↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

第15話 使い方は人それぞれ

そろそろ不幸にしてもいいかもしれない・・・

 放課後、俺は約束通り第四工房へ向かった。


 今日は自分で何かを試すつもりはない。机の上に用意したのは三秒札が六枚と、薄い木板を何枚か。それから札を剣に固定するための簡単な留め具だけだった。


 カイルが来るまでの間に、俺は留め具の位置を何度か変えてみる。剣の鍔に近すぎれば手に当たりそうだし、離しすぎると振った時に紙が先に剥がれる。そもそも剣に魔法陣を付けること自体は珍しくないが、今回やりたいのは剣から魔法を出すことではなく、剣を振る動きで札だけを飛ばすことだ。


「難しいな」


 実際の剣がないので、木製の棒へ留め具を付けて試してみる。


 振る。


 札は外れない。


 もう一度。


 強めに振る。


 今度は外れた。


 ただし、俺の後ろへ飛んだ。


「……駄目だな」


「何が?」


 入口から声がして振り返ると、カイルが立っていた。肩には訓練用の片手剣を下げている。


「ちょうどいい。貸して」


「挨拶より先に剣?」


「早く試したい」


「お前、今日見るだけじゃなかった?」


「俺は使わない。取り付けるだけ」


「本当に?」


「何でお前まで疑うんだよ」


「グレイスから言われた」


 またか。


「ミラは?」


「あとで来るって」


 カイルから剣を受け取る。もちろん刃を潰した訓練用だけれど、重さや形は実物に近い。


 鍔のすぐ上へ留め具を付ける。


「振ってみて」


「札なし?」


「最初は」


 カイルが剣を握り、何度か軽く振る。


「邪魔?」


「少し」


「どこが?」


「親指の近く。握り変えた時に触る」


「じゃあもう少し上」


 位置をずらす。


 もう一度。


「今度は?」


「こっちの方がいい」


 次に、魔力を入れていない三秒札を一枚挟む。


「剣振った時に、最後で手首を返して」


「こう?」


 カイルがゆっくり動きを確認する。


 剣を斜めに振り下ろし、最後に少しだけ手首を返す。


 札が外れた。


 前へ飛ぶ。


「お」


 二人同時に声が出た。


 距離は三メートルほど。それでも、手で投げるより明らかに速い。


「もう一回」


「今度は普通の速さでいい?」


「ああ」


 新しい札。


 カイルが構える。


 振る。


 札が飛ぶ。


 今度は五メートルほど先へ行き、そのまま床へ落ちた。


「かなりいいな」


「俺の案だからな」


「まだ魔法入ってないけど」


「飛ばすところは成功だろ」


 そこは認める。


「問題は向き」


「ああ」


 二枚とも表が上を向いたまま飛んでいる。


 偶然なのか、それとも剣から外れる時の回転が安定しているのか。


 そこを確認するために、さらに三枚試した。


 三枚とも大きく裏返ることはなかった。


「これなら三秒札使えるかも」


「三秒も必要?」


「剣から飛ばすならもっと短くできる」


「一秒?」


「それだと振る前に発動しそう」


「じゃあ二秒」


「多分それくらい」


 俺が紙へ書き込んでいると、工房の入口からミラが入ってきた。


「もう始めてる」


「見るだけならいいだろ」


「レンが?」


「カイルが」


 ミラが床に散らばった札を見る。


「飛んだの?」


「見ろ」


 カイルが少し得意そうに新しい札を付ける。


「これ、俺が思いついた」


「まだ聞いてないよ」


「見れば分かる」


 剣を振る。


 札が前へ飛ぶ。


「へえ」


 ミラは素直に感心したらしい。


「思ったより真っ直ぐ」


「だろ?」


「でも戦ってる時に毎回こんな振り方できる?」


 カイルの顔が止まった。


「……できる」


「今ちょっと考えたよね」


「できるって」


「じゃあ訓練場で試せば」


 もっともな話だった。


 工房で剣だけ振るなら、好きな角度で札を飛ばせる。


 実際の戦闘では相手がいる。


 防ぐ。


 避ける。


 踏み込む。


 その中で毎回、札を飛ばすための動作を作れるとは限らない。


「今日訓練場空いてる?」


 俺が聞く。


「第五の小区画なら申請すれば使えると思う」


 ミラが答える。


「じゃあ行く?」


 カイルがすぐ乗ってくる。


 俺は少しだけ考えた。


 今日の予定では、見るだけ。


 俺自身は動かない。


 それなら問題ない。


「行こう」


     ◇


 第五訓練場の小区画は、夕方になるとかなり空いていた。


 申請を済ませ、俺たちは端の一つを借りる。魔法を使うので防護陣も起動してもらった。


 俺は外側。


 中にカイルとミラ。


「何で私が相手なの?」


「俺は右腕使えないから」


「見るだけって言ってたもんね」


「そう」


 ちゃんと守る。


「出力はかなり下げて」


「分かってる」


 ミラが訓練用の魔力防護具を付ける。


 カイルの剣には、一枚だけ札を装着した。


 今回は魔力あり。


 ただし《圧弾》の出力は、授業で使うものよりさらに低い。


「発動は三秒のまま?」


 カイルが聞く。


「まずは。剣を振り始める前に起動して、振った時に飛ばして」


「三秒数えるの面倒だな」


「最初だけ」


「戦闘中は?」


「そこはあとで考える」


「また増えるな」


「だから試すんだよ」


 ミラが少し距離を取る。


「私どうすればいい?」


「普通に避けて」


「攻撃していい?」


「弱い《圧弾》だけなら」


「分かった」


 俺は区画の外から二人を見る。


「始めていい?」


「いいよ」


 カイルが先に動いた。


 剣を構えたまま距離を詰める。


 ミラが《圧弾》を一発。


 カイルは横へ避ける。


 二発目。


 剣で受ける。


 そこから踏み込む。


「今!」


 俺が言う前に、カイルは札を起動したらしい。


 一。


 ミラがさらに一発。


 カイルが剣を上げる。


 二。


 防ぐ。


 三。


 札が剣に付いたまま発動した。


 《圧弾》が横へ飛ぶ。


「危なっ」


 カイルが驚いて剣を離しかけた。


 ミラも思わず一歩下がる。


「止め!」


 俺が声を出す。


 カイルがこちらを見る。


「三秒無理だろ」


「分かってる!」


 俺も思った。


 戦闘中に三秒を正確に数えながら、剣を振るタイミングまで合わせるのは面倒すぎる。


「今、何で飛ばせなかった?」


 ミラが聞く。


「攻撃来たから防いだ」


「つまり札を飛ばすために剣振れなかった?」


「そう」


 予想していた問題がそのまま出た。


「これ、剣に付ける意味ある?」


「まだ分からない」


 俺は中へ入らず、その場で考える。


 剣へ付けた。


 剣を振る。


 札が飛ぶ。


 工房では上手くいった。


 でも実戦では、剣は札を飛ばすための道具ではない。


 相手を攻撃したり、防御したりするものだ。


 札を使いたい瞬間と剣を振れる瞬間が一致するとは限らない。


「なら、振った時に勝手に起動すればいい」


 カイルが言った。


「それ、前にも似た話したな」


「補助環?」


「ああ」


 剣を振る動作を検知。


 その瞬間に起動。


 ただ、それをやるには装置が必要になる。


「札だけじゃ無理?」


 ミラが聞く。


「動きに反応する魔法陣なら作れるけど、かなり複雑になる」


「じゃあ剣側に魔法陣つけたら?」


「剣側?」


「札を起動する陣」


 俺はカイルの剣を見る。


 鍔。


 留め具。


 そこに小さな魔法陣。


 剣を振った時に札へ魔力を送る。


「できるかも」


「また増えた」


「でもこれはかなり使える」


 カイルが剣を持ち直す。


「俺としては、数える必要なくなるなら欲しい」


「だよな」


 問題はどうやって剣の動きを判断するか。


 単純に一定以上の速度で動いたら起動。


 それなら剣を受けた衝撃でも反応するかもしれない。


 角度。


 加速度。


 魔力。


「……工房戻りたい」


「レン」


 ミラが俺を見る。


「何?」


「今日は?」


「俺は何もしてない」


「そういう意味じゃなくて」


 考える。


 今日はカイルが使うところを見る。


 その目的は達成した。


 ここでまた工房へ戻って作り始めたら、結局いつもの流れになる。


「紙に書くだけ」


「ならいい」


 俺はノートを出した。


 最近、このやり取りにも慣れてきた。


     ◇


 二回目の試験では、札を起動せず、剣のどの動作なら自然に飛ばせるかだけを見た。


 今度はミラも普通に攻撃する。


 カイルは剣で防御しながら、札を飛ばせる動きを探す。


 最初に成功したのは、横薙ぎだった。


 ミラの《圧弾》を避けたあと、そのまま剣を横へ振る。


 札が前方へ飛ぶ。


「今の自然だった」


 俺が言う。


「攻撃のついでだからな」


「斜めは?」


「やる」


 踏み込み。


 斜め切り。


 札が飛ぶ。


 少し上向き。


「これも使える」


「突きは?」


 カイルが構え直す。


 前へ突く。


 札はほとんど外れなかった。


「駄目だな」


「動きが前後だから」


「じゃあ振る攻撃だけ」


 何でもできるわけではない。


 でも十分だ。


「防御の時は?」


 ミラが聞く。


「剣を大きく払うなら飛ぶかも」


「やってみようか」


 《圧弾》。


 カイルが剣で外へ払う。


 その動きで札が飛んだ。


「いける」


「でも発動方向、変じゃない?」


 札はカイルの斜め後ろへ落ちている。


「防御から撃つなら駄目か」


「当てる必要ないなら?」


 ミラが言う。


「どういう意味?」


「後ろに《圧弾》出たら、相手びっくりしない?」


「相手じゃなくて味方がびっくりするだろ」


 カイルが即答した。


 それはそうだ。


「方向はちゃんと考えないと危ないな」


 ノートへ書く。


 札を飛ばせる動作。


 横薙ぎ。


 斜め。


 大きな払い。


 突きは難しい。


「剣に直接魔法陣描いた方が早くない?」


 ミラが急に言った。


「……」


 俺とカイルが同時に止まる。


「何?」


「それ言う?」


「駄目?」


「いや」


 駄目ではない。


 むしろ普通だ。


 魔法剣の類は存在する。


 武器へ魔法陣を刻み、魔力を流して効果を発動させる。


 別に珍しい発想ではない。


「じゃあ札いらないじゃん」


 カイルが言う。


「待て」


「だって《圧弾》の陣を剣に付ければいいんだろ?」


「それだと発射位置固定になる」


「剣から撃てれば十分じゃない?」


「お前の場合はな」


「俺用の話してたんじゃないの?」


「……」


 その通りだった。


 俺は知らないうちに、カイルに俺の札を使わせることばかり考えていた。


 でもカイルにとって一番使いやすい形が札である必要はない。


「じゃあカイルは剣に直接陣」


「それがいい」


「でも魔力入れるのは自分でだぞ」


「それくらいできる」


「発動も」


「できる」


 カイルは魔法が得意なわけではない。


 でも魔法陣へ魔力を流すだけなら問題ない。


「じゃあ札試す意味なかった?」


 ミラが言う。


「いや」


 俺は少し考えてから首を振った。


「使ってみたから分かった」


 カイルには札より剣へ直接刻む方がいい。


 俺には同じ方法が使えるか。


 多分使える。


 でも俺は短剣だけを使うとは限らないし、右腕が治ったら片手を空けて札を使うこともできる。


 それに、札なら発射位置を変えられる。


「同じ魔法でも、使う人で違うんだな」


 口にすると単純だった。


「当たり前じゃない?」


 ミラが言う。


「今日それ多いな」


「だって当たり前だもん」


「作る側だと忘れるんだよ」


 自分が使うもの。


 そう考えると、自分の身体、自分の癖、自分の得意なことを前提に作る。


 でも他人に渡した瞬間、その前提が全部変わる。


 カイルには剣がある。


 ミラにはそもそも札を使わなくても《圧弾》を撃てる。


 じゃあミラが札を使う意味は何だ。


「ミラ」


「何?」


「今、札使ってみて」


「今?」


「ああ」


「何すればいい?」


「好きに」


「一番困るやつ」


「俺が決めたら意味ない」


 ミラは少し考えてから、一秒札と三秒札を一枚ずつ受け取った。


「魔力入ってる?」


「入ってる」


「出力は?」


「訓練用」


「分かった」


 ミラが訓練場の中央へ出る。


 俺とカイルは外へ。


「何するんだろ」


「知らない」


「お前が頼んだんだろ」


「だから見たいんだよ」


 ミラは三秒札を左手に持った。


 右手は空いている。


 正面には訓練用の標的が三つ。


 距離はそれぞれ違う。


 三秒札を起動。


 その直後。


「《圧弾》」


 右手から一発。


 一番左の標的へ。


 命中。


 一秒。


 今度は二発目。


 右側。


 二秒。


 ミラが札を中央へ投げる。


 三秒。


 札から《圧弾》。


 中央の標的に当たった。


 ほぼ同時に、ミラ自身の三発目が左側へ飛ぶ。


「……四発?」


 カイルが言う。


「そうなるのか」


 俺も少し驚いた。


 ミラは普通に魔法を撃てる。


 だから札を使う意味がないと思っていた。


 違う。


「別々に発動できる」


 本人が撃つ魔法とは別。


 事前に魔力を入れておけば、札は勝手に発動する。


 つまり一人で同時に攻撃できる方向が増える。


「これ便利だね」


 ミラが戻ってくる。


「お前が使う方が強くない?」


「そう?」


「俺は魔法撃てないから札一枚分。お前、自分でも撃てるじゃん」


「でも札作る時間かかるよ」


「そこは俺が作れば」


「レンが?」


「ああ」


 言ってから少し止まる。


 俺が作った札をミラが使う。


 俺より上手く。


 少し前なら、かなり嫌だったかもしれない。


 自分の弱点を補うために作ったものを、元から才能のある人間がもっと上手く使う。


 多分、悔しかったと思う。


 今も悔しくないわけではない。


「……何その顔」


 ミラが聞く。


「いや」


「何か嫌だった?」


「少し悔しい」


「何で?」


「俺が使うより強い」


 正直に言う。


 ミラは少しだけ困ったような顔をした。


「使わない方がいい?」


「いや」


 そこはすぐ否定できた。


「使って」


「いいの?」


「ああ。むしろ使ってほしい」


「何で?」


「どこまでできるか見たい」


 悔しい。


 でも見たい。


 そっちの方が強かった。


「俺の札だし」


「そうだね」


「俺が作ったものが強いなら、それはそれで嬉しい」


「レンが使えなくても?」


「使えないわけじゃない」


「そうだけど」


 少し考える。


「俺には俺の使い方探すよ」


 それでいい。


 同じものを使って、ミラより上手く使わなければ意味がないわけではない。


 そもそも身体も魔力も戦い方も違う。


 俺には魔術がある。


 カイルには剣。


 ミラには魔法。


 同じ札でも役割が変わる。


「じゃあ今度、もう少し作って」


「何枚?」


「四枚くらい」


「何に使う?」


「考える」


「そこから?」


「レンもそうだったでしょ」


「確かに」


 返された。


     ◇


 訓練場を出たあと、俺たちは学院内の食堂へ向かった。


 今日は三人ともそれなりに腹が減っていたので、軽食ではなく普通に夕食にすることにした。


 注文した料理を持って席へ座る。


 俺は肉と豆の煮込み。


 カイルはまた肉。


 ミラは魚。


「お前本当に肉ばっかりだな」


「身体動かすから」


「野菜も食えよ」


「入ってる」


 皿の端に少しだけある。


「それで入ってる扱い?」


「食べてるだろ」


 ミラが笑いながら食事を始める。


「結局、剣に札付けるのやめるの?」


「カイルはな」


「俺は剣に直接魔法陣刻む」


 カイルが答えた。


「誰が刻むの?」


「エルド」


「俺?」


「流れ的にそうだろ」


「勝手に決めるな」


「できない?」


「できるけど」


「じゃあ頼む」


「材料は?」


「俺が出す」


「ならいい」


 訓練用の剣へ直接刻むなら、それほど難しくない。


 ただし実際の武器へ刻む場合は、材質や強度、魔力伝導率まで考える必要がある。


「最初は木剣で試すぞ」


「木に《圧弾》?」


「何か問題ある?」


「格好悪い」


「知らないよ」


「金属がいい」


「失敗した時も?」


「木でいいです」


 即答だった。


「ミラは札のまま?」


「多分」


「服とかに付ける?」


「それも面白そう」


「手で投げなくていいなら」


 俺は昨日考えた胸への固定を思い出す。


 魔法陣を服へ縫い付ける。


 事前に魔力を入れておいて、必要な時に発動。


「服に直接陣描くのもありだな」


「洗ったら消えない?」


「魔獣血インクなら落ちる可能性ある」


「じゃあ札を差し替える方がいい」


「そうだな」


 肩。


 胸。


 腰。


 背中。


 置ける場所はいくらでもある。


「待って」


 考えているうちに気づく。


「ミラの場合、札を投げる必要ないかも」


「どうして?」


「別方向から撃ちたいだけなら、身体に付けたままでいい」


 正面は本人。


 左右は服に付けた札。


 時間差。


 同時発動。


「……結構嫌な戦い方になるな」


 カイルが言った。


「何が?」


「正面からグレイスが魔法撃ってるのに、横からも勝手に飛んでくるんだろ」


「ああ」


「俺なら嫌だ」


「俺も」


 ミラ本人だけでも十分強い。


 そこへ別方向から魔法が増える。


「やってみたい」


 ミラが少し楽しそうに言った。


「じゃあ作る」


「また夜更かし?」


「今日はしない」


「本当に?」


「四枚だけなら」


「前十枚作ってたよね」


「あれは十枚」


「今日は四枚」


「そう」


 この程度なら大丈夫。


 多分。


「でも」


 カイルが俺を見る。


「お前、自分の札どうするんだ?」


「俺?」


「ああ。俺は剣。グレイスは身体に付ける。お前だけ普通に投げるの?」


 言われて止まる。


 確かに。


 俺は最初から投げることばかり考えていた。


 自分の場合こそ、もっと考える必要がある。


 魔術。


 近接。


 魔法陣。


 右腕が治れば、片手剣か短剣。


「……俺も身体に付ける?」


「剣に付ければ?」


「カイルと同じになる」


「同じじゃ駄目なの?」


 ミラが言う。


 またそこだ。


 違うものが欲しい。


 自分だけのもの。


 無意識に、同じ方法を避けようとしていた。


「駄目じゃない」


「なら試せばいいじゃん」


「そうだな」


 カイルの方法が良ければ使えばいい。


 使って合わなければ変える。


「右腕治ったらな」


「まだ先?」


「もう少し」


 治療院で言われた期間を考える。


 最初の一か月から見れば、半分以上は過ぎている。


 日常生活で違和感はほとんどない。


 それでも魔術強化はまだ駄目。


「早く治らないかな」


 何となく言う。


「焦るなよ」


 カイルに言われた。


「お前に言われるとは思わなかった」


「俺も怪我したことあるからな」


「剣で?」


「ああ」


 カイルが自分の左脇腹を軽く指す。


「十二の時に一回。訓練中」


「酷かった?」


「骨二本と筋肉」


「結構だな」


「治療魔法使って、しばらく訓練禁止」


「どれくらい?」


「一か月ちょい」


「長い」


「当時はそう思った」


 カイルは普通に肉を食べながら続ける。


「治ったと思って勝手に剣振って、また痛めた」


「お前もやってるじゃん」


「だから言ってる」


「説得力あるようなないような」


「二回目の方が長かったぞ」


 その一言で少し笑えなくなった。


「……どれくらい?」


「二か月くらい」


「そんなに?」


「最初の怪我そのものより、治りかけを傷めた方が面倒だったらしい」


 俺は自分の右腕を見る。


 今は普通に動く。


 だから余計に、もう使ってもいいような気になる。


 でも中まで完全に戻ったわけではない。


「治療魔法使っても?」


「だから治療魔法は完全に元通りにする魔法じゃないだろ」


「分かってる」


 分かっている。


 治るところまで戻す。


 そこから先は身体が治す。


「俺の時は骨だったから、お前とは違うけどな」


「でも参考にはなる」


「勝手にやるなってことだけ覚えとけ」


「最近みんなそれしか言わない」


「必要だからだろ」


 また同じだ。


 でも今回は、少しだけ重く聞こえた。


     ◇


 翌朝。


 俺は治療院へ寄ってから授業へ向かった。


 定期的な経過確認の日だったからで、別に昨日の話が怖くなったわけではない。


 多分。


「痛みは?」


「ないです」


「違和感」


「ほとんど」


「日常動作は?」


「普通」


 治療担当の先生が俺の右腕を動かし、何か所か触って確認する。


 そのあと小さな魔法陣を腕の近くへ置いた。


「魔力を流すぞ」


「はい」


 薄い光が右腕を覆う。


 熱くも冷たくもない。


 筋肉の状態を見るための検査らしい。


「治り方は問題ない」


「じゃあ身体強化」


「まだだ」


「聞く前に言わないでくださいよ」


「聞こうとしただろ」


「しました」


「あと一週間」


 思っていたより短い。


「一週間?」


「ああ。ただし、いきなり以前と同じ出力には戻さない」


「どれくらいから?」


「一割」


「少なっ」


「一割」


「二割」


「一割」


「分かりました」


 これも交渉できない。


「最初の数日は治療院か教員監督下。異常がなければ段階的に上げる」


「一週間後から?」


「検査して問題なければな」


「じゃあ本当にもう少しだ」


「そうだ」


 先生が記録を書きながら言う。


「だから今壊すなよ」


「壊しません」


「治りかけが一番そう言う」


 カイルの話を思い出した。


 二か月。


「……気をつけます」


 先生が少しだけ顔を上げた。


「今日は素直だな」


「昨日、知り合いから似た話聞いたので」


「ならそいつに感謝しておけ」


「はい」


 治療院を出る。


 あと一週間。


 長いと思う。


 でも、ここまで待った。


 今さら一週間で全部やり直す方が馬鹿らしい。


 それなら、右腕が戻るまでに準備を終わらせればいい。


 携帯魔法陣。


 五号。


 魔力待機。


 左手でできる訓練。


 まだやれることはある。


 そう考えて歩いていると、少し先にミラがいた。


「レン?」


 向こうも気づいた。


「治療院?」


「ああ」


「どうだった?」


「あと一週間」


「本当に?」


「検査通れば」


「よかったじゃん」


「ああ」


 自然にそう答えた。


 以前なら「まだ一週間」と言っていた気がする。


 今は「あと一週間」と思える。


「じゃあ来週からまた魔術使えるね」


「一割からだけど」


「いいじゃん」


「一割だぞ」


「ゼロよりいいでしょ」


「まあ」


 その通りだった。


「今日の放課後、工房来る?」


「札?」


「ああ。お前用四枚」


「行く」


「カイルの剣も」


「忙しいね」


「俺は作るだけだから」


「五号は?」


「今日は触らない」


「ちゃんと分けてる」


「もう慣れた」


 少しだけ嘘だ。


 今でも全部やりたい。


 思いついたらすぐ試したい。


 でも、やらなくても忘れないように書いておけばいいと分かった。


 今日できないなら明日。


 明日も駄目ならその次。


 それで消えるような興味なら、多分そこまでだったというだけだ。


「一週間か」


 もう一度言う。


「長い?」


 ミラが聞く。


「短い」


 今度はそう答えた。


 その間にやれることを考えれば、一週間なんて多分すぐ終わる。


 少なくとも、何もできずに待っているだけではない。


 俺たちはそのまま並んで講義棟へ向かった。

フフフフフフフフ・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。