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57 妖精再び


スコーン!


スコーン!


「そうか………次は星見の丘に向かうのか……」

「あぁ、ガルドのおっちゃんが、その近くの集落もなかなか物資が届かないだろうからって……な!」


スコーン!


 薪を割りながら老人と会話をするフィニス。どうやら老人はこの村の村長だったらしい。だから、他の村人達の視線も変わったのだろう。


「あそこは今でも魔族がよく出るらしい……襲われることは滅多に無いらしいがの」

「ガルドのおっちゃんも同じようなこと言ってたけど」


スコーン!


「村長さんはなんか知ってるのか?」

「ワシも詳しい事は分からんよ。たまに現れては丘の上に立ち、しばらくするといなくなる。それだけじゃ」

「見た目とかは?」

「聞いた話によると、長い白髪の女性のような姿だったと聞いておるが……」


スコーン!


 斧を振り下ろす手が止まるフィニス。


「白髪の……女?」

「お主達も、くれぐれも気をつけるように。そして……今日は助かった。ありがとう」


 椅子に座っていた村長がゆっくりと立ち上がり、お辞儀をした。額から流れる汗を腕で拭い、にっこりと笑うフィニス。


「俺も久しぶりの薪割りで楽しかったよ。またここに来たらやらせてくれよな!」

「いつでも来なさい」



ガタガタ……ガタガタ……


 少し軽くなった荷馬車に乗り、ディヴァイの村を後にした5人。緊張して村に入った時とは打って変わり、それぞれが軽やかな表情になっていた。


 村長の家で薪割りをしていたフィニス。怪我人を見て回っていたアルテア。子供達と薬草採取をしていたニティア。酒場で意気投合した人達と飲んでいたルシオ……


「よくあの空気の中飲みに行けたわね……」


 馬車の中で呆れるニティア達。そんな事は気にも止めず、ルシオは上機嫌で答えた。


「まぁまぁそういうなって!あぁいう場所だからこそ情報も集まるんだからさ♪」

「まぁ、情報や噂などはああいう場所に集まりがちだというのは事実ですからね。私も普段立ち寄る街などでは必ず寄ってますよ」


 手綱を引きながら、ガルドも笑って答える。


「だろ〜!さすが会長!」

「んで、何か有益な情報は得られたんだろうな?」


 フィニスの言葉にニヤリと笑うルシオ。若干の酒の匂いを漂わせながら意気揚々と答える。


「星見の丘に行く途中の森。あそこは昔から精霊がいると言われているらしくてな」

「うげっ……また精霊……」


 毎回精霊に嫌われるニティア。少しだけ顔が引き攣っていた。ルシオはそれを見て苦笑いをしたが、話を続ける。


「とまぁ、その精霊を探しているとかなんとかで、数ヶ月前に1人の女性が森に入ったきり、戻ってきていないのではないか……と言う噂が流れていた」

「魔物達が出る森に……女性が1人でねぇ……」

「確かに信憑性に欠ける話ではありますが、事実だとしたら大変ですね」

「……まぁ、生きてはなさそうだけどね……」


 各自思う事を口にしている中、ルシオが再びニヤリと笑う。


「そして夜な夜な……未練を残した女性のボソボソとした恨みつらみの声が森の中に響き渡り……その声を聞いたものは皆意識を失い、最悪そのまま帰らぬ人になるとかなんとか……」

「なななな……何言ってるのよ!そそそそんなのただの噂でしょ!!」


 急にブルブルと震え始めるニティア。しれっと隣に座っていたアルテアの法衣の端を握っていた。

 それに気づき、くすりと笑うアルテア。


「幻影魔法とか、また呪いのようなものなのでしょうか……とりあえずは用心した方が良さそうですね」

「まぁ、今の話が本当にルシオが聞いてきた噂話だったらの話だけどな」


 ルシオがイタズラっぽい顔で話していた事を見逃していなかったフィニスが半分呆れた顔でルシオを見る。

 ルシオもそれに気づき、大きな声で笑って答えた。


「バレてた(笑)?まぁ女性が帰ってこないって言うところまでは本当だけどな(笑)」

「へ?」


 間の抜けた声と共にニティアの震えが止まる。


「そんな危なそうな話を笑いながら喋る奴がいるかよ」

「ふ、ふん!そんな事だろうと思ったわよ!」

「まぁ、1人だけ本気で信じて、なんならお化けにビビってた奴ならいるけど」

「ビビってないわよ!」

「誰もお前のことだとは言ってないだろ」

「ムキィーーー!」

「ニティアさん……可愛かったですよ(笑)」

「アルテアまで!!」


ガタガタ……


 車輪の音と共に、薄暗い道中……


 賑やかな声が響き渡っていた。



「ちょっと……暗すぎない……?」


 馬車の中で愚痴を漏らすニティア。


「昔はもう少し日が当たっていたのですがね」


 笑いながら荷馬車を運転しているガルド。


「全く人が通らなくなった訳では無いですが……やはり魔物や魔族の噂もあり、昔に比べて人の往来が少なくなりましたからね……」


 そう言いながらどんどん暗い森の中を進んでいく。一応、道らしい道はあるものの、ガルドの言った通り人の往来が少なくなったからだろう。手入れをする者もいなくなり、道の周りには草木が生い茂っていた。


 運転するガルドの隣で座っているルシオが辺りを見回す。


「それにしても、このあたりの樹は背が高いんだな」

「一説では、星に届くほど高い樹々が生い茂っている丘だから、この先の丘の名前が"星見の丘"と呼ばれるようになった……とも言われているんですよ」

「へぇ〜てっきり星空がよく見えるからだと思ってた」

「私もそっちが有力だと思いますけどね(笑)」


 そう言って笑うガルド。


「それに、ここの樹木の成長が異常なのも、奥にある湖の水が特別であり、その水で成長しているからだとも言われています。もう少し進めば……確かあったはずですよ」

「そんじゃ、今日はそこで野営かな」

「ですね」


 そんなやりとりの中、馬車の後方を歩いていたフィニスが何かに気づき、声をあげた。


「おい」

「フィニスさん、どうかされましたか?」

「魔物でもいた?」


 荷台から顔を覗かせるニティアとアルテア。魔力を感じられないフィニスが2人に尋ねた。


「いや、何か聞こえた気がして。お前達は何か感じないか?」


 意識を集中させる2人。


「私は分かんないなぁ。アルテアは?」

「……マナが濃すぎるのかもしれません。私も……ちょっと分からないです」


 そう言う2人。フィニスは再び意識を耳に集中させる。


『……?』

「……い」


 離れたところから聞こえる微かな声……


「やっぱり誰かいる」

「アルテア聞こえた?」

「……全く」

「なんだ?幽霊でもいたか?」


 フィニス達のやり取りに耳を傾けていたルシオが馬車を止め、身体を後ろに向ける。


「そそそそんなのいる訳ないでしょ!フィニスの気のせいよ!」

「……いや、確かに女の声が聞こえる」

「え……」


 顔が青ざめていくニティア。


「ルシオさん。ニティアさんが怖がるからやめて下さい」


 少しだけ笑い、ニティアの頭を撫でてルシオの方を見るアルテアに、ルシオは軽く手で謝罪のポーズをした。


「襲われているとかじゃなさそうだけど、どうする?行方不明になったって言う女の人っていう可能性もあるよな」

「ってかフィニスよく聞こえるな」

「フィニスが幻覚の魔法を受けちゃってるとかは?」

「それは無いかと……そういう敵意のあるような魔力を近くには感じないので……」

「どうされますか?荷馬車もありますし、私はここで待っていますよ?」


 ガルドが後ろを見る。顎に手を当てて考えたルシオが、ゆっくりと口を開いた。


「俺とアルテアでここは見ておくから、フィニスとニティアで見てきてくれるか?」

「わかった。いくぞ、ニティア」

「え……」


 ニティアは一瞬だけお化けのことを想像して躊躇したが、深くため息をついた後ゆっくりと立ち上がった。


「わかったわよ……」



『で……どうしたらいいの?』

「とりあえず倒すしかない……。?!」

『どうしたの?……この魔力!エラリスちょっと待って!!』


 会話が聞こえる程の距離までフィニス達が近づく。どうやら何かあったらしい。そう思ったと同時に風を切るような音が聞こえ……


ストン!


 フィニスの頭上わずか数センチを掠める矢。その矢はそのまま後ろの木に突き刺さり、尻餅をつくフィニス。


「はぁ!?」

「フィニス!!」


 驚いまニティアがフィニスの元へ駆け寄ると同時……


ガサガサ


『やっぱりあんた達だったのね!いきなり撃たないでよエラリス!こっちの女ならいいけど、フィニスが怪我したら大変じゃない!!』

「知らない」

『この間話したでしょ!エレノアとアオ達を助けてくれた人たちだって!』

「あぁ……お母さん達を助けてくれたって人」


 茂みの奥から現れたのは……


 薄い緑色の長い髪を靡かせ、片手に弓を携えた耳の長い女性。

 そして女性の周りには小さな羽を羽ばたかせながら飛んでいるゼフィリアがいた。

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