第25話 白き植物
白い草、何となく薄い感じがする。
白くなった雑草についての報告を送った翌日、俺は朝一番でセレナ先生に呼び出された。
場所は魔法陣研究棟の小さな準備室。
机の上には、透明な箱が三つ並んでいる。
中身は草だった。
「……これ、昨日の?」
「そうです」
セレナ先生が一番左の箱を指した。
白い。
昨日、街灯の下で見つけたものと同じ。
ただ、一本だけではない。
根ごと掘り出された草が数株、湿らせた土と一緒に固定されている。
「持ってきたんですね」
「環境調査班が採取しました」
「危険性は?」
「現時点では低いと判断されています。だからここにあります」
もっともだった。
「触っていいですか」
「まだ駄目です」
「ですよね」
聞くだけ聞いた。
先生は二つ目の箱を見る。
普通の緑色の草。
三つ目も同じ。
「比較用ですか?」
「一つは同じ場所から採取した正常個体。もう一つは学院内で採取した同種です」
「同じ種類?」
「確認済みです」
見た目だけなら白い方も形は変わらない。
葉の長さ。
茎。
根。
色だけが抜けたように見える。
「魔力、一パーセント未満だったんですよね」
「昨日の初期測定では」
「今は?」
「自分で見ますか」
「いいんです?」
「そのために呼びました」
少し嬉しい。
机の端に小型の生体魔力測定板が置かれている。
昨日までなら説明書を読む前に触っていたかもしれない。
今日は先生を見る。
「使い方」
「そこから聞くようになったんですね」
「最近、周りからその反応されるんですけど」
「良い変化です」
褒められている。
多分。
セレナ先生から簡単な説明を受ける。
測定板を箱の外側へ当てる。
内部へ直接魔力を送らない。
植物へ触れない。
環境値を先に取る。
全部確認。
「じゃあ白い方から」
板を当てる。
数字が出る。
周辺環境。
九十九。
正常。
土壌。
九十七。
ほぼ普通。
植物内部。
「〇・八?」
「昨日は〇・九でした」
「減ってる」
「誤差範囲の可能性もあります」
「じゃあまだ分からない」
「そうです」
比較用。
同じ場所に生えていた緑の草。
植物内部。
八十六。
学院内のもの。
九十一。
「全然違う」
「見れば分かりますね」
「でも周りは普通」
「そこが問題です」
普通なら、植物にも魔力がある。
人間ほど多くはない。
魔獣ほど濃くもない。
でもゼロに近いなんてことはない。
「吸えない?」
俺が言う。
「可能性の一つです」
「抜けたあと戻らない?」
「それも可能性の一つ」
「内部で消費してる?」
「それも」
「全部分からない」
「そういうことです」
最近、この答えにも慣れてきた。
◇
「今日、現地へ行きます」
先生が言った。
「先生が?」
「私だけではありません。環境魔力研究班と植物魔法研究班、それから都市設備管理局」
「結構多い」
「街灯の停止も同じ場所で起きていますから」
そうだった。
草を見つけた直前、通りの街灯が数本消えている。
「関連あるんですか?」
「まだ不明です」
「じゃあ両方見る?」
「そうなります」
そこで先生が一枚の許可証を出した。
「あなたも来ますか」
「いいんです?」
「観察だけです」
「行きます」
即答した。
「条件を最後まで聞いてください」
「あ」
先生が少し眉を上げる。
まだ完治ではないらしい。
「現場の指示に従う。採取しない。触れない。独断で測定しない。指定範囲から出ない。異常値が出た場合は原因を確認しようとせず退避する」
「はい」
「右腕は?」
「五パーセントまで再開。一日二回、十秒。今日は朝の一回だけ」
「現地では使いません」
「分かりました」
「そして、これは授業ではありません。危険と判断された時点であなたは学院へ戻します」
「はい」
「不満そうですね」
「ちょっとだけ」
「不満でも戻します」
「分かってます」
それでも行ける。
自分が見つけたものが、どう調べられるのか。
それを見られる。
十分だった。
◇
王都内なので、現場まではそれほど時間がかからなかった。
俺たちが乗ったのは学院の小型運搬車だった。
見た目は木と金属で作られた箱型の車。
車輪も普通。
ただ、床下には駆動用の魔法陣が組み込まれていて、御者席の操作板で速度を調整する。
俺が普段使うものではないけれど、王都では珍しくない。
セレナ先生の向かいには、環境魔力研究の男性が座っていた。
三十代くらい。
昨日、白い草を採取した本人らしい。
「君が最初に見つけた学生?」
「はい」
「よく気づいたね」
「街灯が消えてたので、たまたま」
「草を見る理由にはならないと思うけど」
「白かったので」
「普通は街灯の方を見る」
「俺も最初は見ました」
そのあと草も見ただけだ。
「名前は?」
「レン・エルドです」
「私はディオン。環境魔力の方」
「よろしくお願いします」
「《方向不定》の子だよね」
「何でそこまで広がってるんですか」
セレナ先生が横を向いた。
「研究者間ではかなり知られています」
「俺の名前より先に?」
「多分」
「嫌だな」
「事故記録としては珍しいので」
分かっている。
でも呼び名として定着してほしくない。
「今回は方向不定じゃないんですよね」
俺が聞く。
ディオンさんが頷く。
「少なくとも昨日の測定では」
「流れは?」
「ほぼ正常」
「じゃあ本当に植物だけ?」
「今のところはね」
今のところ。
最近、その言葉も増えた。
◇
現場の通りは封鎖されていなかった。
人も普通に歩いている。
ただし、問題の街灯周辺だけ低い柵が置かれ、都市設備管理局の職員が二人立っていた。
「思ったより普通ですね」
「だから調査しにくいんです」
ディオンさんが言う。
「災害なら周囲を全部止められる。でもこの程度で通りを封鎖すると生活の方へ影響が出る」
確かに。
危険性が確認されていない雑草十一株のために、大通りを止めるわけにもいかない。
「昨日の場所」
俺が見る。
街灯。
排水溝。
その横。
白い草がまだ残っている。
昨日より増えたようには見えない。
「十一株ってこの範囲?」
「半径二・七メートル」
「狭い」
柵の中へ入る。
俺は指定位置で止まる。
研究者たちは作業開始。
測定器を置く。
魔法陣式の地中探査板。
空気中魔力計。
色別計測。
土壌魔力。
街灯の基部も開けられる。
誰もいちいち仕組みを説明しない。
それぞれ普通に道具を使っている。
俺も黙って見る。
「環境、百一」
「色比率正常」
「地下、深度一まで異常なし」
「配線陣は?」
「損傷なし」
「昨夜の停止記録」
「三分十四秒。供給不足表示」
俺は少し引っかかった。
「供給不足?」
許可を取るようにセレナ先生を見る。
頷いた。
「環境魔力は正常だったんですよね」
設備管理局の人が答える。
「現在はな」
「停止した時は?」
「街灯自体の簡易記録では外部供給が急落している」
「どれくらい?」
「十三パーセントまで」
「北部都市みたい」
規模は全然違う。
街灯数本。
時間も三分程度。
「周りの環境計は?」
「最寄りが二百メートル先。そちらは九十四から九十一。大きな変動なし」
「じゃあ、この辺だけ?」
「可能性はある」
ディオンさんが地面へ小型測定杭を刺す。
「だから昨日から観測点を増やしてる」
現在値。
九十八。
正常。
「昨日の三分間だけ、ここから魔力が抜けた?」
俺が呟く。
「そう見える」
ディオンさんはそれ以上言わなかった。
◇
植物班の研究者が、白い草の横へ小さな鉢を置いた。
中には普通の緑色の草。
「それ何するんです?」
「対照」
「ここに置くだけ?」
「そう」
環境に問題があるなら、新しく置いた植物にも影響が出る可能性がある。
逆に何も起きなければ。
「元から生えてた方だけ?」
「そう判断できる可能性が上がる」
「何時間?」
「最低一日」
「長い」
「生物だからね」
植物研究者が笑った。
もっとすぐ分かる方法がありそうなのに。
でも無理に魔力を入れれば、それ自体が条件を変える。
ただ置く。
待つ。
研究って、思ったより待つ時間が長い。
「白い方に魔力を直接入れたらどうなるんです?」
「まだ試していない」
「何で?」
「最初に自然状態を記録したいから」
「ああ」
「入れた瞬間、元に戻るかもしれない。枯れるかもしれない。何も起きないかもしれない。だからその前の状態を十分取る」
最近どこでも同じだ。
分からない。
だから先に測る。
以前の俺なら、入れれば分かると思った。
今も思う。
でも、その一回でしか取れない情報もある。
「レン」
セレナ先生が呼ぶ。
「はい」
「街灯の記録を見ますか」
「見ます」
基部の横にある作業板。
魔力供給の推移。
事件時刻。
百。
九十八。
九十七。
そこから急に。
七十二。
四十一。
十三。
数秒。
その後。
二十五。
五十八。
九十。
「三分で戻ってる」
「そうです」
「流れの方向は?」
「街灯にはそこまでの測定機能はありません」
「今の学院なら付けそう」
「多分追加されます」
あの事件以来、測定器ばかり増えている。
「草が白くなった時刻は?」
「分かりません」
「昨日以前?」
「周辺住民への聞き取りでは、少なくとも前日の朝には普通だったという証言があります」
「一日以内」
「おそらく」
街灯が止まったのは俺が通る少し前。
草が白くなったのも近い時間なら。
「関係ありそう」
「ありそう、までです」
セレナ先生がすぐ補足する。
「はい」
「最近慣れましたね」
「先生たちに毎日言われてるので」
◇
調査を始めて一時間ほど経った頃。
最初の変化が出た。
白い草ではない。
街灯でもない。
「東側測定杭、八十一」
ディオンさんの声。
全員が止まる。
「他は」
「北九十九。西百。南九十七」
「東だけ?」
「七十八」
下がる。
セレナ先生が俺を見る。
「エルド、車へ」
「もう?」
「条件です」
「はい」
反論しない。
柵から出て、運搬車のところまで戻る。
中には入らず、先生の指示で車の横。
現場は見える。
研究者たちはさらに測定杭を増やす。
七十四。
七十。
低下範囲は狭い。
街灯から東へ数メートル。
「また局所的」
俺は聞こえないくらいの声で言う。
六十八。
そこで止まる。
一分。
二分。
六十九。
「戻る?」
七十二。
七十六。
八十五。
ゆっくり正常へ。
警報を出すほどではない。
誰も避難しない。
でも全員の動きは速かった。
数分後、セレナ先生が戻ってくる。
「もう大丈夫ですか」
「現場には戻りません」
「まだ?」
「変動があったので」
「分かりました」
「不満は」
「あります」
「でも?」
「戻りません」
「よろしい」
成長を確認されている気分だ。
「方向は測れたんです?」
「一部」
「どうでした?」
「東へ抜けています」
「東?」
「少なくとも測定範囲では」
数メートル先。
そこから先は?
「追えない?」
「今の機器配置では」
また観測範囲。
世界の魔力がどう動いているかなんて、こんな狭い場所ですら全部は見えない。
◇
学院へ戻ったのは昼過ぎだった。
俺は午後の授業へ行き、夕方になってから第四工房へ寄った。
今日は五号を触らない。
現地調査もあったし、右腕の五パーセント強化も朝に一度使っている。
もう一回は治療区画で確認する予定。
「どうだった?」
カイルが聞く。
「草見てきた」
「白いやつ?」
「ああ」
「何だった?」
「分からない」
「そればっかだな」
「本当に分からないんだから仕方ない」
ミラも来ている。
「危なくなかった?」
「途中で魔力濃度下がって、すぐ現場から出された」
「やっぱり」
「六十八まで」
「北部都市より全然高いけど」
「範囲が数メートルしかなかった」
「そんな狭くなることある?」
「今までは知らない」
俺は調査の内容を話す。
街灯の外部供給が三分だけ十三パーセントまで落ちたこと。
周囲の固定観測点では大きく下がっていなかったこと。
草自体から魔力がほぼ消えていること。
「草、生きてるの?」
カイルが聞く。
「今のところ」
「魔力ほぼないのに?」
「ああ」
「じゃあ別になくても生きられる?」
「それは分からない」
「また」
「一日で枯れるかもしれないだろ」
魔力は全部にある。
それが常識。
でも、あるから必要なのか。
必要だからあるのか。
そこまで考えたことはない。
「人間から魔力全部抜いたらどうなるんだろ」
カイルが言った。
「試すなよ」
「やらないよ」
「一応」
「誰で試すんだよ」
「お前なら昔の俺みたいなこと言いそうだから」
「さすがにそこまではしない」
ミラが俺を見る。
「レンは?」
「何」
「昔ならやった?」
「自分の魔力を完全に抜く方法があったら?」
「うん」
考える。
「……ちょっと試したかも」
「やっぱり」
「全部は抜かないよ」
「そこじゃない」
今ならやらない。
多分。
◇
翌日。
白化植物の一日後の結果が出た。
朝の掲示ではなく、セレナ先生から直接見せてもらった。
「対照植物」
昨日置いた鉢。
緑色のまま。
魔力含有量。
八十八。
「普通」
「はい」
「じゃあ場所がずっと悪いわけじゃない」
「少なくとも、置いた植物から魔力が抜け続ける環境ではなかったようです」
次。
元から白かった草。
魔力。
「〇・七」
ほぼ変化なし。
「戻ってない」
「そうですね」
「周り百近いのに?」
「はい」
「吸わない?」
「正確には」
先生が別の測定結果を見せる。
「ごく微量ですが取り込んでいます」
「じゃあ何で増えない」
「同程度、外へ抜けています」
「抜け続けてる?」
「そう見えます」
「どこへ?」
「分かりません」
白い草。
外から少し入る。
でも残らない。
まるで穴が開いているみたいに。
「体内で使ってる可能性は?」
「通常の代謝量では説明できません」
「じゃあ」
止める。
また推測。
「分からない」
「そうです」
先生が頷いた。
「一つだけ分かったことがあります」
「何です?」
「昨日の場所で起きた環境魔力低下と、この植物の低魔力状態は、必ずしも同じ現象ではない可能性が高い」
「何で?」
「環境は戻った。対照植物も正常。それでも白化個体だけは戻らない」
「一回何か起きて、その結果だけ残った?」
「そう考えることはできます」
結果だけ。
黒塔もそうだ。
周囲の魔力濃度は下がったのに岩は残った。
橋の石も。
枯れ木も。
湖の止まった部分も、しばらく残っていた。
「魔力異常が終わっても、変わったものは戻らない?」
「全部ではありません」
「はい」
また繋げすぎるところだった。
「でも、そういう例がある」
「それは確かです」
少しだけ嫌だった。
災害が終われば元通り。
そうならない。
変わったものが残る。
◇
昼休み。
学院の中央掲示板に、王国から初めてまとまった通知が出された。
これまでのような個別速報ではない。
**近時発生している環境魔力異常について。**
学生だけでなく、街へも同じ内容が出ているらしい。
人がかなり集まっている。
「正式に認めたんだ」
ミラが言う。
「何を?」
「増えてるって」
読む。
学院事故以降、王国内各地で平常時を上回る頻度の環境魔力変動が確認されている。
高濃度化。
希薄化。
局所的な流動異常。
それに伴う魔獣発生。
物質・生物・地形等の変質事例。
原因は現在調査中。
「物質、生物、地形」
カイルが読む。
「黒塔と草と枯れ木か」
「他にもあるんだろ」
全件を公開しているとは思えない。
下には注意事項。
異常な魔力濃度を感じた場合は近づかない。
見慣れない魔獣や変質物を発見しても触れない。
個人で採取しない。
環境魔力計の警報に従う。
都市設備の停止時は管理局の指示を待つ。
「最近俺が言われてること全部書いてある」
「レン向け?」
「王国全体が俺扱いされてる」
「危ない物見つけて持ち帰る人、絶対いるからね」
否定できない。
「でも原因は書いてない」
「分かってないからだろ」
「学院事故との関係も」
「なし」
そこはまだ公表できない。
証拠がない。
「国外でもって話は?」
カイルが聞く。
「書いてない」
「何で?」
「まだ正式に確認中じゃない?」
先生から聞いた話だから、俺たちが勝手に広めるものでもない。
「これからどうなるんだろ」
ミラが小さく言った。
誰もすぐ答えなかった。
異常が増えている。
そこまでは国も認めた。
でも、それがいつまで続くのか。
もっと増えるのか。
止まるのか。
誰にも分からない。
「授業はある」
俺が言う。
「急に現実的」
「今日午後、魔法工学連携の仮体験」
「あ、今日だっけ」
「ああ」
第三希望。
忘れてはいない。
「行くんだ?」
「行く」
「こんな時でも?」
「こんな時だから見たい」
魔力が安定して存在する前提で作られた技術。
それが今、崩れ始めている。
工学側がどう考えているのか。
少し気になる。
◇
魔法工学連携の仮体験では、事件前なら多分扱わなかった課題が出た。
机の上に置かれた小型照明陣。
蓄積槽。
環境供給端子。
「課題は簡単です」
担当の研究員が言う。
「環境魔力が百、五十、十。それぞれの場合で、この照明を同じ明るさで一時間維持してください」
教室が少しざわつく。
「使えるのは?」
「蓄積魔力百。使用者からの追加供給は最大五十。回路変更可」
なるほど。
普通なら環境から取ればいい。
でも十しかない場合。
全部を同じ設計で動かすと足りない。
「これ最近の異常前提ですよね」
誰かが聞く。
「そうです」
「急に課題変えた?」
「三日前に」
研究員が笑う。
「工学は現実に合わせます」
その言葉は少し好きだった。
俺は回路を見る。
環境百。
簡単。
五十。
蓄積槽を補助。
十。
ここで同じ明るさを保つには。
「効率上げる?」
隣の学生が呟く。
「明るさ同じなら、光への変換損失減らすしか」
「それと優先回路」
「一時間だけなら蓄積を最初から使う?」
「後半足りなくならない?」
話し合う。
魔術とは違う。
一人で細かく動かすのではなく、条件を決めて仕組みにする。
これも面白い。
ただ。
「俺、自分で調整したくなるな」
「何を?」
「途中の出力」
「自動でいいでしょ」
「そこが」
五号と逆。
一般設備なら、人が毎秒調整する方がおかしい。
誰でも使えるようにする。
それが工学。
俺は自分専用に寄せすぎる。
そこが多分、精密魔術と工学の違いでもある。
◇
仮体験が終わる頃には、第三希望を第三にしたままでいいのか少し迷い始めていた。
第一は精密魔術。
そこは変わらない。
問題は戦闘魔術と魔法工学連携。
「全部やりたい」
廊下で呟く。
「前にも言ってたね」
待っていたミラが言った。
「時間が足りない」
「学部入っても他の授業取れるでしょ」
「条件あるけどな」
「じゃあ取れば」
「簡単に言う」
「レンなら取るでしょ」
多分取る。
第一希望だけで全部を決める必要はない。
その時、校内放送が流れた。
警報ではない。
通常通知。
『王国北部低魔力地域について、環境魔力濃度の回復を確認しました。現在値四十一パーセント。住民避難は継続します』
「戻ってる」
ミラが言う。
「六から四十一」
「よかった」
まだ低い。
でも上がっている。
「このまま百まで戻るかな」
「分からない」
最近そればかり。
でも今日は、少し良い方の分からないだった。
歩き出す。
廊下の環境魔力計。
百三。
正常。
右腕は五パーセント。
明日問題なければ、もう少し。
五号も進んでいる。
学部も選ぶ。
全部が壊れているわけではない。
戻るものもある。
残るものもある。
何が元に戻って、何がそのまま変わってしまうのか。
今の俺たちには、その違いすらまだ分からなかった。
何が違うんやろ?




