次なる依頼
花祭りを満喫して宿屋【サンフラワー】に帰ってきた頃には、すっかり夕暮れになっていた。
「今日のお祭り、とっても楽しかったわ!」
「ですね! 今日はサイコーの日でした!」
「楽しかったよね!」
宿屋の廊下で笑い合う三人に、ナミはコホンと軽く咳払いをして切り込む。
「楽しむのもたまにはよろしいですが、明日からはまた依頼で危険も伴います。お嬢様が無事でいられるよう、わたくしも気を引き締めますので」
「そうね、ナミ。明日からまた頑張るわ」
「それじゃあウチらはここで失礼します!」
「おやすみルーナちゃん、ナミさんっ」
「明日もよろしくね、二人とも」
「よい夜を」
ニッケとベルが部屋に戻ったところで、ルーナとナミも自室に入る。
ルーナは机に向かい、昼間に買ったアクセサリーを取り出して眺めた。
「貝殻の髪飾りはともかく、これはどう見てもシャチよね……。ユラさんは夢に見たって言ってたけど、こんなリアルに作れるものなのかしら」
手にしたガラス細工は形も配色も、本物のアルスをそのまま小さくしたかのようだった。
窓の外で宙に漂いながら居眠りしているアルスを見やり、ルーナは思わず笑みを浮かべる。
「……まあ、考えてもしょうがないわね」
ガラス細工を机に置くと、ルーナはベッドに身を沈め、明日への期待を胸に眠りについた。
翌日。宿屋で朝食を済ませたルーナたちは、ハンターギルドへと向かう。
「今日は何の依頼を受けようかしら。楽しみだわ」
「今回もよろしくお願いしますね、ルーナさん!」
「私たちも頑張るよ!」
「ええ、今回も一緒に頑張りましょう」
結束を確かめ合うように声を合わせるルーナたち。その背後ではアルスが大きな声で張り切った。
『ぼくも全力でいくぞ!』
「頼りにしてるわ、アルス」
ルーナが頬にキスをすると、アルスは嬉しそうに尾びれを揺らす。
ギルドに入ると、受付嬢のアイリスがいつもの柔らかな笑みで迎えた。
「いらっしゃいませ~」
手には水やりを終えたばかりの鉢植えを抱えていて、その仕草はまるで花を差し出すように自然であった。
「あのっ、アイリスさん! 今日はどんな依頼がありますか!?」
勢い込むルーナに、アイリスは小さく頷き、依頼書を両手で丁寧に差し出した。
「鬼ネズミを刈り取った皆様なら、次の花のつぼみを咲かせるのにふさわしい依頼がございます。こちらなどいかがでしょう?」
依頼書には、二本足で立つカエルのような魔物の絵と「フロー川」という地名が記されている。
「――なるほど、フロー川に住み着いたフロッグマンの討伐ですか」
ナミが依頼書を確認する横で、ルーナは人差し指を立てて得意げに口を開く。
「フロッグマンって、川辺に住むカエルみたいな魔物よねっ」
「その通りでございます。お嬢様の勉強の成果がきちんと身に付いていて、わたくしも嬉しい限りです」
ナミが微笑むと、ルーナは即座に決断した。
「それならこれ、受けるわ!」
「かしこまりました。成功の花が開くことをお祈りしています」
依頼を受け終えたルーナたちは、フロー川へと向かうのだった。
アルスの背に乗ってフローラを出発したルーナたちは、町の外の平原をゆったりと進む。
ふとナミが口を開き、ルーナに問いかける。
「お嬢様、ここで少し復習といたしましょう。――魔物と普通の生物の違いは何でしょう?」
「簡単ね、体内に魔石を持つのが魔物でしょ」
「半分正解です。確かに魔物は魔石を持ちますが、それによってどんな特徴があるでしょうか。次の問題ですよ」
「うーん……」
ルーナはこめかみに指を当てて考え込むが――。
「はいはーい!」
と挙手したのはニッケだった。
「魔物は魔力で不思議な力を使います!」
「ニッケ様……これはルーナお嬢様への問題ですが。……正解ではあります」
不服そうに眉をひそめるナミは、冷静に続けた。
「魔物は種族ごとに特化した能力を持っています。フロッグマンであれば、水辺では常人以上の敏捷さを発揮します」
「中には魔法を使う魔物もいるんだよね!」
とベル。
「そうですね、ベル様。……ルーナお嬢様も、もう少し復習が必要のようです」
「むぅ……わたしだって頑張ってるのにっ」
ナミにたしなめられ、ルーナは口を尖らせる。
『気にしないで。ルーナも十分賢いよ』
「うふっ、ありがとね、アルス。――よーし、いざフロッグマン討伐よ!」
ルーナはアルスの頭をワシャワシャと撫で、改めて気合いを入れた。
やがて、一行は穏やかに流れる川へとたどり着いた。
「ここがフロー川ですね。調べでは、川魚がよく釣れるそうですよ」
『お魚!?』
目を輝かせるアルスに、ルーナは笑いながらたしなめる。
「アルス、わたしたちは釣りに来たんじゃないのよ?」
『えへへ、ごめんごめん』
だが、ニッケが首をかしげる。
「それにしても変ですね。釣り人の一人や二人いても良さそうなのに」
周囲を見渡すと、人気のあるはずの川辺には人影すらない。
「……フロッグマンのせい、だよね」
「なら、釣り人さんのためにも早く退治しなきゃ!」
ベルの声に、ルーナも俄然意気込むが、あたりに魔物の姿はない。
『なんにもいないよ?』
「そ、それもそうね……」
拍子抜けするルーナに、ナミが静かに補足する。
「フロッグマンは乾燥に弱いゆえ、日中は川に潜んでいるのでしょう」
「川の中、か……」
出鼻をくじかれたルーナのスカートを、アルスが口で軽く引っ張った。
『ルーナ、ぼくに任せて!』
「――そっか! 水中ならアルスがいるじゃない!!」




