第24話 何処へ行ったのか
長かったね治るまで・・・
右腕の身体強化が五パーセントまで戻った翌日、俺は朝から機嫌がよかった。
別に五パーセントで何かすごいことができるわけではない。
重い物を持てるようになるわけでもないし、戦闘で役に立つほどでもない。普段の身体強化なら、意識しないくらいの出力だ。
それでも、ゼロではない。
昨日まで禁止されていたものを、決められた条件の中でまた使える。
それだけでかなり違う。
「そんな嬉しい?」
学院へ向かう途中、ミラが聞いてきた。
「嬉しい」
「五パーセントだよ?」
「昨日も同じこと言ってたな」
「だって五だよ」
「ゼロから見れば無限倍だろ」
「計算おかしくない?」
「気分の話」
右手を軽く握る。
朝の再検査でも異常なし。
今日は五パーセントを二回、各十秒。
それ以上は禁止。
決まっている。
前なら、五で問題ないなら十もいけるだろうと思っていたかもしれない。
今は思ってもやらない。
そこは自分でも少し変わったと思う。
「そういえば今日、五号やるんでしょ」
「ああ」
「初期魔力量変えるやつ?」
「少ない方から」
「右腕は使わない?」
「人工魔力材だから関係ない」
「ならいいけど」
学院の正門が見えてくる。
その横にある環境魔力計。
最近、毎朝見るのが癖になっていた。
今日の表示。
九十九。
「正常」
「確認しなくても警報鳴るよ」
「分かってる」
「じゃあ何で見るの」
「見たいから」
「そういうところだよね」
何がそういうところなのかは聞かなかった。
◇
午前の授業は普通だった。
魔術理論。
身体強化の効率。
内部魔力の分割。
事件と関係ない内容。
正直、少し安心する。
最近は授業まで魔力異常の話ばかりだった。
世界で何かが起きていても、毎時間それを考え続けられるわけではない。
俺には俺の勉強がある。
昼休み。
食堂でカイルが汁物を飲みながら言った。
「東の黒い岩、名前ついたらしいぞ」
「もう?」
「正式名称じゃないけど」
「何?」
「黒塔」
「そのままだな」
「現地の兵士が呼び始めたらしい」
ミラがパンをちぎる。
「塔じゃなくて岩でしょ」
「三十四メートルあれば塔みたいなもんだろ」
「でも岩」
「黒岩よりはいい」
「どうでもいい」
俺は食事を続けながら聞く。
「調査進んだ?」
「掲示に出てた」
「何が分かった?」
「硬い」
「それ前から分かってる」
「魔法も通りにくい」
「それもありそう」
「あと、周りの地面から小さい欠片取れたらしい」
「持ち出せた?」
「ああ」
そこは少し気になった。
「性質は?」
「知らない」
「何でそこ読んでないんだよ」
「長かったから」
「そこ大事だろ」
「俺にとっては黒塔って呼ばれてる方が面白かった」
「優先順位おかしい」
食べ終わったら見に行く。
そう決めたところで、食堂の照明が一度だけ暗くなった。
全員が少し上を見る。
すぐ戻る。
「また?」
ミラが言う。
「環境計は」
壁を見る。
九十三。
「ちょっと低い」
「でも正常範囲」
職員も特に動かない。
設備側の瞬間的な揺れかもしれない。
最近、こういう小さい変化に全員が敏感になっている。
少し前なら誰も気にしなかった程度の暗さ。
「慣れたくないな」
カイルが言った。
「何に?」
「照明暗くなっても、またかで終わるの」
少し分かる。
◇
昼休みの残りで掲示板へ向かった。
黒塔。
正式には**王都東方高濃度魔力異常区域**。
長い。
「黒塔でいいな」
「だからそれ現地呼称」
報告を読む。
黒い岩塊本体は現在も変化なし。
周辺土壌は高い魔力保持性を獲得。
採取した小片の一部では、通常の石材より高い耐熱性と耐圧性を確認。
ただし性質にばらつきあり。
「ばらつき?」
同じ場所から採ったのに、欠片ごとに少し違うらしい。
「魔力色も違う」
ミラが指差す。
ある欠片は黒優勢。
別のものは黄。
別のものは藍。
でも全体として九色が検出される。
「統一されてないな」
「学院事故みたい」
「結果は全然違うけど」
高濃度。
九色。
方向不定。
そこまでは似ている。
でも学院では魔獣。
東では黒い岩と異常地帯。
なぜ違う。
そこが分からない。
「これ」
掲示の下部。
新しい項目。
**周辺の通常植物に目立った変異なし。**
「わざわざ書いてある」
ミラが言う。
「枯れ木の件と比べてるんだろ」
「じゃあ研究院も似た現象として見てる?」
「少なくとも比較はしてる」
関係があると決めてはいない。
でも同じ表に並べ始めている。
「高濃度になったら何か変わる」
カイルが言う。
「魔獣になる時もあるし、石になる時もある?」
「その言い方だと雑すぎる」
「でも今分かってるのそれくらいだろ」
実際そうなのが困る。
◇
午後、第四工房。
五号の試験。
人工魔力材へ入れる魔力量を、これまでの五十から三十へ減らす。
目的は、初期状態が違っても同じ誘導条件で待機位置を保てるか。
「初期温度」
「二十一・七」
ミラ。
「自然放出基準」
「五分で二・五」
オルフェン先生。
「開始」
魔力を入れる。
三十。
前より薄い。
誘導端子を起動。
左側へ寄せる。
少し弱い。
同じ電気出力では、五十の時より動きが鈍い。
「やっぱ違う」
「記録」
「はい」
出力を少し上げる。
待機位置。
許容範囲内。
五分。
警告二回。
温度上昇〇・六。
損失二・九。
「問題なし」
「次、多い方?」
「今日は低魔力量条件だけだ」
「分かってます」
先に言っておく。
先生が少しだけ笑った。
「ようやく学習したか」
「最初から学習能力はあります」
「行動に反映されるまでが遅かった」
「否定しにくい」
人工魔力材を休ませる。
測定値を整理。
「先生」
「何だ」
「初期魔力量で必要な電気出力変わるなら、五号は固定出力だと駄目ですよね」
「ああ」
「自動調整?」
「また装置に任せるのか」
「いや」
前にミラから言われた。
警告だけ。
最終調整は自分。
「最初に自分で合わせる」
「その方がいい」
「毎回?」
「お前の体内魔力量が毎日完全に同じなら固定でもいい」
「同じじゃない」
「なら起動時調整を入れろ」
「面倒」
「安全は面倒なんだろ」
「俺が言ったやつ返さないでください」
紙に追加する。
**起動時基準合わせ。**
どんどん機能を減らしているはずなのに、手順は増えていく。
「装置って簡単にすると使い方が増えますね」
「当然だ」
「何で?」
「機械が考えない分、人が考えるからだ」
少し面白い。
俺は五号に全部やらせようとしていた。
今は逆。
装置は位置を作るだけ。
判断は俺。
何をどこまで任せるか。
その境界を決める方が、最初に想像していたより難しい。
◇
試験を終えて片付けている時だった。
工房内の環境魔力計が鳴った。
一度。
低い警告音。
数字。
八十二。
「下がった?」
全員が見る。
十秒後。
七十九。
工房担当の教師がすぐに立つ。
「大型設備停止!」
生徒たちが動く。
旋盤。
加熱炉。
大型魔法陣。
順番に止まる。
「五号は?」
「もう切ってる」
七十五。
七十一。
「早い」
ミラが言う。
学院放送。
『中央南区および工房区で環境魔力濃度低下。現在値七十パーセント。研究活動を一時停止してください』
昨日は中央北区。
今日は南。
「広がってる?」
「違う場所だ」
先生が測定器を見る。
「外部供給遮断。工房内蓄積槽も止めろ」
「蓄積槽も?」
俺が聞く。
「自然変化を見る」
なるほど。
設備からの魔力放出が混ざると分からない。
工房が静かになる。
電気式の最低限の照明だけ残る。
環境魔力。
六十八。
六十五。
六十二。
そこで少し止まる。
「昨日と似てる」
ミラ。
「六十台で」
数分。
六十一。
六十。
五十九。
「止まらない」
先生の顔が変わる。
「全員、作業終了。個人物品だけ持って退出準備」
「避難?」
「まだだ」
でも警戒は上がった。
五十七。
五十四。
放送が切り替わる。
『環境魔力警報。工房区および中央南区、五十パーセントを下回る可能性があります。低魔力環境に対応しない研究設備を停止。該当区域の学生は順次中央東区へ移動してください』
「移動するぞ」
全員が鞄を持つ。
俺も記録紙だけ入れる。
「先生、測定器は?」
「残す」
「データ」
「自動記録」
便利。
こういう時に説明はいらない。
皆普通に動く。
◇
廊下へ出ると、人の流れができていた。
走ってはいない。
教師が各所に立ち、東へ誘導。
学院事故の経験があるからか、前よりずっと早い。
「数値見える?」
カイルが途中で合流した。
「四十八」
壁の測定器。
「そんな低い?」
「まだ下がってる」
「魔法使える?」
ミラが小さく指先へ火を出す。
普通に点く。
「体内魔力なら問題ない」
「環境から補助取る魔法は?」
「試すな」
俺とカイルが同時に言う。
「分かってるよ」
中央東区へ近づく。
測定器。
八十八。
「境目はっきりしてるな」
工房区から数百メートル離れただけ。
まだ低いけど、かなり違う。
「局所的?」
「みたい」
そのまま指定教室へ入る。
人数確認。
待機。
大きな混乱はない。
学院事故みたいに魔獣が出ているわけでもない。
血もない。
戦う必要もない。
ただ魔力が薄い。
それだけ。
でも、工房は止まった。
講義棟の一部も。
生活設備も切り替えが必要。
「何も出ないのに面倒だな」
カイルが言う。
「出ないから見た目分かりにくい」
「そっちの方が嫌かも」
確かに。
魔獣なら危険だと分かる。
巨大な岩も。
枯れ木も。
魔力が薄いだけなら、何も起きていないように見える。
でも設備は止まる。
もっと薄くなれば、治療も。
「北部都市はこれが六パーセントか」
俺が言う。
想像するとかなり違う。
◇
二十分後。
工房区。
三十九パーセント。
学院は該当区域の立入を一時禁止した。
三十分。
三十一。
「まだ下がる」
ミラが表示板を見る。
教室の前方には学院全域の簡易地図が出ている。
低下区域。
工房区。
中央南。
そこから少し西。
「形変じゃない?」
俺は地図を見る。
「何が」
「円じゃない」
異常範囲が綺麗に広がっていない。
細長い。
途中で狭くなる。
また広がる。
「風みたい」
カイルが言う。
「魔力の流れ?」
ミラ。
「測ってるだろうな」
その時、地図の別の場所が黄色くなる。
学院東端。
百二十。
「上がった?」
さらに。
百三十。
「同時に?」
西南で減っている。
東で増えている。
教室内がざわつく。
教師がすぐに言う。
「静かに。現時点で関連は確認されていない」
でも、誰も完全には納得していない。
俺も。
「先生」
手を上げる。
「何だ」
「東側も避難?」
「百五十を超えれば移動準備」
「魔獣発生濃度は?」
「環境条件による。数値だけでは決まらん」
百四十一。
百四十七。
止まる。
「ギリギリ」
誰かが言う。
十分。
百四十六。
百四十二。
少し下がる。
工房区。
二十八。
「差がでかすぎる」
俺は地図から目を離せなかった。
同じ学院の中。
片方は三割以下。
片方は一・四倍。
距離は数キロもない。
今までこんなことがあったのか。
◇
一時間後。
東側は正常値近くまで戻った。
工房区は二十四パーセントで低下が止まり、その後ゆっくり回復し始めた。
授業はそのまま中止。
学生は帰宅。
研究員だけが残る。
俺も帰るつもりだった。
でも中央通路でオルフェン先生に呼び止められた。
「エルド」
「はい」
「少し来い」
「研究室?」
「ああ」
ミラとカイルを見る。
「先帰ってて」
「また?」
「先生に呼ばれた」
「ならいいけど」
研究室へ。
中には環境魔力の研究者が三人。
前にも見た顔。
壁には今日の学院地図。
「何です?」
先生が椅子を指す。
「お前の四号事故のデータをもう一度確認したい」
「また?」
「ああ」
「今日のと関係あるんです?」
「分からん」
いつもの。
「何を見たいんです?」
「魔力が相反方向へ流れた時、お前自身の体内総魔力量に変化はあったか」
少し考える。
「測ってました?」
「事故前後の値はある」
記録。
事故直前。
事故後。
「減ってる」
「強化と暴走で消費しているから当然だ」
「どれくらい」
「問題はそこじゃない」
別の記録。
右腕内の部位別魔力量。
時間ごと。
「こっちで減った時」
先生が一か所を指す。
「反対側が増えてる」
「あ」
完全に同量ではない。
でも近い。
「移動?」
「可能性が高い」
「体内で」
「ああ」
「それが今日と?」
「まだ繋げるな」
「先生が呼んだのに」
「比較対象だ」
環境魔力の研究者が今日の地図を出す。
「工房区低下開始から十一分後、学院東側で上昇が始まった」
「十一分」
「ただし量が合わない」
前と同じ。
「工房区から減った推定量より、東側で増えた量の方が多い」
「じゃあ別の場所からも?」
「その可能性はある」
「流れは測れたんですか」
「一部だけ」
矢印。
工房区から東。
真っ直ぐではない。
一度南。
北東。
途中で分岐。
「変」
「そうだ」
「これ、風とか地形の影響?」
「一致しない」
「魔力色ごと?」
「もっと一致しない」
九色が別々。
でも一部では同じ方向。
「先生」
「何だ」
「魔力って本当に循環してるんじゃないですか」
部屋が少し静かになる。
前にも聞いた。
古い仮説。
証明されていない。
「可能性は上がった」
先生が言った。
初めてだった。
これまでより一歩進んだ答え。
「本当に?」
「ああ。ただし」
「証明はできない」
「そうだ」
先生は地図を見る。
「局所的な移動では説明しにくい現象が増えている」
「高い場所と低い場所が」
「ああ」
「でも遠すぎる」
「ああ」
「量も合わない」
「ああ」
分からない。
でも、何かが動いている。
「世界全体?」
「そこまでは言えん」
「でも王国内だけじゃなかったら」
先生が俺を見る。
「だから今、国外の研究機関にも照会している」
「国外?」
話が大きくなった。
「他国でも起きてるか確認?」
「ああ」
「返事は?」
「一部だけ来た」
「どうでした?」
先生は少し黙った。
「似た報告がある」
背中が少し冷えた。
「どこ」
「西方二国。南の沿岸国家。北東の山岳連合」
「そんなに?」
「内容はばらばらだ」
高濃度。
低濃度。
異常魔獣。
魔法陣停止。
地形変化。
「学院事故の後?」
「時期はほぼ重なる」
それなら。
「世界規模じゃ」
「まだ言うな」
強く止められる。
「すみません」
「言いたくなるのは分かる」
先生が珍しくそう言った。
「私も同じことを考えている」
「先生も?」
「ああ」
でも口にしない。
証拠が足りないから。
「研究者って大変ですね」
「今さらか」
「思ったより」
◇
研究室を出る前に、一枚だけ新しい資料を見せられた。
国外報告。
北東の山岳地域。
三日前。
標高の高い火口跡で魔力濃度が急上昇。
赤、白、黒が優勢。
魔獣発生なし。
物質変化なし。
ただ。
「これ何です?」
報告の最後。
**大型飛行生物一体が現地上空を長時間旋回。**
「ドラゴン?」
「現地ではそう判断されている」
「また」
「同じ個体かは不明」
地図で見る。
王都からはかなり遠い。
「魔力異常の場所に来てる?」
「二例だけだ」
「学院とここ」
「ああ」
「偶然?」
「分からん」
先生が資料をしまう。
「ドラゴンの行動研究なんて専門外だ」
「聞けないんですか」
「誰に」
「ドラゴンに」
先生が俺を見る。
「お前が行け」
「嫌です」
「なら聞くな」
それはそう。
◇
帰り道。
今日は一人だった。
ミラたちは先に帰っている。
王都の街は普通。
照明。
店。
運搬車。
人。
学院の中で魔力が四分の一まで落ちたなんて、ここからは分からない。
道沿いの環境計。
九十七。
正常。
少し先。
百二。
正常。
俺は歩きながら考える。
減った。
増えた。
場所は違う。
時間は近い。
量は合わない。
色はばらばら。
流れも綺麗じゃない。
それでも、何となく。
一つのものが動いているように見える。
水なら。
高い場所から低い場所へ。
風なら。
圧力差。
魔力は?
何に従っている。
分からない。
その時。
目の前の街灯が一つ消えた。
「ん?」
隣も。
さらにその先。
三つ。
四つ。
通りの片側だけ。
人が少し立ち止まる。
「故障?」
誰かが言う。
数秒後。
反対側は点いたまま。
環境計を見る。
九十六。
正常。
「設備側か」
多分。
修理員が来るだろう。
そのまま通り過ぎようとした時だった。
消えた街灯の根元。
排水溝の横。
小さな草が生えている。
珍しくもない雑草。
ただ。
「……白い?」
葉の先。
本来緑のはずなのに、色が抜けている。
一本だけ。
触らない。
近づかない。
最近はそこも覚えた。
環境計。
正常。
周囲も。
普通。
でも草だけ。
白い。
「何だこれ」
少し離れて見る。
枯れているようには見えない。
葉は立っている。
乾いてもいない。
ただ色だけがない。
通行人は誰も気にしていない。
俺も、事件前なら多分見つけていない。
連絡板を出す。
学院の環境異常報告窓口。
位置。
簡単な状態。
触れていないこと。
送信。
「これでいいか」
自分で調べない。
持ち帰らない。
切らない。
少し前の俺なら、葉を一枚くらい取っていたかもしれない。
「成長したな」
自分で言うと、かなり変だった。
そのまま帰る。
後ろを一度だけ見る。
白い草は動かない。
何か危険があるようにも見えない。
多分、大したことじゃない。
ただの病気。
土の問題。
設備の漏れ。
説明できる理由はいくらでもある。
最近の異常と関係ないかもしれない。
それでいい。
全部を繋げる必要はない。
◇
翌朝。
学院へ着いて最初に見たのは、昨日送った報告への返信だった。
**現地確認済み。**
「早いな」
続きを読む。
白化植物。
周囲に同様個体十一株。
植物自体の魔力含有量。
通常の同種と比較して。
「……一パーセント未満?」
ほとんどない。
空気中は正常。
土壌も正常。
植物だけ。
魔力が抜けている。
生きている。
少なくとも今は。
でも、通常なら植物にも魔力はある。
生物にも。
物にも。
全部に。
「こんなことあるのか」
続報。
経過観察。
採取済み。
危険性現時点で低。
それだけ。
俺は表示を閉じる。
大した事件じゃない。
十一株の雑草。
誰も怪我していない。
街も止まっていない。
でも少しだけ気になった。
魔力が有りすぎる場所では、魔獣や岩や変なものが生まれる。
魔力が無さすぎる場所では、設備が止まる。
そして今度は。
場所ではなく、生き物一つから魔力がほとんど消えている。
世界で起きていることが、少しずつ種類を増やしている。
増える。
減る。
集まる。
抜ける。
変わる。
止まる。
どれも別々に見える。
それでも、全部が同じ時期に始まっている。
俺は学院の環境魔力計を見る。
百。
ちょうど正常。
数字だけなら何もおかしくない。
だからこそ思う。
正常というのは、今その場所の数字が合っているだけなのかもしれない。
その外で何が動いているのか。
俺たちはまだ、ほとんど何も見えていなかった。
何が起きているのだろうか・・・?




