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なんでもよくない

 そして、来る、流の誕生日。

 私は流と一緒に月実の家へ向かっていた。月実が自ら、「流くんをお祝いしたい」と準備しているらしい。

 流とか流くんとか定まらないなー、と自分で気づいたのだが、よく振り返ると法則性があって、流と二人きりか、いても転だけのときは呼び捨て、流と二人きりではないとき(例えば喫茶店とか)はくん付けらしい。自分のことでも新たな発見はあるものだ。

 何故転はいても呼び捨てなのかはよくわからない。まあ、流の幼なじみだから気を許しているのかもしれない。

 さて、というわけで私は今転として流と二人きりである。私は月実を応援したいので、流とはかなり気楽な仲だ。恋人だったときより楽かもしれない。

 というか。

「ふふふ、どうだい? 彼女さんに初めて自分の誕生日祝ってもらう気分は?」

「……五月蝿い」

 からかうとね! 流が頬を赤らめて目を逸らすんだよ!! 楽しくない!?

 こういう私が知らなかった流の裏側を見られるという点では、まーくんになったという意味不明な事実に感謝する。流は流で月実のことちゃんと意識してるんだなーって、嬉しくなる。

 いつもかっこつけてるんだかクールキャラなんだかわからないけれど、態度がドライだったから、こういう一面がちゃんとあったことに感動している。微笑ましいのはもちのろん。

 考えてみれば初カノなのだ。すまし顔だが、流も初ということか。うん、尊い。

「ケーキとかあるのかなー。手作りとかだったら嬉しいなー」

「お前の誕生日じゃないからな?」

 おお、自分の誕生日祝いであることを暗に主張してきたー。なんで普段あんなにドライなのか。

「それはもちろんわかってるよ。それともあれかい? 『本日の主役』って書いてあるやつでもかけたげよっか?」

「やめろ」

 我ながらシュールで面白い案だな。是非見たい。

「馬鹿言ってる場合か。そろそろ着くぞ」

「るーは月実ちゃん家来たことあるの?」

「……今日が初めてだ」

「いつも招いてるのにね」

「そういうのは……男から招いた方がいいだろ」

 しばらくぽかんとしてしまった。

 そういえば、こういう座談会的なときはよく流の家に招かれていたが……そういう考えがあったのか。流も色々考えていたんだな。

「むふふ……」

「笑い方が気持ち悪いぞ」

「ひどーい」

 わちゃわちゃ二人でやっていると、目の前の家の玄関ががちゃり。モノトーンをベースにしたどこにでもありそうな一軒家から、黒髪カチューシャ女子登場。調理でもしていたのか、エプロンをつけている。紫色となかなか攻めた色合いだ。似合うからOK。

「玄関先で何してるんですか。二人共早く中入って」

「おう」

 あ、流がクールモードに戻った。

 このときのことはぼんやりと覚えている。仲良さげに会話している二人の声を聞いて、もやもやしたものだ。恋人の自分より仲良しとか……とちょっと思ってしまった。

 やっぱり、距離感が詰まっている二人の仲が羨ましくはあったのだろう。どうしたらまーくんみたいに気軽に話してもらえるだろう、と悩んだ時期があった。が、少女はやがて気づく。転が勝手に一人でべらべらと話題を作っては投げしているだけ、ということに。

 そのことに気づいてからは距離がかなり縮まった。会話というものについて、よくキャッチボールに例えられるが、それで言うなら、流は自分からボールを投げるのが下手くそなだけなのだ。問題はその下手くそな部分を「下手なままでいい」と思っていること。

 けれど、それもこっちから投げ続ければ、キャッチしてはいるので、いつかは返してくれる。要は耐久レースなのだ。

 まあ、喋り倒していれば会話した気分になるというのもある。

 結局、楽しんだもん勝ちなのだ。

 お久しぶり我が家、と思った。そう、体はまーくんだが、中身は月実ちゃんなのである。久しぶりの我が家は年頃の女の子が背伸びしきれていない可愛らしさに溢れていた。よきよき。

「かっわいー」

「えへ、照れちゃいますね」

 私が素直な感想を述べると、黒髪天使が照れた。目の保養目の保養。

 一応言っておくが、私は自画自賛をしているわけではない。自分で自分を見た場合、「もっと可愛くならなくちゃ」と思うが、第三者として自分を見ると「充分可愛い」と思えるだけである。……自分で語っておいてなんだが、意味不明理論だ。

 すいーっと流を見ていると、女の子女の子している部屋の中をじーっと見渡している。たぶん、女の子の部屋なんて改まって入ったことがないからだろう。イケメンなのに月実が初カノなのだから。

「クッキー焼いてるのか?」

「あ、わかっちゃった?」

 なんだ、眺めているんじゃなくて嗅いでたのね。いいんだけどさ。

「食いしん坊だなー、るーは」

「なんでクッキー焼いてること指摘しただけで食いしん坊認定受けなきゃならないんだ」

 いや、普通初めての女の子の家、しかも彼女の家ってもっと緊張しない? 落ち着きすぎだと思うんだ、流。

「そういうとこだぞー」

「何がだよ」

 お分かりでないご様子で。まあ、これが流だから仕方ないとも言えるが。

 ある意味残念イケメンってやつなのかねぇ。顔イケメンなのに性格がアレって言われちゃうやつ。

「もう少ししたら焼けるから待っててね。そこのソファに座ってて」

「ああ」

「ありがとう」

 流よ、礼くらいは言った方がいいと思うぞ。譬本日の主役とはいえ、人様の家に来て「ああ」で完結はないわー。

 まあ、そういう不器用なところも、好きになってしまった理由なので私も末期というか。

 少しして、クッキーが焼けたらしく、エプロンを外した月実が戻ってくる。

「クッキーはもうちょっと冷ましてからね。まずはこっち」

 じゃーん、と白い箱を出す月実。その箱に書いてあるお店の名前は知る人ぞ知る隠れた名店のもの。

「おっ、月実ここ知ってんのか」

「私食べ物は買う派だから。色々食べてきたんだけど、ここのが一番美味しいと思ったの」

 その意見に流から若干嬉しそうなオーラが漏れ出る。

 どうやら、流はグルメらしく、けれど、手作りのものより、売っているものや外食の方面に凝っているらしい。変わった人だなぁ、と思ったものだが、私も似たようなものなので、話が合って大変助かった。

 それからお店の話になり、流が非常に饒舌になる。うん、普通の女子の手作りのものよりいいお店で買ったいい食べ物の方が好きだから、こういう話は大好きなんだよね、流。

 だから、バレンタインとか女子から手作りチョコレート渡されるより、老舗の板チョコの方が喜ぶという……特殊だな。

 私とはそういうところが趣味が合うので付き合ったのではないかと思う。

 と、黙って見守っているうちに熱いグルメトークが終わったようだ。

「昼間だから電気消してもムード出ないんだけど……」

 蝋燭をケーキに何本か立て、月実が誕生日の歌を歌う。あのときは気づかなかったが、流がちょっとだけ緊張しているらしく、背筋がすっと伸びているのが面白かった。

「誕生日おめでとうー!! る、流くんー!!」

 ぱちぱちと拍手する月実。可愛い。噛んだのかな、と思ったけど、「るーくん」と呼ぼうとしてやめたのだろう。

 渾名呼び問題に関しては、付き合った当初から手厳しく言われていたのだ。咄嗟にそのことを思い出して思い留まったらしい。

 そこに厳しい理由が未だによくわからない。男の子って変なこだわりがあることがあるが、と思って最初は諦めていたが、だんだん距離を詰めたくなって……

 別れたときのことを思い出す。

 正直、まだ怒っている。なんであんなに拒否られなきゃならないのかわからなかった。

 でも、こうして仲良くケーキをつつく二人を見ていると、本当に仲良かったんだな、と実感する。

 ……あんなことで怒らなければ、もっと上手くやれたのかな、なんて思ったり。

 そんな考え事をしているうちに本日のメインイベントがやってきた。

「じゃーん! プレゼントー!!」

 いちいち「じゃーん」って効果音自分でつけるくせがあるぞ月実。可愛いけど恥ずかしいから気づけ。

 何々、と流も興味津々の様子。ラッピングはシンプルで、月実が開けてみて、という。

 言われた通りに開けた流、硬直。

 さあ、ここからが勝負だぞ、月実。そして私。

 月実が選んだファンシータオルに流が異議を唱える。記憶では月実の必死の弁論と転からの援護射撃で押し通した。今回は上手くいくか?

「こんな女子っぽい可愛いやつ、お前の家に置いた方いいんじゃねえの?」

「女子っぽい可愛いやつ、流も一つくらい持っとくべきだと思うの。私を家に招くなら」

「ぐっ」

 いいぞ、月実、もっと言ったれ!!

「そうだよー、あんな男臭い部屋にいさせられる可愛い女の子っていうのは可哀想だよ」

「ううむ……」

 援護射撃も効き目はあるようだ。

 この後二人でガンガン押して、勝利を獲得。グッジョブ。

「わかった。洗面所にでも置いとく」

 内心ガッツポーズした覚えがある。今も同じ。

 その後も、色々イベントがあったが、月実との連携で乗り越えた。

 転とも息が合うなぁ、と思っていた月実。もしかして、あのときも私が入っていたのか、と思うレベルだ。

 ん? まさか。

 ……まさかね。

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