↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

第5話 思ったより世界は繋がっている

報連相はいつでも大事

 翌朝、俺は昨日書いた紙を持って研究棟へ向かった。


 聞きたいことは四つ。


 五号の安全装置。


 学院公開日の担当。


 軍から来る魔術師。


 それと、右腕でどこまで魔力操作をしていいか。


 最後の一つは今さら聞かなくても分かる気がするけれど、勝手に判断したら怒られる。それくらいは学んだ。


 研究棟までは少し距離がある。


 王立中央学院は、とにかく広い。


 全校生徒は三十万人。


 数字だけなら知っているけれど、普段そこまで意識することはない。俺が使う講義棟や工房、訓練場なんて学院全体から見ればほんの一部だからだ。


 同じ学院に通っているのに、一度も会わずに卒業する人間の方が圧倒的に多いと思う。


 大きく分ければ魔法科と魔術科の二つしかないのに、その中で学ぶ内容が細かく分かれすぎている。


 だから、今いる場所から知らない区画へ行こうとすると普通に迷う。


 俺も入学したばかりの頃に三回くらい迷った。


 そのうち一回は授業に遅れた。


 あれは学院が悪いと思う。


「朝からどこ行くの?」


 後ろから声がした。


 振り返るとミラが歩いてきた。


「オルフェン先生のところ」


「何しに?」


「昨日の続き」


 持っていた紙を見せる。


 ミラが横から覗き込んだ。


「ちゃんと書いてる」


「忘れるからな」


「珍しい」


「昨日からそればっかり言われてる気がする」


「普段やらないからでしょ」


「質問多い時くらい書くよ」


「普段は?」


「覚えてる」


「忘れてるじゃん」


 否定できない。


 昨日も四つ目を書いておかなかったら、多分忘れていた。


「私も行っていい?」


「いいんじゃないか」


「レンが決めることじゃないけど」


「じゃあ何で聞いたんだよ」


「一応」


 そのまま二人で研究棟へ向かった。


     ◇


 オルフェン先生の研究室へ入ると、先生はすでに起きていた。


 正確には、寝たのかどうか分からない。


 机の上に紙が大量に積まれていて、その横に飲み物の空き瓶が二本ある。


「先生、寝ました?」


「何だ急に」


「いや、何となく」


「三時間は寝た」


「少なくないですか」


「お前に言われたくない」


「俺は寝てますよ」


「実験前日は寝てないだろう」


「何で知ってるんです?」


「顔を見れば分かる」


 最近みんな俺の顔を見れば何でも分かることになっている。


「それで何だ」


「聞きたいことがあります」


「見れば分かる」


 持っている紙を見られていた。


 机の前へ座る。


 ミラはその横。


 先生が紙を受け取った。


「一つ目。五号の安全装置」


「はい」


「昨日詰まったか」


「装置を止めた後に体内魔力が暴走したら、腕輪側から止めようがないなって」


「その通りだ」


「やっぱり無理ですか」


「今のお前が考えている構造ならな」


 あっさり言われる。


「じゃあどうします?」


「暴走してから止めることを考えるな」


「その前に止める?」


「ああ」


 先生が紙を一枚取って、簡単な線を引いた。


「前回は端子が熱くなってから停止した」


「はい」


「その時点で既に魔力流に異常が出ていた可能性がある」


「俺は気づかなかったです」


「だから測る」


「魔力の量?」


「量だけでは足りん。方向、流速、抵抗。温度も見ていい」


「温度?」


「魔力が一か所に集中すれば、周囲の温度が変わる場合がある。医療用の誘導装置でも監視項目に入っている」


 そこは知らなかった。


「それ全部、腕輪に入れます?」


「入れるな」


「でも最終的には」


「最終的にはな」


 先生が俺を見る。


「最初から完成品を作ろうとするな」


「……」


「腕に付けるのは誘導部分だけでいい。測定器と停止装置は机の上に置け」


「外付け?」


「ああ」


 少し考える。


 確かにその方が楽だ。


 重さを考えなくていい。


 部品の大きさも気にしなくていい。


 測定器だって学院にあるものをそのまま使える。


「何で最初から思いつかなかったんだろ」


「最初から腕輪にしようとしていたからだ」


「そうですね」


「お前は作りたいものの形を先に決めすぎる」


「悪いですか?」


「場合による」


 全部否定されるかと思った。


「最終的に腕輪へ収めるなら、最初に形を決めること自体は悪くない。ただ、試験段階で同じ制限をかける必要はない」


「なるほど」


 紙に書き足す。


 五号試験機。測定・停止部分は外付け。


 これならかなり作りやすくなる。


「次」


 先生が紙を見る。


「学院公開日」


「俺、何やるんです?」


「第二研究区画の案内補助」


「案内?」


「ああ」


「魔術実演じゃないんですか」


「右腕が使えないだろう」


「見るだけでも」


「働け」


 駄目らしい。


「何説明するんです?」


「魔力測定、魔法陣、魔法工学。その辺りだ」


 少し考える。


「工房の展示はあります?」


「ある」


「外部の装置も?」


「いくつか来る」


「じゃあいいです」


「急に納得したな」


「見る時間ありますよね」


「担当時間外ならな」


 それなら悪くない。


 知らない人への説明は嫌だけれど、普段見られない装置が見られるなら我慢できる。


「三つ目。軍の魔術師」


「はい」


「レオル・バルガスが来る」


 聞いたことのない名前だった。


「有名です?」


「軍関係なら知っている人間は多い」


「何が得意なんです?」


「本人に聞け」


「知ってるんですよね?」


「知っている」


「じゃあ教えてくださいよ」


「会うんだから直接聞け」


 こういうところは妙に意地が悪い。


「研究区画に来るんですか?」


「その予定だ」


「ならいいです」


 最後。


「右腕の魔力操作」


「これは聞く必要あるか?」


「一応」


「通常の流動確認まで。強化は禁止。複雑な分割操作もまだやるな」


「二本くらいなら?」


「私がいる時だけ」


「三本」


「二本」


「十二本」


「帰れ」


「聞いただけです」


 先生が紙を机へ戻した。


「少なくとも公開日までは余計なことをするな」


「公開日まで?」


「四日しかない」


「長いですよ」


「短い」


「俺にとっては長いです」


「知るか」


 これ以上交渉しても無理そうだった。


「じゃあ五号の設計だけは」


「構わん」


「部品を見るのは?」


「見るだけなら」


「触るのは?」


「組まなければ」


「少し配線するくらい」


「エルド」


「分かりました」


 線引きが厳しい。


 でも今回は守る。


 多分。


     ◇


 午前中は魔法陣学だった。


 公開日が近いせいか、授業に使う教室の外もいつもより人が多い。


 職員や研究員が何度も行き来している。


 窓の外を見れば、大通り沿いに案内用の標識が増えていた。


「エルド、外を見るな」


「見てません」


「見ていた」


「少しだけ」


「公開日の準備は授業後に見ろ」


「はい」


 セレナ先生に注意されて前を向く。


 今日の授業は複合魔法陣。


 二つ以上の役割を一つの陣へ持たせる方法についてだった。


 単純な魔法陣なら、書かれた処理をそのまま実行する。


 火を出すなら火。


 水を動かすなら水。


 でも複雑な装置になると、それだけでは足りない。


「この場合、主陣は加熱。副陣は温度制限になる」


 黒板に二重の魔法陣が描かれる。


「設定温度を超えた場合、副陣が主陣への魔力供給を切る」


 俺は少し前のめりになった。


 安全装置。


 考え方としては五号にも近い。


「先生」


「何だ」


「副陣を二つ以上付けることはできますか?」


「できる」


「三つでも?」


「できる。ただし増やすほど陣が複雑になる」


「一個が壊れても、別の陣で止めるようにできます?」


「可能だ」


 先生が少しだけ俺を見る。


「何か作っているのか」


「今は設計だけです」


「今は、という言い方が気になるな」


「怪我してるので」


「なら治ってからにしろ」


「はい」


 今度は素直に答える。


「安全装置なら、同じ条件だけを重ねるな」


「え?」


「例えば温度を三か所で測って、全部同じ仕組みで停止させる。それでは同じ原因で全部壊れる可能性がある」


「ああ」


「違うものを見ろ。温度、魔力量、電気。そのどれかがおかしければ止まるようにする」


 先生はそのまま授業へ戻った。


 俺はノートの端へ書き足す。


 同じ安全装置を増やすだけでは意味が薄い。


 オルフェン先生が言っていた数の問題ではない、というのはこれか。


 今までは三重なら三倍安全だと思っていた。


 違うらしい。


 考えることが増えた。


 でも、悪くない。


「楽しそうだね」


 隣のミラが小声で言う。


「何が?」


「今の顔」


「顔の話ばっかりだな」


「分かりやすいから」


「そんなに?」


「かなり」


 少し本気で直した方がいい気がしてきた。


     ◇


 昼休み。


 カイルが俺たちの席へ来た。


「エルド、公開日どこ担当?」


「第二研究区画」


「実演出ないのか」


「腕使えないから」


「そっか」


 カイルが俺の右腕を見る。


「もう普通に見えるけどな」


「見た目はな」


「痛い?」


「少し」


「魔術は?」


「右腕強化は禁止」


「じゃあ左でやれば」


「公開日に片腕だけで何を見せるんだよ」


「左腕強化」


「地味すぎるだろ」


 見に来た人も困る。


「俺は午後から第三訓練場」


「剣術?」


「魔術込み」


「じゃあ見に行く」


「絶対来いよ」


「時間あれば」


「あるだろ」


「工房展示も見たい」


「俺より装置優先かよ」


「普通だろ」


「普通じゃない」


 ミラが横から口を挟んだ。


「私も実演あるよ」


「何時?」


「午後一時半」


「カイルは?」


「二時過ぎ」


「じゃあ両方見られるな」


「最初からそう言えばいいのに」


「何が?」


「何でもない」


 ミラが食事へ戻る。


「そういえば」


 カイルが声を少し落とした。


「レオル・バルガス来るって知ってる?」


「今朝聞いた」


「知ってる?」


「名前だけ」


「結構有名だぞ」


「先生は何も教えてくれなかった」


「あの人、近接専門だ」


「剣?」


「素手」


「素手?」


 少し意外だった。


「武器持たないの?」


「使えないわけじゃないらしい。でも基本は素手」


「何で?」


「知らない」


「どんな魔術使う?」


「身体強化。ただ、かなり変な使い方するって聞いた」


「どんな?」


「そこまでは知らない」


「使えないな」


「何で俺が怒られるんだよ」


 でも興味は出た。


 実戦で魔術を使っている軍人。


 しかも素手。


 何か理由があるはずだ。


「本人に聞けって先生に言われた」


「会えるのか?」


「研究区画に来るらしい」


「いいな」


「お前も来れば」


「実演あるから時間次第」


「じゃあ俺が聞いとく」


「何を?」


「何で素手なのか」


「そこ?」


「一番気になるだろ」


 カイルは少し笑った。


「やっぱお前変だな」


「何でだよ」


「普通は戦い方とか、強化の仕方を聞くだろ」


「それも聞く」


「結局全部聞くんじゃん」


 それはそう。


     ◇


 公開日前日になると、学院の一部は普段とまったく違う場所みたいになっていた。


 全域を公開するわけではない。


 そんなことをしたら人が散らばりすぎるし、危ない研究区画もある。


 俺が担当する第二研究区画では、普段使っていない大きな展示室まで開けられていた。


 魔力測定器。


 魔法陣の実物。


 工業用魔力炉の縮小模型。


 医療用の魔力誘導器。


 家庭で使われている小型魔法装置まで並んでいる。


 魔法を使った道具自体は別に珍しくない。


 家にも照明や簡単な温度調整器くらいある。


 ただ、内部まで見える状態で置かれているものは少ない。


 俺は説明を聞きながら、一つの装置の前で止まった。


「これ、医療用ですか?」


「ああ」


 担当研究員が答える。


 腕を一本入れられるくらいの筒型装置。


 内側にはいくつか端子が並んでいる。


「魔力経路誘導器。弱った経路へ電気刺激を与えて、魔力の流れを補助する」


「制御は?」


「別々だ」


「何か異常出た時は?」


「電気、魔力流、温度。この三つを見ている。どれかがおかしくなれば停止」


 朝聞いた話と同じだった。


「内部構造見られます?」


「何でそこに興味を持つ」


「俺も似たもの作ってるので」


「医療用を?」


「魔術補助用」


 研究員が俺の顔を見る。


「もしかして、お前が腕を傷めた学生か」


「何で知ってるんです?」


「工房で電気式の補助具を作って事故を起こした学生がいる、という話だけは聞いた」


 知らないところまで広がっている。


「有名だね」


 横からミラの声がした。


「いつ来たんだよ」


「さっき」


「実演準備は?」


「終わった」


 ミラが装置を見る。


「これが五号の参考?」


「かなり」


「また小さくするの?」


「最終的には」


「最初は?」


「外付け」


「へえ」


「何だよ」


「ちょっと成長したなって」


「先生に言われただけだよ」


「でも前なら聞かなかったでしょ」


「……それはそうかも」


 認めるのは少し悔しい。


 研究員が一枚の簡易図を渡してくれた。


「公開用の構造図なら持っていっていい。ただしそのまま流用するなよ」


「しませんよ」


「医療用と戦闘補助では求められるものが違う」


「分かってます」


「本当か?」


「何で初対面の人にまで言われるんだ」


 ミラが横で笑った。


「多分顔」


「もうそれ禁止にしない?」


「無理じゃない?」


「何で」


「顔だから」


 意味が分からない。


     ◇


 公開日当日。


 朝から学院内はいつも以上に人が多かった。


 普段から三十万人いるのだから、人が多いこと自体は珍しくない。


 でも今日は違う。


 学生以外の人間が大量に歩いている。


 小さな子供。


 その家族。


 商人。


 研究者。


 軍人。


 他国から来ているらしい服装の人間も混ざっていた。


 俺は第二研究区画の入口で学生用の腕章を付けていた。


「帰りたい」


 思わず呟く。


「まだ始まってないよ」


 同じ担当になった学生が笑った。


「知らない人多すぎない?」


「公開日だから」


「去年、こんなだったっけ」


「去年どこいた?」


「工房展示」


「じゃあ周り見てなかったんじゃない?」


「……そうかも」


 去年は外部から持ち込まれた測定器をずっと見ていた。


 周囲の人数なんて気にしていなかった。


 開始の鐘が鳴る。


 研究区画の入口が開いた。


「始まったな」


「逃げる?」


「無理だろ」


 やるしかない。


     ◇


 思っていたより、説明役は難しくなかった。


 同じことを何度も聞かれるからだ。


 これは何ですか。


 どうやって使うんですか。


 魔力は必要ですか。


 普通の家でも使えますか。


 分かる範囲で答える。


 分からなければ研究員を呼ぶ。


 それだけ。


「お兄ちゃん、これ何?」


 十歳にもならないくらいの男の子が、魔力色測定器を指した。


「魔力の色を見るやつ」


「魔法の強さは?」


「それは分からない。色だけ」


「お兄ちゃん何色?」


「俺?」


「うん」


「藍」


「見たい」


 何で俺のを。


 でも説明にはなる。


「じゃあ少しだけな」


 測定部へ手を置き、少量の魔力を流す。


 透明だった板が、黒に近い藍色へ変わった。


「黒!」


「藍だよ」


「黒じゃん」


「かなり暗いだけ」


「黒だよ」


「……まあ、そう見えるけど」


 横にいた母親らしい人が笑った。


「珍しい色ですね」


「よく言われます」


「得意な魔法も珍しいんですか?」


「いや」


 一瞬、考える。


「普通です」


 使う魔法は普通だ。


 当たらないだけで。


 嘘ではない。


 男の子は俺の魔力色をもう少し見たあと、隣の展示へ走っていった。


 意外と悪くない。


 最初は知らない人に説明するなんて絶対嫌だと思っていたけれど、内容が決まっていれば普通に話せる。


 これなら何とかなる。


「その装置の限界出力はいくつだ?」


 今度は大人の声。


 振り返る。


 軍服を着た男が立っていた。


 三十代くらい。


 背は高い。


 体格もかなりいい。


 ただ、軍人なのに腰に剣がない。


 両手に薄い黒い手袋を付けているだけだった。


「限界出力ですか?」


「ああ」


 知らない。


「すみません。そこまでは分からないので研究員を呼びます」


「それでいい」


「え?」


「知らないなら知らないと言った方がいい」


「普通じゃないですか?」


「そうでもない」


 どこかで聞いたような考え方だった。


「学生か?」


「はい」


「どっちだ」


「どっち?」


「魔法科か魔術科」


「ああ。魔術科です」


 厳密にはその中でもまだ進む学部を決め切っていない。


「何学部だ」


「まだ絞ってる途中です」


「二年か?」


「はい」


 男の視線が右腕へ移る。


 もう固定はしていないけれど、動かし方で何か分かったのかもしれない。


「怪我してるな」


「少し」


「魔術で?」


「実験で」


「何の実験だ」


 結構聞く人だ。


「電気で体内魔力を誘導する装置を作ってて」


「自作?」


「はい」


「見せられるか?」


「今は無理です」


「壊れた?」


「装置はほとんど壊れてません」


 男が少しだけ眉を上げた。


「じゃあ何が壊れた」


「俺の腕です」


 一瞬だけ間があった。


 そのあと笑われた。


「笑います?」


「少しな」


「結構怖かったんですけど」


「治ってるならいいだろ」


「まだ途中です」


「ならちゃんと治せ」


 初対面なのに、そこだけはみんな同じことを言う。


「お前、名前は?」


「レン・エルドです」


「そうか」


 男はもう一度展示を見る。


 その時、奥からオルフェン先生が歩いてきた。


「もう来ていたのか、バルガス」


 男が振り返る。


「相変わらず愛想がないな、オルフェン」


「お前にだけだ」


 バルガス。


 聞いた名前。


「レオル・バルガス?」


 思わず言う。


 男が俺を見る。


「知ってるのか」


「名前だけ昨日聞きました」


「何と?」


「軍の魔術師。あと素手で戦うって」


「誰から聞いた」


「友達です」


「他には?」


「何も」


「なら間違ってはいない」


 本人だった。


 もっと変な人を想像していた。


 今のところ普通に見える。


「先生、知り合いなんですか」


「昔からな」


「昔のお前はもう少し素直だった」


 バルガスさんが言う。


「黙れ」


「学生の前でそれか?」


「学生だから何だ」


 かなり長い付き合いらしい。


「エルド」


「はい」


 オルフェン先生が俺の腕章を見る。


「交代時間だ」


「もうですか?」


「二時間経っている」


 言われてみれば足が疲れていた。


 同じ場所で立ち続ける方が、歩くより疲れる。


「じゃあ休憩行きます」


「待て」


 バルガスさんに止められた。


「何です?」


「お前、魔術実技はどの程度だ」


「学年三位です」


 少しだけ表情が変わった。


「三位?」


「はい」


「三十万人の?」


「全校で比べてどうするんですか」


 思わず言った。


「同学年の魔術実技です。学部もまだ分かれてる途中なので」


「ああ、そういうことか」


 当たり前だ。


 上級生まで全部含めて三位だったら俺はもっと自信を持っている。


「魔法は?」


「聞きます?」


「聞いた」


「かなり下です」


「どの程度」


「この前の《圧弾》が五十点中九点」


「低いな」


「言い方」


「事実だろ」


 オルフェン先生と同じ種類だ。


「何で当たらない」


「それが分からないから困ってるんですよ」


「魔法陣なら?」


「普通に使えます」


「なら使えばいい」


「……」


 簡単に言われた。


「前にも言われました」


「誰に」


「友達に」


「じゃあそいつの方が正しい」


「でも自分で魔法使えるようになりたいんですよ」


「何で」


 そこを聞かれるとは思わなかった。


「……好きだから?」


「疑問形か」


「昔から好きなんです」


「今は?」


 少し考える。


「好きですよ。多分」


「なら好きにすればいい」


 バルガスさんはそれ以上何も言わなかった。


 何かもっと言われると思っていたので、少し拍子抜けする。


「エルド」


「はい」


「午後、時間あるか?」


「担当は午前だけです」


「なら第三訓練場へ来い」


「何でです?」


「お前の魔術を見る」


「俺の?」


「ああ」


「右腕は強化禁止です」


「右腕以外は?」


「普通に使えます」


「なら十分だ」


 何をするつもりだ。


 オルフェン先生を見る。


「いいんですか?」


「右腕を使わないならな」


「先生」


 バルガスさんが笑った。


「過保護だな」


「こいつは一週間前に自分の腕を壊しかけた」


「なるほど」


「無茶をさせるな」


「誰に言ってる」


「お前だから言っている」


 その言い方で少し不安になった。


「何するんです?」


 聞いてみる。


「簡単だ」


 バルガスさんは俺を見た。


「お前が今、何をして戦っているのかを見る」


「それだけ?」


「それだけだ」


「戦うんですか?」


「お前次第だ」


 分からない。


 でも興味はある。


 軍で実際に戦っている魔術師が俺の魔術を見る。


 しかも、先生が知っているくらいの人。


 断る理由はなかった。


「分かりました」


「午後二時。第三訓練場」


「はい」


 バルガスさんはそれだけ言うと、オルフェン先生と一緒に展示の奥へ歩いていった。


 俺は二人の背中を見送る。


 午後二時。


 第三訓練場。


 忘れることはないと思う。


 その前に休憩。


 それから工房展示。


 そのあとミラの実演。


 カイルも見に行くと言った。


 結構忙しい。


「……あ」


 一つ忘れていた。


 ミラに言っていない。


 今の話を。


 後から知ったら、多分怒る。


 少し考える。


 先に言うか。


 あとで言うか。


 どう考えても先に言った方がいい。


 俺は休憩へ向かう人の流れから外れ、ミラがいる実演区画の方向へ歩き出した。

実は三十万人もいるマンモス校もビックリな学院

入学自体は誰でもできるぞ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。