第5話 思ったより世界は繋がっている
報連相はいつでも大事
翌朝、俺は昨日書いた紙を持って研究棟へ向かった。
聞きたいことは四つ。
五号の安全装置。
学院公開日の担当。
軍から来る魔術師。
それと、右腕でどこまで魔力操作をしていいか。
最後の一つは今さら聞かなくても分かる気がするけれど、勝手に判断したら怒られる。それくらいは学んだ。
研究棟までは少し距離がある。
王立中央学院は、とにかく広い。
全校生徒は三十万人。
数字だけなら知っているけれど、普段そこまで意識することはない。俺が使う講義棟や工房、訓練場なんて学院全体から見ればほんの一部だからだ。
同じ学院に通っているのに、一度も会わずに卒業する人間の方が圧倒的に多いと思う。
大きく分ければ魔法科と魔術科の二つしかないのに、その中で学ぶ内容が細かく分かれすぎている。
だから、今いる場所から知らない区画へ行こうとすると普通に迷う。
俺も入学したばかりの頃に三回くらい迷った。
そのうち一回は授業に遅れた。
あれは学院が悪いと思う。
「朝からどこ行くの?」
後ろから声がした。
振り返るとミラが歩いてきた。
「オルフェン先生のところ」
「何しに?」
「昨日の続き」
持っていた紙を見せる。
ミラが横から覗き込んだ。
「ちゃんと書いてる」
「忘れるからな」
「珍しい」
「昨日からそればっかり言われてる気がする」
「普段やらないからでしょ」
「質問多い時くらい書くよ」
「普段は?」
「覚えてる」
「忘れてるじゃん」
否定できない。
昨日も四つ目を書いておかなかったら、多分忘れていた。
「私も行っていい?」
「いいんじゃないか」
「レンが決めることじゃないけど」
「じゃあ何で聞いたんだよ」
「一応」
そのまま二人で研究棟へ向かった。
◇
オルフェン先生の研究室へ入ると、先生はすでに起きていた。
正確には、寝たのかどうか分からない。
机の上に紙が大量に積まれていて、その横に飲み物の空き瓶が二本ある。
「先生、寝ました?」
「何だ急に」
「いや、何となく」
「三時間は寝た」
「少なくないですか」
「お前に言われたくない」
「俺は寝てますよ」
「実験前日は寝てないだろう」
「何で知ってるんです?」
「顔を見れば分かる」
最近みんな俺の顔を見れば何でも分かることになっている。
「それで何だ」
「聞きたいことがあります」
「見れば分かる」
持っている紙を見られていた。
机の前へ座る。
ミラはその横。
先生が紙を受け取った。
「一つ目。五号の安全装置」
「はい」
「昨日詰まったか」
「装置を止めた後に体内魔力が暴走したら、腕輪側から止めようがないなって」
「その通りだ」
「やっぱり無理ですか」
「今のお前が考えている構造ならな」
あっさり言われる。
「じゃあどうします?」
「暴走してから止めることを考えるな」
「その前に止める?」
「ああ」
先生が紙を一枚取って、簡単な線を引いた。
「前回は端子が熱くなってから停止した」
「はい」
「その時点で既に魔力流に異常が出ていた可能性がある」
「俺は気づかなかったです」
「だから測る」
「魔力の量?」
「量だけでは足りん。方向、流速、抵抗。温度も見ていい」
「温度?」
「魔力が一か所に集中すれば、周囲の温度が変わる場合がある。医療用の誘導装置でも監視項目に入っている」
そこは知らなかった。
「それ全部、腕輪に入れます?」
「入れるな」
「でも最終的には」
「最終的にはな」
先生が俺を見る。
「最初から完成品を作ろうとするな」
「……」
「腕に付けるのは誘導部分だけでいい。測定器と停止装置は机の上に置け」
「外付け?」
「ああ」
少し考える。
確かにその方が楽だ。
重さを考えなくていい。
部品の大きさも気にしなくていい。
測定器だって学院にあるものをそのまま使える。
「何で最初から思いつかなかったんだろ」
「最初から腕輪にしようとしていたからだ」
「そうですね」
「お前は作りたいものの形を先に決めすぎる」
「悪いですか?」
「場合による」
全部否定されるかと思った。
「最終的に腕輪へ収めるなら、最初に形を決めること自体は悪くない。ただ、試験段階で同じ制限をかける必要はない」
「なるほど」
紙に書き足す。
五号試験機。測定・停止部分は外付け。
これならかなり作りやすくなる。
「次」
先生が紙を見る。
「学院公開日」
「俺、何やるんです?」
「第二研究区画の案内補助」
「案内?」
「ああ」
「魔術実演じゃないんですか」
「右腕が使えないだろう」
「見るだけでも」
「働け」
駄目らしい。
「何説明するんです?」
「魔力測定、魔法陣、魔法工学。その辺りだ」
少し考える。
「工房の展示はあります?」
「ある」
「外部の装置も?」
「いくつか来る」
「じゃあいいです」
「急に納得したな」
「見る時間ありますよね」
「担当時間外ならな」
それなら悪くない。
知らない人への説明は嫌だけれど、普段見られない装置が見られるなら我慢できる。
「三つ目。軍の魔術師」
「はい」
「レオル・バルガスが来る」
聞いたことのない名前だった。
「有名です?」
「軍関係なら知っている人間は多い」
「何が得意なんです?」
「本人に聞け」
「知ってるんですよね?」
「知っている」
「じゃあ教えてくださいよ」
「会うんだから直接聞け」
こういうところは妙に意地が悪い。
「研究区画に来るんですか?」
「その予定だ」
「ならいいです」
最後。
「右腕の魔力操作」
「これは聞く必要あるか?」
「一応」
「通常の流動確認まで。強化は禁止。複雑な分割操作もまだやるな」
「二本くらいなら?」
「私がいる時だけ」
「三本」
「二本」
「十二本」
「帰れ」
「聞いただけです」
先生が紙を机へ戻した。
「少なくとも公開日までは余計なことをするな」
「公開日まで?」
「四日しかない」
「長いですよ」
「短い」
「俺にとっては長いです」
「知るか」
これ以上交渉しても無理そうだった。
「じゃあ五号の設計だけは」
「構わん」
「部品を見るのは?」
「見るだけなら」
「触るのは?」
「組まなければ」
「少し配線するくらい」
「エルド」
「分かりました」
線引きが厳しい。
でも今回は守る。
多分。
◇
午前中は魔法陣学だった。
公開日が近いせいか、授業に使う教室の外もいつもより人が多い。
職員や研究員が何度も行き来している。
窓の外を見れば、大通り沿いに案内用の標識が増えていた。
「エルド、外を見るな」
「見てません」
「見ていた」
「少しだけ」
「公開日の準備は授業後に見ろ」
「はい」
セレナ先生に注意されて前を向く。
今日の授業は複合魔法陣。
二つ以上の役割を一つの陣へ持たせる方法についてだった。
単純な魔法陣なら、書かれた処理をそのまま実行する。
火を出すなら火。
水を動かすなら水。
でも複雑な装置になると、それだけでは足りない。
「この場合、主陣は加熱。副陣は温度制限になる」
黒板に二重の魔法陣が描かれる。
「設定温度を超えた場合、副陣が主陣への魔力供給を切る」
俺は少し前のめりになった。
安全装置。
考え方としては五号にも近い。
「先生」
「何だ」
「副陣を二つ以上付けることはできますか?」
「できる」
「三つでも?」
「できる。ただし増やすほど陣が複雑になる」
「一個が壊れても、別の陣で止めるようにできます?」
「可能だ」
先生が少しだけ俺を見る。
「何か作っているのか」
「今は設計だけです」
「今は、という言い方が気になるな」
「怪我してるので」
「なら治ってからにしろ」
「はい」
今度は素直に答える。
「安全装置なら、同じ条件だけを重ねるな」
「え?」
「例えば温度を三か所で測って、全部同じ仕組みで停止させる。それでは同じ原因で全部壊れる可能性がある」
「ああ」
「違うものを見ろ。温度、魔力量、電気。そのどれかがおかしければ止まるようにする」
先生はそのまま授業へ戻った。
俺はノートの端へ書き足す。
同じ安全装置を増やすだけでは意味が薄い。
オルフェン先生が言っていた数の問題ではない、というのはこれか。
今までは三重なら三倍安全だと思っていた。
違うらしい。
考えることが増えた。
でも、悪くない。
「楽しそうだね」
隣のミラが小声で言う。
「何が?」
「今の顔」
「顔の話ばっかりだな」
「分かりやすいから」
「そんなに?」
「かなり」
少し本気で直した方がいい気がしてきた。
◇
昼休み。
カイルが俺たちの席へ来た。
「エルド、公開日どこ担当?」
「第二研究区画」
「実演出ないのか」
「腕使えないから」
「そっか」
カイルが俺の右腕を見る。
「もう普通に見えるけどな」
「見た目はな」
「痛い?」
「少し」
「魔術は?」
「右腕強化は禁止」
「じゃあ左でやれば」
「公開日に片腕だけで何を見せるんだよ」
「左腕強化」
「地味すぎるだろ」
見に来た人も困る。
「俺は午後から第三訓練場」
「剣術?」
「魔術込み」
「じゃあ見に行く」
「絶対来いよ」
「時間あれば」
「あるだろ」
「工房展示も見たい」
「俺より装置優先かよ」
「普通だろ」
「普通じゃない」
ミラが横から口を挟んだ。
「私も実演あるよ」
「何時?」
「午後一時半」
「カイルは?」
「二時過ぎ」
「じゃあ両方見られるな」
「最初からそう言えばいいのに」
「何が?」
「何でもない」
ミラが食事へ戻る。
「そういえば」
カイルが声を少し落とした。
「レオル・バルガス来るって知ってる?」
「今朝聞いた」
「知ってる?」
「名前だけ」
「結構有名だぞ」
「先生は何も教えてくれなかった」
「あの人、近接専門だ」
「剣?」
「素手」
「素手?」
少し意外だった。
「武器持たないの?」
「使えないわけじゃないらしい。でも基本は素手」
「何で?」
「知らない」
「どんな魔術使う?」
「身体強化。ただ、かなり変な使い方するって聞いた」
「どんな?」
「そこまでは知らない」
「使えないな」
「何で俺が怒られるんだよ」
でも興味は出た。
実戦で魔術を使っている軍人。
しかも素手。
何か理由があるはずだ。
「本人に聞けって先生に言われた」
「会えるのか?」
「研究区画に来るらしい」
「いいな」
「お前も来れば」
「実演あるから時間次第」
「じゃあ俺が聞いとく」
「何を?」
「何で素手なのか」
「そこ?」
「一番気になるだろ」
カイルは少し笑った。
「やっぱお前変だな」
「何でだよ」
「普通は戦い方とか、強化の仕方を聞くだろ」
「それも聞く」
「結局全部聞くんじゃん」
それはそう。
◇
公開日前日になると、学院の一部は普段とまったく違う場所みたいになっていた。
全域を公開するわけではない。
そんなことをしたら人が散らばりすぎるし、危ない研究区画もある。
俺が担当する第二研究区画では、普段使っていない大きな展示室まで開けられていた。
魔力測定器。
魔法陣の実物。
工業用魔力炉の縮小模型。
医療用の魔力誘導器。
家庭で使われている小型魔法装置まで並んでいる。
魔法を使った道具自体は別に珍しくない。
家にも照明や簡単な温度調整器くらいある。
ただ、内部まで見える状態で置かれているものは少ない。
俺は説明を聞きながら、一つの装置の前で止まった。
「これ、医療用ですか?」
「ああ」
担当研究員が答える。
腕を一本入れられるくらいの筒型装置。
内側にはいくつか端子が並んでいる。
「魔力経路誘導器。弱った経路へ電気刺激を与えて、魔力の流れを補助する」
「制御は?」
「別々だ」
「何か異常出た時は?」
「電気、魔力流、温度。この三つを見ている。どれかがおかしくなれば停止」
朝聞いた話と同じだった。
「内部構造見られます?」
「何でそこに興味を持つ」
「俺も似たもの作ってるので」
「医療用を?」
「魔術補助用」
研究員が俺の顔を見る。
「もしかして、お前が腕を傷めた学生か」
「何で知ってるんです?」
「工房で電気式の補助具を作って事故を起こした学生がいる、という話だけは聞いた」
知らないところまで広がっている。
「有名だね」
横からミラの声がした。
「いつ来たんだよ」
「さっき」
「実演準備は?」
「終わった」
ミラが装置を見る。
「これが五号の参考?」
「かなり」
「また小さくするの?」
「最終的には」
「最初は?」
「外付け」
「へえ」
「何だよ」
「ちょっと成長したなって」
「先生に言われただけだよ」
「でも前なら聞かなかったでしょ」
「……それはそうかも」
認めるのは少し悔しい。
研究員が一枚の簡易図を渡してくれた。
「公開用の構造図なら持っていっていい。ただしそのまま流用するなよ」
「しませんよ」
「医療用と戦闘補助では求められるものが違う」
「分かってます」
「本当か?」
「何で初対面の人にまで言われるんだ」
ミラが横で笑った。
「多分顔」
「もうそれ禁止にしない?」
「無理じゃない?」
「何で」
「顔だから」
意味が分からない。
◇
公開日当日。
朝から学院内はいつも以上に人が多かった。
普段から三十万人いるのだから、人が多いこと自体は珍しくない。
でも今日は違う。
学生以外の人間が大量に歩いている。
小さな子供。
その家族。
商人。
研究者。
軍人。
他国から来ているらしい服装の人間も混ざっていた。
俺は第二研究区画の入口で学生用の腕章を付けていた。
「帰りたい」
思わず呟く。
「まだ始まってないよ」
同じ担当になった学生が笑った。
「知らない人多すぎない?」
「公開日だから」
「去年、こんなだったっけ」
「去年どこいた?」
「工房展示」
「じゃあ周り見てなかったんじゃない?」
「……そうかも」
去年は外部から持ち込まれた測定器をずっと見ていた。
周囲の人数なんて気にしていなかった。
開始の鐘が鳴る。
研究区画の入口が開いた。
「始まったな」
「逃げる?」
「無理だろ」
やるしかない。
◇
思っていたより、説明役は難しくなかった。
同じことを何度も聞かれるからだ。
これは何ですか。
どうやって使うんですか。
魔力は必要ですか。
普通の家でも使えますか。
分かる範囲で答える。
分からなければ研究員を呼ぶ。
それだけ。
「お兄ちゃん、これ何?」
十歳にもならないくらいの男の子が、魔力色測定器を指した。
「魔力の色を見るやつ」
「魔法の強さは?」
「それは分からない。色だけ」
「お兄ちゃん何色?」
「俺?」
「うん」
「藍」
「見たい」
何で俺のを。
でも説明にはなる。
「じゃあ少しだけな」
測定部へ手を置き、少量の魔力を流す。
透明だった板が、黒に近い藍色へ変わった。
「黒!」
「藍だよ」
「黒じゃん」
「かなり暗いだけ」
「黒だよ」
「……まあ、そう見えるけど」
横にいた母親らしい人が笑った。
「珍しい色ですね」
「よく言われます」
「得意な魔法も珍しいんですか?」
「いや」
一瞬、考える。
「普通です」
使う魔法は普通だ。
当たらないだけで。
嘘ではない。
男の子は俺の魔力色をもう少し見たあと、隣の展示へ走っていった。
意外と悪くない。
最初は知らない人に説明するなんて絶対嫌だと思っていたけれど、内容が決まっていれば普通に話せる。
これなら何とかなる。
「その装置の限界出力はいくつだ?」
今度は大人の声。
振り返る。
軍服を着た男が立っていた。
三十代くらい。
背は高い。
体格もかなりいい。
ただ、軍人なのに腰に剣がない。
両手に薄い黒い手袋を付けているだけだった。
「限界出力ですか?」
「ああ」
知らない。
「すみません。そこまでは分からないので研究員を呼びます」
「それでいい」
「え?」
「知らないなら知らないと言った方がいい」
「普通じゃないですか?」
「そうでもない」
どこかで聞いたような考え方だった。
「学生か?」
「はい」
「どっちだ」
「どっち?」
「魔法科か魔術科」
「ああ。魔術科です」
厳密にはその中でもまだ進む学部を決め切っていない。
「何学部だ」
「まだ絞ってる途中です」
「二年か?」
「はい」
男の視線が右腕へ移る。
もう固定はしていないけれど、動かし方で何か分かったのかもしれない。
「怪我してるな」
「少し」
「魔術で?」
「実験で」
「何の実験だ」
結構聞く人だ。
「電気で体内魔力を誘導する装置を作ってて」
「自作?」
「はい」
「見せられるか?」
「今は無理です」
「壊れた?」
「装置はほとんど壊れてません」
男が少しだけ眉を上げた。
「じゃあ何が壊れた」
「俺の腕です」
一瞬だけ間があった。
そのあと笑われた。
「笑います?」
「少しな」
「結構怖かったんですけど」
「治ってるならいいだろ」
「まだ途中です」
「ならちゃんと治せ」
初対面なのに、そこだけはみんな同じことを言う。
「お前、名前は?」
「レン・エルドです」
「そうか」
男はもう一度展示を見る。
その時、奥からオルフェン先生が歩いてきた。
「もう来ていたのか、バルガス」
男が振り返る。
「相変わらず愛想がないな、オルフェン」
「お前にだけだ」
バルガス。
聞いた名前。
「レオル・バルガス?」
思わず言う。
男が俺を見る。
「知ってるのか」
「名前だけ昨日聞きました」
「何と?」
「軍の魔術師。あと素手で戦うって」
「誰から聞いた」
「友達です」
「他には?」
「何も」
「なら間違ってはいない」
本人だった。
もっと変な人を想像していた。
今のところ普通に見える。
「先生、知り合いなんですか」
「昔からな」
「昔のお前はもう少し素直だった」
バルガスさんが言う。
「黙れ」
「学生の前でそれか?」
「学生だから何だ」
かなり長い付き合いらしい。
「エルド」
「はい」
オルフェン先生が俺の腕章を見る。
「交代時間だ」
「もうですか?」
「二時間経っている」
言われてみれば足が疲れていた。
同じ場所で立ち続ける方が、歩くより疲れる。
「じゃあ休憩行きます」
「待て」
バルガスさんに止められた。
「何です?」
「お前、魔術実技はどの程度だ」
「学年三位です」
少しだけ表情が変わった。
「三位?」
「はい」
「三十万人の?」
「全校で比べてどうするんですか」
思わず言った。
「同学年の魔術実技です。学部もまだ分かれてる途中なので」
「ああ、そういうことか」
当たり前だ。
上級生まで全部含めて三位だったら俺はもっと自信を持っている。
「魔法は?」
「聞きます?」
「聞いた」
「かなり下です」
「どの程度」
「この前の《圧弾》が五十点中九点」
「低いな」
「言い方」
「事実だろ」
オルフェン先生と同じ種類だ。
「何で当たらない」
「それが分からないから困ってるんですよ」
「魔法陣なら?」
「普通に使えます」
「なら使えばいい」
「……」
簡単に言われた。
「前にも言われました」
「誰に」
「友達に」
「じゃあそいつの方が正しい」
「でも自分で魔法使えるようになりたいんですよ」
「何で」
そこを聞かれるとは思わなかった。
「……好きだから?」
「疑問形か」
「昔から好きなんです」
「今は?」
少し考える。
「好きですよ。多分」
「なら好きにすればいい」
バルガスさんはそれ以上何も言わなかった。
何かもっと言われると思っていたので、少し拍子抜けする。
「エルド」
「はい」
「午後、時間あるか?」
「担当は午前だけです」
「なら第三訓練場へ来い」
「何でです?」
「お前の魔術を見る」
「俺の?」
「ああ」
「右腕は強化禁止です」
「右腕以外は?」
「普通に使えます」
「なら十分だ」
何をするつもりだ。
オルフェン先生を見る。
「いいんですか?」
「右腕を使わないならな」
「先生」
バルガスさんが笑った。
「過保護だな」
「こいつは一週間前に自分の腕を壊しかけた」
「なるほど」
「無茶をさせるな」
「誰に言ってる」
「お前だから言っている」
その言い方で少し不安になった。
「何するんです?」
聞いてみる。
「簡単だ」
バルガスさんは俺を見た。
「お前が今、何をして戦っているのかを見る」
「それだけ?」
「それだけだ」
「戦うんですか?」
「お前次第だ」
分からない。
でも興味はある。
軍で実際に戦っている魔術師が俺の魔術を見る。
しかも、先生が知っているくらいの人。
断る理由はなかった。
「分かりました」
「午後二時。第三訓練場」
「はい」
バルガスさんはそれだけ言うと、オルフェン先生と一緒に展示の奥へ歩いていった。
俺は二人の背中を見送る。
午後二時。
第三訓練場。
忘れることはないと思う。
その前に休憩。
それから工房展示。
そのあとミラの実演。
カイルも見に行くと言った。
結構忙しい。
「……あ」
一つ忘れていた。
ミラに言っていない。
今の話を。
後から知ったら、多分怒る。
少し考える。
先に言うか。
あとで言うか。
どう考えても先に言った方がいい。
俺は休憩へ向かう人の流れから外れ、ミラがいる実演区画の方向へ歩き出した。
実は三十万人もいるマンモス校もビックリな学院
入学自体は誰でもできるぞ!




