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第14話 使い方は自分次第

溜まっていた分の消化はできた

 翌日の魔術実技では、予定通り携帯用の《圧弾》札を使うことになった。


 実技用の小区画に入ると、俺は腰の左側に六枚の札を差し込んだ。一秒後に発動する四角い札が三枚、三秒後に発動する細長い札が三枚。見なくても触れば区別できるようにしたつもりだけれど、実際に動きながら取り出した時に間違えないかはまだ分からない。


「右腕は今日も使うなよ」


 教官が俺の装備を確認しながら言う。


「分かってます」


「札を取るのも左手だけだ」


「はい」


「痛みが出たらその場で終了」


「はい」


 ここまで言われるのにも慣れてきた。


 右腕は普通に動くし、日常生活ではもうほとんど困らない。それでも身体強化を使える状態には戻っていない。だから今日も軽く身体の前へ寄せて、無意識に使わないようにしている。


「レン、本当にその状態でやるの?」


 少し離れたところで準備していたミラが聞いてきた。


「昨日もやっただろ」


「今日は授業だから」


「教官いるからむしろ安全だろ」


「それもそうだけど」


 ミラは俺の腰にある札を見る。


「間違えて三秒の方を手元で使わないでね」


「流石に分かる」


「昨日作ったばっかりでしょ」


「だから形変えたんだよ」


 四角。


 細長い。


 左手だけでも触れば分かる。


 多分。


「エルド」


 教官に呼ばれた。


「はい」


「今日は札を当てることが目的ではない」


「昨日も似たこと言われました」


「なら話が早い」


 訓練場には俺とカイル、それから別の二人一組がいくつか並んでいた。今日の課題は、魔法陣や補助道具を使いながら近接戦をすることらしい。


「お前は昨日まで、札を投げて《圧弾》を当てようとしていたな」


「はい」


「今日は逆に考えろ」


「逆?」


「札を使った結果、相手がどう動くかを見る」


 昨日も少し考えた。


 でも実際にやるとなると別だ。


「カイル」


「はい」


「剣は使っていい。ただし防御中心。エルドの右側は狙うな」


「分かりました」


 カイルは訓練用の片手剣を持つ。


 俺は武器なし。


 その代わり札がある。


「条件は昨日と同じ。エルドは《圧弾》札を一枚でも命中させれば勝ち。カイルは左肩に触れれば勝ち。ただし今日は、エルドは札を三枚までしか使うな」


「減った」


「考えろという意味だ」


 六枚持ってきたのに。


「残りは次に使え」


「はい」


 俺は少し距離を取る。


 カイルも構える。


 左手を腰の近くへ。


 一秒札。


 三秒札。


 まずは触って確認する。


「始め」


 カイルが来る。


 速い。


 俺は脚へ魔力を準備していたので、すぐ後ろへ下がった。昨日より最初の一歩は早い。


 ただ、カイルもそれくらいは分かっている。


 距離が詰まる。


 俺は一秒札を抜く。


 起動。


 一。


 手元から《圧弾》。


 カイルが剣を横へ。


 鈍い音。


 圧力が剣で逸らされる。


「防ぐのあり?」


「魔法だろ」


「そうだけど」


 当たらなかった。


 残り二枚。


 カイルはそのまま近づいてくる。


 俺は距離を取る。


 札を使うには時間がいる。


 手元なら一秒。


 投げるなら三秒。


 でも、その間も相手は来る。


 昨日と同じ。


 ただ撃つだけでは足りない。


「次」


 細長い札を抜く。


 三秒。


 起動。


 一。


 俺は左へ走る。


 カイルも追う。


 二。


 札をカイルの正面より少し右へ投げる。


 三。


 《圧弾》が発動した。


 カイルは左へ避ける。


 予想通り。


 俺から見て右。


 そこへ動くと思っていた。


 脚へ魔力。


 すぐ距離を詰める。


「お」


 カイルが少し驚いた。


 でも、俺には武器がない。


 近づいただけでは意味がない。


「……あ」


「終わり」


 俺が次を考えた一瞬で、カイルの手が左肩へ触れた。


「負け」


 教官が言う。


「今のかなり良かったのに」


「途中まではな」


 俺はカイルから離れた。


「何が駄目でした?」


「自分で分かるだろ」


 分かる。


「避ける方向まで考えたのに、そのあと何するか決めてなかった」


「そうだ」


 教官が頷く。


「相手を動かせた。それで満足した」


「……」


「戦闘では、動かした先に何を置く」


 昨日のミラ。


 砂で視界を切る。


 避ける方向を読む。


 その先へ魔法を撃つ。


「次の攻撃」


「そうだ」


「でも俺、札あと一枚しか」


「だから三枚にした」


 嫌な授業だ。


 使える数が少ないほど考えないといけない。


「もう一回?」


「同じ相手でやれ。札は三枚補充していい」


「はい」


 腰の札を入れ替える。


 今度は最初から考える。


 一枚目。


 どう使う。


 二枚目。


 三枚目。


 当てるために全部使うのではなく。


 一枚目で相手を動かす。


 二枚目でさらに動かす。


 三枚目を当てる。


 単純に考えるならそれ。


 でもカイルも馬鹿ではない。


 一回見れば分かる。


「準備いい?」


「待って」


「珍しいな」


「考えてる」


「いつも始まってから考えてるもんな」


「うるさい」


 少しだけ考える。


 札は三秒と一秒。


 投げる札は相手に見える。


 見えたら避ける。


 それを使う。


「いいです」


「始め」


 二回目。


 今度は俺から少し前へ出た。


 カイルが一瞬だけ様子を見る。


 俺が近づくのは珍しい。


 その間に三秒札を抜く。


 起動。


 一。


 カイルが来る。


 二。


 俺は札を真正面へ投げた。


 三。


 《圧弾》。


 カイルは右へ避ける。


 そこまでは同じ。


 俺は追わない。


 次の三秒札。


 起動。


 カイルの右側へ投げる。


「また?」


 一。


 カイルが俺へ近づこうとする。


 二。


 札が右側。


 三。


 《圧弾》。


 今度はカイルが左へ戻った。


 俺の正面。


「今」


 一秒札。


 起動。


 左手で向ける。


 一。


 発動。


 カイルが剣を上げる。


 圧弾が当たる。


 剣で受けられた。


「……駄目か」


「いや」


 カイルが一歩下がる。


「今のは結構痛い」


 剣で防いでも衝撃は残る。


 でも条件上は命中ではない。


「続けろ」


 教官が言う。


「札もうないです」


「なら戦え」


「武器ないですけど」


「逃げてもいい」


 カイルが来る。


「待て待て」


「終わってないぞ」


 俺は逃げる。


 脚だけで。


 近づかれないように。


 でもカイルの方が近接戦には慣れている。


 二回避けたところで、結局左肩へ触れられた。


「終わり」


「また負けた」


「でも今のはよかったぞ」


 カイルが剣を下ろす。


「本当に?」


「ああ。二枚目、戻るしかなかった」


「だろ」


「でも三枚目見えてた」


「そこか」


 一秒札を構えた時点で、カイルは防御できる。


 発動まで一秒。


 短い。


 でもゼロではない。


「先生」


「何だ」


「詠唱よりは速いですよね」


「魔法による」


「《圧弾》なら?」


「慣れた術者なら一秒もかからん」


「……」


 ミラを見る。


「私見ないで」


「お前無詠唱だもんな」


「うん」


 比べる相手が悪い。


「ただ」


 教官が続ける。


「お前にとっては十分速い」


「俺にとっては?」


「ああ」


 そうだった。


 俺は無詠唱で《圧弾》を撃てない。


 詠唱しても当たらない。


 それを一秒で、狙った方向へ撃てる。


 十分すぎる。


「他人より遅いから使えない、ではない」


 教官が俺を見る。


「お前が今持っている手段の中で、何が一番速いかを考えろ」


「……はい」


 最近、こういう話ばかりだ。


 誰かの正解。


 普通の使い方。


 最高の性能。


 そこへ合わせるのではなく、自分が使える形にする。


「次は条件変えるぞ」


 教官が言った。


「エルドは短剣を使え」


「右手使えないですけど」


「左手で持て」


「俺、左で剣使うの下手ですよ」


「だから短剣だ」


 訓練用の短剣を渡される。


 左手で持つ。


「札は?」


「腰から取る時だけ短剣を持ち替えろ」


「面倒だな」


「戦闘だ」


「はい」


 短剣を左手に持つ。


 札も左で使う。


 同時には無理。


 右腕が使えれば話は違うけれど、今は仕方ない。


「カイルは?」


「同じ」


「また?」


「嫌か?」


「いや」


 カイルが剣を構える。


「今度は近づいても何かできるな」


「左手だけだけど」


「十分だろ」


「お前右手使うじゃん」


「怪我したの俺じゃないし」


「腹立つな」


「始めるぞ」


 教官の声。


 今度は俺から動いた。


     ◇


 左手の短剣は、思った以上に扱いにくかった。


 普段は右手で使う。


 魔術で身体の動きを補助できても、技術まで左右反転するわけではない。構えるだけならできるけれど、実際に振ると距離感が少し違う。


 カイルの剣が来る。


 短剣で受ける。


「重っ」


 身体強化は左腕なら使える。


 でも右腕を庇いながらなので姿勢が悪い。


 押される。


 すぐ離れる。


「それで三位?」


「右腕使わせろ!」


「駄目だろ!」


 分かっている。


 一度距離を取る。


 短剣を左脇へ軽く挟み、三秒札を抜く。


「それやるの?」


「他に手ないだろ」


 起動。


 札を投げる。


 カイルが避ける。


 その間に短剣を持ち直す。


 前よりはいい。


 札を使った瞬間、相手が一度攻撃を止める。


「これだけでも意味あるな」


 思わず言う。


「喋る余裕ある?」


「少し」


 剣。


 避ける。


 俺は一秒札を抜こうとする。


 その瞬間、短剣が邪魔になる。


「っ」


 遅れた。


 カイルの剣先が俺の左肩へ軽く当たる。


「終わり」


「……持ち替え無理」


 短剣を下ろす。


 教官がこっちへ来る。


「何が無理だ」


「左手だけで短剣と札両方は」


「ならどうする」


「右腕治るの待つ」


「今できる方法を考えろ」


「厳しくないですか」


「授業だからな」


 考える。


 短剣を持つ。


 札も使う。


 左手しかない。


 なら札を手で持たない。


「服に付ける?」


「どこへ」


「腕?」


 右腕は駄目。


 左腕だと短剣を振った時に向きが変わる。


「胸」


 自分の胸元を見る。


「一秒札を胸に固定して、発動だけする」


 向いている方向へ圧弾。


 手で狙うより精度は落ちる。


 でも正面へ撃つだけなら。


「できるな」


 教官が言う。


「本当に?」


「魔法陣は平面で維持できればいい。ただし身体へ直接貼るなら安全対策は増える」


「反動?」


「それもある。誤発動した時にすぐ外せる構造も必要だ」


「なるほど」


 また工房で考えることが増えた。


「でも今日できない」


「今日はな」


 教官は少し笑った。


「今は札を短剣の柄に挟んでみろ」


「そんな雑でいいんです?」


「試すだけだ」


 短剣を見る。


 柄と手の間。


 紙一枚なら挟める。


「発動方向、俺の指側になりません?」


「向きを考えろ」


「……危ないな」


「だから魔力は入れるな」


「あ」


 今日は形だけ。


 それならできる。


 三秒札を一枚、魔力なしで挟む。


 短剣を握る。


「取れる?」


「左親指で」


 少し動かす。


 札が抜ける。


「いけるな」


「戦いながらできるか?」


 カイルが言う。


「やってみる」


 模擬戦再開。


 今度は札に魔力を入れない。


 取り出す練習だけ。


 カイルの剣を避ける。


 短剣で受ける。


 距離。


 親指で札を押し出す。


 左手の指二本で取る。


「遅い」


 カイルが来る。


 札を落とした。


「……」


「落ちたぞ」


「見えてる」


「踏むぞ」


「やめろ」


 拾う余裕はない。


 そのまま続ける。


 次の札。


 今度は短剣を少し緩めて取る。


 取れた。


 でも短剣の握りが浅くなる。


 カイルの剣。


「危な」


 受けられない。


 避ける。


「これも駄目だ」


「両方やろうとしすぎ」


 カイルに言われる。


「お前に言われると腹立つ」


「でもそうだろ」


 そうだった。


「なら札使う時は短剣捨てる?」


「毎回?」


「拾えばいい」


「戦闘中に?」


「じゃあ紐付ける」


「短剣に?」


「手首」


「それいいな」


 短剣を手放しても落ちない。


 札を使う。


 そのあとまた握る。


「装備ってそうやって使うんだな」


「今さら?」


 カイルが笑う。


「俺、道具作る方ばっかり考えてた」


「使い方考えないで?」


「最近考え始めた」


「遅くない?」


「うるさい」


 でも本当にそうだ。


 装置を作る。


 魔法陣を作る。


 それだけでは駄目。


 身体のどこへ付ける。


 どう取り出す。


 何と一緒に使う。


 使ったあとどうする。


 実際に戦えば、作業台では気づかなかった問題がいくらでも出てくる。


「エルド」


「はい」


「今日はそこまで」


「もう?」


「十分やった」


 教官が右腕を見る。


「右を使わずここまで動けば、左側に負担も偏る」


 言われてみれば、左肩が少し重い。


「……本当だ」


「自分で気づけ」


「はい」


 今日は素直に終わる。


 札は二枚しか実際に発動していない。


 でも考えることはかなり増えた。


     ◇


 授業後。


 俺は訓練場の端に座り、ノートへ書き込んでいた。


 **一秒札。近距離用。**


 **三秒札。相手を動かす。**


 **手で持つ必要はない。**


 **武器と併用する場合の収納を考える。**


 そこまで書いて、一度止まる。


 ミラが横から覗き込んだ。


「いっぱい増えたね」


「問題が?」


「うん」


「実際使うと全然違う」


「昨日までは?」


「札の性能しか見てなかった」


 何秒で発動するか。


 どれくらい飛ぶか。


 ちゃんと《圧弾》が出るか。


 そこばかり。


「でも戦う時って、札だけ使うわけじゃないもんね」


「ああ」


「レン自身も動くし」


「相手も動く」


「武器も持つ」


「魔術も使う」


 全部同時。


 また頭が足りなくなる。


「バルガスさんが言ってたやつだ」


「一人分の頭?」


「そう」


 俺はノートへもう一つ書く。


 **使う時に考えることを減らす。**


「札の種類増やすのやめるかな」


「一秒と三秒だけ?」


「それだけでいい」


「他の魔法は?」


「増やすとしても後」


「《圧弾》だけ?」


「ああ」


 昨日までは炎や風も札にしたら便利だと思っていた。


 毒への対処。


 煙。


 牽制。


 防御。


 考えればいくらでも作れる。


 でも、今の俺が全部持ったら、多分戦闘中にどれを使うか考えている間に殴られる。


「まず《圧弾》だけ使えるようにする」


「珍しく増やさないんだね」


「増やしたいけど」


「やっぱり」


「あとで」


 そこは我慢する。


 まず一種類。


 一秒と三秒。


 それを迷わず使えるようにする。


「カイル」


 少し離れたところで片付けていたカイルを呼ぶ。


「何?」


「昨日、お前用の札作った」


「本当に?」


 四枚渡す。


 一秒が二枚。


 三秒が二枚。


「今日試す?」


「もう授業終わったぞ」


「発動じゃなくて装備だけ」


「剣と一緒に?」


「ああ」


 カイルは腰のベルトへ札を差し込み、剣を抜いた。


 何度か動く。


「邪魔」


「もう?」


「ここ当たる」


 剣を振った時、肘が札の端に触れる。


「じゃあ後ろ」


「取りにくい」


「左腰」


「剣の鞘がある」


「面倒だな」


「装備ってそういうもんだろ」


 さっき自分が言われたことを返された。


「胸は?」


 ミラが言う。


「胸?」


「服の内側に入れたら」


「取り出せる?」


 カイルが試す。


 上着の内側。


 左胸。


 手を入れる。


 取る。


「悪くない」


「本当?」


「剣持ったまま左手で取れる」


「じゃあそこ」


「でも走ったら落ちるぞ」


「留め具つける」


 また一つ決まる。


「レンも同じでいいんじゃない?」


「俺?」


「腰にいっぱい付けるより」


 胸元。


 一秒札。


 三秒札。


 位置を分ける。


 左側が一秒。


 右側が三秒。


 いや、右手が使えない今は取りにくい。


「今は左だけ」


「右腕治ったら変えればいい」


「そうだな」


 完成形を今決める必要はない。


 それも最近やっと覚えた。


     ◇


 放課後は工房へ行かなかった。


 本当なら札用の収納具をすぐ作りたかったけれど、左肩が少し重かったからだ。


 痛いわけではない。


 疲れているだけ。


 それでも今日は実技でかなり左側ばかり使った。


 右腕を使えない分、他へ負担が寄っている。


「今日は帰るんだ」


 校舎を出たところでミラが言う。


「何で残念そうなんだよ」


「工房行くと思ってた」


「明日行く」


「肩?」


「少し疲れた」


「治療院行く?」


「そこまでじゃない」


「本当に?」


「普通の筋肉痛になる前くらい」


 ミラが俺の左肩を見る。


「右腕使えない間に左壊さないでよ」


「そんな器用な壊し方しない」


「レンなら分からない」


「信用なさすぎる」


 でも言っていることは正しい。


 右腕を休ませるために左腕を酷使して怪我したら、本当に馬鹿だ。


 今日は帰る。


 それでいい。


「そういえば、カイル札使ってくれそうだな」


「嬉しい?」


「かなり」


「自分以外が使うの初めて?」


「ちゃんと作ったものなら」


 補助環はまだ誰にも使わせていない。


 一号は爆発。


 二号は発火。


 三号は俺だけ。


 四号も当然俺だけ。


 携帯魔法陣自体は俺が考えた技術ではないけれど、形や遅延時間を調整した札を他人に渡すのは初めてだ。


「カイルが使ったら、俺と違う問題出るかもしれない」


「例えば?」


「剣が邪魔とか、今もう出た」


「他にも?」


「魔力量違うし、戦い方も違う。俺は距離取りたいけど、カイルは近づきたい」


「同じ札でも使い方変わる?」


「多分」


 それが少し楽しみだった。


 俺のために作ったものを、別の人間が違う使い方をする。


 そこからまた何か分かるかもしれない。


「レン」


「何?」


「今度、私にも作って」


「札?」


「うん」


「自分で魔法撃てるだろ」


「そうだけど」


「しかも俺より速いし、強いし、当たる」


「そこまで言わなくても」


「事実」


 さっき言われた仕返しではない。


 本当に事実だ。


「だから私が使った時、何が違うか見たいんでしょ?」


「……」


 確かに。


 自分で普通に《圧弾》を撃てるミラが、わざわざ札を使う意味。


 多分俺やカイルとは違う。


「作る」


「やっぱり」


「何枚?」


「二枚くらいでいい」


「一秒と三秒?」


「両方」


「分かった」


 また試す相手が増えた。


 でも悪くない。


     ◇


 次の日の昼休み、カイルが俺の席へ来た。


「エルド」


「何?」


「昨日の札」


「使った?」


「使ってない」


「じゃあ何」


「一個思いついた」


 カイルが三秒札を机へ置く。


「これ、剣に付けられない?」


「剣?」


「ああ」


「どこに」


「刃じゃなくて、鍔の近く」


 訓練用ではない自分の剣を持ってくるわけにはいかないので、指で形を作って説明する。


「剣を振るだろ。その時に札を剥がして飛ばす」


「……」


 考える。


 手で投げない。


 剣の動きを使って飛ばす。


「面白いな」


「だろ?」


「でも向き安定するかな」


「試せばいい」


「今日工房来れる?」


「訓練終わったあとなら」


「やる」


 即決した。


 そこへミラが来る。


「何するの?」


「剣で札飛ばす」


「何それ」


 カイルが説明する。


 ミラは少し考えてから、俺を見る。


「レン」


「何?」


「また増やす?」


「増やしてない。使い方変えるだけ」


「本当に?」


「本当」


「ならいいけど」


 最近、何か思いつくたびに警戒されるようになった。


「でも剣で投げたら速そうだね」


「だろ」


 カイルが少し得意そうにする。


「俺の案」


「まだできるか分からないぞ」


「できたら俺の名前入れろ」


「設計協力?」


「そう」


「事故った時名前残るぞ」


 ミラが笑った。


「それ前私が言ったやつ」


「じゃあやめる」


「早いな」


 でも俺は、机の上の札を見ながら少し考えていた。


 剣。


 札。


 魔術。


 魔法陣。


 それぞれ別に存在している。


 でも、使う人間は一人だ。


 だったら最初から別々に使う必要もない。


 剣を振る動きで札を飛ばす。


 走るために準備した魔力を、そのまま踏み込みへ使う。


 札で相手を動かし、そこへ剣を振る。


 別々だったものが少しずつ繋がり始めている。


 俺は魔法が下手だ。


 それは何も変わっていない。


 魔力量も多くない。


 魔術だって、細かく操作できるだけで何でもできるわけではない。


 でも。


 一つずつ足りないなら、繋げればいい。


 その考え方は、少し気に入った。


「今日、試すぞ」


 俺が言うと、カイルが頷いた。


「当然」


「レン」


 ミラがこっちを見る。


「何?」


「左肩疲れてたんでしょ」


「今日はもう平気」


「無理しない?」


「投げるのカイルだから」


「レンは?」


「見る」


「本当に?」


「今日は見る」


 言ってから、自分でも少し笑った。


 少し前までなら、見るだけで終わるなんて多分できなかった。


 でも今回は、カイルが使うところを見る方が意味がある。


 自分では思いつかなかった使い方を、他人が試す。


 それも十分面白い。


 俺は三秒札を一枚持ち上げ、裏返した。


 ただの紙に見える。


 でも昨日より、少しだけ使い道が増えている。


 多分明日には、また別の問題が出る。


 それでいい。


 作った時に使い方まで全部決まっている必要はない。


 使って、失敗して、変える。


 そうやって形になっていけばいい。


 今のところは、それくらいがちょうどよかった。


毎日投稿頑張ります

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