The Game 23
つい先程まで市職員の頭があった箇所を、鉢植えが通り過ぎた。
陶器製のそれは消失物だ。
だがショックを受けたのは、その一歩間違えれば死亡していた攻撃ではなかった。
目の前の風景こそが衝撃的だった。
「どうして、ここに」
句丹間の高層建築物があった。
位置関係としてもっと北になければならないはずだ。
しかし現在、なぜか目の前の道路中央から生えていた。
「あ」
その最上階にいる人の手が見えた。
おそらくはPさんのそれが、追加で鉢植えを落とそうとしていた。
そのマンションは、もはやまっすぐ建ってはいない。
巨人が足元の小人を覗き込む――そんな連想をさせる異常さで傾いた。
そして、押し出す手はPさんだけではなかった。
そのマンションのすべての窓から、ゆっくりと鉢植えが落ちようとしていた。
斜めとなったその建物は、角度として中から人が滑り落ちなければおかしい。
だが、そんな重力など無視して、老若男女、ありとあらゆる人の手が、陶器の群れを落下させた。
「うそぉ!?」
戻ろうとするが、すでに背後の建物は動いた後だ、通ってきた穴の位置は変わっている。
ただのコンクリートの壁しかない。
「走れ!」
着ていた上着を上に掲げながら走る。
ただの気休めだ、直撃すれば盾にすらならない。
「ひえ、ひええ!?」
目算で50個以上。
学校の二クラス分の人数が一斉に硬いものを投げて寄越す状況だ。
盛大な破砕が地面で鳴り響いた。
だが、第一陣をどうにかやり過ごした。
肩に喰らい半ば脱臼しただけで済んだ。
「職員さん!」
Uさんは無事だ。
直剣で全て叩き落としていた。
だが、第二陣となるとわからない。
落下速度を測られた、走るこちらに合わせることが可能となった。
建物がさらに異様に身を捩る、窓と地面がほとんど水平になっている。
声はない、視線すらない、だが、建物の奥に潜む暗闇には、直撃して倒れ伏すこちらの姿を望む暗い歓びがあった。
この獲物は、存外しぶとく生き残る。
だが、それだけだ、何も出来ない。
彼らはここまで来れない、抗えない、反撃などできはしない。
さあ、次だ――
「この……!」
思い思いのタイミングで降り注ぐ落下物。
鉢植えが尽きたのか、まな板や包丁すらあった。
物理的重量を伴う雨を防ぐ方法はない。
逃げ場所も、同様に無かった。
せめて被害を最小限にしようとそれらの落下物を注視するが――
「気に入らないですね」
弾かれた。
全て残らず一斉に。
その声は市職員でも、Uさんのものでもなかった。
こちらを覗き込む句丹間の高層建築物、それが、アッパーカットを食らったかのようにのけ反った。
「そういう見下しをするから、嫌われるんですよ」
すぐ前に、別の建物が生えていた。
団地だった。
複数生えたそれらが、高層建築を取り囲んでいた。
「手を動かすだけで人が苦しむのが、そんなに嬉しいんですか?」
Nさんだ。かつて隣人の不審を相談し、コンビニで妙なものを購入しかけた人だ。
その人が、見える限り何人もいた。
複数生えた団地それぞれの屋上にいた。
「北で偉そうにしている連中が、ここに来て好き勝手をしないでください!」
おそらく、夢操者によるパワーアップだ。
本来は、市職員を妨害するための力だった。
だが、その意識操作は「明救市民を傷つけない」という約定により外れた。
NさんはNさん自身の意思で力を行使している。
北にあるもっとも高い建物と、南にある集合住宅。
その二つの間に緊張が走り、すぐさま激突した。
まるで人ではないものが行う相撲だ。
コンクリート片がぼろぼろと盛大にこぼれる。
建物が身を捩り、すり足のように突き進み、衝突を何度も繰り返す。
高層の建物内からは悲鳴と助けを求める声が響いていたが、さすがに後回しにせざるを得ない。
「あそこ!」
「うん」
四車線道路を土俵に繰り広げる戦いの横を通り過ぎ、目標となる場所へと向かう。
工事中のホテルMYOUGUだ。
「なんだ、こりゃ」
その前には、建築物相撲を呆然と見るMさんがいた。
Zさんに敗北をもたらした人だ。
どうやら門番のようなことをしていたらしい。
「シィ!!」
ものも言わずにUさんが斬りつけた。
反射的に避けたMさんに、直剣による追撃を振り抜く。
「あぶっ!?」
「行ってください!」
言霊使いのような人を封じる手段は、喋らせるよりも先の先制攻撃だ。
「わかった、助かる」
「行くな! いや、違う、立ち止まる――」
「喋らせるか!」
「この――」
工事現場を示すそこを通り抜けて進む
内部は暗く、昼間であるのに薄暗い。
そこをひたすらに駆け。
「上だ……」
内部にある階段を登った。
P
鉢植え
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