4.湧いてきた手がかり
良く考えてみればここに写ってるガキにママの知り合いがいるはずねえ。つまり知っている顔と言うのは教師ってことになる。
「その小田ちゃんって言うのが担任か? 一緒に写っているってことはたいていそうだろう?」
「どうかしら、アタシの知ってる小田ちゃんは卒業後に赴任してきたんだけど、すぐに副校長になっていたもの。この年代だと担任じゃないかも」
「んじゃこれは何かの行事で写ってるのかもしれねえな。でもそんなこたどうでもいいさ。知りてえのはこの小田が今どこで何してるかってことだからな」
「小田ちゃんはもう退職して地元へ帰ってるはずよ? 今でも年賀状送ってくれるんだから間違いないわ」
「ほう、なかなか義理堅いな。まてよ? ――この写真は今から十数年前のもんだぞ? 定年には大分早ええだろうに。大体なんでママと知り合いなんだ? とっくに卒業して―― ごはっ」
変わらず絡めていたママの腕から肘が伸びてオレの脇を激しく突いた。
「とっくじゃなくて少し前、でしょ! まあそれはいいとして…… だってお店のお客様だったんだもの。最初はほかの先生と来たんだけどすぐ常連になってくれたのよ。見たことないかしら?」
「どうだろうなあ。オレみてえのは教師とだいぶ色が違うだろ? 意気投合なんてこともないだろうから見かけていたとしても覚えてねえな」
「そうは言ってもこの写真とはだいぶ雰囲気が違ってるかも。なんていうのかな…… もうちょっとこう、おでこが広くて――」
「なるほど、禿げちまってたのか。それじゃ余計にわからね―― んごふぅ」
「そんな言い方ないでしょ! もうデリカシーに欠けるんだから。そんなだからいつまでも独り身なんじゃないの?」
オレの身体にかかった衝撃で、サーモンや缶詰がいくつか増えてさっきよりも重くなっている荷物が反対側へ大きく振れた。
チクショウ、こんなの何発も喰らっていたら肋骨が折れちまう。それにデリカシーに欠けるのはお互い様だってんだ。
「まったく乱暴なんだからよ。でも覚えがないのは事実だし、たとえ知ってたとしたってそれだけじゃオレにはどうにもできねえ。年賀状が来てるなら連絡先もわかるだろ? ちょいと電話して聞いてみてくれよ」
「やあねえ、年賀状に電話番号書く人は滅多にいないわよ。分かるのは住所だけね」
「それもそうか。しかし参ったなあ。のんびり手紙を出して返事を待つなんざガラじゃねえし、ほかの関係者を当たっていくしかねえかな」
「あら、そんなに遠くないから行って来たらいいじゃないの。千葉県の勝浦だもの、一泊すれば十分楽しめるわよ」
「いや待て、遊びに行くわけじゃねえんだぜ? だが確かに近いな。アクアラインのバスもあるしいっちょでかけてくるとするか。悪いけどママ、紹介状的なモノを書いてくれねえか? いきなり行ったら失礼になるだろ?」
「アナタの口から失礼なんて言葉が出ることに驚いたわ。常識的なことを考えることもあるのね。それじゃ後で書いておくから今晩またいらっしゃい。もちろん営業時間内に」
「お、おう、もちろんだ。それにすべて終わったらちゃんと礼もするぜ。依頼料が入らねえことには鼻血も出やしねえ」
「それ使っちゃっていいお金? 家賃もためてるんでしょ? 太田さんがたまに呑みに来るけど愚痴こぼしてるわよ?」
あの娘がこんなスナックに来るのか!? と思ったが、良く考えなくてもそんなはずはねえ。来ているのは親父のほうだろう。
「親父さんは娘の心配をしてるんだろ。ちゃんと家賃取り立ててるかどうか。オレでも気になるくらいだぜ?」
「あのねえ…… いまどき家賃を滞納して平気な顔してるなんてアナタくらいのものよ? だから悪目立ちするんだわ。人の心配していられる立場だと考えてるところがまたすごいわね」
「ちぇっこりゃ藪蛇だ。んじゃまた夜に来るぜ。サーモンのマリネは少し残しといてくれよ」
「はーい、買い物手伝ってくれてありがとうね。せいぜい刺されないように気をつけなさいよ?」
そんな縁起でもないやり取りをしてから開店前のスナックを後にした。




