復旧と表彰
焼け焦げた王都に、ようやく朝日が昇った。
通りには瓦礫を運ぶ人々の声が響き、騎士団の号令が復旧の合図となっている。
ニッケとベルもまた、荷車を押しながら笑い合っていた。
「――終わってみたら、あっという間でしたね」
「うん。でもさ、みんなが力を合わせて街を甦らせようとしてる……なんか、すごくきれいだね」
「ですねっ」
二人は顔を見合わせて微笑み、再び手を動かす。
彼女たちの笑顔の奥に、戦いを生き延びた喜びと誇りが宿っていた。
一方その頃、ルーナは町外れの診察所で静養していた。
包帯に包まれた腕を見つめながら、どこか落ち着かない様子でつぶやく。
「わたしたち……本当にこうして休んでいていいのかしら」
そんな彼女にナミが控えめに言葉を返す。
「お嬢様は十分にお働きになりました。王都を救ったのは、まぎれもなくあなたです」
「それは……嬉しいけど」
釈然としない気持ちのまま、ルーナは窓の外を見やった。
人々が瓦礫を片づけ、焼けた屋根を直している。
その一つひとつの動きが、確かな生の証に見えた。
(みんなが頑張ってるのに、わたしだけ休んでいていいのかしら……)
思考の迷いを破ったのは、外から聞こえた元気な声だった。
『ルーナ!』
「あら、アルス。調子はどう?」
『ぼくはもう平気! ほらね!』
宙をくるりと泳ぐアルスに、ルーナは思わず笑みをこぼす。
「ふふ……そうね。わたしも早く元気にならなくちゃ」
そのとき扉がノックされ、ニッケとベルが果物籠を手に入ってきた。
「ルーナさん! お見舞いです!」
「まあ、ありがとう。退屈してたところなのよ」
二人と会話を交わすうちに、ルーナの頬にも再び血色が戻っていく。
「復旧の調子は?」
「みんな頑張ってますよ! ウチらも一生懸命!」
「うん! 王都、またきっと元に戻るよ!」
「ええ……そうね」
ナミが微笑んで言葉を添える。
「今は、癒しの時間です。お嬢様が倒れてしまっては、皆が困ります」
「分かったわ。もう少しだけ、休むことにする」
ルーナはベッドに背を預け、静かにまぶたを閉じた。
――それから十日後。
王都が完全に復興した日、王宮では盛大な表彰式が開かれた。
謁見の間に入ると、王や貴族、騎士団、そして民の代表がずらりと並ぶ。
「ルーナ・ダックリバー殿、並びにアルス殿」
「はいっ」
「キュイ!」
二人が歩み出ると、国王は深くうなずき、朗々とした声で言葉を述べた。
「此度、黒牙商会の暴挙を鎮め、王都を守ったその勇気、まことに天晴れ。ここに両名の功績を称え、表彰する」
拍手が鳴り響き、ルーナの胸が熱くなる。
国王の侍従が差し出したのは、蒼い盾を象った勲章だった。
「ルーナ・ダックリバー殿。汝を蒼水の盾の名誉騎士として叙す」
「そ、そんな……! わたしが名誉騎士だなんて……!」
戸惑うルーナの肩を、隣のアルスが軽くつつく。
『ルーナ、すごーい! ぼく、誇らしい!』
彼の無邪気な喜びように、会場が笑いに包まれる。
続いて、国王はアルスへも微笑みかけた。
「シャチのアルスよ。そなたには王国の守護獣の称号を授ける」
「キュイ?(それっておいしいの?)」
キョトンとしたアルスに、王の威厳ある表情が一瞬だけ柔らかく緩む。
「ふふ……勇敢なる友よ。これからも人々を導いてくれ」
その光景に、ルーナは自然と胸が熱くなった。
「わたし、ルーナ・ダックリバーは誓います。
二度と誰かが涙を流す世界にはしません。――この命に代えても」
謁見の間が再び拍手で満たされ、表彰の幕は静かに閉じた。
――表彰式から数日後、王都では黒牙商会の一連の事件の処分が正式に下された。
首謀者ヴァイゼン・クローフは極刑に処され、関係していた貴族らも一斉に罷免された。
けれど、すべてが終わったわけではない。
残された研究資料の一部は何者かに持ち去られ、行方不明の研究員――シグナ・レミリアの姿も依然として見つからなかった。
「また、きっとどこかで動き出す……そんな気がします」
報告書を閉じながらナミが言うと、ルーナは穏やかにうなずいた。
「ええ。でも、今は王都が平和を取り戻した。それが何よりだわ」
窓の外では、市場の喧騒が戻ってきていた。
子どもたちが笑いながら駆け回り、露店の呼び声が久々に響いている。
――戦火に包まれたあの日の光景が、まるで遠い夢のように思えた。




