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わたしとシャチの異世界ペアダイブ  作者: 月光壁虎
ルーナたちは海へ出る
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船上の夜

 船内に設えた食堂では、エルザが鼻歌まじりに腕を振るっていた。


「夕飯ができたのさー!」


 お玉をカンカンと鳴らす音に呼ばれ、ルーナたちは次々と食堂へ集まる。


「今日は獲れたて新鮮! ホワイト鮭のクリームシチューなのさ!」


 差し出された皿には、なみなみと注がれた白いシチュー。

 根菜の彩りの中で、アルスが昼に獲ったホワイト鮭の切り身がふっくらと浮かんでいる。


「まあ……とても美味しそう」

「エルザさん、料理もできるんだな」

「当ったり前なのさ! 伊達に宿屋の看板娘やってないからな!」


 胸を張るエルザに、自然と笑いがこぼれる。


「それでは……いただきます」


 ルーナが両手を合わせると、ナミがふと首を傾げた。


「その所作……わたくしが教えたものではございませんね」

「あ、うん。食材になった命に、感謝を伝えているの」

(……そういえば、これはノールの作法じゃないわね。前世の癖、かしら……)


 一瞬考え込むルーナに、ナミは目を細めて微笑んだ。


「お嬢様は、日頃からそのような慈しみをお持ちなのですね。尊いことです」

「もう、ナミったら……」


 照れながら口に運ぶと、濃厚で優しい味が広がる。


「……とっても美味しい!」

「確かに、女将様の料理にも引けを取りませんね」

「……おいしい……!」


 感想を聞いて、エルザは快活に笑った。


「はっはっは! 探検少女エルザにかかれば、このくらい朝飯前なのさ!」

「エルザさん、おかわり……」

「ティノくん、早っ!?」


 気づけばティノはすでに皿を空にしていた。


「もちろんあるのさ! 遠慮はいらないぞ!」

「あ、ありがとう……!」

「わたしもおかわりお願い!」


 燭台の灯りに照らされた食卓は、終始にぎやかだった。





 食後、ルーナは甲板に出てアルスを呼ぶ。


「アルス~、ごはんよ~」

『はーい!』


 暗い海からアルスが顔を出し、勢いよく船縁に乗り上げる。


「今日はあなたが獲ったホワイト鮭もあるわよ」

『わーい!』


 差し出された鮭を、アルスは豪快に丸呑みした。


「これからも、あなたの漁獲力に期待してるわ」

『任せてよ!』


 口づけを受けて、アルスは誇らしげに胸を張る。

 ほんのり魚の匂いがする息さえ、ルーナには愛おしかった。


 気づけば夜はすっかり更け、空には無数の星が瞬いている。


「……何も遮るものがない場所で見る星空って、こんなに綺麗なのね」


 甲板に腰を下ろし、ルーナは空を仰ぐ。


 そこへ、船内からティノが顔を出した。


「ルーナさん、まだ起きてたんだ」

「あら、ティノくんも?」

「ああ……星を見たくなって」


 並んで座ると、ティノが指を伸ばす。


「……あれ、春の大三角だ」

「星にも詳しいのね」

「海じゃ、星が道しるべになるって……父さんが」


 言葉を落とし、ティノは膝を抱えた。


 ルーナはそっと肩を寄せる。


「大切な思い出なのね」

「ああ。でも……今は、新しい思い出を作ってる。みんなと、この航海で」

「ふふ、ロマンチックね」

「……悪いか?」


 二人は小さく笑い合った。


 そこへナミが毛布を抱えて現れる。


「夜風が冷えますよ」


 そっと肩に掛けられた毛布の温もりに、ルーナは微笑んだ。


「ありがとう、ナミ。一緒に星を見ましょう」

「喜んで」


 三人は静かに星空を眺め続けた。





 ――いつの間にか夜は明けていた。


「……ん……」


 冷たい甲板で目を覚ましたルーナの視界に、にやにやとしたエルザの顔が映る。


「やっと起きたな」

「どうしたの、その顔」

「いや~、いいおねーちゃんしてたな~って思ってさ」


 胸元を見ると、ティノが寄り添うように眠っていた。


「あら……」


 その寝顔に微笑んだ瞬間、ティノが目を開く。


「……ルーナさん?」

「おはよう、ティノくん」

「……っ!?」


 状況を理解したティノは、慌てて飛び退いた。


「ご、ごめんなさい!」

「どうして謝るの?」

「いや、その……オレ……!」


 しどろもどろになる様子に、ルーナは首を傾げる。


 そこへ――


『ルーナ! おはよー!』


 海からアルスが豪快に現れ、水しぶきが舞う。


「おはよう、アルス」

『えへへ~』


 顔を撫でられて喜ぶアルスを見て、ティノは胸に小さな痛みを覚えた。


(……なんだよ、オレ……)


「――それでは、本日も航海に出発いたしますよ」


 ナミの声に、船は再び前へ進み始める。


 アルーナ号は今日も、静かな海路を辿っていくのだった。

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