第8話 今更だが何をしたいのか
進路先を決めるのは当たり前だが難しい
次の日の放課後。
俺は昨日と同じ第四工房にいた。
机の上には三枚の紙。
全部、《圧弾》の魔法陣が書かれている。
一枚目は普通。
二枚目は、先に魔力を入れておけるように蓄積用の陣を追加したもの。
三枚目はまだ途中だ。
「それ、本当に今日やっていいって言われたの?」
向かい側に座っているミラが聞いてくる。
「聞いた」
「誰に?」
「セレナ先生」
「何て?」
「工房の試験区画から出さないならいいって」
「オルフェン先生は?」
「聞いた」
「何て?」
「右腕使うなって」
「治療院は?」
「そこまで聞く必要ある?」
「ある」
「昨日と変わってないよ」
ミラは少しだけ俺を見る。
「ならいいけど」
「最近確認多くない?」
「必要だから」
「もう変なことしないって」
「一週間前もそう思ってたでしょ」
「それを言われると弱い」
事故からまだそれほど時間は経っていない。
右腕は日常生活ならほとんど問題なく使えるようになっている。
文字も普通に書ける。
重いものは持たないようにしているけれど、生活するだけなら困らない。
ただし身体強化は禁止。
そこだけは変わらない。
正直、かなり長い。
だから最近は、右腕を使わなくてもできることばかり探している。
今日のこれもその一つだ。
「まず普通のやつから確認する」
昨日使った魔法陣を左手に持つ。
紙の中央へ魔力を流した。
陣が薄く光る。
昨日と同じ。
「《圧弾》」
正面の試験標的へ向ける。
空気が弾ける音。
圧縮された空気が真っ直ぐ飛び、標的の端へ当たった。
「当たった」
「昨日も当たってたよ」
「何回見てもいいな」
「そんなに?」
「自分で撃つと当たらないから」
魔法陣を使えば方向がずれない。
別に新しく分かったことではない。
子供の頃から知っている。
でも実際に自分の弱点を補うために使い始めると、かなり印象が違った。
「次」
二枚目を手に取る。
こっちは少し陣が複雑だ。
《圧弾》の本体部分。
その外側に、小さな魔力蓄積用の副陣。
「事前に入れるんだよね」
「ああ」
少しずつ魔力を流す。
副陣が反応。
魔力が中に留まる。
「手離して大丈夫?」
「多分」
「多分?」
「計算上は」
「怖いな」
「爆発する量じゃないよ」
「その説明、前も聞いた気がする」
「今回は紙だから」
「紙なら燃えるだけ?」
「縁起悪いこと言うな」
魔力の供給を止める。
陣の光は消えない。
ちゃんと残っている。
「よし」
左手を離す。
紙は机の上。
そのまま。
「残ってるね」
「ああ」
ここまでは成功。
問題はここからだ。
「発動条件は?」
「陣の端に魔力を触れさせる」
「それ、結局レンが魔力飛ばすんじゃない?」
「少しだけな」
「方向ずれない?」
「そこを今から見る」
自分の身体から魔力を出す。
魔法を作るわけではない。
ただ、陣の近くへ少量送る。
距離は三十センチ。
これくらいなら。
「……」
魔力を外へ出す。
すぐ右へ逸れた。
紙の横。
「外れたね」
「見れば分かる」
「三十センチなのに」
「言うな」
もう一回。
今度は少し左を狙う。
結果、上へ行った。
「何でだよ」
「レンの魔法、本当に変だね」
「魔法じゃなくても外で動かすとこうなるんだよな」
身体の中では問題ない。
魔法陣へ直接触れて流す時も問題ない。
でも、一度自分の身体から完全に離れると急に言うことを聞かなくなる。
昔からそうだった。
「じゃあ遠隔発動無理?」
「今のままなら」
「投げたら使えないじゃん」
「だから別の方法考える」
紙を見る。
魔力を入れておける。
そこまではできる。
発動だけが問題。
だったら。
「接触で発動じゃなくて、時間で発動させる?」
ミラが言った。
「時間?」
「投げる前に起動して、何秒後かに発動」
「……」
考える。
「できるな」
「本当に?」
「遅延陣あるし」
家庭用の魔法道具でも使われている。
例えば朝に決まった時間に湯を沸かすとか。
一定時間後に切れる照明とか。
珍しいものではない。
「投げる直前に起動。二秒後に発動」
「二秒で投げるの?」
「練習すれば」
「紙を?」
「……そこはあとで考える」
やっぱり紙が問題になる。
「最初は手に持ったまま遅延だけ試すか」
「先生が段階分けろって言ってたもんね」
「ああ」
「覚えてるんだ」
「馬鹿にしてる?」
「少し」
言い返さず、三枚目の紙を引き寄せる。
遅延用の副陣を追加する。
右手は使えるので、今日は普通に右手で書いた。
魔術的な強化をしなければ問題ない。
「時間は?」
「二秒」
「短くない?」
「戦闘ならそれくらいじゃない?」
「まず五秒にしたら?」
「何で?」
「失敗して手に持ってる時に発動したら嫌でしょ」
なるほど。
「五秒にする」
「珍しく聞いた」
「安全の話なら聞くよ」
「前は?」
「……今は聞く」
「うん」
五秒。
そこまで複雑な陣ではない。
十分ほどで完成した。
「試すぞ」
「うん」
魔力を事前に入れる。
蓄積完了。
次に遅延陣を起動。
一。
二。
三。
少し緊張する。
四。
五。
《圧弾》が発動した。
「うわっ」
紙を持ったままだったので、思ったより反動があった。
左手が少し後ろへ押される。
「大丈夫?」
「平気」
「手は?」
「左だから」
「そういう意味じゃない」
「痛くないよ」
標的を見る。
ちゃんと当たっている。
「成功だな」
「次は?」
「紙を置いてやる」
「投げない?」
「今日は投げない」
ミラが少し笑った。
「何?」
「いや。本当に我慢できるようになったなって」
「俺も学ぶんだよ」
「一週間で?」
「痛かったからな」
これは本当だ。
あの痛みは、しばらく忘れないと思う。
◇
二回目。
今度は魔力を入れた紙を、試験台の上へ置いた。
遅延陣を起動。
少し離れる。
五秒後。
《圧弾》が正面へ飛ぶ。
命中。
「問題なし」
「これなら使えそう」
「ああ」
「でも向き固定だね」
「そこは投げる時に紙の向き合わせる」
「できる?」
「練習する」
「紙を真っ直ぐ飛ばすところから?」
「木にするかもしれない」
「もう紙やめるの?」
「最終的にはな」
少し厚い木板。
あるいは薄い金属。
腰に何枚か付けておく。
魔力は戦闘前に充填。
使う直前に遅延陣を起動。
投げる。
発動。
「……結構普通に使えそうだな」
「兵士も似たようなの使ってるんじゃない?」
「使ってる」
「じゃあ何で今まで使わなかったの?」
「それ言う?」
「気になる」
理由は分かっている。
「魔法陣で当てても、自分で魔法使えたことにならないから」
「うん」
「それが嫌だった」
「今は?」
「当たるならいい」
言ってみると、思ったより簡単だった。
少し前まで引っかかっていたのに。
「変わったね」
「そう?」
「うん」
ミラが机の上の紙を見る。
「前のレンなら、これ使うくらいなら《圧弾》百回練習するって言ってたと思う」
「百回は今もやる」
「やるんだ」
「自分でも使えるようになりたいから」
「じゃあ両方」
「両方」
「忙しいね」
「暇よりいい」
できないからやめる。
その選択肢を取るつもりはない。
でも、できるようになるまで何も使わないというのも違う。
今までの俺は、そこを一緒にしていたのかもしれない。
自分でできない。
だから誰かのやり方を借りる。
それを負けみたいに思っていた。
実際は別にそんなことはない。
使ったところで、俺の魔法が下手なことは変わらない。
だったら練習を続ければいい。
「今日はここまでにする」
「本当に?」
「同じ結果三回出たから」
「投げない?」
「投げたいけど」
「やめる?」
「やめる」
「偉い」
「その言い方やめろ」
紙を片付ける。
右腕は痛くない。
それでも、今日はこれ以上やらない。
少し物足りないくらいで終わる。
最近やっと、その感覚に慣れてきた。
◇
工房を出ると、外はまだ明るかった。
そのまま帰るつもりだったけれど、途中でカイルに捕まった。
「エルド」
「何?」
「ちょうどいい」
「何が?」
「今から訓練場行くぞ」
「何で?」
「昨日見に来なかった分」
「まだ根に持ってるの?」
「俺の実演見ろ」
「公開日終わっただろ」
「再現する」
「わざわざ?」
「ついでにお前も少し動け」
「右腕使えないぞ」
「知ってる」
カイルは俺の右腕を見る。
「脚だけでいい」
「今日もう魔術実技あったけど」
「軽く」
ミラを見る。
「どうする?」
「私に聞くの?」
「最近聞かないと怒られるから」
「私、レンの保護者じゃないんだけど」
「でも止めるだろ」
「止める」
「じゃあ」
ミラが少し考える。
「右腕使わない。疲れたら終わる。長くやらないなら」
「何でお前が条件決めるんだよ」
カイルが笑った。
「本当に保護者じゃん」
「違う」
「俺も違う」
「分かってるよ」
結局、三人で近くの訓練区画へ向かった。
公開日が終わったあとなので、昨日ほど混んではいない。
ただ学院そのものの人数が多いので、訓練場が完全に空くことはほとんどない。
空いている小区画を一つ借りる。
「で、何見せるの?」
俺が聞く。
「これ」
カイルが訓練用の剣を持つ。
「昨日は、身体強化の切り替えを見せた」
「前にも見たような」
「公開日用はもう少し分かりやすくしてた」
カイルが構える。
「グレイス、適当に攻撃して」
「適当にって」
「《圧弾》で」
「いいの?」
「訓練用の出力なら」
ミラが少し離れる。
右手を向ける。
「行くよ」
「ああ」
一発。
《圧弾》。
カイルが横へ避ける。
二発目。
剣で受ける。
三発目。
今度は前へ進みながら避けた。
「何が違う?」
カイルが俺を見る。
「強化する場所」
「そこ」
最初の回避。
脚。
剣で受けた時。
腕と肩。
前へ進んだ時は脚と体幹。
「切り替えは普通だろ」
「ああ」
「昨日見せたのは、その切り替えをどれだけ少ない魔力でやるか」
「どうするの?」
「必要な場所だけ一瞬上げる」
「それも普通じゃない?」
「見てろ」
今度はミラが連続で撃つ。
一。
二。
三。
カイルは避ける。
受ける。
進む。
「分かった?」
「……」
見る。
魔力の動き。
俺は人の体内魔力を完全に見られるわけではない。
でも、近くで魔術を使えばある程度は感じる。
さっきより変化が小さい。
「強化量減らしてる?」
「違う」
「時間?」
「正解」
一瞬だけ。
本当に必要な瞬間だけ強化している。
「どれくらい?」
「剣で受けるなら、当たる直前から衝撃抜けるまで」
「短いな」
「長くても意味ないだろ」
その通り。
「でもタイミング難しくない?」
「だから練習する」
「外したら?」
「痛い」
「嫌だな」
「だから最初は弱い攻撃でやる」
カイルが剣を下ろす。
「俺は細かく操作するの苦手だから、時間を短くして魔力減らしてる」
「なるほど」
俺は逆だ。
場所を細かくして減らそうとしていた。
同じ魔力節約でもやり方が違う。
「バルガスさんに昨日言われたことと少し似てる」
「何て?」
「必要な瞬間だけ流せって」
「軍ならそうなるだろ」
「何で?」
「長く戦うから」
カイルが普通に答える。
「学生の模擬戦なら数分で終わるけど、実戦ならいつ終わるか分からないだろ」
「ああ」
そこまで考えていなかった。
「魔力切れたら?」
「戦えない」
「だから効率」
「そういうこと」
俺が補助環でやろうとしているのと同じ。
ただ、俺の場合は魔力量が少ないから始めた。
実戦では、多い人間だって無駄に使わない。
「レンもやってみる?」
ミラが聞く。
「脚だけなら」
右腕は禁止。
でも脚は普通に使える。
「何する?」
「私が弱い《圧弾》撃つから避けて」
「当てないでくれよ」
「避ければいい」
「怖いこと言うな」
距離を取る。
魔力を脚の近くへ準備。
昨日覚えた待機。
「行くよ」
「来い」
一発目。
見える。
右へ避ける。
動く瞬間だけ強化。
すぐ切る。
二発目。
左。
強化。
切る。
三発目。
少し遅れた。
慌てて強化。
避ける。
「今長かった」
カイルが言う。
「分かってる」
「焦っただろ」
「ちょっと」
攻撃が来る。
強化する。
避ける。
切る。
簡単そうで難しい。
避けたあとも、次が来ると思うと強化を切りたくなくなる。
「残しておいた方が安全じゃない?」
俺が言う。
「魔力だけならな」
「じゃあ何で切る?」
「身体への負担」
カイルが自分の脚を軽く叩く。
「強化って筋力だけじゃないだろ」
「骨も関節も」
「ああ。それをずっと強い状態にするのも疲れる」
「なるほど」
魔力消費だけではない。
身体側。
四号の事故以来、その辺は気にするようになったつもりだった。
でもまだ足りない。
「もう一回」
ミラに言う。
「大丈夫?」
「あと三発」
「なら」
一発。
避ける。
切る。
二発。
避ける。
切る。
三発目。
正面。
左へ。
強化。
切る。
「今のはよかった」
カイルが言った。
「本当?」
「ああ」
「どれくらい?」
「俺よりちょっと遅い」
「褒めてないな」
「始めたばっかなら十分だろ」
確かに。
「右腕治ったら全身でやってみたい」
「その前に先生に聞けよ」
「お前まで言う?」
「グレイスから聞いた」
「何を?」
「エルドを勝手に実験させるなって」
ミラを見る。
「いつ言った?」
「さっき」
「俺聞いてない」
「レンに言ったら嫌がるでしょ」
「嫌がるよ」
「だから」
「だからじゃない」
カイルが笑う。
「まあ、お前の腕また壊れたら補助環試せなくなるし」
「心配そこ?」
「そこも」
「そこも?」
「一応友達だし」
「一応かよ」
「前お前が言った」
「覚えてたの?」
「結構根に持つぞ、俺」
「面倒だな」
「お互い様」
それは否定できなかった。
◇
訓練を終えてから、三人で食堂区画へ寄った。
夕方なので、昼ほど混んでいない。
それでも空いている席を探すくらいの人はいる。
俺は水と、軽く食べられる焼き菓子を買った。
「夕飯前なのに食べるの?」
ミラが聞く。
「動いたから腹減った」
「家でも食べるんでしょ」
「食べる」
「太るよ」
「魔術で動くから大丈夫」
「そういう問題?」
「多分」
カイルも似たようなものを買っている。
「訓練したあと腹減るよな」
「だよな」
「男二人で納得しないで」
席へ座る。
「そういえば」
カイルが俺を見る。
「お前、学部どうする?」
「急だな」
「そろそろ仮希望出すだろ」
「ああ」
忘れていた。
魔術科。
そこから先。
戦闘系。
身体操作。
魔法工学との合同研究。
治療魔術。
他にもかなりある。
二年目の途中から専門寄りの授業が増える。
完全に固定されるのはもう少し先だけれど、そろそろ方向くらいは決めないといけない。
「カイルは?」
「戦闘魔術」
「だろうな」
「軍か護衛関係行くつもり」
「決めてるんだ」
「家がそっち系だからな」
カイルらしい。
「ミラは?」
「魔法戦術か、上級魔法研究」
「二つ?」
「まだ迷ってる」
「お前でも迷うんだな」
「何それ」
「もう全部決まってると思ってた」
「そんなわけないでしょ」
ミラが俺を見る。
「レンは?」
「……」
困る。
戦闘魔術は好き。
魔術そのものの研究も好き。
補助環を作るなら魔法工学にも興味がある。
魔法も捨てたくない。
「多いな」
「何が?」
「行きたいところ」
「いくつ?」
「戦闘魔術、精密魔術、魔法工学」
「三つ」
「あと魔法陣も少し」
「四つ」
「魔法科まで行く気?」
「副専攻とかできるだろ」
「できるけど」
学院は大きい。
その分、学び方もかなり自由だ。
条件さえ満たせば、別学部の授業を取ることもできる。
魔法科と魔術科の間を行き来する学生も珍しくはない。
ただ。
「全部やったら大変じゃない?」
ミラの言う通り。
「分かってる」
「絞る?」
「……分からない」
今は。
どれか一つを選べと言われる方が困る。
「別に今すぐ一個にしなくていいだろ」
カイルが言った。
「仮希望だし」
「そうだけど」
「やってから決めれば?」
「軽いな」
「悩んで分かるなら悩めばいいけど、分からないならやった方が早いだろ」
それもそう。
「お前たまにいいこと言うな」
「たまにって何だよ」
「普段剣振ってるから」
「喧嘩売ってる?」
「褒めてる」
「それ俺がさっき言ったやつだろ」
ミラが笑った。
俺も少し笑う。
「とりあえず」
紙でもらった仮希望の提出用紙を思い出す。
「全部書いてみるか」
「枠足りる?」
「裏使う」
「駄目じゃない?」
「じゃあ小さく書く」
「そういう問題じゃないよ」
まあ、あとで考えればいい。
◇
家に帰ったあと。
机の上へ三つのものを並べた。
五号の設計図。
携帯用《圧弾》の魔法陣。
学部仮希望の用紙。
どれからやるか。
少し迷う。
「……これだな」
仮希望の紙を手に取る。
後回しにすると忘れそうだからだ。
第一希望。
空欄。
第二希望。
空欄。
第三希望。
空欄。
「三つまでか」
本当に足りない。
戦闘魔術。
精密魔術。
魔法工学。
これで終わる。
魔法陣は?
魔法そのものは?
「副専攻にするか」
独り言を言いながら書く。
第一希望、精密魔術。
そこで止まる。
俺が一番得意なのはこれだ。
細かい操作。
身体の一部。
複数の流れ。
でも、それだけをやりたいかと言われると違う。
一度消す。
第一希望、戦闘魔術。
また止まる。
戦うのは嫌いではない。
強くなりたい。
でも戦うだけではなく、どうして魔力が動くのかも知りたい。
また消す。
「……面倒だな」
紙を見る。
こういう時、自分に得意なものが一つだけあれば楽だったのかもしれない。
赤系統九十三。
上級者魔法。
例えばミラみたいに。
でもミラも迷っていた。
才能があっても、選ぶものは一つではないらしい。
「だったら」
鉛筆を持つ。
第一希望。
**精密魔術研究。**
第二希望。
**戦闘魔術。**
第三希望。
**魔法工学連携。**
これでいい。
少なくとも今は。
魔法陣は授業で続ける。
魔法の練習もやめない。
全部を専門にする必要はない。
使えるものは使えばいい。
学びたいものは学べばいい。
途中で変わったら、その時考える。
紙を机の端へ置く。
次。
五号の設計図。
昨日までと比べると随分簡単になった。
最初は十二本。
全部を装置で制御するつもりだった。
今は八か所。
しかも役割は維持だけ。
「八もいらないか?」
今日の授業。
待機用の経路。
表層。
自分で作れる。
装置が必要なのは、それを長時間安定して維持する時。
なら。
脚。
腕。
体幹。
大きく分けて。
「四?」
右腕。
左腕。
右脚。
左脚。
体幹は自分でいいか。
「五か」
また減った。
四号の十二から半分以下。
少し前の俺なら、性能が落ちたように感じたと思う。
今は逆だった。
必要ないなら減らす。
その分、安全装置や測定に使える。
紙に書く。
**五号試験機。待機位置五系統。**
その下。
**目的――操作を代行するのではなく、操作開始までの時間を短縮する。**
書いてから、少しだけ眺めた。
「……これだな」
やっと、何を作りたいのか言葉にできた気がする。
魔力操作そのものは俺がやる。
そこは好きだし、得意だ。
装置に任せたいわけではない。
俺が苦手なところ。
遅いところ。
面倒なところ。
そこだけ助けてもらう。
全部自分でやらない。
でも全部任せるわけでもない。
その間。
「よし」
今日はここまで。
そう決めて紙を置く。
いつもなら、ここから部品まで考え始める。
でも今は右腕が治っていない。
明日オルフェン先生に見せればいい。
時間はある。
俺は最後に、机の上の《圧弾》の魔法陣を見た。
こっちも同じだ。
自分でできない部分を、魔法陣に任せる。
だからといって、自分で魔法を使う練習をやめるわけではない。
できないことを全部、自分一人で何とかする必要はない。
多分。
少し前よりは、その考えを普通に受け入れられるようになった。
俺は灯りを消す前に、仮希望の紙を鞄へ入れた。
これだけは忘れたら普通に怒られる。
五号より先に。
明日はちゃんと提出しよう。
案外こういうところから自身の成長を実感するよね




