フロッグマン退治
盛大な水しぶきを上げてフロー川に飛び込んだアルスは、すぐさま超音波によるエコーロケーションを行った。
『えーっと、フロッグマンは……あ、いた!』
川の深場に反応を見つけたアルスは、尾びれを高々と水面に掲げると、そのまま潜水していく。
巨体でも余裕を持って泳ぎ回れるほどの水中で、彼は積み重なった流木の影に蠢く影を見つけた。
『いたいた! まとめて出しちゃえ!』
勢いよく体当たりすると、流木が豪快に弾け飛び、隠れていたフロッグマンの群れが一斉に姿を現す。
「ケゴ……!?」
『みぃーつけたっ!』
数十匹はいるフロッグマンが慌てて水を蹴って逃げる。
それをアルスが巨体で追い立て、波を立てながら川岸へと押しやった。
『ルーナ~! 追い込んだよ!』
「よくやったわ、アルス! このまま退路を塞いで!」
『オッケー!』
アルスは水面から飛び上がるようにして岸に陣取り、巨体で川への逃げ道をふさぐ。
「ケゴ、ケゴケゴッ!」
追い詰められたフロッグマンたちが錆びたナイフを抜き、ルーナに飛びかかろうとする。
『ルーナ、危ない!』
「――任せてください! ライトニング・パンチ!」
雷光をまとったニッケの拳が横合いから叩き込まれ、フロッグマンの一匹がバチバチと痙攣しながら吹っ飛んだ。
「ケゴオオオ!!」
「次は私だよ! ロック・ブラスト!」
ベルの杖から石礫の弾丸が雨のように放たれ、複数のフロッグマンを直撃。
「ケゴ!?」
「ケゴゴー!!」
仲間が次々倒れ、怯えたフロッグマンたちが退路を求めてアルスのほうへ殺到した。
「アルス!」
『まかせといて! とりゃーっ!』
突進してきた一匹をアルスが尾びれでフルスイング。
フロッグマンは「ケゴオオオ!?」と悲鳴をあげながら空高く打ち上げられ、遠くの草むらに突き刺さった。
残りの群れも足を止めて硬直する。
「ケゴ……!?」
その隙をニッケとベルが逃さず、的確に撃破していく。
「まさか、こんなにスムーズに……!」
「アルスがいてくれるから心強いわ!」
『えへへ~! ぼく大活躍でしょ?』
自慢げなアルスの顔を、ルーナはワシャワシャと撫でながら褒めてやった。
さらにアルスは得意げに声を張る。
『あ、そうだ! まだ川底にも隠れてたよ! 次はぼく一人でやっつけちゃう!』
「本当? ならお願いするわ!」
アルスは嬉々として再び水中へダイブし、残党を豪快に叩き上げ始めた。
水面からフロッグマンがポンポン打ち上がり、まるで水上ショーのような光景にニッケとベルも呆気にとられる。
「こ、これじゃ討伐というより芸ですね……」
「でも助かるよ~!」
そこらに転がるフロッグマンの死体を前に、ニッケがこんなことを。
「ルーナさんも解体をしてみてはいかがでしょうか?」
「えっ!?」
突然のニッケの提案に、ルーナはぎょっとしてフロッグマンの死体を凝視してしまう。
「これを……わたしが?」
「はい! 慣れればどうってことないですよ!」
「――ハンターとして活動する以上、お嬢様も経験する必要があるでしょう」
「そ、そうね。……やってみるわ」
ナミの落ち着いた声に背中を押され、ルーナは恐る恐るナイフを握った。
目の前には、さっきまで動いていたフロッグマンの亡骸。
「これを……わたしが……!」
ごくりと唾を飲み込み、震える手で腹部に刃を入れる。
ぶよりとした皮膚を割り、内臓を裂く感触が指先に伝わった瞬間――鉄のような血の匂いが鼻腔を突いた。
「う……っ!」
思わず顔をしかめるルーナ。
「お嬢様……大丈夫ですか?」
「ええ、わたしは平気よ……。これにも慣れなくちゃ」
ナミに心配されながらも、ルーナは必死に自分を奮い立たせ、刃を奥へと進める。
やがて――心臓の近くに、緑色の結晶が姿を現した。
「これが……魔石……!」
震える指でつまみ上げ、日差しにかざす。
濡れた結晶はきらりと光を反射し、思いがけず美しい輝きを放った。
「きれい……! 魔物の体内にあったとは思えないくらい……」
「魔石は武器や魔法アクセサリーの素材になるんだよ!」
「そうなのね、ベル!」
ベルの解説に目を見開き、ルーナの心に芽生えるのは恐怖ではなく好奇心だった。
「それなら……やる気が出てきたわ!」
さっきまで腰が引けていたのが嘘のように、ルーナは積極的に解体へと手を動かし始める。
最初の一歩を踏み出した彼女の顔には、確かな成長の色が宿っていた。
そうして気がつけば、ルーナたちは百匹近いフロッグマンを討伐して、魔石もたんまりと獲得していたのである。
『ねえねえルーナ! ぼく、がんばったよね!』
「ええ、とっても偉いわ。あなたは最高の相棒よ!」
『えへへっ! それじゃあお魚ちょうだい!』
大きな口をパカッと開けるアルスに、ルーナは苦笑した。
「もう、アルスも相変わらずなんだから~。――ナミ、お願いっ」
「かしこまりました、お嬢様。――コネクト」
ナミが接続魔法で取り出した川魚の束を、ルーナはアルスの口に放り込む。
『うん! 川魚もいいね!』
「まだまだあるから、たっぷり食べてちょうだい」
『わーい!』
川魚をたっぷりもらえて、アルスもご満悦だ。
するとベルが控えめに手を挙げる。
「ねえルーナちゃん、私もアルスくんにお魚あげてもいいかなあ?」
「もちろん! どうぞっ」
ルーナから魚を受け取ったベルは、恐る恐るアルスに差し出した。
「か、噛まないよね?」
「アルスはそんなことしないわ。ねっ、アルス」
『うん、ぼく噛んだりしないよ!』
勇気を出してえいやっと放り込むと――。
『ぱっくん!』
魚を丸呑みするアルスに、ベルの瞳がきらりと輝く。
「はわ~っ、アルスくん可愛すぎるよぉ!」
感極まってアルスの顔に抱きつくベル。
その胸元が思いきりアルスの頬に押し付けられ――。
『……ん、なんかムニムニする?』
キョトンとするアルスの言葉に、ルーナの視線は思わずベルの胸元へ。
普段はローブで隠れていたが、よく見ればナミを凌ぐほどの豊かな膨らみがそこにあった。
「で、デカ……っ!」
無意識に漏れたルーナの声。
すぐさま彼女はベルを引き剥がした。
「それ以上はダメ~っ!!」
「え~っ、どうして~?」
「ダメなものはダメなの! アルスが変な子になっちゃったら困るでしょ!」
『え~? でもムニムニで気持ちよかったよ?』
「アルスまでそんなこと言わないのっ!!」
あっけらかんと笑うアルスに、ルーナは両手で自分の胸を覆い、うなだれる。
「わたしだって……これから成長するんだから……!」
まだ発育途上の胸をさすりながら、心の中で密かに闘志を燃やすルーナであった。




