《人間は怒ると毒素を吐き出すそうです。その息を水槽に溶かし込んだら、中の魚が死んだとか。(未確認情報。都市伝説かもしれない)》
《人間は怒ると毒素を吐き出すそうです。その息を水槽に溶かし込んだら、中の魚が死んだとか。(未確認情報。都市伝説かもしれない)》
すうっと、営業スマイルが顔に貼りついたまま、凍っていくのを感じる。
犬の態度に私の中にわきあがってきたものは、なぜか超高温の怒りだった。ふつふつごぼごぼと感情が煮え立ち、そのあまりの興奮具合に、いろんなものが吹き飛ぶ。
主に恐怖とか今後の展望とか。
私は犬より背が低いにもかかわらず、仁王立ちになって腰に手をあて顎をあげ、上から目線で犬を睨みつけた。
「犬の分際で、人様に威嚇だ? いい度胸だな、おまえ?」
一歩近付く。犬の体に力がこもる。しゃ、と音をたてて剣が引き抜かれ、素早く切っ先が向けられる。明らかにそれは威嚇を越えた殺気で。
私は極限までイッた怒りに、ニヤーリと自分が微笑むのを感じた。
「よくも私に剣を向けたな、馬鹿わんこ! 許さんっ。おすわり!!」
カッと叱りつける。
すると犬は剣を取り落とし、すぐにその場で正座した。
きちんと膝の上に手を置き、背筋もピンと伸びている。うむ。姿勢だけは良し!
かちんこちんに固まったお座りわんこに、一歩、また一歩と近付いていく。犬の耳は伏せられ、牙をぴくぴくむいて、低く唸っているが、水色の目が恐怖に染まっている。
目前に立ってやったら、目までむいて、充血具合が半端なくなっていた。
「さーて、おしおきはどうしようか?」
手を伸ばして頭の上に置いて、鼻面にふっと息を吹きかけてやったら、とうとうわんこは白目をむいて失神、ぐらりと後ろに倒れてしまった。
あ。お昼の生玉葱のサラダ、やっぱり臭かったかな。歯医者さんにも苦笑されたんだよね。
あれ好物なんだけど、これからは控えるべきかしら?
今さらのようにかわいく肩をすくめてみたけれど、それを見てくれるものは、誰もいない状況だった。




