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空の支配者と七人の英雄たち  作者: あまつか飛燕
《二人の旅立ち編》最初の依頼
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燃える穴

 ファーランと別れマイルズを出て、それからあっという間に二ヶ月が経った。アコーズを出てくるときに使った馬車はすぐに売ってしまったので徒歩での旅路だが、二人旅は思ったほど疲れないものだ。


 そんなわけでカイルとサラは、ワーレントという小さな町にやってきていた。なんでもここで珍しいものが見れるという噂を聞き付けたからだ。

 ちなみにアイルとトゥーリエは、街に一緒に入ると間違いなく騒ぎになるので近くの人目に付かない辺りで待機してもらっている。必要ならばトゥーリエは念じれば呼べるし、それと共にアイルも付いてくるわけだ。


「珍しい光景って言ってたよね、何なんだろ」


「なんか火が何とかって聞いたよ」


「火を噴く大道芸人がいるとか?」


「アコーズにも似たような人いたじゃない」


 他愛のない事を話しつつ街に入ると、まず感じたのは臭いだ。鼻をつく臭い、それに賑わいという意味ではなく、純粋な熱気。


「何この臭い!?」


「なんか嗅いだ事の無いような……あ、あれじゃないの?」


 サラが指差した先には即席で建てたであろう看板があり、そこには『燃える穴はこちら』とご丁寧に書いてある。


「いっそ何かの罠なんじゃないかってぐらいに清々しいな」


「ま、まぁとりあえず行ってみようよ。色んな所の珍しい風景を見るのも冒険者の醍醐味ってことでさ」


 サラに引かれるように燃える穴とやらの場所に向かうと、確かにそこには地面にポッカリと空いた穴があり、そこからは絶えず火が吹き出しているという奇妙な光景があった。大きさは立派なドラゴンに成長したアイルが翼を広げたぐらいだろうか、大穴と言えば大穴だ。


「すごいわね……どうやったらこんな風になるんだろ。そもそも何が燃えてるのかな」


 サラは興味津々だが、カイルは鼻を押さえて顰めっ面だ。


「いいけど臭くてかなわんよ、珍しいとは思うけどさ」


 そんな事を言いつつも近寄れる限り近寄って穴を覗き込んでみたりしていると、不意に一人の男が話しかけてきた。


「お若いの、二人は冒険者かい?」


「はい。珍しい光景が見れると聞いたので来てみたのですが、すごいですね」


「まぁな。そう言ってもらえるなら少しは観光地っぽくした甲斐があるってもんだが……」


「やっぱり、この臭いと熱気ですか」


 カイルが聞くと男は頷いた。確かに観光で見る分には珍しいかもしれないが、このワーレントで住む人たちには耐えられないだろう。


「ギルドでもこの火を消す依頼が出てるようだけどな、消せないままもう二ヶ月も燃えてるんだ。もう七月で暑さも厳しくなってるし、ちらほら街から離れる住民も出てきてるし、このままじゃ困っちまうよ」


 男は諦め半分でそう呟くと、どこかへと消えていった。


「やっぱり……大変そうだね」


「だな。ギルドに消火依頼も出てるって言ってたし、ちょっと見てみるか」


「そうだね」


 二人が街のギルドに向かうと、街の規模に似つかわしくない程中は混みあっていた。聞こえてくる会話はどれも燃える穴の話ばかり、一発勝負を夢見る新人冒険者から功績を積みたいベテラン冒険者まで色んな人がいるようだ。

 カイルが人を掻き分け、受付に行って消化依頼の詳細を聞き出してきた。


「いやいや……すごい混み方だ。ルヴァンのよろずサンバン(露天街)なんてもんじゃないよ」


「まったくね。それで、どんな内容だったの?」


「えーとね……」


 依頼は極めて簡単だ。謎の燃える穴から噴出する火の消火、及び臭気を取り除くこと。報酬は三百万エルン、消火の際にはギルドの代表と街の代表の目の前で行う事。なお体力仕事となるが、穴の原状復帰まで行えば五十万エルンが加算される。というものだ。


「想像はしてたけど、やっぱり高額依頼なのね……」


「張り出されてた依頼書、最初は十万エルンだったのが線で消されてどんどん高くなっていってたからな。たぶん誰も出来なくて、それで額を積んでベテランの冒険者に頼ろうって事じゃないのかな」


 依頼の達成報酬の高さは、即ち難易度の高さだ。冒険者一人ひとりにランクなどが設定されているわけではないが、どれほどの額の依頼を達成できるかでその冒険者の強さがわかる。


 また高額依頼だと、達成後しばらくは元の依頼書も達成者が書かれたうえで引き続き掲示され、誰がその依頼を達成したのかを知る事ができる。

 難しい依頼を頼みたい人はそうして強い冒険者を知り、直接依頼を出す事もできるというわけだ。


「三百万エルンだと、中堅が達成できるぐらいだったっけ」


「そうね。どのみち私たちには無理な話よ」


「そうかなぁ。だって結局火を消すだけだろ? 何が燃えてるかさえわかれば、そう難しい話でもないと思うけどなぁ」


 こういう意見は、魔法杖を主な武器として戦う人の独特のものだ。火や水、雷、風を用いるために、それらと元からあるものをいかに上手く使いながら戦うかを、一年かけてファーランから叩き込まれていたのだ。


「でもそれが分からないからこうして皆が困ってるんでしょ? どうやってその火種を探すのよ」


「それなんだよ。そもそも火が燃えるだけであんな臭いするか? 絶対あの穴の下にクサい何かがあって、それが燃え続けてるとしか思えないんだよな」


「言いたい事はわかるけどさ。まずは何が燃えてるかより、どうやって消すかじゃない?」


「それもそうだな。もう一回穴の所に行ってみるか」


 *


 再び燃える穴のところまでやってくると、先程とは違った賑わいを見せていた。遠巻きに様子を窺っていると、唐突に「これから私たちが、この火を消してみせよう!」というよく通る声が聞こえてきた。


「誰かがチャレンジするみたいね」


「三百万の依頼だし、きっとベテランの人だよ。行ってみようぜ」


 なんとか近付いてみると穴の淵には三人の男が立ち、その近くに立派な服を着た人が二人立っていた。恐らくその二人が、ギルドと街のそれぞれの代表なのだろう。


 三人の男はそれぞれに魔法杖を空に掲げると、一つの巨大な水の玉を形成し始めた。少しばかりの時間をかけて穴を覆う程の大きな水球を作ると、呼吸を合わせてそれを穴へと落とした。

 火には水を。極めて単純で効果的な理屈だが、それはあくまで普通の火災の話だ。一瞬火の勢いは衰えたかのように見えたが、すぐに盛り返して何事も無かったかのように再び燃え始めた。


 あたりに落胆の声が聞こえ、やがて集まっていた人は散り散りになっていく。カイルとサラにとってもあれだけの巨大な水球ならもしやという気持ちはあったが、それで消せないのだから相当だ。


「やっぱり、そもそもなんで燃えてるのかを調べる必要があるんじゃない?」


 カイルがそう言うと、サラはうーんと考え込む。


「そうね。なんかアレ(巨大な水球)でダメなら、まずは消すよりそもそもなんで燃えてるのかを調べた方が良さそうね」


「原因が分かればもしかしたらって事があるかもしれないしな」


 再びギルドに戻り、人を掻き分け受付のもとへ赴く。


「ついさっきこの街に来たばかりなんですが、あの穴がなんで燃えてるかってわかりますか?」


 受付の人に尋ねてみると、色んな人への対応に忙殺されていたギルドの職人だったが、それでも丁寧に質問に答えてくれた。


「それが分からないんですよ。元々から火が点いてたわけじゃないのですが、いつの間にか火が点いてそのまま二ヶ月経ってるという感じです。この上に資料をまとめてあるので、詳しくはそちらでお願いします」


 ギルドの二階に資料が纏めてあるらしいというので、すぐに階段を上がり資料を見てみる。


 資料と言っても時系列を書き留めただけのノートと、これまで現地で調べた学者のレポートが置いてあるだけだ。

 それらの資料によると元々時折異臭がする土地ではあったのだが、最初はあの場所に穴は無かったのだという。異臭と言っても今ほど酷くなくたまにしか感じられなかったので、人が住むのにさしたる支障も無かったらしい。


 ある日穴の出来た場所の近辺で偶然火を起こした際に異臭が漂ってきて、いきなり火が激しく燃え上がり轟音と共に地面が爆発したのだという。

 火を起こしていた人は火傷を負いつつ辛くも難を逃れたが、気が付いた時には今の状態になっていたらしい。


 数人の学者が現地に入り色々と調べたようだが、結果は分からずじまい。可燃性の気体が漏れているらしいという事は仮定として挙がったようだが、検証しようにも気体を採取しようと近づけば熱と臭いにやられ、かろうじて採取できても既に燃焼後の気体ではほとんど意味が無かったようだ。


「つまり、何もわからないって事ね」


「だな。でも可燃性の気体、つまるところ燃える空気とでも言えばいいのか? これはちょっと気になるな」


「燃える空気ねぇ……火が燃えるのは空気中の物質が反応してるからでしょ? 学園で習ったけどさ」


「でもそれが原因なら、今頃世界中火の海だよな。するとあの穴から出てるのは、俺たちが吸ってる空気とは違うってことだ」


「うーん、なんか訳わかんなくなってきちゃった。今日はもう遅いしさ、もう宿に行って詳しいことは明日調べてみようよ」


「そうだな」


 あれこれ見たり調べたりしているうちに、気が付けば夕方だ。アイルとトゥーリエは街の外で勝手に食事は摂って寝てくれるだろうし、カイルとサラも夕飯を食べて寝る時間だ。

 ギルド経由で手配してもらった宿に入り、荷物を置いてすきっ腹を抱えて食堂へと向かう。季節は夏だが、安宿の食事など大体は鍋物が多いものだ。どこでも見れるような炊事場に大きな鍋が乗り、その上では肉や野菜などのごった煮がぐつぐつと煮えている。


 各自勝手によそって食べているうちに、サラがある事に気付いた。


「そう言えばさ。こういう鍋をやる時の火って灰を被せて火を消すけど、それは埋火になってまた燃え上がらせる事が出来るよね。同じ事が出来ないかな」


「……それだ! 水だから消えなかったんだ、もしかしたら大量の土ならいけるかもしれないぞ!」

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