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空の支配者と七人の英雄たち  作者: あまつか飛燕
《二人の旅立ち編》最初の依頼
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トゥーリエの知恵、アイルの怪力

「しっかしなぁ。どうやってやるよ、この穴に」


「大穴だからねぇ。かなり大変よ、これは」


 宿での思い付きから、カイルとサラは水ではなく土や灰で埋めてしまう事を思いついた。燃える空気というのが引っかかったが、しかし水で消えないのであれば試す価値はあるだろうという事だ。

 しかし現実には、この大穴にいかにして大量の土を投入するかという課題が残る。魔法杖には土魔法なんてものは無く、人海戦術でやるにはあまりに時間と労力がかかりすぎる。


「なんかこう、上からドサッと大量の土を被せられないものかね」


「人間業じゃないわよ、こんな大きい穴に……いや、私たちがやらなくてもいいのか」


「どういう事?」


「アイルに頼めばいいじゃない」


 サラに言われてカイルも納得した。空から投下するなら、うってつけのパートナーがいるじゃないか。


 というわけでアイルとトゥーリエに助力を仰ごうと、近くの森まで来て落ち合った。


『しかし、それだけの土を集めるだけでも一苦労であろう。どうするのだ」


 トゥーリエが尋ねたが、カイルもそれが問題だなと考えていたのだ。


「街の人に助けてもらうとか?」


『それではお主らのみで解決したという事にはならんだろうし、報奨も満額貰えないのではないか?』


 これはトゥーリエの言う通りで、冒険者としての依頼の報酬はその一件一件ごとに支払われる。百万エルンの依頼なら、一人でやっても十人でやっても支払われるのは百万。大人数でやればやるほど分け前は少なるというわけだ。


「だって。八人に協力してもらうとすると、俺とサラの分け前は……六十万か」


「百万ね。今朝見てきたら五百万エルンに値上がりしてたもの」


「百万か、でも十分じゃない?」


 カイルとサラは手を繋ぎながら話し込む。手を繋いでいるとトゥーリエの念話がカイルを通して、サラでも聞けるという事はファーランとの特訓の最中に見つけたものだ。


 実際のところそこまでお金には困っていない。マイルズで魔獣を散々狩って稼いでいたので、かなりまとまったお金は持っているのだ。むしろ二人にとっては、誰かが困って出されたギルドの依頼を解決することにこそ意義がある。


「さて、どうやって土を投下するかなんだけど……」


「アイルに頼むつもりなんだけど、どうやって持ち上げるかなのよね」


『夜のうちに例の穴を上から見てみたが、確かに巨大であったな。とは言え土を投下するだけなら、何か大きな布の上にでも土を盛って落とせばいいだけだ。問題はその後だ』


「その後?」


 埋めてしまえば終わりだと思っていたカイルは、思わぬ言葉に驚いた。


『"燃える空気"という話があったのだろう? それがもし地中から噴出し着火して燃えているのだとすれば、埋めた所でいつか再び空気は漏れ出て大穴が開くことになるだろうな。紙風船に空気を入れ続ければ、いつか破裂するようなものだ』


「地中から? そんな事があるのかしら」


「どうだろ、考えた事も無いけどなぁ」


 二人には想像もつかない話だったが、とは言え知識量で言えば間違いなくトゥーリエの方が物知りだ。確かに地中から燃える空気が出ているのであれば、埋めたところでいつか再び大穴が開いてしまう可能性はある。


『一度埋めてしまうのは良い、とにかく火を消さねばならぬからな。だがその後は噴出する空気を逃がすための穴が必要となるな』


「雨水パイプか何かでも差し込むとか?」


『それもよいだろう。だがあれだけの穴を開けあれだけの火災を起こさせるものだ。噴出量も並大抵ではあるまい。そこでだ……』


 トゥーリエの語る方法はカイルとサラにとって考えつかないものであったが、しかし不可能な話ではなく、必要な材料を集め次第すぐにでもやってみようという話になった。


 *


「依頼に挑戦するのは良いですが、しかし夜ですか?」


「はい。本当に火が消えたのかは夜の方が分かりやすいので」


「そうですか、まぁ確かに……わかりました」


 数日後、ギルドに依頼への挑戦を申告すると、すぐに近隣の森へ直行した。


「やっぱり驚いてたな」


「そりゃね。冒険者なんて自己顕示欲の塊なんだし、普通ならこの前みたいに昼間に人を集めて派手に消してやろうとする方が普通よ。私達みたいな人の方が珍しいでしょうよ」


「自己顕示欲ねぇ。ま、そんなもんか」


「そんな事よりほら、土集めしないと」


 トゥーリエの案を元に立てた作戦はこうだ。まず用意した大きな布に保水力の高い草を巻き付け、さらに水魔法を駆使して燃えにくいように工夫した土台を作る。その上にカイルの魔法杖を駆使して土を盛り、これを二つ作る。


 次にアイルとトゥーリエによって空から土台ごと穴の中に降ろし、まずは燃え盛る炎を消火する。火が消えたのを確認した後に慎重に土の盛られた土台を引き上げ、街で調達した安価な水道用のパイプを刺し、再び土台ごと穴を埋める。

 この際に完全に埋めるのではなく土台の下につっかえ棒をいくつか仕込み空間を作ることで、効率的に土中に噴出している空気を外部に排出できるようにした。もちろん地面の中から燃える空気が噴出しているという前提の作戦だが、そうでなくても依頼は消火であり、最終的にそれさえ達成できればいいのだ。


「さて、この土台に土を盛るわけか」


 カイルはおもむろに魔法杖を振り、風魔法で斬撃を生み出し地面へ叩きつける。それだけで表層の土が剥がれ、足でも簡単に掘り返せるぐらい柔らかくなる。


「で、ここからは手作業なのね」


「しょうがないだろ。そこまで便利じゃないの」


 そんな事を言いつつ、二人で汗だくになりながら二つの土台の上に土を盛っていく。夏にやるような作業ではないのだが、ドラゴンとハルピアを見られて騒ぎになるのも嫌なので結局二人ですべてやる事にしたのだ。


「あっついなぁ……サラ、上脱いでいい?」


「あんた上半身裸でやろうっての? そういうのは私のいないところで……え、何? 聞く気ゼロ?」


 止めかけたサラを無視して、カイルはいそいそと上に着ていた服を脱ぎだす。いやでも鍛えられた肉体が目に入って、サラは思わず目を逸らした。


「あぁ~涼しいわやっぱり」


「バッカじゃないの!? いくら私しかいないからって……」


「ンな事言ったって前は一緒に風呂入ったりしたんだし、いまさらそんな恥ずかしがることでも無いだろ」


「そ、そうだけどさっ!」


 マイルズで特訓していた頃、森の中で何度かサバイバルを経験していた。二人で食糧を探し水を探し、二人で何とか雨風凌げそうな陣地を築き火を起こし、泥だらけになりながら森で過ごしたのだ。


 初めてのサバイバルを終えて森を出た時は、二人で一目散に風呂に飛び込んだものだ。マイルズには温泉が湧くところがあり、ファーランの家にも常に乳白色のお湯をたたえた風呂場があったのだ。浸かってしまえば相手の身体は見えないからか、その後何度かサバイバルを終えて森から帰ってくる度に二人で風呂に浸かって疲れを癒すのは恒例となっていたのだ。


「カイルはいいかもしれないけど私は出来ないの。水魔法でなんか涼ませたり出来ないの?」


「そうだなぁ、こんなのとか?」


 カイルが杖を空に向け、弱い細雨(さいう)を降らせる。魔法一つとは言えここまで細かい調整が出来るのは一本線の魔法杖であるが故だ。


「ストップストップ! いくら夏だからってびしょ濡れは嫌だよ」


 細雨でも思ったほか濡れるものだ。二人の身体はすぐに雨に濡れていくが、カイルはともかくサラにとっては大問題だ。主に服が透けると言う意味で。


『霧のようにすればいいではないか』


「霧? そうか、あんな感じか」


 トゥーリエの助言を受けて、今度はより水の粒を細かく霧をイメージして魔法を放つ。


「いいねぇ、このぐらいだと涼しくて」


「こんなもんでいいか? じゃ続きだ」


 ドタバタしながらもなんとか涼めたので、いそいそと二人で土を盛り始める。昼過ぎから始めて何とか二つの土台に土を盛り終わったころには、既に空はオレンジ色に染まっていた。


「ふう、やっと終わったか」


「やっぱり二人でやったら疲れるねぇ。さて、あとはこれを実際に持ち上げてみないと」


 土台の両端に括り付けていた頑丈な縄をアイルに持たせると、力強く翼をはためかせて空へと舞いあがる。多少横から土がぱらぱらと落ちたもののはたして土台は持ち上がり、二人の立てた作戦が実行できそうな目途がついた。


「よしよし、じゃ後は暗くなるのを待って依頼に当たるだけだ」


「そうね。あんまり人が集まらないといいんだけど」


「確かにな。でも遅い時間にやるって言ってあるし、大丈夫だろ」


 *


 陽もとっぷりと暮れ街から人気が消えた頃、変わらず煌々と燃え盛る穴の前にカイルとサラ、そしてギルドと街の代表者が集まった。代表者とは言えそれぞれに三人ずつぐらいおり、なんでこんな夜遅くにとか何か不正を働くんじゃないかとか色々と言っている。


「それで、どうやって消すんだね。道具の類は何もないようだが」


 ギルドのサブマスターだという壮年のエルフの男が言うと、好き勝手に話していた他の皆も黙ってカイルとサラの返事を待つ。


「仲間に頼みます。私たちは作戦を考えただけなので」


「仲間? 他に共同で依頼に当たる人がいるなら事前に申請してくれないと」


 依頼に入る前に、ギルドに何人で行うのかとそれぞれの氏名を伝えておくのがルールだ。勝手に依頼を達成して後から報酬を要求しても認められない。


「いえ、そういう意味では無くて……見せた方が速いですね」


 サラはそう言うや、空に向けて指笛を吹く。普段はカイルがトゥーリエを呼び一緒に付いてくるが、こういう時は分かりやすい方が良い。

 すぐに闇夜の中から、二頭の獣が姿を現した。ドラゴンを従えている冒険者もいるだけにギルドの人の方はまだよかったが、街の責任者の中には驚きのあまり腰を抜かす者もいた。


「すごいな、君たちは。それぞれドラゴンを従えているのか」


「いえ、私の仲間はドラゴンですがカイルのは……」


 サラが見つめた先に、山盛りの土が乗った土台を持った二頭の獣が降りてくる。その光景の異様さより前に、ドラゴンではないもう一頭があまりに常識を超えていてカイルとサラ以外の皆が黙りこくってしまった。

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