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わたしとシャチの異世界ペアダイブ  作者: 月光壁虎
冒険の終わりと、新たな始まり
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73/97

港への帰還

*


 港町ポルタの漁港にて、独りの老人が海の彼方を見つめていた。


 日に焼けた皺だらけの顔。

 片目を覆う古い眼帯。


 伝説の漁師ザップドスである。


「あの娘たち……辿り着けたかのう、セレーネブルーに」


 葉巻の煙が、ゆるりと海風に溶けていく。


 四ヶ月前、若き名誉騎士ルーナと仲間たちは、この港を旅立った。


 かつて自分も目指し、そして届かなかった伝説の海を目指して。


(わしは行けなんだ……だが、あの娘は)


 物思いに沈むザップドスの視界に、やがて一つの影が現れる。


「あれは……!」


 黒と白の流線が美しい船体。

 船首には跳ね上がるシャチの木像。

 舷側には波と星の意匠。


 ――アルーナ号。

 疑いようもない。


「ほっほ……やりおったか」


 その目に、わずかに涙が滲む。


「これは港に知らせねばなるまい」


 ザップドスは杖を鳴らし、酒場酔いどれの青き鯨へ向かった。


 噂は瞬く間に広がる。


 やがてポルタの港は、人で埋め尽くされた。


*


 同じ頃、アルーナ号はポルタへと向かっていた。


「港が見えてきたのさ!」


 双眼鏡を掲げるエルザの声に、ルーナの胸が跳ねる。


「……戻ってきたのね、ポルタに」

「長いようで、短い旅でしたね」


 ナミがそっと肩に触れる。


 ティノは船尾に立ち、後方を見ていた。


「……こんな派手な魚群を連れて帰ったら、驚くよね」

「ひっくり返るのさ、間違いなく!」


 アルーナ号の後ろを、金色の魚群が続いている。


 まるで、海そのものが祝福しているかのように。


「まさかお魚たちまでついてくるなんて」

「お嬢様への返礼でしょう」

『このお魚おいしーよね!』


 アルスがつまみ食いをしながら言う。

 それでも魚群は離れない。


 そして――


「あれって……!」


 ティノが指差す。


 港は、人、人、人。


「名誉騎士様ー!」

「ご無事で!」


 歓声が波のように押し寄せる。


「みんなー! ただいま!」


 ルーナが手を振る。


 アルーナ号は錨を下ろし、彼女たちは陸へ降り立った。


 押し寄せる人々。


「ちょ、ちょっと……苦しいわ」


「さすがルーナなのさ!」


 笑い声が溢れる。

 そこへ、宿屋の女将が歩み出る。


「エルザ、ティノ……!」


 次の瞬間、二人は強く抱きしめられた。


「帰ってきてくれて……本当に、よかった……!」


 ティノの喉が詰まる。


 エルザは照れ笑いを浮かべながら、涙を拭った。


 ナミはその光景を少し離れて見守る。


「ここが……帰る場所」


 小さく、呟く。


 人混みを割って現れたのは、ザップドス。


「よく戻った」

「ザップドスさん。……行ってきましたわ、セレーネブルー」


 ルーナは丸い光貝を差し出す。


 港のざわめきが止まる。


「ほう……」


 ザップドスの目が細まる。


「見たことねぇ貝だぞ!」

「本当にあったのか……!」


 さらに声が上がる。


「海が……金色だ!」


 振り向けば、港の海面が黄金に染まっている。

 歓声が爆発する。


「セレーネブルーから来たお魚よ!」

「うまいのさ!」


 笑いと驚きが渦巻く。


 ――後に金色イワシと名付けられるその魚は、ポルタの誇りとなる。


 だが。

 その輝きの裏に、一頭のシャチの犠牲があったことを、ルーナだけは忘れない。




 夜。宿屋へ戻ったルーナは、窓から海を見つめた。


「……本当に、帰ってきたのね」

「左様でございます」


 ナミがそっと寄り添う。


「探検少女は忙しいのさ! 冒険譚を書かねば!」

「エルザさん、待って!」


 駆け去る二人。


 静かな笑いが残る。


「また慌ただしくなりそうですね」

「ええ。でも、それも嫌いじゃないわ」


 振り向くと、宙を漂うアルス。


「アルス。今日まで、本当にありがとう」


 そっと口づける。


『うん! また明日!』


 ルーナは、ほんの一瞬だけ空を見上げる。


(モルド……あなたの海は、守られたわ)


 夜の海は、穏やかに輝いている。


 だがその深奥で、まだわずかな揺らぎが残っていることを――彼女は、知っていた。


 セレーネブルーは守られた。


 けれど、物語はまだ終わらない。

 光貝は、静かに次の時代を待っている。

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