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The Game 21

「なんですか、あの怪獣!」

「Eさんのペットだ」

「冗談ですよね!?」

「直接は見てはいないため断言はできないが、少なくとも市職員はそう推測する」

「害獣駆除対象とか越えてるじゃないですか!」


おそらく法律では規定されていないため、区分としては怪しい。

重い音を立て、それは走った。


その横で高笑いを続けるEさんは、そのペットの飼い主であり、爬虫類にまつわる臨時店に誘われた人だった。

誰よりもこの「ペット」を愛している。


それは全体として愛嬌があった。

だが、遠くから目撃した場合にのみ発揮される類の愛嬌だ。


数メートル先にいるクマが肉食獣でしかないように、それは「巨大な怪物」でしかなかった。


「うわ……!?」


巨大なビニール製の体当たりを、どうにか車は回避する。

巨大ペットは足をすべらせるようにビルへ衝突し、壁面にヒビを入れた。


「道が……!」


そのまま逃げ去ることはできなかった。

道はUターンとなっており、元の道へと戻ることを強制される。


これだけの騒ぎを起こしたにも関わらず悲鳴の類がない。

どうやら建物内に人はいないようだ。

避難させたのか、何らかの形で誘導したかはわからないが余計な被害が出ることはないのは救いだ。


「なんですかこれ、また夢の中ですか!?」

「大丈夫だ、現実だ」

「どう見てもこの現実が大丈夫じゃないです!」


その通りだった。

街は変わり続け、ヒグマ大のペットは接近を繰り返す。


わけが分からなかった。


Iさんは、夢操者にも捕獲者にも関わりがある人で中立だ。

あの夢操者に事前に何らかの形で命じられた可能性もあるため、こちらに関してはおかしなことではない。


だが、Eさんは、少なくともその「ペット」は捕獲者側であるはずだ。

本人が言うにはビニール製だ。蜘蛛の糸を編み込んだものを素体としている。


どうして襲って来る?


「捕獲者が、今さら市職員を襲う理由があるのか……?」


やるのなら、先程やればよかった。


「そもそも、どうして市職員たちの現在地が分かっている?」

「横で冷静に考えないでくださいよ!?」


青ざめた顔で必死にハンドリングをしているUさんが、やっているとは思えなかった。

その暇がない。


「逆、逆か」


未来予知者が伝えてくれた言葉を思い返す。


市職員はUさんがそうした裏切りをしたと考えた。

だが仮にそうでないとすれば――逆だとすれば、いったいどうなる?


「生物の反対?」


ビニール製のペットが大きく口を開き、真っ赤な口内を見せつけ噛みついた。

Uさんが悲鳴と共にアクセルを踏み込み、避ける。


瓦礫を確保した電線が、モーニングスターのように景気よく攻撃を繰り返した。

意思のある落石が続く、自由落下よりもさらに速い。


直撃こそないが地面を穿ち、車は小刻みに揺れる。


来期の舗装工事が大変そうだと思いながら振り返った。

嬉しそうに追いかける「ペット」の姿があった。


その手前の車内には、偽Sさんを乗せていた後部座席がある。

取りこぼした残存物もいくつか転がっていた。


「……」


そのうちの一つに、ぬいぐるみがあった。

Uさんが、枕代わりに偽Sさんの後頭部に入れたものだ。


嬉しそうに役所内に飾っていた姿を思い出す。

いつだったか、妙に凹んでいてUさんが激怒していたことがあった。


腕を伸ばし、確保し、そのまま窓ガラスを開けた。


「はは、やっと気づいたのかよ、おい」


ぬいぐるみが、喋った。

夢操者の声だった。


「どういうつもりだ、約定破りか」

「まさか、俺は人間じゃねえ」


その声は、前に聞いたような幾種類もの人を混ぜ合わせたものではなく、若い男のものだった。

それでも、それがあの夢操者だとは分かる。


「命じて襲わせた、そうだな?」

「さあな」

「この現状はどうなっている。なぜ捕獲者の側の人間が襲っている」

「教えてやる義理があるか?」


揶揄するような言葉に、以前言っていた言葉を思い返した。


「……「直接命じることもやらねえ」か……」

「くはははは、そうだよ、その通りだぁ、俺は、やってねえ。そこに抵触しちゃいねえ。てめえが勘違いしただけだ。頭の血の巡りが悪すぎじゃねえか?」


窓外へとぬいぐるみを放り投げた。

笑いながらモーニングスター状の岩に押しつぶされてた。


「どういうことです!」

「直接の命令じゃなければ約定違反ではない、そう言いたいらしい」

「だから、どゆことですか!?」

「間接的な命令であれば、約定には触れない」


陽爻神社の関係者は例外だという追加もあった。


「あの夢操者は、隙を見てあの場にいた「捕獲者を操れるもの」を襲ったんだ」


そうして、その支配下に置き、意識を操った。

Uさんにそうしていたように、行動を操作した。


無傷であればともかく、夢操者はUさんに斬られていた、その防衛のためという言い訳の余地を与えた。

市職員が交わした約定が、夢操者と捕獲者の間の不戦協定を無効化させた。


「そうして、HさんやYさんに命じることで、捕獲者を動かした」


夢操者は直接襲わせる命令はできない。

だが、「命令者に命令する」ことはできた。


「捕獲者に属していた人間が、今となっては敵だ」

「逆ってそういう意味ですか!?」


ああ、そういう考え方もあるのか。


「感心とかしてないでくださいよ!」


背後からは怪獣が襲い来ている、道はぐねぐねと変化を続ける。

逃げ道と行く先は、どこにもない。



挿絵(By みてみん)

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