誉騎士様ー!」

「ご無事で!」


 歓声が波のように押し寄せる。


「みんなー! ただいま!」


 ルーナが手を振る。


 アルーナ号は錨を下ろし、彼女たちは陸へ降り立った。


 押し寄せる人々。


「ちょ、ちょっと……苦しいわ」


「さすがルーナなのさ!」


 笑い声が溢れる。

 そこへ、宿屋の女将が歩み出る。


「エルザ、ティノ……!」


 次の瞬間、二人は強く抱きしめられた。


「帰ってきてくれて……本当に、よかった……!」


 ティノの喉が詰まる。


 エルザは照れ笑いを浮かべながら、涙を拭った。


 ナミはその光景を少し離れて見守る。


「ここが……帰る場所」


 小さく、呟く。


 人混みを割って現れたのは、ザップドス。


「よく戻った」

「ザップドスさん。……行ってきましたわ、セレーネブルー」


 ルーナは丸い光貝を差し出す。


 港のざわめきが止まる。


「ほう……」


 ザップドスの目が細まる。


「見たことねぇ貝だぞ!」

「本当にあったのか……!」


 さらに声が上がる。


「海が……金色だ!」


 振り向けば、港の海面が黄金に染まっている。

 歓声が爆発する。


「セレーネブルーから来たお魚よ!」

「うまいのさ!」


 笑いと驚きが渦巻く。


 ――後に金色イワシと名付けられるその魚は、ポルタの誇りとなる。


 だが。

 その輝きの裏に、一頭のシャチの犠牲があったことを、ルーナだけは忘れない。




 夜。宿屋へ戻ったルーナは、窓から海を見つめた。


「……本当に、帰ってきたのね」

「左様でございます」


 ナミがそっと寄り添う。


「探検少女は忙しいのさ! 冒険譚を書かねば!」

「エルザさん、待って!」


 駆け去る二人。


 静かな笑いが残る。


「また慌ただしくなりそうですね」

「ええ。でも、それも嫌いじゃないわ」


 振り向くと、宙を漂うアルス。


「アルス。今日まで、本当にありがとう」


 そっと口づける。


『うん! また明日!』


 ルーナは、ほんの一瞬だけ空を見上げる。


(モルド……あなたの海は、守られたわ)


 夜の海は、穏やかに輝いている。


 だがその深奥で、まだわずかな揺らぎが残っていることを――彼女は、知っていた。


 セレーネブルーは守られた。


 けれど、物語はまだ終わらない。

 光貝は、静かに次の時代を待っている。

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