78 噂
「もぐらさんだ!このまえはありがとう!」
食事が終わり、テーブルを片付けてひと段落。店主やリヴ達と、先日の坑道やモラティの話をしたところ、もぐらさんにお礼がしたいと言うリヴ。
大量の肉を食べ、無事に体力も力も回復できたエラリスが、モラティをリヴの目の前に召喚した。
「まぁ!リヴが言っていたことが本当だったんだっていうのもそうだけど……あんた精霊術師だったんかい!」
にこにことモラティにお礼をいうリヴと、突然の精霊召喚に驚く店主。
『こんな所に私を呼び出すとは……そういうところもエルシアそっくりだな……』
困惑しながらもリヴとエラリスとニティアに撫でられているモラティ。
「そ?たまにはこういうのもいいでしょ?」
笑いながら、食後の紅茶を飲み始めるエラリスに、モラティは苦笑いしながら大きなため息をついていた。
「それで精霊について聞いていたんだね」
腕を組みながらモラティを眺めている店主。ふと何かを思い出したかのように両手をポンと叩いた。
「そう言えば……私がまだこの子くらいだった時かねぇ。確かアンタらみたいな冒険者達がここに来ててね」
そう言ってエラリスの顔を見る店主。
「そのうちの1人がエルフだったのを思い出したよ。すごく綺麗な人でね」
店主の言葉を聞いて、フィニス達一同が目を合わせる。ニティアがゆっくりとフィニスに近づいた。
「ジャヌスさんやエルシアさん達のことかもしれないわね(笑)」
「え……だって今から50年以上……」
バシッ!
ルシオとニティアが慌ててフィニスの口を止める。
「何か言ったかい?」
笑ってはいるが、どこかで感じた不穏なオーラ。フィニスは慌てて首を左右に振った。
「私はこの子を産むのが遅かったからね……早く一人前になってもらいたいものだよ……」
不穏なオーラから優しい空気に変わり、優しくリヴを見つめる店主。
「って違う違う。その昔、その時のエルフの人が、確かここからずっと東に進んだ所にあるクロレス山脈に行くって言ってたよ」
撫でられているモラティがピクッと反応する。
「クロレス山脈って……あの天候がすごく不安定な山脈でしたよね……?」
モラティを撫でる手を止め、アルテアが店主の方に視線を向ける。
「あんな危ない所によく行くな〜って当時思ってたからね。間違い無いと思うよ」
ぐいっと紅茶を飲み干すエラリス。
「そこに精霊がいるかもしれないね」
「まぁ、昔の記憶だし、そもそもその時のエルフが別の目的で山脈に行った可能性もあるけどね」
店主が笑いながら応えると、リヴに撫でられていたモラティがモゾモゾと動き始めた。
『さて、私はそろそろ失礼するよ』
そう言い残すと、ピカッと一瞬輝くと同時にモラティが消えてしまった。
「あの反応……何かあるわね……」
「次の精霊はそこにいそうだな(笑)」
「なんだかんだで精霊って分かりやすいのな」
そう言いながらニティアとフィニス、そしてルシオはくすりと笑っていた。
⸻
翌朝、街の長より調査団による現地確認が終了し、フィニス達のいうことが概ね事実なのだろうとの報告を受けた。
しかし、いつかまた採掘ができるようになると思い、我慢をしてきた働き手の人たちからすれば絶望の方が大きいのだろう。新しい街の問題として、長が頭を抱えていた。
その様子を見たルシオが、新しくあのオアシスで漁業や観光業といった、採掘とは異なる仕事ができるのではないかと言った話を、その場にいた役人達へし始める。
フィニスは、ルシオが途中から何を言っているのかわからなかったが、おそらく事細かにそれらの仕事をしていたのだろう。役人達も時折り頷き、ルシオに質問を繰り返しながら、最終的にはやる気に満ちた顔になっていた。
「これで女と酒癖が悪く無ければなぁ……」
ついポロッと本音が漏れるフィニス。
「ん?なんか言ったか?」
「いや、なんでもねぇよ」
「そ?そんじゃ〜俺は次の目的地の旅に向けて、英気を養ってきますかね♪アルテアちゃんも行く?」
「いえ、私は少し薬草や薬の調達をしますので」
笑顔でさらりとアルテアに断られるルシオ。肩を落としながら、それでも鼻歌を歌い、ルシオは街の奥へと消えていった。
「たまには付き合ってあげればいいのに……」
アルテアがルシオの誘いに乗るのを見たことがないニティアが、疑問に思いアルテアに囁く。
「べ、別に嫌で断っているわけではないですよ?!ただ……」
「ん?」
「お酒が……」
「飲めないの?」
「いや……好きなんですけど、飲みすぎると大変らしくて……」
「へ?」
「な、なんでもありません!」
アルテアは顔を少しだけ赤くし、買い出しに行ってくるとだけ言い残し、そそくさとその場を後にしてしまった。
「ん?どうしたんだアルテア?」
「いや、わからない。急に出ていっちゃった」
そんなアルテアの様子を見て首を傾げるニティアとフィニス。
「私も少し魔道具店見てくる」
そんな2人の背に声をかけたエラリスも、スッとその場からいなくなってしまった。




