第11話 結果は出るまで結局分からない
人生は思うようにはならないから人生
翌日の放課後、俺は第四工房ではなく、オルフェン先生の研究室に向かっていた。
鞄の中には昨日借りた身体機能学の本が二冊。それと、朝のうちに書き直した五号試験機の設計図が入っている。人工魔力材を使った最初の動作試験を今日やることになっていたので、授業中も何度かそっちのことを考えかけたが、幸い先生に注意されるほどではなかった。
多分。
「何で私も呼ばれたんだろ」
隣を歩いているミラが言った。
「俺が呼んだわけじゃないぞ」
「オルフェン先生から直接、放課後来いって言われた」
「測定手伝ってもらうんじゃないか?」
「レン一人じゃ駄目なの?」
「俺、右腕まだ使えないし」
「日常生活では使ってるじゃん」
「実験で使ったら怒られる」
固定が外れてから時間が経ち、日常生活ではほとんど右腕を意識しなくなっていた。ただ、それと魔術を使っていいかは別の話だ。少し痛みが残っているというより、外から見えない部分がまだ治りきっていないらしい。
治療魔法で自然に治せるところまでは戻してある。
その先は自分の身体に任せる。
治療院で何度もそう言われた。
「ちゃんと守ってるんだね」
「最近それ言われすぎて、逆に破りたくなくなってきた」
「いいことじゃん」
「褒められる基準が低い気がする」
「自分で下げたんでしょ」
何も言い返せなかった。
研究棟へ入ると、昨日より少し人が多かった。廊下の向こうでは何人かの上級生が大型の測定装置を運んでいるし、別の部屋からは魔法陣が起動する低い音が聞こえてくる。
この辺りは放課後の方が人が増える。
授業が終わってから研究室や工房に来る学生が多いからだ。
「そういえば」
ミラが歩きながら聞いてきた。
「昨日調べてた小指、どうだった?」
「使い道はありそう」
「本当に?」
「方向転換とか着地。小指だけっていうより、足の外側だけど」
「結局普通の魔術になってない?」
「細かく見ると違うんだよ」
「そう?」
「例えば走って右に曲がる時、左足の外側が――」
「長くなりそうだから後で聞く」
「聞いたのお前だろ」
「こんな詳しく返ってくると思わなかった」
理不尽だ。
◇
「来たか」
研究室へ入ると、オルフェン先生はすでに五号試験機を机の上へ出していた。
その隣には昨日使った人工魔力材が三枚。それから、見慣れない透明な筒と測定器が一つ増えている。
「先生、これ何です?」
「魔力流の可視化装置だ」
「そんなのあるなら昨日使えばよかったじゃないですか」
「昨日の試験には必要なかった」
「使いたい」
「だから今日は出している」
確かにそうだった。
ミラが人工魔力材を一枚持ち上げる。
「これが昨日言ってたやつ?」
「ああ。落とすなよ」
「そんな簡単に壊れるんですか?」
「端なら欠ける」
ミラはすぐ机へ戻した。
「先に今日の目的を確認する」
先生が五号試験機の制御部を指す。
「昨日までに停止機構と出力側の安全確認は終わった。今日は人工魔力材へ魔力を入れ、五号の端子を使って指定位置へ誘導できるかを見る」
「待機まで?」
「そこまでやる」
「やっと五号らしくなるな」
「まだ人体には付けないぞ」
「分かってます」
「先に言っておく」
「信用ないな」
「積み直している途中だろう」
最近は本当にそこから動かない。
「グレイスを呼んだのは記録役だ」
先生がミラへ紙を渡した。
「出力、温度、魔力量を読む。エルドは操作に集中させる」
「分かりました」
「俺も記録くらいできますよ」
「できるかどうかではない。同時にやるなと言っている」
その言葉で、バルガスさんに言われたことを思い出した。
何人いるんだ、お前は。
一人です。
一人分の頭で足りるようにしろ。
あの時と同じだ。
「じゃあ任せる」
「珍しく素直」
「ミラまで言うな」
椅子に座り、試験機の前へ移動する。
人工魔力材は細長い板を使う。人間の腕ほどではないが、魔力を移動させる距離を見るには十分だった。
「まず魔力五十」
「はい」
板へ魔力を入れる。
透明に近かった素材が、ゆっくり暗い藍色に染まっていった。昨日も見たけれど、自分の魔力が身体の外に形として残っているのはやっぱり少し面白い。
「五十」
先生が測定値を確認する。
「端子を左右に接続」
五号の端子を板の両端へ置く。
まだ腕輪部分はない。机の上から伸びた配線の先に、金属製の端子が二つあるだけだ。
「最初は通常誘導。右から左へ」
「出力いくつです?」
「一段階」
「弱くないですか」
「最初だからだ」
「はい」
スイッチを入れる。
微弱な電気。
人工魔力材の中に広がっていた暗い藍色が、少しずつ左側へ寄り始めた。
「動いてる」
ミラの声。
「見れば分かる」
「レンが言う?」
「俺も今言おうと思った」
先生が測定器を見る。
「温度変化なし。魔力量も変化なし。誘導量は約六」
「少ないな」
「出力一だぞ」
「じゃあ二」
「まだだ」
「何で」
「まず一で一分維持」
そうだった。
五号の目的は、動かすことより待機させることだ。
俺は左側へ寄せた魔力を、そのまま一定位置で留めるように出力を調整する。人工魔力材自体には人間のような魔力経路がないので、電気を切れば少しずつ全体へ広がっていく。
「出力を少し下げて」
先生が言う。
「これくらい?」
「〇・八」
調整する。
魔力がわずかに右へ戻る。
「足りない」
「〇・九」
止まった。
「お」
「そのまま」
触らない。
魔力が左側に留まる。
十秒。
二十秒。
三十秒。
思ったより動かない。
「四十秒。温度変化なし」
ミラが記録を読む。
「魔力量、四十九・八」
「自然放出分だな」
先生が言う。
一分。
「停止」
電気を切る。
魔力が少しずつ板全体へ戻り始めた。
「成功?」
「一回目はな」
「十分じゃないですか」
「一回動いたら完成なら、四号も成功作だ」
「それ言います?」
「必要だから言う」
何も言えない。
確かに四号も最初は成功した。
十二系統へ分けた時点では。
その後がおかしくなった。
「次。出力二」
「はい」
もう一度、魔力を均等に戻してから始める。
今度はさっきより強い。
藍色が目に見えて左へ寄っていく。
「速い」
「誘導量十五」
「温度?」
「少し上がった。〇・三度」
ミラが答える。
先生が何も言わないので、そのまま続ける。
「待機させます」
「やれ」
出力を落とす。
さっきは〇・九で止まった。
同じ位置なら。
「〇・九」
少し戻る。
「あれ?」
「止まってないね」
「昨日と同じ素材ですよね」
「ああ」
〇・九五。
まだ戻る。
一。
今度は左へ進む。
「……ちょうどがない」
「細かく調整しろ」
〇・九七。
〇・九八。
少し戻る。
〇・九九。
ほぼ止まった。
「これ?」
「維持」
待つ。
十秒。
今度は少しずつ左へ動いている。
「動いてます」
ミラが言う。
「分かってる」
「さっきから言い返す余裕あるなら大丈夫だな」
先生にまで言われる。
「何で同じ出力で止まらないんだ」
俺は板を見る。
一回目と二回目。
素材は同じ。
入れた魔力量も同じ。
違うのは、最初にどれくらい強く移動させたか。
「残ってる?」
「何がだ」
「誘導の勢い」
「魔力に慣性があると言いたいのか」
「物理的な意味じゃなくて」
言いながら自分でも曖昧だと思う。
でも、強く動かしたあとだと、電気を弱めてもすぐ止まらない。
「停止」
先生に言われて電気を切る。
魔力はすぐには均等に戻らず、少しだけ左側へ残ったあと、ゆっくり広がっていった。
「記録」
「はい」
ミラが紙へ書く。
「もう一回同じ条件?」
「その前に五分置く」
「長い」
「人工魔力材の状態を戻す」
「その間何します?」
「考えろ」
先生は椅子へ座った。
俺も板を眺める。
単純な素材だから、もっと素直に動くと思っていた。
電気を強くする。
魔力が動く。
弱くする。
止まる。
それだけ。
でも実際は違う。
「魔力材の内部に偏りが残ってる?」
ミラが言った。
「何が?」
「さっき左に寄せたでしょ。そのあと均等に見えても、完全には戻ってないとか」
「ありそう」
見た目は同じでも、内部では違う。
「先生」
「何だ」
「測れます?」
「何を」
「魔力の密度差」
「この装置では大まかになら」
先生が透明な筒を人工魔力材の上へ被せた。
「可視化装置ってそのため?」
「それもある」
起動。
板の上に細い光の線が何本か浮かぶ。
俺の魔力色とは違う白い表示。
「……左が少し濃い」
「〇・六程度の差だ」
「やっぱり残ってる」
「可能性はある」
「じゃあ完全に戻してからやれば」
「人体ではどうする」
先生に言われて止まる。
「え?」
「人間の体内魔力が、毎回完全に同じ状態から始まると思うか?」
「……思わないです」
「なら、初期状態が違っても調整できなければ補助具として使いにくい」
そうだった。
試験素材で成功することが目的ではない。
最終的には人間が使う。
走ったあと。
魔術を使ったあと。
疲れている時。
魔力が少ない時。
毎回同じ状態なわけがない。
「難しくなったな」
「最初から簡単とは言っていない」
「言ってほしかった」
「嘘になる」
先生らしい。
◇
三回目の試験では、最初から魔力を少し左へ偏らせておいた。
そこから右側へ誘導する。
結果は予想通りだった。
同じ出力でも、さっきより動きが遅い。
「初期状態で必要出力が変わる」
俺は記録を見ながら言う。
「当たり前と言えば当たり前ですね」
「今まで何を想定していた」
「設定した出力で設定した場所まで動く」
「機械ならそれでいい」
先生が人工魔力材を指す。
「だが、お前が動かしたいのは魔力だ」
「それが面倒」
「だから研究しているんだろう」
否定できない。
むしろ、その通りだった。
思った通りに動かない。
なら、どうすれば動くのか考える。
そういうものが好きで、俺はここにいる。
「じゃあ固定出力じゃ駄目か」
「何するの?」
ミラが聞く。
「測定しながら調整する」
「自動で?」
「最終的には」
今の五号は、設定した電気を流すだけ。
でもその結果を測って、目的位置より戻るなら少し強くする。進みすぎるなら弱くする。
「測定値を戻す」
口に出す。
「何に?」
「制御部に」
自分で言って、前に考えていた自動切替を思い出す。
あの時は難しいと思って諦めた。
でも完全自動で筋肉を切り替えるのではない。
待機位置を維持するだけなら。
「できるかも」
「何が」
「魔力がここより左へ行ったら電気を弱くする。右へ戻ったら強くする」
机の上で指を動かして説明する。
「ずっと同じ場所に置くためだけの自動制御」
先生は少し考えた。
「考え方としては正しい」
「ですよね」
「ただし測定速度が足りるか確認しろ」
「あ」
「測定に一秒かかり、補正に一秒かかる。その間に魔力が大きく動けば意味がない」
「じゃあ速い測定器」
「それだけではない。細かく測るほど処理も増える」
「また面倒になった」
「楽しそうだな」
「分かります?」
「顔でな」
今日は何回目だろう。
「でも」
俺は試験機を見る。
昨日まで、五号はかなり単純になったと思っていた。
十二系統から五系統。
操作代行から待機補助。
機能を減らした。
その分簡単になる。
そう思っていた。
実際は違う。
ただ魔力を置いておくだけでも、その場所に合わせて出力を変えなければならない。
人間の状態まで考えれば、もっと複雑になる。
「四号より難しくなってないです?」
「安全に使えるものを作ろうとすれば、大体そうなる」
「四号は簡単だったのに」
「簡単だったから事故が起きたとも言える」
痛いところを突かれた。
「少なくとも、分からないことが増えるのは悪いことではない」
先生が記録用紙を一枚取る。
「分からないまま完成したと思う方が危険だ」
前なら、少し嫌だったかもしれない。
成功した。
できた。
そう言いたかったから。
今は違う。
「じゃあ今日は失敗?」
「何をもって失敗とする」
「設定した位置に安定して置けなかった」
「固定出力ではな」
「でも、初期状態で変わるのは分かった」
「ああ」
「じゃあ成功?」
「好きに呼べ」
「先生そういうところ適当ですよね」
「名前より結果を見ろ」
結局そうなる。
◇
試験を一度止め、休憩することになった。
俺は研究室の端にある椅子へ座り、水を飲む。操作していただけなのに、思ったより頭が疲れていた。
「魔術使ってないのに疲れるんだな」
「ずっと数字見てたからじゃない?」
ミラも向かいに座る。
先生は少し離れた机で記録をまとめていた。
「ミラ、記録どうだった?」
「普通」
「退屈じゃない?」
「ちょっと」
「正直だな」
「でも、レンが何やってるのか前より分かった」
「今まで分かってなかった?」
「電気流して魔力細かくする腕輪」
「大体合ってるけど雑すぎる」
「だから今日見て、結構面倒なんだなって」
「結構どころじゃない」
人工魔力材ですら思った通りに止まらない。
人間ならもっと面倒だ。
身体は動く。
血も流れる。
魔力も使う。
疲れる。
怪我もする。
「でもさ」
ミラが少し考えながら言う。
「人が使う時って、レンが自分で調整するんじゃ駄目なの?」
「できると思う」
「じゃあ自動にしなくても」
「それだと装置見る必要あるだろ」
「少しだけなら?」
「戦いながら?」
「ああ」
なるほど。
全部を自動にする必要もない。
完全に手動にする必要もない。
「警告だけ出す?」
「何の?」
「位置ずれたら、音鳴らすとか」
ミラが机を指で軽く叩く。
「レンが自分で調整する」
「……それ、かなり簡単だな」
「駄目?」
「いや」
むしろいい。
測定。
ずれる。
音。
俺が調整。
自動制御よりずっと簡単。
処理速度の問題も減る。
「ミラ」
「何?」
「それ使う」
「本当に?」
「ああ」
「私、魔法工学分からないよ」
「だからかもしれない」
「どういう意味?」
「俺、すぐ装置で全部解決しようとするから」
自動で維持。
自動で切替。
自動で停止。
できるなら便利だ。
でも、そのたびに装置が複雑になる。
「使う人間が調整できるなら、それでいい」
「レンが使うんだもんね」
「そう」
五号は俺の補助具だ。
誰でも使える完成品を今作る必要はない。
俺が使えるものを作る。
「また簡単になった」
「よかったね」
「昨日から簡単にしてるのに、今日また難しくなって、今また簡単になった」
「忙しいね」
「本当に」
でも、こういうのは嫌いじゃない。
◇
休憩後は、警告方式をその場で簡単に試してみることになった。
本格的な仕組みは作れないので、測定値が一定範囲を外れたら先生が声をかけるだけだ。
「左へ寄せる。目標位置は中央から三割」
「はい」
電気を流す。
魔力が動く。
「停止位置」
出力を落とす。
少し左へ進む。
「上限」
先生の声。
俺は少し弱める。
「下限」
戻りすぎ。
強める。
「上限」
「忙しいな」
「文句を言うな」
調整。
また調整。
十秒ほどすると、感覚が掴めてきた。
〇・九六。
〇・九七。
戻り方を見て先に少し変える。
「範囲内」
止まった。
そのまま維持。
先生の声がなくなる。
「……いける」
三十秒。
一分。
目標範囲内。
「終了」
電気を切る。
「できた」
「人間が調整すればな」
「五号は人間が使うんだからいいでしょう」
「その考えならな」
ミラが記録を見る。
「さっきより安定してる」
「警告あれば何とかなるな」
操作だけに集中していたから、数値を全部見る必要もなかった。
これなら戦闘中でも、警告の種類を少なくすれば対応できるかもしれない。
「音一種類だと分かりにくいな」
「高い音と低い音にしたら?」
「上限と下限?」
「うん」
「それも使う」
「今日私結構役に立ってない?」
「かなり」
「珍しい」
「そこで自分で言う?」
「レンがいつも言われてるから」
少し嬉しそうだった。
「じゃあ完成したらミラの名前も入れる?」
「何に?」
「設計協力」
「いらない」
「何で」
「事故起きた時に名前残るの嫌」
「縁起悪すぎるだろ」
先生が少し笑った。
◇
その日の試験は、予定より少し早く終わった。
五号が完成したわけではない。
むしろ作り直す部分が増えた。
待機位置の測定。
上限と下限の警告。
音の種類。
警告が出た時に手動で出力を調整できる操作部。
さらに、測定器そのものが壊れた場合の確認も必要になる。
やることは増えた。
それでも昨日より前へ進んでいる。
そんな感じがした。
「人工魔力材は次も同じもの使います?」
片付けながら先生に聞く。
「まず同じもの。そのあと別個体」
「個体差?」
「人工でも多少ある」
「人間ほどじゃないですよね」
「当然だ」
「その次が魔獣組織?」
「まだ先だ」
「何で?」
「警告機能を作ってからだ」
「分かりました」
以前なら「先に一回だけ」と言っていた気がする。
今はそこまで思わなかった。
いや、思いはした。
口に出さなくなっただけかもしれない。
それでも進歩だと思う。
「明日、工房で警告機能作っていいです?」
「構わん。ただし測定器側へ勝手に手を入れるな」
「外付けにします」
「ならいい」
「ミラも来る?」
聞いてみる。
「私?」
「音決めたのお前だし」
「授業終わったら行ける」
「じゃあ頼む」
「何するの?」
「高い音と低い音、どれくらい違えば分かるか」
「それだけ?」
「結構大事だぞ」
「まあいいけど」
少し笑っている。
俺一人で全部やる必要はない。
前よりその考えに慣れてきた。
◇
研究室を出た頃には、外は薄暗くなり始めていた。
俺とミラは並んで研究棟を出る。今日は実験そのものより、途中で何度も考え直したせいで頭の中が少し重かった。
「思った通りにいかなかったな」
俺が言う。
「失敗?」
「最初考えてた通りには」
「でも最後できてたよね」
「ミラが手動にすればって言ったからな」
「じゃあ成功?」
「先生に聞いたら好きに呼べって」
「それ先生らしい」
「だろ」
大通りへ出る。
夕方の学院は、昼間とは少し違う。
授業を終えて帰る人間。
これから工房へ向かう人間。
食堂へ行く人間。
夜の研究に入るらしい上級生。
それぞれ別の方向へ歩いている。
「レン」
「何?」
「今日の実験、楽しかった?」
「楽しかった」
「うまくいかなかったのに?」
「うまくいかなかったからかも」
言ってから、自分で少し考える。
最初から全部思った通りなら、多分すぐ終わる。
それはそれで嬉しい。
でも、止まらない。
何で。
初期状態が違う。
じゃあどうする。
自動制御。
難しい。
なら警告だけ。
そうやって考えている時間は、普通に楽しかった。
「変だね」
「知ってる」
「否定しないんだ」
「最近よく言われるから」
ミラが笑った。
「明日、私いなくても音くらい決められるでしょ」
「決められる」
「じゃあ何で呼ぶの?」
「俺だけが聞き分けられても意味ないから」
「レン専用なんでしょ?」
「今はな」
「ならレンが分かればいいじゃん」
そう言われると、その通りでもある。
「……でも」
少し考える。
「誰かが見て分かる方が安全じゃない?」
「誰か?」
「例えば実験中に俺が気づかなかった時。先生とか、お前が聞いて止められる」
口に出して、自分でも以前ならあまり考えなかったことだと思った。
自分が操作する。
自分が判断する。
自分で止める。
それだけでは足りない。
「それなら分かりやすい方がいいね」
「だろ」
「赤い光とかも付けたら?」
「異常時?」
「うん」
「それもいいな」
「また増えた」
「安全側だからいい」
「前と逆だね」
「何が?」
「前は機能増やしてたのに、今は安全装置ばっかり増えてる」
確かにそうだった。
四号では十二系統へ分けることばかり考えていた。
今は魔力を五か所へ待機させるだけなのに、その周りに停止、測定、警告、放電、物理遮断。
本体よりそっちの方が大きくなりそうだ。
「最終的に腕輪より安全装置の方が大きくなったら笑うな」
「試験機ならいいんでしょ?」
「先生にも言われた」
「じゃあ大きくすれば」
「簡単に言うな」
でも、今はそれでいい。
最初から小さくする必要はない。
ちゃんと動いて、ちゃんと止まる。
まずそこから。
正門が見えてきた。
「明日、小指の訓練もしたいんだよな」
「まだやるの?」
「まだ何もやってない」
「五号もやるんでしょ?」
「放課後に五号。その前の実技で小指」
「魔法陣は?」
「明後日」
「ちゃんと分けたんだ」
「一日に全部やると終わらないからな」
「本当に成長してる」
「その言い方やめろって」
また笑われる。
俺も少し笑った。
明日やることは決まった。
五号の警告機能。
足の細かい強化。
その次は携帯魔法陣の投擲。
まだ右腕が完全に治るまで時間はある。
以前なら、その時間を長いと思っていただけだった。
今は、治るまでにどこまで準備できるかを考えている。
やりたいことは増えている。
分からないことも増えている。
それでも、前より困っていない。
思った通りに動かないなら、動く方法を探せばいい。
少なくとも今の俺には、その時間が結構楽しかった。
目標の毎日投稿が達成できなかった(涙)




