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58 精霊術師


「ゼフィリア!なんでこんなところに!?」

「なんでアンタがいるのよ」

『それはこっちのセリフよ!』


 慣れているかのように言い合いを始めたニティアとゼフィリアを無視し、エルフの女がゆっくりとフィニスに近づき頭を下げる。


「急に射ってしまってごめん。それと、お母さんとアオのことを助けてくれてありがとう」

「まぁ……当たらなかったから大丈夫だよ。えっと………」

「エレノアの娘のエラリス」


 フィニスの目の前に手を差し出すエラリス。フィニスはその手を取り、ゆっくりと立ち上がる。


「ありがとう。それよりも、こんなところで何してたんだ?」

「魔物を探してたの」

「魔物?」

「そう」


 ゆっくりと頷くエラリス。


「この森、少し前から魔物が増えたらしくて。それを退治してたんだよね」

「ひとりで!?」

「……?そうだけど?まぁ、ゼフィリアの助けはあるけど」

『もう!わざわざあいつの言うことなんか聞かなくてもいいじゃない!』


 急に話に飛び込んでくるゼフィリア。フィニスが視線をそっちに送ると、ニティアがこちらを睨みつけていた。


「と……とりあえず、その魔物の情報はルシオ達にも教えておきたいし、向こうにいるから一緒に来てくれるか?」

「わかった」



『ルシオにアルテア!やっほ〜!』


 草木を掻き分けながら荷馬車まで戻ると、2人に気づいたゼフィリアが手を振りながら2人の元へ飛んでいった。


「ゼフィリアさん!」

「おぉ、どうしたこんなところで」


 遅れてフィニス達がルシオ達の前に姿を見せる。


「お帰りなさい……フィニスさん……?」

「ただいま……」

「……お疲れ様です(笑)」


 ここにくるまでのニティアとゼフィリアの言い合いにより疲弊しきったフィニス。その様子を見て察したアルテアが小さく笑い、水筒をフィニスに差し出した。


「ありがとう……」


 一口水を飲んだあと、エラリスの紹介をしようとエラリスの方に視線を送ると……


「おいフィニス。そっちの美女は誰だ!?あ、すみません。私はルシオと申します。以後お見知り置きを」


 すでにルシオがエラリスの前に立ち、深々とお辞儀をしていた。

 それに続き、アルテアもその場で深くお辞儀をする。


「アルテアと申します」


 それを見たフィニスが小さく口を開いた。


「荷台の奥で荷物の整理をしているのが、商人のガルドさん。そんでこっちはエレノアさんの娘さんの……」

「エラリスです。先日は家族を助けてくれてありがとうございました」


 フィニスに気付き、小さく頭を下げるガルドとエラリス。


「これはこれは、お戻りになられましたか!」

「エレノアさんの!通りで美人なわけだ!」

『それよりも、アンタ達はこんなところで何やってんの?』

「あぁ、それは……」



ガタガタガタ


『なるほど……星見の丘にある集落に物資を届けにね……』

「そうなんです。ただでさえ、この森に魔物が出るようになってからは観光客もいなくなり、物流も止まる……余計に物資は必要でしょうからね」


 馬車を走らせながら、優しく笑うガルド。


「ひとまず、もう少し進んだところに湖があったはずです。ゼフィリア様もお疲れでしょうし、そこで一休みしながらお話を聞かせてください」

『あらあんた、よく分かってるじゃない』


 荷台の奥で2人のやり取りを聞いている5人。


「さすが会長……精霊すら手玉に取ってやがる……」


 半分呆れながら笑うルシオ。隣で相変わらず不機嫌そうな顔をしながら、ニティアが愚痴をこぼす。


「ほんと……なんであいつ私にばっかり突っかかってくるのかしら」


 それを聞いたエラリスが、ニティアのすぐ隣まで近づいてくる。


ススッ


「え?!なに?」


 そしてそのまま、顔を近づけると……


「なるほど」

「……?」


 そう呟き、ゆっくりと顔を離す。


「ニティアは魔力の波が複雑なんだね」

「波長……分かるんですか?」

「いやいやいやいや……冗談よね?」


 エラリスの言葉に驚く2人。

 魔力の波長とは人それぞれ、全く異なるものである。感覚的に"この人の魔力はこんな感じ"みたいなものであれば、ある程度魔力の探知ができる人間ならば可能である。しかし、"この人の魔力の波長はこれ"と言ったピンポイントの認知が出来るなんて、精霊以外では聞いたことがない。

 パッと外に出た瞬間、昨日と同じくらい。昨日より涼しいと言った感覚ではなく、気温をコンマ0.001℃狂わずに言い当てるようなものだ。


「エルフはみんなできるの……?」

「ん?わからないけど、死んだおばあちゃんは出来てたよ。お母さんやアオはできないけど」

「特異体質ってやつですね……」


 エラリスにとってはごく当たり前のこと。それに驚いている2人が、何でそんなに驚いているのかが分からずに首を傾げながら再びニティアに顔を近づける。


「ニティア。今どんな感じ?」

「え……どんな感じも何も……距離が近いなって……」


 それを聞いて、一度顔の距離を離したあと、再び顔を近づけようとするエラリス。


「?!」


 アルテアが何かに驚き、目を大きく見開いたが、エラリスは先ほどと同じ距離まで顔をニティアに近づけていた。


「今度はどう?」

「だから……。え……ごめん、さっきよりちょっと……なんか気持ち悪いと言うか……居心地が悪い感じがする……」

「そういうことだよ」


 そう言って顔を再び離すエラリス。


「エラリスさん……今もしかして……魔力の波長を変えましたか……?」


 さっきから何をしているのかが全く分からずに首を傾げるフィニスを見ながら、エラリスが頷いた。


「1回目はニティアと近い波長。2回目は真逆のパターンの波長にしたんだよ。2回目は少し気持ち悪かったでしょ?」

「う、うん……」

「精霊は2回目の方の波長に近い事が多いって言われてるの。だから、より敏感な精霊はニティアの魔力を感じ取って気持ち悪くなっちゃうんだよ」


 ニティアに向けていた身体を正面に戻して座り直すエラリス。


「なるほど……だから精霊に会いに行くわけですね……」

「そ」


 エラリスはそう返事をすると、ゆっくりと立ち上がり、今度はフィニスへ近づく。


「ちょっ!エラリス!何してるのよ!!」


 ニティアがエラリスに向かい声を上げるも、エラリスは気にせずにフィニスに顔を近づける。

 フィニスもどうして良いのかが分からずに、動けずにいると、エラリスの顔がさらに近づいてきた。

 フィニスは高鳴る鼓動を感じながら、ぎゅっと瞼を閉じる……


「……」


「ふ〜ん」


 ゆっくりと目を開けると、すぐ目の前には笑っているエラリスの顔。

 そして、ゆっくりと顔が離れていく。


「ゼフィリアが気にいるはずだね」

「へ?」


 少し間の抜けた声が漏れ出るフィニス。

 誤魔化そうと視線を動かすと……羨ましそうな顔でこっちを見ているルシオと……ものすごい殺気で睨んでいるニティアが目に入り、気付けばフィニスは大きなため息をついていた。



 しばらく進んでいると、突如荷馬車の中でアルテアとエラリスが杖と弓を手に取り、続けてニティアも立ち上がった。

 3人のその反応を見たフィニスがガルドに声をかけ、馬車を止めさせる。


「どうかしましたかな?」

「おっちゃん。中に入ってて」

「……わかりました」


 ガルドが中に入ると、ルシオが3人に視線を向ける。


「どっちだ?」

「たぶんあっち」


 ニティアが指差した方向にアルテアも頷く。


「まだ距離は少しあるけど……結構早いかも」


 エラリスがそう言うと、ルシオが真っ先に外へ飛び出し、指を指した方向へ盾を構える。

 続けてフィニスとニティアが外へ出て、アルテアが馬車に結界を張り始めた。


『ねぇエラリス。最近私消化不良なんだけど』

「ん?どうしたの?」

『ほらこの間話したエレノアの時。あの時はエレノアが病気で魔力使えなかったから、私何もできなかったし。それにエラリスも暴れ足りないんじゃない?』

「別に私は暴れるの好きじゃないよ。でも……」


 一瞬考えて、周りにいる4人を見るエラリス。


「まぁ……確かに今なら……いつもより体力温存とかは気にしなくてもいいかもね」


 そう言い、笑いながら弓を手に荷馬車の上へと飛び去るエラリス。


『そう来なくっちゃ!見てなさいよ!あのクソ魔法使い!』


 ニヤリと笑いながら、ゼフィリアもエラリスの後に続いていった。

 結界を張り終わり、アルテアも馬車から降りてくる。全員が外に出てた瞬間、フィニスが皆に聞こえるように声を上げた。


「微かに……地面を這うような音が聞こえる」

「って事はミラージュサーペント、ナーガ、グランドワームあたり?たしかミラージュサーペントは魔法反射の特性があるって言ってた気がするけど、もしそうだとすると面倒よね」

「おまえ、そういうこと言ってるとさぁ……!」


 ニティアの発言に嫌な予感しかしないフィニスがニティアにツッコミを入れた瞬間、急速に音が近づいてきた。


「来るぞ!」


 ルシオが盾を握る手に力を入れ、前方を睨みつける。


ガサガサ!


 薄暗い森の中、周りの景色を反射し擬態している細長い物体。


「言わんこっちゃない……」

「な、なによ!私のせいじゃ無いでしょ!」

「ミラージュサーペントですね」


 向こうから動いてきてくれたからかろうじてわかったものの、見た目は完全に周りの景色と同化しており視認しにくい。もし気配と魔力を消し、待ち伏せの体制を取られていたら奇襲されるまで気づかなかっただろう。


「コイツはさっきニティアが言っていた通り、魔法を反射する特性がある。ニティアは気をつけろよ!」

「わ、わかった!」


 全員が戦闘体制に入り、ミラージュサーペントが飛びかかろうとした次の瞬間……


『いっけぇー!!』


 はるか上空から響くゼフィリアの声。そして……


ピュン!


 ミラージュサーペントのひたいを貫く碧色の閃光。


ズガガガーン……


 飛びかかろうとした勢いのまま、ミラージュサーペントは地面に倒れ込み、そのまま白い炎を上げ始める。

 一瞬の出来事に、皆が唖然としていると、上空から風を纏ったエラリスがふわりと舞い降りてきた。


『ふっふーん!思い知ったか!』

「魔力持っていきすぎ。あそこまで威力上げる必要なかったでしょ」

『えーだって仕方ないじゃ無い?だってアイツには誰かさんみたいな"普通の魔法"は効かないんだし』

『んなっ!!』


 魔物が燃え尽きた跡には、どこまでも続く一本の穴。


 小さな妖精はニティアに向けて不敵な笑みを浮かべた後、フィニスの周りをくるくると飛び回っていた。

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