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79 干渉しないという掟


 オシスの街を発ち、砂漠を抜けて数日。フィニス達はクロレス山脈の麓まで来ていた。


「これがクロレス山脈か……」


 山の山頂を見ようと見上げるも、山脈の頂は雲で覆われていた。


「クロレス山脈は、砂漠から吹いてくる熱風が山脈により空へ登って冷やされるせいで雲が発達しやすく、天気は不安定。そのせいもあり、山頂に至ってはほぼ雲が晴れることは無い……と言われていますね」


 同じように雲に覆われている山頂を眺めながら、アルテアが言う。


「って言うか、この山脈のどこを目指せばいいんだろうな……」

「確かに……何か洞窟的な場所があるのか……それとも山頂なのか……どっちにしろ大変そうね……」


 首を傾げるルシオの言葉に、ニティアは小さなため息をつく。そんな4人をよそに、エラリスは1人足を一歩先に踏み出して歩いていく。


「とりあえずは山頂を目指そう。途中で何かあるかもしれないし」


 一度振り返ってそう述べると、そのまま黙々と歩いて行くエラリス。

 その様子を見た4人は一度視線を合わせた後ふっと笑い、エラリスの後に続いて行った。



 山の中腹に差し掛かる頃、先ほどまで背中から感じていた暖かい風が止まり、急に冷たい風へと変わっていった。


「ニティア」

「わかってる」


 フィニスとニティアが目を合わせると、ニティアは小さく頷き、1人ふわりと飛び上がる。


「ん?」

「どうしましたか?」


 その行動に首を傾げるルシオとアルテアに、エラリスが術式を構築しながら小さく呟いた。


「天候が変わる。多分近くで雨風凌げそうな場所を探してくれてるんじゃないかな」

「お、よく分かったな」


 エラリスが微かに光る手を地面に置くと、その光が地面へと伝っていき、その光が大きくなっていき、一つの影が現れる。


『ん?どうした?』


 エラリスがモラティを召喚したのと同時に、ニティアがゆっくりとフィニス達の元へ降りてくる。


「あっちに小さな洞窟みたいなところがあったわよ。急ぎましょう!って……モラティ?どうしたの?」

「いいから。急ごう」


 モラティの姿に驚いたニティアをよそに、エラリスはモラティを抱き抱え、ニティアが指差した方向へ走り出す。それを見た4人も慌ててエラリスの後へと続いていった。



 小さな洞窟のような窪みに辿り着くや否や、激しい雨が降り注ぎ始めた。


「あぶねー!」

「なんとか間に合ったね」


 皆の動きが良かったのだろう。5人と1匹は濡れることなく、洞窟まで辿り着くことができた。


『うむ。しかし、どうしたのだ?』


 呼ばれたのに急に抱き抱えられたモラティ。顔を上げ、キョトンとした顔でエラリスの顔を覗き込んだ。


「この洞窟の構造や地盤。大丈夫そう?」


 そのエラリスの言葉に納得したモラティは、ゆっくりと地面に降ろされた後、一度地面に潜り、すぐに顔と手を出した状態でエラリスに答える。


『地盤自体は問題ないだろう。だが、水の流れがこちらにも流れるようになっている。あまり続くようだとここも水浸しになるだろうな』

「なら少しだけ弄れる?後で戻すから」

『うぬ。手をかざしてくれ』


 言われるがままエラリスが手をかざすと、モラティの身体とエラリスの手先がゆっくりと光出す。


ザザザザザ……


 その光と同調するかのように、地面が少しずつ動き出し、洞窟内に水が入らないような土手を作り出し、中に入ってしまった水が外へ逃げるような溝を構築していた。


「へぇ……こんなこともできるのか」

「だからモラティを呼んだのね」

「そう言うこと。洞窟で雨風が凌げたとしても、入った洞窟そのものが危なかったら意味ないからね」


 洞窟内の整地が完了したのだろう。モラティとエラリスの手の光が徐々に消えていった。


「ありがとう。助かったよ」


 エラリスがモラティに視線を送る。


『なに。それに、これくらいなら別に戻す必要もないだろう。後々の旅人も使えるだろうしな』


 少しだけドヤ顔のモラティ。その様子を見て微笑んだアルテアがモラティの頭を撫で始める。


「早速精霊さんの力をうまく使えて……アルテアさんすごいですね」

「それに天候の変化に、3人とも敏感に反応してたしな」

「まぁ俺たちは山育ちだからな」

「ここまで分かりやすければ誰でもわかるわよ」


 ルシオの言葉に視線を合わせて答えるニティアとフィニス。

 そんなやりとりを見ていたモラティが、撫でられながら口を開いた。


『それでは、もう良いか?』

「あ、ごめん。もう一つ聞いていいかな?」


 一仕事を終え、帰ろうとするモラティを引き止めるエラリス。


『なんだ?まだ何かあるのか?』


 じっとエラリスを見つめるモラティ。


「精霊達がお互い干渉し合わないって言う話は聞いてる。だから、この先に精霊がいるかどうかとかを聞くつもりはないんだけど」

『ふむ』

「おばあちゃんが契約していた精霊。最後の1人が、どんな子なのかを知りたくて」

『それは……』


 エラリスの言葉に、少し困惑した表情を浮かべるモラティ。


「この間もゼフィリアはフィニス達の前で契約する前のリヴァレーの名前を出したり、面倒くさい性格だって言ったりしてたから。その辺は聞けるんじゃないかなって」

「あぁ、確かに言ってたな。まぁあれは俺たちがリヴァレーのことを知っていたからかもしれないけどな」

「でも確かに、干渉ってどこからが干渉なのかしら?」


 確かにお互い干渉しないという掟。一応そう言う決まり事はある。しかし、それを破ったところで別にペナルティがあるわけでも無い。せいぜいバレた時に、その精霊に小言を言われるくらいだ。

 それにその掟ができた理由も、ただなんとなく。お互いの作業場や休憩所にむやみやたらと人が来てほしくないと言うのが大きな理由である。

 もちろん、そもそも干渉ができない精霊もいるのだが……

 いろいろと悩んだ後、モラティは大きなため息をひとつつき、小さく笑った。


(あやつになら、別に何を言われようが構わぬしな)


『よかろう。教えられる範囲であれば教えてやろう』


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