《愛は世界を救う》
《愛は世界を救う》
「コトコ、移動だ。荷物をまとめろ」
馬鹿わんこ改め、ウルは町から戻ってくると、山のお家で待っていた私に言った。
「えー、またー?」
今度のお家は、けっこう人間らしいしつらえを頑張ったのに。お花とかー、無意味な置物とかー。……たとえ洞窟の中だろうと。
「嫌なら、神殿に行くか? 予言者協会か傭兵組合でもいいぞ」
顔をそむけているが、尻尾が期待に揺れている。
「絶対嫌」
言ってやれば、尻尾が垂れた。
ははは。ウルは素直でかわいいなあ。
私はウルの首をわしゃわしゃと撫でてやり、さっそく準備にとりかかった。
こっちの世界に来て一年。私はウルと共に逃亡生活を続けている。
お察しのとおり、異世界に来て顕著になった私の能力は、動物の使役能力。
別に、急に授かったとかじゃなくて、昔から犬猫馬ポニー牛豚鼠なんかは、おいで! と言えば来てくれたし、気のいい子は遊んでもくれた。うちの飼い犬も、飼い猫も、私の言うことはよく聞いたしね。
そんなわけで、まずは、ウルに私を守るように命じた。
その次は、私の言葉を習得することを。
いや、はじめは私だって、こっちの言葉を理解しようとしたのよ? でもねえ、ヒアリングがまったくできないから、投げた。
ウルの名前もね、どう頑張っても、ウルバウワウキャウンとしか聞こえないんだよね。なんか、私が聞こえたとおりに発音しても、すごく卑猥な俗語と同じ発音になってしまうらしくて、ウルが毛を逆立てて怒るし。
まあ、いいんだ。そのうち、気が向いたら世界征服して、公用語を日本語にするから。どうやら、それをできるだけの能力があるらしいから。
あの日、ウルがあそこにいたのは、新しい『異界渡り』が現れたと、予言者協会から通報があったから。
それも、《世界融合の端緒》にも《争乱の火種》にもなる、吉凶あわせ持った特級の『異界渡り』が。
だから、あの森には、各種族、各国の派遣した軍人から、教会の僧兵、金目当ての傭兵まで、砂糖に群がる蟻のごとく、私を探す獣人がたくさんいたんだとか。
その予言を私側から解釈しなおせば、たぶん、この使役能力で世界征服、ということは、争乱が起きるのはあたりまえよねえ、という話で。
でもさあ、獣人従えて何が楽しいのって話でしょう。
別に私は誰かにかしずかれたくないし、支配もしたくない。絶対面倒なだけで、いいことなんか、贅沢ができるくらいだと思う。
ということで、逃亡中。ウルの貯金を食いつぶしてね。
傭兵稼業で命懸けで貯めたお金を使ってごめんねだけど、だって、どこに身を寄せるのが良さそうなのか、まだわからないんだもの。
力の有効な使い方も思案中だし。
俺の手にはおまえはあまると、ウルはへたれ気味だけど、そんな真面目で貧乏くじ運なところが大好きよ。
もうちょっと二人の逃避行を楽しみましょうね。そうしているうちに、ウルも諦めがつくと思うのよ? 私の発する匂いににメロメロなのは知ってるし、退屈だけはさせないし?
私は、うふふと笑って、げんなりと尻尾を疲れ気味に揺らすウルに抱きついた。
私のもう一つの能力が明らかになるのは、十数年近く後のこと。
私の生んだ子供たちが、種族を選ばずつがいを得て、子を生した時。
この後、私の遺伝子は、ミトコンドリア・イブのごとく、数千年をかけてこの世界を席捲することになる。
こうして私と彼の愛は、種族差によるいがみあいを軽減させ、世界を融合へと導いたのだった。
世界各地で祀られるようになった愛の女神コトコ様とは、私のこと。
やっぱり、世界を支配するものは、愛じゃなくっちゃ、ね?
おしまい




