表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/126

The Game 22

道を完全に塞いでいないのは、これがまだゲームの一環だからか。


あるいは、建物を動かす電柱が微動だにしていない以上、限界があるのかもしれない。


「行けないんですけど、このままだと進めないんですけど!」


だが、苦境であることに変わりはない。

ホテルはあともう少しだというのに、行くことができない。


「もお……!」

「がんばれ」

「これ、車だと絶対行けませんよ! 全部の道が向こうの思い通りになってます!」

「かといって走って向かうことも難しい」


周囲の光景は変わり続ける。

岩をつけた電線は、刻一刻とその数を増し、ぶんぶんと振り回している。


「なんでそんなに冷静なんですか!?」

「もうすでに各所に連絡を送った。仮にここで死亡したとしてもZさんは助かる」

「間違いなく私も死ぬんですけど!?」

「……大丈夫だ」

「職員さん?」

「なんだ」


忙しなく運転をするUさんに、横目で強く睨みつけられた。


「万が一私が死んでも改変させて復活させればいいよね、とか思ってませんよね?」

「……まさか」

「顔そらしながら言わないでくださいよ!」

「残機があるゲームって気楽だとは思わないか?」

「くそう、世界の常識がヘンなことになってる……生き残ってやる、絶対、生き残って、新刊読むんだ……!」


巨大な怪物と岩の群れによる襲撃だ。

これに壊されたのなら死体はミキサーにかけられたように粉砕され、容量も減るかもしれない。


その場合はUさんを優先するよう頼んではいた。

なのできっと安心だ。


「また職員さんが変なこと考えた!」


叫びながら行う何度目かのUターン。

だが減速したそのタイミングで、フロントガラスを何かが覆った。


「へ」


真っ黒なそれを、瞬時には理解できなかった。

運悪くカラスが衝突したのかと思ったが、違う。


艶めいたその表面には、英字の筆記体があった。


「I don't want to be burned.(私は燃やされたくはない)」


ジャケットだった。

かつてOさんをそそのかし、その後、引き取られたものだ。


それが、能動的に視界を塞いだ。

Bさんを思わせる状況だが、周囲が違う。


同時に、待っていたとばかりに一斉に足音がした。


「ここで止まるな! 事故を起こしてもいい、アクセルを!」

「え、進まない、なんで……!?」


タイヤは空転するばかりだった。

僅かに呆然とした隙をつき、巨大な黒い人影に囲まれていた。


ニヤニヤと笑う彼らが、大人数で車を持ち上げた。


「悪い」


沈痛な表情のOさんが、ジャケットを取り外して着ながら言った。


「やらなきゃいけない、らしい。本当に、趣味じゃねえんだけどな、こういうのは」


呻くように言った。

かつて見えない太っちょにナイフで怪我を負わせ、ジャケットに関連する異変に巻き込まれた人が、完全に敵対していた。


見晴らしの良くなったガラスの向こうでは、巨大なビニール製の怪物が、全体重を乗せた一撃を振り下ろそうとしている。


「!」


瞬時にシートベルトを外し、呆然とするUさんを運転席から引きずり外へと出ようとするが、できない。

車は太った影のようなものに囲まれている。扉が引っ掛かり、開けることができない。


間に合わない。


せめてとUさんに覆いかぶさる。

Uさんが上げた抗議の叫びと罵倒ごと包み込む。


「……?」


覚悟していた衝撃は、いつまで経っても来なかった。


「なあ、おい」


代わりに、不機嫌そうな声が車外から聞こえた。


たまたま通りかかった。

そのような風情で歩道にいる人の姿があった。


「こっちはパチスロ負けて気分悪いんだぜ? これ以上気分悪くなるようなことやめてくんない?」


Tさんだった。

その後ろ姿があった。

周囲では多くの置物が浮き上がり、怪獣の一撃を止めていた。


「というか、だ」


その背中には、怒りがあった。


「お前にとって大切なペットを、そんな風に扱ってんじゃねえよ」


かつて亡くなったペットと再開したことのある人の激怒だった。

何か反論をするEさんに向けて駆け出した。


ビニール製の怪獣と多数の置物が戦い、EさんとTさんもまた戦い始めた。


「!」


周囲の呆然とした様子を見て取り、勢いよく蹴り開け、外へ出た。


Oさんが闘牛士のようにジャケットを操り、黒い人影もまた接近するが、それよりも先に横の壁が崩れた。


「は?」


壁の向こうには、土煙を多く纏うQさんがいた。


「あ、てめ……!」

「こっちだ!」


Oさんを無視し、半ば引きずられるように向かった先には、穴が開いていた。


「Cの奴から話は聞いてる、その先だ!」


簡単に消失物を破壊できるようになった人が、その力を用いて掘り進めたものだった。


「急がねえとまた動かされるぞ!」

「ありがとう、感謝する」

「俺はここで足止めだ」


トンネルのように開いたそこを、Qさんが塞いだ。

僅かに見える向こうには、黒い太っちょとジャケットを構えるOさんの姿があった。


「え、うえぇ?」

「行こう」


目を白黒させるUさんを抱えるようにしながら進む。

長く、同時に短いそこを全速力で駆けた。


建物が震える。

時間がない。


電線の群れが狂ったように窓から入り込む。

内部を探るべく蠢いているが、正確な位置は掴めていないのか見当違いの場所で暴れている。

完全な当てずっぽうだ。


「誰かこれを夢だと言ってください……!」

「夢だ。夢の中だ。だから死ぬ気で頑張るんだ」

「この夢、優しさがないです!」


ずるり、と建物がズレ動き出したのと、最後の穴を通り抜けたのは同時だった。

見慣れた大通りが見える。


「……?」


見知った場所にようやく出た。そのはずだった。


位置関係として、工事中のホテルMYOUGUが見えるはずの地点だった。


しかし、道路の真ん中に建物が建っていた。


「――!」


何かを叫びながらUさんが市職員の腕を引っ張る。

そのすぐ横を何かが通り過ぎた。

凄まじい音を立てて粉々になり、地面で割れた。


鉢植えだった。



挿絵(By みてみん)


O

刺創

https://ncode.syosetu.com/n9386ju/23/

ダウンジャケット

https://ncode.syosetu.com/n9386ju/33/

読んだ本

https://ncode.syosetu.com/n9386ju/87/



T

街中のQRコード

https://ncode.syosetu.com/n9386ju/15/

ペットロボット

https://ncode.syosetu.com/n9386ju/18/

道端の置物

https://ncode.syosetu.com/n9386ju/53/

透明階段 後編

https://ncode.syosetu.com/n9386ju/68/



Q

跨線橋

https://ncode.syosetu.com/n9386ju/89/

妙求市

https://ncode.syosetu.com/n9386ju/99/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ